変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

84 / 108
第82話 今年の最強決定戦

 

 

 師走とは、僧侶がお経をあげるために東西を馳せる月という意味がある。

 と言っても俺達ウマ娘の一部もまた、一年の総仕上げとしてレースを走る事になる。

 本日は十二月二十四日。世の中はクリスマスムード一色に彩られて、街にはケーキとローストチキンで溢れ返る。

 日本のお父さん達はサンタクロースの代わりにプレゼントを用意して、子供達の靴下にこっそり仕込む準備をしている事だろう。

 雪が降る肌寒い年末も、俺達ウマ娘にかかれば汗ばむ大イベントに早変わりだ。

 ここ中山レース場は今日は一年で最も熱くなる。ウマ娘の最大のグランプリ『有マ記念』があと数時間後に迫っていた。

 

 早めの昼食を取って、レースの合間にちょっと動いて体をほぐすために歩いていると、レース場ですれ違う客達に写真を撮られるのにも、そろそろ慣れてきたな。

 昼前でも既に十万人近いファンがレース場に押し寄せて、人の熱気で冬でも暑いとさえ感じる。

 有マ記念はファン投票で出走する選手を選出する。上位十名から出走届を出した者を優先して選ぶ。

 俺は僅差で一位にいる。二位には先月にジャパンカップを勝ったゴルシー、三位はウオーちゃんという具合だ。

 海外で派手に勝ってもそこまで人気が出ないな。俺は強くてもスター性に乏しいから仕方ないけど。

 四位以下には、ナリタブライアンやシャル先輩、ウオカレコンビも入っている。

 そしてURA直営店には、そうした人気ウマ娘のグッズがたくさん売れている。しかも今日の有マ記念限定グッズは、午前中で粗方売り尽くして謝罪の札が何枚もぶら下がっていた。URAは儲かってるねえ。

 そうでなかったらレースの優勝賞金に四億円なんて大金を出したりはしないか。

 トレセン学園に預けられている俺のレース賞金が膨れ上がり、グッズの相応に売れていて、動画配信サービスの利用料の一部も一緒に入ってくる。

 普通の人なら見た事も無い数字が積み上がっていた。それだけの金を子供に持たせたくない学園の気持ちがよく分かるよ。

 今も小学生ぐらいの二人組のウマ娘の子達がグッズを眺めている。

 

「うーん、やっぱりテイオーさんとマックイーンさんの限定グッズは無いね」

 

「二人とも今日は走らないから、しょうがないよ。来年ならテイオーさんもきっと治るから、その時まで待とう」

 

「そうだね。治らない怪我なんて無いもんね」

 

「今日はせっかくすごいレースを見に来たんだから、そっちを楽しもうよ」

 

「うん!それじゃあ今のうちにご飯食べに行こう!」

 

 黒髪と茶髪のウマ娘の子達は元気よく走って行った。あの子達ももしかしたら将来、中央トレセン学園に来るかもしれないな。

 俺もあの子達をガッカリさせないレースをするか。

 

 準備の時間はあっという間に過ぎ、いよいよ有マ記念の始まりは数分後に迫った。

 ターフの上には日本のウマ娘の精鋭中の精鋭が、スタートを今か今かと待ち望んでいる。

 今年シニア三年目。かつてクラシック三冠を掴み合い、日本を大いに沸かせた三人組BNW、ナリタタイシンさん、ウイニングチケットさん、そしてビワハヤヒデさん。彼女達は今日が三人揃ってのラストランになる。

 俺のルームメイトのウンスカ先輩。

 同世代には、究極の汎用性を誇るハッピーミーク。

 G1においては勝てずとも常に善戦し続けるナイスネイチャ。そのチームメイトであり、今年十戦を走りながら故障知らずの≪鉄の女≫イクノディクタスさん。

 そして俺にとってライバルと言える存在。現在G1を四冠手にした、昨年の有マ記念覇者、ナリタブライアン。

 それ以外にも重賞勝利者、G1入賞者など、総勢十六人の優駿が己の勝利を疑わずに集まった。

 俺もその一人として己の勝ち筋を始まる寸前まで模索する。

 天気晴天、風は弱し。芝は乾いて足は取られない。心身ともに充実している。最高の形でレースに臨める。

 同居者も晴れ晴れとした空の下、我が物顔ではしゃいでいる。けっ、余裕だな。今に見ていろよ。

 晴天下のレース場にファンファーレが鳴り響く。よし、そろそろやるか。

 他の出走者のスタート位置を確認してから1番ゲートに入る。

 あと三分足らずだ、意識を切らすな。

 

 ――――――いいスタートを切れた。今日は外側の下り坂からスタートだから、素早く右側の内ラチに張り付くようにラインを取って加速する。

 他の走者達も段々と、それぞれのペースで集団を形成して、探り合いを始めた。

 今日の俺の位置は先頭。すぐ後ろにはウンスカ先輩が張り付いている。

 いつもは先輩がペースを作ってレースをコントロールするけど、今日は似たタイプの俺が側に居るから、勝手が違ってやりにくそうだな。

 最初のコーナーで後ろを少し見る。俺とウンスカ先輩の後ろには、三バ身離れて四人が先行集団を作っている。三番手がイクノディクタスさん、四番がビワハヤヒデさん、ナリタブライアンは六番手か。

 さて、ちょっと揺すってみるか。俺は短い直線でペースを上げて、後続を引き離しにかかる。

 後ろの先輩はすかさず追従して、先団の二人がそれに倣った。後方もそれに引きずられる形で何人かが加速を始めた。

 そのまま第二コーナーへ入り、今度はペースを落として、ウンスカ先輩にわざと抜かせて二番手に下がった。

 先輩はコーナーが終わってから、ペースを上げた。

 しかし最初の登坂の手前で、今度は意図的に減速して俺に先頭を譲った。狐とタヌキの化かし合いってわけか。いいねえ、受けて立とう。

 坂を先頭で登り、そして徐々にペースを落として、後続のイクノディクタスさんとビワハヤヒデさんとの差を縮めさせる。けれども、先頭までは決して譲らない。

 坂を登り切った後はすぐさま加速する。徹底して揺さぶりをかけて、スタミナを削り切ってやるよ。

 第三コーナーに入って、第四コーナーを周り終えるまでペースを上げ続けて、最後尾まで十五バ身は離れた伸び切った状況にする。

 向こう正面の長い下りストレートに入った。さて、ここらが中間点だろう。準備運動はこれぐらいにしようか。

 俺の周囲に赤い砂塵が舞うイメージが生まれ、後続を覆い隠すかのような砂の幕を作り出す。

 魂が高揚して全身の血が沸騰するかのような熱を持ち、反対に頭だけは氷のように冷える。

 背中に目が生えたような感覚が広がり、後ろの状況ががよく分かる。

 ビワハヤヒデさんとイクノディクタスさんは息を呑み、俺を避けるようにペースを落とした。

 ウンスカ先輩は外側にラインをずらして、無理にでも俺を追い抜いて先頭を奪う。

 ナリタブライアンはやや離れているな。まだ≪領域≫には入らず、仕掛け時と思っていないなら想定通りだ。

 下り坂を利用して加速を始める。後続はさらに離されて、今や俺とウンスカ先輩の二人旅になりつつある。

 そのまま第五コーナーへと入り、徐々に後方がペースを上げて追い上げを開始する。

 ――――来た。ナリタブライアンが最終コーナーに入った瞬間に、彼女の身体から黒い影が生まれた。

 地を這うような低い体勢に黒い影を纏わせた姿は、さながら獰猛な狼の如く周囲を慄かせた。

 そして大外から一気に前集団を抜き去って、俺を食い殺さんばかりに強襲する。

 ジリジリと差を縮めて、最終コーナーの終わりがけには、三バ身まで詰め寄られている。

 このペースで行けば俺は抜かれる。

 ――――なら抜かせなければ良いだけだ。

 俺は最終直線に入る寸前にナリタブライアンの進路の前に位置をずらした。彼女が右にラインをずらせば、一瞬の遅れも無く俺も右に動く。左ならやはり左。

 並ばれたら抜かれるなら、絶対に並ばせない。このままゴールまで、俺の背中の黒い太陽を見続けてもらうぞ。

 見えない綱で繋がれたように、俺とナリタブライアンは左右に位置をずらしながら最終直線を走り続ける。同じ≪領域≫に入った者同士、プレッシャーは互角。追われる重圧は全く意味をなさない。ウンスカ先輩はとっくに抜き去って知らん。 

 残り200メートルで最後の登坂に入る。この頃には前半に抑えていた後方が一気にスパートをかけて追い込みをかけてくる。

 ハッピーミーク、ナイスネイチャがガンガン順位を上げてくるが、もう間に合わんぞ。≪領域≫に入ったビワハヤヒデさんもだ。

 100メートルの坂でさらに脚のピッチ回転を上げて、左右に動いて絶対に並ばせもしなければオーバーテイクをさせない。

 坂を登り切れば、一息吐きたい衝動を必死で抑え込む。

 最後の直線、ただひたすら後ろのナリタブライアンに意識を集中して、どんな微細な挙動だって見逃さない。

 残り50メートル………30メートル………10…5……0だ。

 最後の最後まで気を抜かず、一瞬たりともナリタブライアンを抜かせる事無く、俺が最初にゴール板を駆け抜けた。

 全てが終わって、ようやく気が抜けて身体を大きく横にずらして減速した。

 電光掲示板には審議中の文字は出ていない。只のブロックなら進路を塞いでも反則扱いにはならない。意図的に速度を落とす事もしなかったしな。

 そして一着に俺の1番とアタマ差が出たのを確認して、勢いよく拳を天に突き上げた。それに呼応するように十万のファンが沸いた。

 

「くそっ!またアンタに勝てなかった!」

 

「そりゃあ勝たせないように走ってるからだよ。俺はナリタブライアンが誰よりも強いと分かってるから、常に勝つ方法を考えている」

 

「――――なら次は私が必ず勝ってみせるっ!!」

 

 悔しさを滲ませて、ナリタブライアンは引き上げていった。

 代わりに今度はナイスネイチャが俺に近づく。

 

「おっすー。いやーまた三着だったよ。あたしは銅メダルコレクターかっての」

 

「俺達より強ければいつでも勝てるよ」

 

 俺とナリタブライアンの次に入ってる時点で相当強いと思うんだがな。

 勝った奴に頑張ったなんて言われたら、余計に惨めな気持ちになるから、それだけは言わない。

 四着はハッピーミークか。よくよく思い返すと、五着のビワハヤヒデさんを除けば、この着順は菊花賞の順位だな。

 

「あはははは、簡単に言わないでよ。さーて、チームの皆が残念パーティーしてくれるかな」

 

 カラ元気を振りまいて彼女もターフを後にした。

 さらによそに目を向けると、BNWの三人が集まって、ウイニングチケットさんがナリタタイシンさんと抱き合ったり、ビワハヤヒデさんと話をしていた。長い間ずっと友達であり、ライバル関係だった三人をレース場で見るのも今日で終わりか。

 

「タイシーン!!お前のレース、凄かったぞ~!!」

 

「チケゾーも五年間ずっと見てたからなっ!」

 

「ビワハヤヒデも長い間ありがとう!!」

 

「三人の事は絶対忘れないからねー!!」

 

 観客達から三人を祝福してり、感謝の声が沢山聴けた。デビューから引退まで走り切り、多くのレースを魅せてくれたウマ娘への最大限の感謝の顕れだ。

 みんなもちゃんと走る俺達の事を見てるんだな。

 よしっ!あとはウイニングライブをきっちりやって、今年のレースはこれでおしまいだ。

 

 ライブは引退する先輩達の最後の舞台とあって、今年一番の盛り上がりを見せた。

 クリスマスイブの中山レース場は大盛況。ファン達も満足して帰って行った。

 そうそう、後ろを注視し過ぎて同居者をガン無視してたら、その日はずっとイジケてやがった。ほんとこの黒助は面倒くさい。

 

 翌日は昼からクリスマスパーティーを初めて、≪フォーチュン≫は一年の苦労を盛大に労い、大いに盛り上がって楽しんだ。

 パーティーのご馳走は多くがカフェさんお手製。飾りつけは皆で行い、ゲームの類はメジロ家から提供してもらえた。

 オンさん特製のロシアンルーレット染みたケミカルジュースに当たったフクキタさんが七色発光したり、髭トレーナーから俺達全員にプレゼントを貰えた。

 中身は安眠効果のあるアロマだった。何となくチョイスがカフェさんっぽい。アドバイスしてもらったな。でもいい物だからありがたく貰っておこう。

 特にジャンが一番喜んで、すぐにクンクン匂いを嗅いでいる。どうもこの後輩は匂いフェチな所があるんだよ。

 ただし個人的な好みは相手に迷惑をかけない限りは放っておこう。

 こうして楽しいパーティーは夜まで続いた。

 

 さらに翌日は終業式が終わったら、バクシさんの引退お疲れパーティーが続き、こちらも大いに盛り上がった。

 それから早めの部室の大掃除をして、また一年を労い、来年への準備に取り掛かった。

 

 






 シニア一年目終了時のアパオシャのゲーム的ステータス

 ※あくまでイメージですから実際のレースにはあんまり関係ありません

 スピード500 スタミナ1450 パワー600 根性550 賢さ600

 短E マD 中B 長S   芝A ダD  

 逃C 先G 差A 追B


 固有スキル『渇きの半身』

 レース中盤から視野が広くなってコース取りがすこし上手くなり
 周囲のウマ娘のスタミナを削り続ける。

 19戦13勝 G1七勝 掲示板入り100%

  1. 目次
  2. 小説情報
  3. 縦書き
  4. しおりを挟む
  5. お気に入り登録
  6. 評価
  7. 感想
  8. ここすき
  9. 誤字
  10. よみあげ
  11. 閲覧設定

▲ページの一番上に飛ぶ
X(Twitter)で読了報告
感想を書く ※感想一覧 ※ログインせずに感想を書き込みたい場合はこちら
内容
0文字 10~5000文字
感想を書き込む前に 感想を投稿する際のガイドライン に違反していないか確認して下さい。
※展開予想はネタ潰しになるだけですので、感想欄ではご遠慮ください。