変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第76話 王者の対決

 

 

 ライアンちゃんが三度目のレースを勝利で飾った未勝利戦から、さらにいくつかのレースが始まっては終わる。

 その間に昼を挟み、バクシさんとドーベルちゃんはウォーミングアップのため、スタンドから離れた。

 

 二時間後。一勝クラスのマイル『サフラン賞』を十五人のウマ娘が走り切り、ドーベルちゃんが勝利の栄冠を勝ち取った。

 メジロ家はこれで二連勝。さすがはメジロとファン達は無邪気に喜ぶけど、そんなに単純でもないんだぞ。

 とはいえ観客にそんなこと言っても仕方がない。それよりバクシさんのレースだ。

 あともう一つクラシック期のレースを挟み、いよいよメインイベントが始まる。

 メインレース直前に、今まで姿が見えなかったうちの髭が戻って来た。

 

「バクシさんはどうだった?」

 

「大丈夫だ。あいつは普通に走って、普通に勝つ」

 

 トレーナーの自信に満ちた顔と言葉に、俺達は沸き立つ。

 そしてパドックに日本トップクラスの十四人のスプリンター達が姿を見せた。

 次々と姿を現すウマ娘達にファンからの声援が送られる。特にキングヘイローさんへの声援は大きい。

 しかしそれはバクシさんが姿を見せるまでだった。あの人への声援は桁が違った。

 それだけ大きな期待を掛けられているのに、あの人はいつも通りに振舞っていた。

 

「あの人の心臓はチタンか何かで出来てるのか」

 

「………それはアパオシャさんが……言えた台詞ではないですよ」

 

 カフェさんのツッコミに、ほとんど全員が頷いた。えっ、何でだよ。俺は毎回G1はドキドキしてるんだぞ。同じG1三連覇しろなんて言われたら緊張するって。

 そう考えたらイギリスのストレイトヴァイスさんは、よくもグッドウッドカップ四連覇、ゴールドカップ三連覇を成し遂げたよ。

 他にも探せば世界に名だたる強豪ウマ娘は沢山いる。次のメルボルンカップも楽はさせてもらえないな。

 おっと、先のレースの事は今は置いておこう。

 全ての走者が地下通路へ向かい、観客の興奮が徐々に高まって行くのが肌で感じられる。気の早い観客の中には、バクシさんの三連覇を祝うノボリや横断幕まで用意している連中もいる。レース前でそれは他のウマ娘ファンも居るんだから、流石に行儀が悪いぞ。

 ファンの一部に目を顰めている間に、スタンドからもっとも離れた向こう正面のターフに走者が集まった。

 いつになく気合の入った荘厳なファンファーレが鳴り響く。そして美麗と強さを兼ね備えた十四人がスタートゲートに入る。

 桜色の王者が歴史にさらなる名を刻むか。

 緑の新王が古き王を打倒するか。

 純白の唯一無二が新たに名乗りを上げるのか。 

 はたまた、まだ姿を見せぬ無色無名の英雄が伝説への第一歩を踏み出すのか。

 全ては一分後にはっきりする。

 

 ゲートが開き、全員が一斉に飛び出した。先頭に立ったのは八番ゲートから出た言わずと知れたバクシさん。相変わらず素晴らしいスタートの切り方だ。バクシさんのすぐ後ろに二人がピタリと追従する。

 さらにその後ろには、三バ身離れてハッピーミークがポジションに付く。

 短距離は駆け引きの場が極端に少ない。その上、一瞬たりとも気が抜けないから、見ている方も心臓に悪い。

 一団がコーナーを曲がって下り坂に入る。やはりスピードがある分、バクシさんのルートはやや大回りになってしまう。

 徐々に、徐々に後ろとの差が縮まるが、決して先頭は譲らない。

 三十秒が過ぎた。残り約半分。最終コーナーへと入り、後方がいよいよ動き始めた。

 昨年に比べて展開が早いのは、全員がバクシさんをマークして、早いうちに動かないと捕捉が困難極まるからか。

 バクシさんもそれをコーナーの曲面で確認して、さらに加速していく。

 今のあの人ならトップスピードを維持するスタミナも十分ある。俺達とのトレーニングは決して無駄じゃなかった事を、今日この場で示してくれ。

 

「走れ走れ!もっと速く走れーバクシンオー!!」

 

 髭が懸命に檄を飛ばす。俺達も力の限り声を張り上げる。

 最終コーナーを回り、先頭は未だバクシさん。しかしその差は最後方と五バ身も離れていない。

 ほかの走者も次々コーナーを回り、直線へと入る。

 後ろからは緑のドレスを靡かせたキングヘイローさんが一気に加速していた。

 それら挑戦者達を引き連れて、先頭のバクシさんが直線の先の名物、中山の坂を全力で駆け抜ける。

 多くのウマ娘が登坂で苦しい顔を浮かべる。バクシさんのハイペースに付き合った後に急こう配の登り坂は、さしもの強豪ウマ娘達の心肺機能にも大きな負担を強いる。

 半数以上が脱落してスピードが落ちていく。

 

「坂を最初に登ったのはバクシンオーだっ!!」

 

 周りの観客の一人が叫んだ。多くの観客はその声に釣られて、もはや先輩の勝利を確信したに違いない。

 だが、ここで道半ばでしかないのは、中山の坂を登った事のある俺達、中央のウマ娘なら誰もが知っている。

 最後の直線100メートルを最初に走り抜いた者こそ勝利の栄光を手に出来る。

 

「まだだ!いけー!キングっ!!」

 

「貴女はまだ走れるわッ!!勝ってミークっ!!」

 

 微かに誰かの声が聞こえた。そうだよ、走っているウマ娘も、応援している人も、誰一人として諦めていないんだ。

 いち早く坂を登り切ったバクシさんに、五人が追従する。さらにそこから二人が抜きん出た。

 白毛のボブカットのハッピーミークが、普段のボーっとした雰囲気とはまるで似つかない闘争心に満ちた顔で、必死に食い下がる。

 緑のドレスタイプの優美な勝負服のキングヘイローさんが、新たな王は自分だと言わんばかりの目でバクシさんの背中を射抜く。

 走る、走る、走る。バクシさんが、ただ前に向かって走り続けて、後ろを引き離す。

 これが王の走り。桜色の最速王が絶対王者の風格で、決して二人を寄せ付けない。

 あと30メートル。ウマ娘なら一息で駆け抜けてしまう距離。瞬きすら忘れて誰もが最後の瞬間を食い入るように見つめる。

 あと15メートル。わずかにバクシさんが二人を引き離す。

 あと10メートル。ハッピーミークが10cmバクシさんに近づいた。

 だが、そこまでだった。

 誰よりも先にゴール板を駆け抜けたのはバクシさんだった。

 

「おぉおおおおおおおおッ!!!」

 

 髭の絶叫が天を揺るがした。

 中山レース場に集った全ての観客が、日本中でテレビを見ている人達が、歴史が刻まれた瞬間を眼に焼き付けた。

 誰もがバクシさんの勝利を見ているから、電光掲示板に表示された数字を見ても蛇足でしかない。

 それでも二着がハッピーミーク、三着にキングヘイローさんの数字と共に、三年ぶりのコースレコード≪1:06.9≫を目の当たりにしたことで、二度目のバクシンオーコールと、会場に響き渡る拍手が巻き起こった。

 コースではバクシさんとハッピーミークが握手している。そこにキングヘイローさんも続いた。

 いつまでも鳴りやまないバクシンオーコールと共に、観客達は歴史に残るレースを演じたウマ娘達にも万雷の拍手を送る。

 

「――――さあ、トレーナーくん。きみの仕事はまだ残っているよ」

 

 オンさんが魂が抜けてぐったりしている髭の背中を叩いて活を入れた。

 

「あ、ああ。表彰式に行ってくる」

 

 フラフラと覚束ない足取りで、トレーナーは会場を後にした。

 

「私達も………ライブ会場に…行きましょう」

 

 カフェさんも心なしかテンションが高い気がする。後輩の達成した偉業がよっぽど嬉しいんだろう。

 さて、俺達ものんびりしてたらライブ会場に入れない。荷物はドーベルちゃん達のトレーナーに任せて、みんなでライブ会場に急いだ。

 ウイニングライブはいつになく盛り上がり、センターを務めたバクシさんのスピーディーでキレのあるダンスと歌に、ファンは大満足だった。

 今日最後のレースを見ながら、着替えを済ませたバクシさんと合流した。

 全員からお祝いの言葉を受け取ったバクシさんは、いつにも増して上機嫌だった。

 

「トレーナーさん!私、凄いウマ娘ですかっ!?」

 

「お前が凄くなかったら、他のウマ娘は全員情けないウマ娘だよ。サクラバクシンオーは俺が誇れる立派なウマ娘だっ!!」

 

「そうでしょう!そうでしょう!何と言っても私は優等生で学級委員長ですからっ!!」

 

 髭トレーナーに褒められて一層機嫌を良くしたバクシさんと俺達はレース会場から引き揚げる。

 途中で記者団に捕まって、山のような質問攻めに遭った。目敏い記者は今後を見越して、ドーベルちゃんとライアンちゃんを優先してインタビューをする。

 結構な時間拘束を受けたものの、無事にバスに乗った。

 帰り道の途中で甘味処を見つけたクイーンちゃんが、今日のお祝いをしようと提案した。バクシさんも異論が無かったので、先週のガンちゃんとデビュー戦と、クイーンちゃんの神戸新聞杯の勝利のお祝いも兼ねて盛大に祝った。

 と言っても今月にクイーンちゃんは菊花賞、ダンは二度目の秋天皇賞を控えていたので、二人はなるべく量を控えて和スイーツを味わった。

 

 

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