変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第69話 一期一会のパーティー

 

 

 五日間にわたるアスコットミーティングが終わった。

 出走者の俺にとっては何だかあっという間の出来事だったように思える。実質的な出番のレースが五分足らずなんだから当然なのかもしれない。

 けど、その五分のために、今月初めから二十日間もイギリスに来ていて、さらにその下準備には何ヵ月も掛けていたんだから、人生でも指折りの濃密な五分間だったと思う。

 その証拠のトロフィーがホテルの部屋のテーブルに置かれている。レースのあった日の翌日の昼に、イギリス国王から直に渡されたものだ。まだ日本では誰も手にしていない勝利の証。

 それを手に取ってみる。俺が日本のレースで貰った他のトロフィーと形が違うだけで何も変わらない。こんなものは単なる記念品だ。過ぎた過去を眺めても、勝った瞬間の喜びに比べたら、場所を取るだけのオブジェと一緒。

 生まれた場所、話す言葉、食べる物――――――何もかもが違うウマ娘達と全身全霊を賭してただ走り、己が一番強い事を証明した記憶に比べたら、何とも無価値なものに見えてしまう。

 流石に雑に扱うと、あらゆる所から苦情が来るからそれなりに扱うけど、俺にはどうでもいい物だ。

 

「次のレースは来月のグッドウッドカップか。その前に、明日は五日目レースの表彰式と閉幕式があるけど」

 

 さらに明後日は個人的に集まるパーティーもあるから、約束通りどて煮を作ってやらないと。オンさんはどうするかなぁ。一応誘ってみるか。

 

 

 そして二日後。俺はトレセンスタッフの森崎さんの運転で、オンさんと一緒にアスコットレース場の近くにある、知り合いのウマ娘の別荘に向かっている。

 意外にもオンさんは今回の打ち上げパーティーの参加に乗り気だ。その上、俺と同じように自作の料理も持ち込んでいる。

 今回のレースには参加していない引退したウマ娘でも、輝かしい記録を持つ人とあらば、主催のウマ娘もぜひ参加してほしいと快諾してもらえた。単に俺の顔を立てた可能性もあるけど、手土産もあるから無碍にはされまい。

 その子はカシーという名で、今回はG1マイルのコロネーションステークスを走り、結果は五着だった。俺のどて煮が食いたい為に別荘を会場に提供するんだから、貴族令嬢だけど面白い子だ。

 

「ふあーあ。眠い」

 

「アパオシャくんは気合を入れて作り過ぎだよ。それも二品も」

 

「うん、作ってる最中に面白くなっちゃって。それにウマ娘三十人分となると数を作らないと」

 

 オンさんの少し呆れた視線が、俺が抱えているでかいシチュー鍋に向けられる。

 先方との約束通り、全員それなりに食べられる量のどて煮を、利用しているホテルと交渉してレストランの厨房で作らせてもらった。この鍋もそこからお借りした物だ。

 現地でキッチンは用意してもらえると聞いているけど、こいつは煮込むのに時間がかかるから、前もって作って後は温めるだけ。もう一つの料理はそのまま食べられる。

 仲間に楽しんでもらえるなら、この程度の苦労は大した事無いよ。

 

 何事もなくパーティー場に着いた。別荘と言ってたけど、警備員が車を誘導してる。丘の上に行ってくれと言われた。

 それとなく聞いたら、ここら辺一帯はその子の家の土地らしい。レース場ほど広くないけど、神宮球場三つ分ぐらいは余裕である敷地だ。メジロ家といい、これが世界の格差か。

 丘の邸宅の傍にも警備の人がいて、駐車場という名の原っぱに誘導してくれた。

 その後はカシーの家の使用人に持ってきたどて煮の鍋を渡して、後は焦がさないようにかき混ぜながら温めるだけと注意した。もう一つとオンさんが用意した物もそれぞれ簡単に説明して渡す。

 土産を渡したら、パーティー会場に行く。そこはアスコットミーティングとは違い、ラフな服装のウマ娘達がワイワイ好きに喋ったり寛ぐ楽しい場所だった。椅子とテーブルも用意されてるけど、基本は立食パーティー形式で好きに食べられる。

 

『あっ、アパオシャさん。よくお越しくださいました』

 

『誘ってくれてありがとうカシー。料理も持って来たから、後でみんなで食べよう』

 

『わざわざ作って頂いて感謝します。アグネスタキオンさんも、本日はどうか楽しんでください』

 

『そうさせてもらうよ』

 

 ホストへの挨拶を終えて、参加者にも挨拶して回った。半分ぐらいはどて煮の事を聞いてきたり、互いの国の美味しい料理を聞いてはそれに答えていたら、いつの間にか面子が揃った。

 カシーが簡単な挨拶をして、後はなし崩しに皆が興味を持った料理に群がる。

 俺も各国様々な料理に目を惹かれる。一番参加者の多いヨーロッパの肉や魚料理が目立つが、中には見た事の無い料理も多い。

 

「炊き込みご飯ぽいけど何だろう?――――――おっスパイシーで美味しい。カレーピラフみたい」

 

『それ私が作った米料理だよ。マチュブースって言うけど美味しいでしょ』

 

 後ろからエンプレスオブノウズが声をかける。

 

『ああ、鶏肉とスパイスが入ってて美味しいよ。君は何を食べる?』

 

『うーんと、豚肉とお酒の入ってない料理を探してるんだ。絶対に食べちゃダメって事も無いけど、なるべく避けたいよ』

 

 あーこの人はやっぱりイスラムの戒律があるのか。俺のどて煮も避けてたからな。そうだと思って、もう一つを用意しておいてよかった。

 

『じゃあ、これを食べなよ。米と豆と木の実ぐらいしか入ってないから』

 

 俺は持ち込んだもう一つの料理を見つけて、彼女に差し出す。

 

『なにこれ?≪ルゲマート≫みたい。――――――へえ、これ結構美味しい』

 

 気に入ってくれたらしい。俺が渡したのは米の団子を、砂糖を加えて焼いた味噌と和えて、ゴマや胡桃を振りかけた五平餅モドキだ。

 

『アパオシャの料理って面白いね。トレーナーのアグネスタキオンさんも何か持ってきたんでしょ?』

 

『あの人のなら、あっちの子が食べてるな』

 

 視線を離れた方向に向けると、ウマ娘の何人かがオンさんに勧められた物を食べて、ビックリして尻尾を立たせた。ヨーロッパ人には食べ慣れてないから、驚くのは仕方ないな。

 

『お茶のジャムだよ。かなり苦いから驚いてるな』

 

 日本の味という事でオンさんが振舞ってるのは、抹茶を溶かした水に砂糖をたっぷり入れて煮詰めた自家製抹茶ジャム。

 あの人、ケミカルは専門だから、やろうと思えば分量と手順が絶対的なお菓子作りもプロ並みに出来るんだよな。

 昨日味見させてもらって、俺達には美味しいと感じても、やはり食べ慣れた苦味じゃないから驚くか。

 

『えっ、ジャムが苦いの!?何で?』

 

『日本のお茶は苦いのが好まれるから。あのジャムはたくさん砂糖を入れて、甘くして食べやすくしたんだけど』

 

 世界的にはお茶やコーヒーに砂糖を入れるのが主流だから、日本人好みの苦いお茶は初めての経験なんだろう。でも嫌がってないし、お代わりしてるから意外と受け入れられるのかな。

 さて、俺も早々お目にかかれない国際色豊かな料理をたっぷりと食べさせてもらおうかな。

 みんなで、これが好き、こっちも美味しい、と料理を褒めたり、どうやって作るのかレシピを聞いて、ワイワイ食事を楽しむ。拙い料理もあれば、シェフが作った本格的な料理が混ざったって、誰も気にしない。

 俺のどて煮もかなりの勢いで減って、もう殆ど残っていない。作った甲斐はあったな。

 それにみんな年頃の女の子だから甘い物が大好きで、持ち込んだ料理の半分はお菓子だ。

 地元イギリスはイートンメス、トライフル、スコーン。次に多いフランスの子はマドレーヌ、ペ・ド・ノンヌ、マカロン、エクレア。ドイツからはキルシュトルテ、ケーゼトルテを。アメリカはドーナツ、アップルパイ、変わり種にエルビスサンドなんてカロリーモンスターを作った子も居る。他にも多種多様なお菓子を食べられて、みんな満足している。

 それから各々好きな紅茶やコーヒー、ミルクを使用人に淹れてもらって、ゆったりとした時間をお喋りして過ごす。

 ここにいる子の大半は明日には国に帰るし、イギリスの子もそれぞれの所属トレセンに戻る。

 さらにそこからグッドウッドレース場で、俺が来月末に参加するグロリアス・グッドウッドで走るのはごく一部だ。つまり、もう二度と会う事の無い子も多い。

 ヨーロッパ所属で、国を跨いでレースをする子なら会う機会にも恵まれるが、特に俺やエンプレスオブノウズみたいに、それ以外の地域から来ていると、ここで会えてこんな風に楽しく食事をして話す事が出来たのが奇跡の様だ。

 

「一期一会か」

 

 俺のポツリと呟いた言葉に、皆が首を傾げる。日本でもこれの意味を正確に知ってる人は意外と少ないからな。

 

『遠くに住む知らない人と人が出会って、食事をして、楽しい話をする時間は生きている間に二度と来ないから、一度の楽しい時間を大切にしろ。っていう日本の言葉』

 

 英語だと微妙に通じるか分からないけど、とりあえず分かりやすい単語で言ってみる。オンさんも大体意味は通じていると保証してくれた。

 その言葉の意味を知って、寂しい気分になる子が多い。人の一生は出会いと別れの連続だから、俺達もあと数時間もしないうちにお別れをしないといけない。

 

『ですが、私は皆さんの事をずっと覚えていますよ。同じレース場で己の尊厳と国の栄誉を賭けて走ったレースを。私達はもう会う事は無いかもしれませんが、競い合うライバルであり、仲間であり、かけがえのない友人だと、私は決して忘れません』

 

 カシーが俺達の心を代弁するように語ってくれた。その言葉に誰からでもなく自然と拍手が起き、レースが楽しかったと口々に上る。

 その後は目一杯楽しく、別れを惜しみつつ、良い思い出になるように過ごし、皆それぞれのレースのために、再び故郷へと帰った。

 

 俺達もホテルに戻り、荷造りの準備に追われた。明日このホテルからグッドウッドトレセンに移動して、そこで部屋を用意してもらってレースまでの間は生活する事になる。

 ああ、ホテルのレストランには、ちゃんと鍋を返してお礼を言って、感謝の気持ちにチョコレートとかを差し入れした。

 

「アパオシャくん。荷造りは終わったかい?」

 

「はい、大体終わってます」

 

「明日の昼には着きたいから、朝食を食べたらすぐに出られるように準備をしておいてくれたまえ」

 

 ここの生活は飯が美味かったから、結構名残惜しい。そして増えた荷物を持って行くのが面倒くさい。特に優勝トロフィー。こいつだけ先に東京に送ったらダメかなー。……ダメだよな。

 

「グッドウッドカップはまだ一ヵ月あるから、調整する時間は沢山あるからね。あと、期末試験もしないといけないよ」

 

「……あっ!」

 

「忘れていたようだね。レースと学業の両立はトレセン学園の方針で、特例は認められない。私の端末にいずれテスト内容が送られてくるから、向こうで受けようか」

 

 ぐわー。楽しい時間を二十日間も過ごしていたら忘れてた。授業を受けられなかった俺用にテストは作ってくれたと思うけど、暫くはレースの疲れを取りつつ勉強漬けの毎日か。

 なまじ通信手段の高度化と情報伝達性能が高くなった弊害だよ。世界中の大抵の所で連絡が付けられて、データのやり取りが出来るんだから。

 観念して明日からまじめに勉強する事にした。

 人生は楽しい事ばかりじゃないな。

 

 

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