変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第84話 ステマからダイマになった

 

 

 世間では女性が意中の男性にチョコレートを贈る日。

 ウマ娘の巣窟であるトレセン学園も、チョコレートの匂いに満たされる。

 とは言いつつ大部分は、生徒が友人同士で互いに買ったチョコレートを贈り合って食べ比べをするか、下級生が憧れの先輩などに贈るのが習慣になっているだけだ。

 中には異性のトレーナーに、割とガチ目にチョコを贈る人も僅かだが居る。というかチームの先輩のカフェさんが実際にやって、うちの髭トレーナーと恋人になった。

 よって今年も少数ながら、トレーナーとウマ娘の恋が一つ二つは実るかもしれない。

 俺も毎年恒例になったゴルシー達やチームの皆とチョコの贈り合いをした。自宅で療養しているダンには、前もってチーム全員分を親戚のクイーンちゃんに預けて、持って行ってもらう。

 しかし多くの行事を見ていると、トレセン学園と言うのは世の流れとは隔離されて、全く異なる世界に生きているように錯覚すら覚える。

 意外とイギリスのグッドウッドトレセンの閉鎖的な環境を笑えないのではないか?そう思わずにはいられない。

 まあ一生徒の俺がそう思ったところで、トレセン全体を変えられるはずも無いし、現状そこまで困ってはいないので別にいいかと思い直して、昼飯を食べに食堂に向かった。

 食堂はいつもより利用している生徒の数がかなり少ない。何しろカフェテリアの方で、昼限定のチョコレートスイーツが多数用意されているとあって、生徒が大挙して押し寄せている。普段一緒に昼食を食べている同じクラスのビジンや、ゴルシー達もそっちに行ってしまった。

 俺は是が非でもスイーツ食べたいわけじゃないから今回は遠慮した。それに手に持った荷物の事もある。

 今日はから揚げの気分だから、から揚げとニンジンたっぷりのサラダと、大盛りのご飯と味噌汁を持って席を探すと、見覚えのある後姿が目に入ったから、そちらへ流れた。

 

「よう、隣邪魔するよ」

 

「ん、アパオシャか。珍しいな」

 

 壁際で一人で二段重ねニンジンハンバーグを食べていたナリタブライアンの隣の席に座った。そして壁に立てかけてある、大きな紙袋からはみ出た色とりどりのリボンのついた箱や包みが目に付いた。

 

「人気者だねえ」

 

「アンタも人の事言えないだろう。まったく、この日になるとチョコレートが溢れて毎年うんざりする」

 

 心底辟易したとばかりにハンバーグを口にして、さらに牛丼を掻っ込んで幸せそうな顔をする。そうか、こいつは甘い物より肉の方が好きか。

 そして俺も同じぐらい中身の詰まった大きな紙袋を壁に立てかけて、唐揚げを一口頬張る。噛んだ瞬間に零れるような肉汁が口の中を満たして幸せな気分になれた。

 甘い物も良いけど、やっぱり食事としてガッツリ食べるなら肉だよ。

 俺の袋の中身もやっぱり、下級生からどっさり貰ったチョコレート。去年も結構な数を貰ったけど、今年はさらに多かった。

 

「チョコが嫌いってわけじゃないんだろ?」

 

「数の問題だ。この時期だけに集中したら賞味期限を気にして食べないといけないんだ」

 

 確かにそっちの問題もあったか。チョコレートはカロリー補給には向いているから、俺はトレーニングの合間によく食べて、チームの皆にもおすそ分けをする。だから隣の奴ほど嫌がる事は無いし、去年は十分に食べ切れた。今年は量が多いから苦戦しそうだけど。

 学年のトップクラスになるとお互い大変だと思いながら、あまり会話せずに黙々と肉を食べ続けた。

 粗方食べてから、おもむろにナリタブライアンの方から話を切り出す。

 

「アンタは次はどのレースを走る?」

 

「春の天皇賞は走るつもりだけど、その間はまだ決めていない。そっちは?」

 

「去年と同じ阪神大賞典だ。アンタは走らないのか?」

 

 視線だけは俺に走れと催促している。相変わらず強いウマ娘と競って勝つ事が第一か。でも今回はレースを走るより、二度目のイギリス遠征に向けて鍛えていたい気分なんだよ。だから今週にあるダイヤモンドステークスも走る気にならなかった。

 それを正直に言っても、こいつは納得するかなー?しないかも。となると活きの良い別の対抗者が必要になるわけで。

 

「うちのチームのクイーンちゃんは出るから、本気で走るといい。俺と同等に近い実力があるぞ」

 

「菊花賞を勝った後輩か。いいだろう、そこまで言うなら不足は無い」

 

「不足どころか、なめてかかったら負けるぞ。俺が居なかったら春の天皇賞だって勝つぐらい強い、自慢の後輩だからな」

 

 むしろそれこそ望むところだと言わんばかりに、ナリタブライアンは目をギラギラさせて口を吊り上げた。

 やっぱりこいつが俺の同期の中でぶっちぎりに強い。ゴルシーやセンジも相当に強いが、こいつほどじゃないんだよ。

 

「≪リギル≫の後輩は強いの?」

 

「エイシンフラッシュはそれなりに強い。今年のG1を一つは勝てるだろう。オペラオーは…惜しいな」

 

 なにが惜しいかは、ナリタブライアンの顔を見たら薄々分かる。俺とカフェさんの関係に近いんだろう。

 一緒にレースをしたくても、年が離れていて公式戦で走れないのを残念に思っている。

 つまりあの人生役者漬けの後輩は、ナリタブライアン本人と同等クラスの才能があるのか。

 うちのジャンは大変な同期と一緒になってしまったわけだ。災難だな。

 相変わらずガツガツしてて安心したというか、こいつの相手は面倒とも感じる。

 でも今回に限ってはありがたくもある。

 

「なあ、物は相談なんだが―――――――――」

 

 俺は前々から考えていた事をナリタブライアンに打ち明けた。

 話を聞き終えた相手の反応は悪くないと思う。

 

「――――私は面白い話だと思う。だがうちのトレーナーがどう判断するかだな」

 

「それは俺の役目じゃないから、熱のある弁で何とかしてくれ」

 

「ちっ、あのトレーナー相手はレースより骨が折れる」

 

 東条トレーナーの相手までは出来ないんだから自分で頑張ってくれ。

 昼食を終えて食器を片付けて食堂を出た。

 

 

 その日の夕方。いつものようにトレーニングを終えて、髭トレーナーを追い出した部室で着替えを済ませて、帰り支度をしていた。

 寒空で待たせてしまった髭を呼ぼうとしたら、秘書の駿川さんが隣に居た。

 

「着替えは終わったか?」

 

「ああ、お待たせ。駿川さんはどうしたんです?」

 

「アパオシャさんにお話があって、待たせていただきました」

 

 俺にか。内容は気になったが、外は寒いから部屋に入ってもらった方が良いな。

 チームの皆はそのまま居ても構わないと言われたので、困った話ではないと予想は出来る。さてどんな話だろう。

 

「実はアパオシャさんに、是非とも広報ポスターのモデルをしてもらいたいと、とある団体からオファーが来ています」

 

「先輩すごーい!芸能人みたいっ!」

 

 ジャンが盛り上がってキャッキャ喜んでる。他のチームメイトも悪い感情は抱いていないか。髭も先に駿川さんから話を聞いても、渋い顔をしてないから話自体は良い事だと思ってるのかな。

 しかし広報のモデルか。URAのグッズや写真集の類で撮影はこれまで結構あったけど、広告モデルは今まで無かったな。

 こういうのは見てくれの良い他のウマ娘がやった方が良いと思うんだが。でも、一応詳細は聞いておくか。

 

「それで、相手はどういう団体なんです?」

 

「全国味噌工業組合会です」

 

「味噌?調味料の味噌を作ってる企業の組合ですか?なんでまた」

 

「それはアパオシャさんの昨年のイギリスでの活動が関係しています」

 

 イギリス、味噌………あー、俺がどて煮とか五平餅を作って、ウマ娘達に振舞ったな。それだけの事で俺を選んだのか。

 

「味噌を作っている工場や蔵に、去年の夏から頻繁に外国から問い合わせがありました。さらに各国の様々な方が日本の調味料に興味を持たれて、現地の外交官にも話が及んでいるそうです。詳しく話を辿ると、アパオシャさんがイギリスで、味噌や醤油の料理を振舞ったのが発端と分かりました」

 

 なに、そんな大事になってんのかよ。俺はただ自分が味噌を食いたかったのと、友達に振舞っただけだぞ。いやーでも、その中にガチ貴族のお嬢様とか結構居たから、話がでかくなったのか?

 

「おまけで外国から味噌や醤油の注文が殺到して、海外での去年の売り上げが平年の数倍になったそうです。注文先の中にはグッドウッドトレセンも入っているんですよ」

 

「そういえばあそこでも、アパオシャくんが現地の料理に不満を持って、和食を作って振舞ってたねえ」

 

 オンさんの言う通り、そんなこともあった。グッドウッドは料理が不満だったし、残った調味料の一斉消費が目的でたくさん作ったな。美味しいって言ってくれたから作った甲斐はあったけど。

 

「そうした理由から、是非とも近年味噌離れが進んだ日本の和食を盛り上げて欲しいと、アパオシャさんが広報モデルに選ばれました。当然お嫌でしたら断る事も出来ます」

 

 駿川さんの話を聞いて、少し考える。悪い話じゃないと思う。日本の味噌消費量は年々減少していると言うし、個人の味噌蔵も廃業してしまったという話も耳にした事がある。そうなったら俺やオグリキャップ先輩が好きなどて煮に使う味噌だって、いつかは無くなってしまうかもしれない。

 そんな未来は絶対に来てほしくない。そのために少しでも力になれるなら、モデルぐらいやって味噌が売れれば万々歳。

 学園だって毎日大飯食らいのウマ娘に使う味噌が将来手に入らないのは困るだろう。ならば断わる理由は無い。

 

「分かりました。俺がモデルになって味噌の未来が救えるなら、やらせてもらいます」

 

「えっ、そこまで深刻に考える必要は無いですが……ごほん!それでは了承という形で話を進めさせていただきます」

 

 撮影日時は後で調整して、レース前を避けて設定してくれる。

 話は纏まり、駿川さんは帰った。

 俺達も味噌の話をしてたら腹が減ったから、寮に帰って飯を食うか。

 あと、あんまり関係無いけど、カフェさんが作る味噌汁は美味しいらしい。

 

 

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