朝にメルボルンから飛行機に乗って、その日の夜にはトレセン学園まで戻って来た。移動だけで大半の時間を使って疲れた。
しかも空港で待ち構えていたマスコミがしつこくて困った。後日学園で記者会見するって通達したのにコレだ。
さすがに学園までは許可無しに入って来られず、やれやれだ。
寮の前でトレセンスタッフに車を停めてもらい、荷物を全部持つ。
「お疲れさん。明日からまだ学校あるから、今日は早めに休むんだぞ」
「分かってるよ。トレーナーも半月付き合ってくれてありがとう」
「これも仕事の内だから気にするな。じゃあ、お休み」
寮に入って、半月振りの自室に帰って来られた。
部屋にはウンスカ先輩は居ない。夕食か風呂に居るのかな。とりあえず荷物を全部床に置いて、土産の一部を持って夕食を食べに食堂に行く。
食堂に行ったら、みんなに囲まれてお祝いされた。ウンスカ先輩やビジン、クイーンちゃん以外のメジロ家の三人、グラスワンダー先輩とエルコンドルパサー先輩、それ以外にも沢山のトレセン生に祝ってもらえた。
その返礼にオーストラリア土産のお菓子を自由に食えと、どっさり渡した。
土産に気を取られている間に、夕食の鯵の干物と味噌汁やらご飯を持ってきて食べる。
あー半月ぶりの和食が美味い。メルボルンは海が近いから魚も食えたけど、やっぱりこういう料理が恋しくなる。
「私達はテレビで視聴しましたが、オーストラリアのレースはいかがでしたか?」
「春の天皇賞とよく似てて結構走りやすい芝でしたよ、グラスワンダー先輩」
「普段とレース運びが異なっていたので、私達はヒヤヒヤしながら見ていましたよ。タキオンさんは余裕の笑みを浮かべてましたが」
「悪いなダン。後ろからじっくり全体像を観察してから動きたかったんだ。二十人越えのレースも初めてだったからな」
「でも勝でで良かっだぁ。お疲れさまです」
それから皆で、これまでの半月の事を情報交換しつつ、腹一杯に米と魚を食べた。
風呂に入って部屋で荷物の整理をして、ウンスカ先輩には個人的に土産を渡す。
「今度は何かなー♪おーハチミツだね」
「ユーカリのハチミツです。オーストラリアっぽいでしょ」
「いつもありがとうね。あっ、そういえば手紙が一通来てたから、机の引き出しの中に入れておいたよ」
手紙ねえ。ファンレターの類は殆ど学園が止めて検閲した後に俺達の手に届けられるから、個人的な手紙って事か。
とにかく引き出しを開けて、入ってた手紙を手に取って首を傾げた。
「エアメール?イギリスからか。差出人は――――えっと、モーニングスター?でいいのか」
モーニングスターといえば、ゴールドカップで共に走ったイギリスのウマ娘だが。手紙を貰うほど仲は深くはないはず。
ともかく中身を読んでみるが、英語の筆記体だからクッソ読み辛い。こういう時ぐらい日本語で書いて送らないのが気取り屋だって思われるところだぞ。まあ、何とか読めたけど。
「ラブレターだった?」
「11月に日本に行くからまた会おうって」
「今月………確かそのイギリスの子はジャパンカップにエントリーしてるよ」
遊びのお誘いじゃないな。んー、もしかしてこれ、果たし状とかの類なのか。
「俺とジャパンカップで走りたいって事?俺エントリーすらしてないのに」
「前もってリサーチせずに書いて送っちゃったのかな。うっかりさんだねー」
手紙を書いた本人にとっては笑えないんじゃないですか。意気込んで日本に来たら、俺が走らないんだから。でも他に強い奴は沢山走るから満足はすると思うぞ。
「俺が走る義務は無いけど、放っておくのもなー。今はレース疲れも無くて、ジャパンカップは賞金高額だから一度ぐらい走ってもいいし」
「アパオシャちゃんは元気だねー」
「オーストラリアのウマ娘ほどじゃないですよ。あいつら月に三回レース走りますよ。しかもG1含めた重賞で」
「私はオーストラリアに生まれなくて良かったよ」
一旦この話は明日に持ち越そう。今日は疲れたから、風呂に入って早めに寝る。
翌日、クラスメイトのみんなにお土産を配って、いつもの日常に戻った。
放課後はチームの部室に顔を出す。髭から数日は休めと言われたからトレーニングはしないけど雑用ぐらいはやれる。
天皇賞を走って疲れの残るダンと一緒に、ドリンクやタオルを用意したり、器具の準備を行う。
今月うちのチームは、ガンちゃんが京都ジュニアステークス、バクシさんがマイルチャンピオンシップを走る。
チームはいつになく気合を入れてトレーニングに励んだ。
それもそのはず、マイルチャンピオンシップはバクシさんの引退レース。最後のG1レースとなれば、絶対に勝ってもらいたい期待が上乗せされて、全員がタラタラとトレーニングなんてしていられない。
時間一杯まできついトレーニングを続けて、日が暮れてようやく一息ついた。
片づけを終えて、部室で皆が着替えている間、外で待ってる髭トレーナーに相談を持ち掛けた。
「今月のジャパンカップだけど、うちのトレセンは今のところ誰がエントリーしてる?」
「ジャパンカップか?お前が気にするような相手ならナリタブライアン、スペシャルウィーク、ゴールドシチー、ユキノビジンあたりが出走願いを届けている」
ふむ、結構な連中が出るか。ナリタブライアンも安田記念から痛めていた腰の治療が終わっている。復帰レースとなれば気合も入る。
シャル先輩も昨年のジャパンカップ王者として油断ならない。
そこに海外勢が加わるとなると、2400メートルの短い距離で必ず勝てる見込みは無いな。
「どうした、走りたくなったのか?お前なら有マ記念を選ぶと思ったが」
「有マ記念はちゃんと走るよ。その前に走れるか考えてる」
「お前なら怪我は無いと思うが、あまり無理はしない方がいいぞ」
「分かってるよ。来週初めまでにはレースに出るか決める」
どうしようかなー。
翌日はゴルシーとセンジにオーストラリア土産を渡して、秋天皇賞勝利を祝い、メルボルンカップ勝利を祝われた。そしてビジンも交えて一緒に昼ご飯を食べる。
今日のカフェテリアはイタリアンフェアという事で各種スパゲティやラザニア、マカロニグラタンにパニーニが並んでいる。ピラフもある。
みんな食べたい物を好きなだけ取って席に就く。
「やっと皆においつけたし!あたしってすげえよね?」
「勿論っしょ!あんたは凄く強いウマ娘よ」
「はいでがんす!」
「俺も元からセンジは強いと思ってたぞ」
みんなでセンジを褒める。G1勝利の数は俺達の中では一番少ないけど、そもそもG1勝てる時点で中央トレセンでもトップクラス扱いになるんだから、本人の言う通り凄いウマ娘だ。
「でもアパオシャはもっとヤベェんだけどね。あんた、G1何勝目よ?」
「海外分を含めたら六勝目だな。そろそろシンボリルドルフ会長の背中が見えてきた」
「はえー。やっぱりアパオシャさんはすげえべ」
「国内長距離じゃ敵無しよね。次はやっぱり有マ記念行く?」
ゴルシーの問いに、俺は分からんと答えた。
「ジャパンカップを走るか迷ってるんだよ。あんまり疲れてないから走れるけど、中距離で勝てるかは微妙だからな」
「げっ!あんたまだ走る気ぃ!?あたしはクタクタで、今年はもうパスするのにありえねえし」
「アパオシャさんとは、まだ一緒に走った事ねえがら、あたしと走ってくんなしぇ!」
「アタシも春天皇賞の負けを取り返したいから走りなよ!」
ビジンとゴルシーに言われたら、否とは言えないか。モーニングスターの事もある。それに有マ記念と距離はほぼ同じだから、前哨戦にも使えると思えば悪くない。
「分かったよ。俺もジャパンカップを走る」
「アパオシャさんとレースなんてぇ、はっかはっかします!」
そうと決まったら、今日から練習再開だな。
次の日曜日は関西でエリザベス女王杯が開かれた。≪スピカ≫からはカレットちゃんが出走した。本当はウオッカちゃんも出る筈だったが、不運にも前日に足を挫いて出走取消になってしまった。幸い怪我自体は大した事無く、三日もあれば完治する程度だった。
唐突にライバルが居なくなったカレットちゃんは、それでも懸命に走った。
そして数いるシニア勢を下して、昨年のゴルシー同様にクラシックでエリザベス女王に輝いた。
惜しくも二着はクラチヨさん、三着四着にはカワカミプリンセスさん、スイープトウショウさんのシニア最年長ライバルが入った。
これでカレットちゃんは桜花賞、秋華賞と合わせてG1三勝目で、ライバルの勝ち数を上回った。これにはウオッカちゃんも物凄い悔しがって、急遽ジャパンカップ出走を表明した。
≪スピカ≫は三人出走とは。ライバルがまた増えた。