変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第75話 諦めない者が勝つ

 

 

 クイーンちゃんとガンちゃんが中京レース場で勝利を飾ってから一週間後。今度はバクシさんが中山レース場で、日本レース史上に残る偉業に挑戦する。

 スプリンターズステークス三連覇。未だかつて日本レース界で誰も成し遂げていない、短距離G1の三連覇にあと一歩の所まで来ていた。

 レース当日、チーム≪フォーチュン≫は総出で、バクシさんの応援に向かっていた。OGのカフェさんも一緒だ。

 それに親戚のクラチヨさんも一緒にバスに乗って来ている。普段はそれなりのお付き合いで留めているが、流石にこの偉業がかかった大事なレースを、テレビで済ます気はさらさらないという事だ。

 最近は骨折のブランクも抜けて、先月にはG3新潟記念を勝利で飾った。そして来月にあるエリザベス女王杯を目指して、毎日トレーニングを重ねている。

 他に同乗者でドーベルちゃんとライアンちゃん、引退したパーマーさんと、それぞれのトレーナーと一緒にいる。

 こちらの組は今日たまたま、中山レース場でレースがあるから便乗した形だ。夏合宿を一緒にした仲だから、バスに乗れる余裕もあって反対意見は無かった。

 バス内はちょっとした遠足という感じで、和気あいあいな雰囲気だ。

 主役のバクシさんは全然緊張していない。この人はいつもこんな感じだな。気合は入ってるけど、当たり前のように走って勝つ。既に王者の貫禄を身に付けていた。

 むしろ便乗してるライアンちゃんが一番緊張してるように見える。

 理由はまだ一勝を挙げていないからか。ライアンちゃんは七月にデビュー戦を走り二着だった。それから翌月に未勝利戦を走り、五着。そして今日が三度目のレースになる。惜しいところまでは行くけど、中々勝てない焦りがある。

 今も落ち着かない様子で周囲を見回したり時計を見ている。

 見かねたパーマーさんが席を立って、ライアンちゃんの手を握って落ち着かせた。

 

「落ち着きなよライアン。私も三度目でようやく勝てたんだよ。あんただって、今日はきっと勝つ。私が保証するよ!」

 

「う、うん。そうだけど、どうしても不安になっちゃって」

 

 こういう時はデビュー戦で勝てたウマ娘の出る幕じゃない。序盤で躓いた子の気持ちは同じ経験をしたウマ娘にしか分からない。

 だからか同じメジロのダン、クイーンちゃんとドーベルちゃんも黙ったままだ。

 特にドーベルちゃんは初戦に勝って、今日は一勝クラス『サフラン賞』を走る。同じメジロ一門でも、差を見せつけた相手に気遣われたら結構メンタルにダメージがある。

 

「緊張してるんだったら、そこのジャンを見てみなよ。こんな時でもグースカ寝てるんだぞ」

 

 俺が指差した席には、愛用のクッションを枕にしたジャンがイビキをかいて寝ている。出発時間が早かったから、他にガンちゃんも寝てる。

 言われた通りライアンちゃん達が、幸せそうに寝ているジャンの間抜けな顔を見て噴き出した。

 こんなんでも何度か新入生達で行った模擬レースでは勝ったり、入賞もしているんだから不思議なものだ。

 でもライアンちゃんの緊張が適度に抜けたから結果的に良しとしよう。

 

 そしてバスは中山レース場の駐車場に着いた。まだ開場して間もない時間でも、半分以上の場所が埋まっている。大半がバクシさんのレースを見に来た観客だろう。天気は多少曇っているけど少し暑いな。

 寝ていた数人を起こす。

 

「う~あと五分」

 

 ジャンがまだ寝ぼけていたから、目覚ましをかけてやる。

 

「やっと起きたか、もうレースが全部終わって帰るんだぞ」

 

「えっ!?」

 

「お前全然起きなかったから、ずっとバスに置いたまま俺達だけでバクシさんのレースを応援したよ」

 

「えええーーーーー!!!」

 

 寝ぼすけが跳び起きた。まったくもう手間がかかる後輩め。

 

「嘘だよ。ほら、さっさと行かないとレース時間が押してるライアンちゃんが困るだろ」

 

 ジャンにカバンとクッションを持たせて、バスから降ろした。

 そして足早にレース場に行って席を確保した。

 出走するライアンちゃんは一足先に控室に行った。彼女の出番は第二レースで、あと一時間半ぐらいしか余裕が無いから、急いでウォーミングアップを始めないといけない。

 レースが始まるまで、前もって用意した飲み物やお菓子でまったりしたり、何人か交代でレース場を見回ったりトイレに行く。

 俺も第一レースが終わった頃にトイレに行きつつ、レース場をフラフラした。

 そこかしこに貼ってあるメインのスプリンターズSのポスターをじっくり眺める。

 

「二人の王者の対決…ね」

 

 そこには仁王立ちするバクシさんに挑むキングヘイローさんの構図が取られていた。隅っこには他の十人の走者が小さく載っている。ハッピーミークも出走するんだけど、その他大勢扱いだった。

 二人の実績と過去の対決を考えたら妥当だろう。

 バクシさんはスプリンターズS二連覇に加えて、高松宮記念を勝利して短距離G1三勝。

 その言わずと知れたスプリンター王者を、今年の高松宮記念で真っ向から破ったキングヘイローさん。

 バクシさんが前人未到の三連覇を達成するか、あるいは新たなスプリンター女王にキングヘイローさんが君臨するか。

 両者の対決は大々的に宣伝されて、昨年の有マ記念並の注目度が集まっていた。

 

「そういえば二人とも名前に王が入ってたか」

 

 一つの距離に王者は一人で十分だからな。二人も居たら、そりゃあ争うか。

 人は不朽の歴史が作られるのを自分の目で見たいと思いつつも、心のどこかで戦う前から結果が見えている勝負を疎む、矛盾した期待感を持っている。

 強敵のいないレースで幾ら勝とうとも、水増しした勝利と認めない奴だっている。

 

『私達ウマ娘は、いつも誰かの想いと夢を背負ってレースを走ってる』

 

 前にオグリキャップ先輩がそう言っていたのを思い出す。ファンや観客達の想いや夢があるからこそ、ウマ娘のレースが興業として成り立つのは事実だろう。

 しかし、と思う。その期待が予想もしない誰かに破られたとしたら、果たしてファン達は素直に受け入れて、勝者を祝福するだろうか。

 キングヘイローさんなら、かつてバクシさんを破った事もあり、新たなスプリンター王者として受け入れられるだろう。

 ハッピーミークもダートとはいえ、G1を二勝した強豪だ。彼女ならファンも相応に納得すると思う。

 では、それ以外の実績に乏しい無名のウマ娘が勝ったら?

 G1に出走する時点で相当に強いのは疑わない。重賞勝利経験者も多い。でも、相当強いだけではバクシさんに勝てはしない。

 それでも勝ったら、果たして歴史的偉業を阻んだウマ娘は祝福してもらえるのか。

 期待は失望へと裏返り、失望は怒りと転化するかもしれない。

 勝っても怒りを向けられたウマ娘は、何事もなくレースを続けられるだろうか。

 ―――――――やめた。そんな事を考えても走る側の俺には関係無い。

 そもそもバクシさんに勝てるスプリンターは日本にほぼ居ない。勝負が始まる前から10に1つの負けのifを考えても無駄だ。俺達はただ、レースを見届けて勝った先輩とお祝いをするだけで十分だろう。

 それに今アナウンスで、ライアンちゃんが出走するマイルレースの案内が流れた。こんな場所でウロウロせず、早く戻って勝つところを見ないとな。

 

 みんなの所に戻ると、ちょうどお披露目の時間だった。パドックを歩く未勝利の後輩達の多くは、笑顔を見せていても雰囲気が刺々しい。未だ一度も勝てずに燻っている心が露になっている。5番ゼッケンのライアンちゃんも例に漏れずに表情が固い。

 

「ライアンさん~!!ファイト~ぉ!!」

 

 ジャンがクッションを旗代わりに振り回して大声で声援を送り、そしてクッションが勢いよく飛んで行ったのを見たライアンちゃんの顔に笑みが浮かんだ。ナイスだジャン。

 クッションを探しに行ったジャンを後で褒めてやろう。

 そしてパドックから移動して、勝利を渇望する十人のウマ娘がコースに姿を見せた。

 彼女達はスタートゲートに入り、ただ勝つために時を待った。

 ―――――各人がバラバラにゲートから飛び出した。ライアンちゃんはワンテンポ遅かった。

 序盤は二人の先行者がレースを引っ張っている。ただ、全体的にかなりペースが早い。ライアンちゃんは四番手でレースを窺う。

 後方は遅れないようにペースを上げる者、自分のペースの貫く者とで別れて、縦に伸びたレースになっている。ライアンちゃんは抑え気味なのか、数人に抜かれて今は六番ぐらい。

 レースは三分の一を過ぎて下り坂に突入する。さらにペースが上がり、いよいよ先頭と後方の差が大きく開いた。

 ライアンちゃんが動いたのは最終直線に入ってからだ。今まで温存したスタミナを使って徐々に加速して、外から一人また一人と抜いて着実に順位を上げていく。

 さらに坂道に入っても脚色は衰えず、二人を追い越した。あと一人だ。あと一人を抜けば先頭に立てる。

 しかし一バ身前を走る鹿毛の大柄な子との差はなかなか縮まらない。もう最後の直線は100メートルしか残っていない。

 

「ライアーン!!勝ちなさーい!!」

 

「勝つんだよライアンっ!!」

 

「いけーいけー!!もう負けるんじゃないぞ!!」

 

 俺達のライアンコールに触発された観客達が同調して、ライアンちゃんを応援する声がどんどん大きくなる。

 その声に応えたのか、脚に力が宿ったライアンちゃんが再度加速。残り30メートルで鹿毛の子と並び、最後の10メートルで僅かに前に出た。

 そのまま差を広げてゴール。ギリギリの攻防だったが、確かにライアンちゃんが先にゴール板を駆け抜けた。

 勝者のライアンちゃんはスタンドから挙がる自分の名を聞いて、初めて勝てた事に気付いて飛び上がって喜んだ。

 メジロの最年長のパーマーさんも殊の外喜んでいる。この人も初勝利までは結構レースを重ねているから、中々勝てない後輩がようやく勝てた事が自分の事のように嬉かった。

 その後はお待ちかねのウイニングライブ。クラチヨさんとそのトレーナーに留守番を頼み、メジロ家と≪フォーチュン≫全員でライアンちゃんの初勝利ライブを盛り上げた。

 それからライブを終えて、制服に着替えて戻って来たライアンちゃんが、俺達に応援のお礼を言った。特に直前に緊張を解いてくれたジャンには何度も頭を下げて感謝を述べる。

 しかし本人はよく分かっておらず『何で?』という顔をしていた。

 

 

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