変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第86話 後継者現る

 

 

 桜が咲き誇り、また希望と夢を抱いた新たなウマ娘達が中央トレセン学園にやってきた。

 彼女達の明るい笑顔は見ていて癒される。

 中央トレセンに入学する。それだけでもレースを志したウマ娘にとって、エリートの証と世間は言う。

 間違った認識ではない。地方トレセン所属のウマ娘と中央トレセンのウマ娘とでは、明らかに実力が違う。

 例外はあれど、そこまでは俺も概ね同意する。

 オグリキャップ先輩や、そのライバルの一人だった大井トレセンのイナリワンのような地方トレセン出身者が、中央レースで大暴れする事は極めて稀だ。

 尤もエリートだからといって、自動的に生徒全員が栄誉を手にする事は無い。一つのレースを走れば、一人の勝者と十数名の敗者が生まれる。ジュニア期からクラシック期の夏まで約一年間走り続けても、一度も勝てずにレース生活に終止符を打つ子の方が多数だ。

 新たにやって来たウマ娘がレースで勝つためには幾つかの要素が必要になると思う。

 一つは本人の才能。こればっかりは生まれつきだから除外しよう。

 二つ目は当人のやる気。こちらも新入生は誰もが勝ってスターになるためにトレセンに来るのだから、今現在は持ってて当たり前の要素だから、やはり除外する。

 三つ目は有能かつ相性の良い指導者と付随するチームの先輩に巡り合う運だろう。俺はこれがかなり重要だと思っている。

 俺も素養自体は高かった自負はある。しかしそれを的確に磨いてくれるトレーナーと、尊敬出来る先輩達と切磋琢磨したおかげで、今の自分があると思っている。

 磨けば光る原石も、磨いてくれる人と環境が無ければ石ころのままだ。

 

 その原石の見本市となる選抜レースの第一回目が今日、学園のレース場で行われていた。

 スタンドには、自らがスターへ導きたいウマ娘を求める多くのトレーナーと、気になる新入生を探す先輩ウマ娘が半数の席を埋めていた。

 今回は俺も見る側にいる。隣にはバクシさんとダンが座っていた。

 ダンの脚の屈腱炎は徐々に改善に向かっているもののまだ治らない。メジロの主治医の見立てで、夏休み前にはどうにか完治して走れるようになると聞いている。

 彼女は逸る気持ちを押さえて、待ち続けるのは慣れていると言うが、生まれてから怪我と病気と無縁だった俺には、その心中は察して余りある。

 それでも弱音を吐かず、チームに有望な新入生を迎え入れるための観戦を希望するのだから、ダンの忍耐強さに尊敬すら覚えた。

 

「ダンは気になる新入生はいる?」

 

「そうですね。皆さん、素晴らしい走りです。ですが今はこれと言って目を惹く子は―――」

 

 ふむ、いないか。ただ、今はまだ短距離が終わってマイルが始まったばかりだから、そのうち出てくるだろう。

 しばらく新入生の拙いレースを見続けていると、隣に見知った顔の話題のコンビも来た。

 

「やあ、ハッピーミーク。それと桐生院トレーナーもこんにちは」

 

「こんにちは皆さん」

 

「やっほー」

 

 二人は近くの席に座ってレースを観戦する。

 

「高松宮記念優勝、おめでとうございますハッピーミークさん!私のいない短距離を盛り上げるのは貴女の役目です!ぜひ、これからも頑張ってください!」

 

「いえーい、頑張ります」

 

「あはは、ミークは短距離だけじゃないんですけどね」

 

 バクシさんの激励に、ハッピーミークは素直に応え、トレーナーの方は苦笑する。

 先月の短距離G1高松宮記念は、ここにいるハッピーミークとキングヘイロー先輩が競り合い、死力を尽くしてハッピーミークが初の芝G1の栄冠を手にした。

 昨年は常に惜しい所まで行きつつ、最後まで届かなかったが、それでも腐らず鍛え続けた末にようやく勝てた。無論かつてダートで得た二冠を下に見る事は無くとも、やはり日本は芝が主流だ。獲れるなら誰だって欲しい。

 逆に芝からダートに行くケースもある。最近ではエルコンドルパサー先輩がダートG1のフェブラリーステークスをいきなり勝って、G1五冠目を達成した。

 あの先輩は元々ダート路線から芝に転向したから、元に戻ったとも言えるが、それでも芝で築き上げた輝かしい実績を置いて、路線変更する大胆さと結果を出す豪胆さは凄まじい。

 そのエルコンドルパサー先輩の同期のグラスワンダー先輩と俺は、先月の末週にあった長距離G2日経賞を走った。何気にあの先輩と走るのは初めてだった。

 結果は俺の勝ちだったが、最後の直線でかなり差を詰められて追い込まれた。去年の宝塚記念からリハビリしての復帰戦とは思えない鋭い末脚に冷や汗が出た。

 しかもあの人は両足を骨折して若干スピードとパワーが落ちて、とうにピークも過ぎていると言われている。

 それでもあれほど強いんだから、ウンスカ先輩やシャル先輩達も纏めて黄金世代と言われるのには同意するよ。

 

「アパオシャは次は春の天皇賞?」

 

「そのつもりだ。二連覇するよ」

 

「トウカイテイオーさんも出ますね」

 

 春天皇賞といえば今月の初週に関西でG1大阪杯があった。うちのチームは誰も出ないが、≪スピカ≫から三人、センジも出るから、俺とクイーンちゃんが日帰りでレースを見に行った。あとクイーンちゃんはルームメイトのイクノディクタスさんを応援したかったと聞いてる。

 レース場は超満員。なにせ昨年骨折で無敗のクラシック三冠を目前に、菊花賞を断念せざるを得なかったウオーちゃんの復帰レースだった。

 同チームの先輩のゴルシー、最優秀クラシックウマ娘のカレットちゃん、秋天皇賞のセンジなどのG1ウマ娘を押しのけて、一年近くレースから遠ざかったにもかかわらず、勝ったのはウオーちゃんだった。カレットちゃんが二着、ゴルシーは四着。センジは三着で、イクノディクタスさんは五着に入った。

 この勝利に日本中がフィーバー状態。そして無敗継続のまま、今度は春天皇賞の勝利宣言をその場でキメた。なかなか大きく出たもんだ。

 

「ウオーちゃんのファンには悪いけど、無敗記録は次でおしまい」

 

 俺の無慈悲な宣言に、隣のバクシさんとダンは頷いた。チームメイトは俺が負ける事を疑う事すらしない。あるいはダンはクイーンちゃんなら俺に勝てるかもしれないと考えているかもしれない。でも、ウオーちゃんに負けるとは微塵も思っていない。

 そういえばメジロの子が新しく入って来ると聞いたが、今日はいつ出るんだろうか。

 そんな事を考えてマイルレースを見終わった。

 マイルには一人、とんでもない走りを見せた褐色肌の鹿毛の子がいた。明らかに他と格の違うレースをして圧勝している。

 当然、トレーナー達は我先にとスカウトに走るが、その子に一顧だにされずに纏めて断られた。さて、どういうつもりなのかな。

 

 小さなトラブルはあれど、次は中距離に移った。

 一度目の中距離レースが終わり、勝ったウマ娘に何人かのトレーナーが話しかけて、色々あって話が纏まったようだ。

 負けたウマ娘は次頑張ってアピールしなよ。

 続いて第二陣のウマ娘達がコースに姿を見せる。すると、にわかにトレーナー達が色めき立った。

 

「あら、あの子は――――」

 

 ダンが出走する新入生の一人に視線を固定する。

 

「知ってる子がいるの?」

 

「はい。パーティーで何度か話した事があるサトノ家の子です」

 

「2番ゼッケンのサトノダイヤモンドさんですね。トレーナーの間でも、今年一番の有望ウマ娘と噂が上がっています」

 

 二人の視線の先に居る、鹿毛の子を見る。確かに他の新入生に比べて頭一つ上の印象はある。

 でも実際に走る所を見てみないと、結論は出ないと思うぞ。

 準備が終わり、十名がスタート位置につく。

 一斉に走り出し、それぞれのペースでレースが進む。

 噂のサトノダイヤモンドちゃんは後方で待機している。その周囲を数人の走者がマークして走っている。だからか、彼女はやや窮屈な走りになっているな。

 さて、先団に目を向けると―――――――ふむ、一人気になる子が居るな。

 二番手にいる、右耳に赤いリボンを着けた黒髪の5番ゼッケンの子。何となくだがタフで長距離に向いた印象がある。

 

「ちょわッ!バクシンセンサーにあの5番の子がビビっと反応しますっ!!」

 

「バクシさんも、あの5番の黒髪の子が気になったんだ」

 

「おおっ!アパオシャさんもですか!あの子は私の後を任せてもいい学級委員長になれます!」

 

 バクシさんも何かを感じたという事は、あの黒髪の子はかなり高い素養があるって事だな。

 そのままレースを見続けて、勝ったのは最終直線で差し切ったサトノダイヤモンドちゃん。前評判に偽りは無かったという事か。

 俺とバクシさんが目を付けた子は三着だった。結果はいまいち振るわなかったが、こういう事もある。それに順位はともかく、見立て通り2000メートル走って、息切れをしていないタフな点を見逃してはいけない。

 勝者にはさっそく五人ぐらいのトレーナーが押し寄せて、スカウト合戦に興じている。二着の子もトレーナーの一人が交渉を持ち掛けていた。

 あの黒髪の子には誰も目を向けない。

 

「ちょっと声かけてきます」

 

「ならば私も共に行きましょう!」

 

 考える事は一緒か。俺とバクシさんはコースに降りて、まずは勝者のサトノダイヤモンドに声をかける。

 

「良い走りだったよサトノダイヤモンドちゃん。君ならいずれG1勝てるよ」

 

「ありがとうございます!あのG1七冠のアパオシャさんに、そのように言って頂けて光栄です!」

 

 深々と頭を下げる新入生に比べて、彼女の周りのトレーナー達は俺達を警戒している。

 俺もバクシさんもG1複数勝利者として、そこらのトレーナー以上に顔と名が売れている。その二人が直にスカウトしたら、あっさり取られてしまいかねないと思っている。

 実際に俺も、髭と違うトレーナーの中から契約するはずだった。それがカフェさんとオンさんのスカウトで≪フォーチュン≫に入る事になった。同じ事をされるんじゃないかと疑うのは分からんでもない。

 でも今回は違うんだから安心しなって。

 

「やあ、三着は惜しかったけど、君も結構速いよ。知ってると思うけど、俺はシニア二年のアパオシャだ」

 

「私は引退してしまいましたが、元学級委員長のサクラバクシンオーです!!お名前を聞いてもよろしいですか!」

 

「ええっ!?わ、あたしはそのキタサンブラックと言います!でも、どうして三着のあたしなんかにお二人が?」

 

「それは貴女に運命的な何かを感じたからです!私と同じ素晴らしい才能を持っていると、バクシンセンサーが受信しました!さあ、私と一緒に世界をバクシンさせるのです!バクシィィンっ!!」

 

 のっけから電波受信したと自白したバクシさんに、周囲はドン引きしてる。キタサンブラックちゃんも腰が引けてたじろいた。この場で平然としているのは俺達とサトノダイヤモンドちゃんだけだ。意外とあの子は肝が据わってる。あるいは先輩達並にズレてるのかな。

 

「バクシさん、最初からガッツいたらダメですって。えっと、うちの先輩が君は『先行』より『逃げ』の方が合うって言いたいんだよ」

 

「そうなんですか?」

 

「それと俺の見立てだと、キタサンブラックちゃんはタフでスタミナ豊富だから長距離向き。今はまだ体が出来て無いからパワーが足りないけど、クラシック入ったら同学年でトップクラスに強くなるよ」

 

「いやいや、そんなあたしがまさかっ!?」

 

 初対面の相手にそんなこと言われても、急には信じられないか。しかもバクシさんは思いっきり電波受信した発言してるし。

 

「俺の話に興味を持ったら、明日にでもうちのチーム≪フォーチュン≫の部室に見学に来るといい。トレーナーには俺から話しておくよ」

 

 キタサンブラックちゃんの顔に結構迷いが生まれた。ここまで先輩G1ウマ娘に目をかけられたら、少しは心がグラついてくれないと俺達も自信が無くなる。

 今日の所はこれで十分だろう。

 あとは、もう一つ先輩らしいことをしておくか。

 

「ここにいる二人以外の子にも言っておくよ。――――――ただの一度の負けで諦めるな!俺の友達のゴールドシチーは最初の選抜レースで五着だった!それでもG1三冠の超一流ウマ娘になった。負けても顔を上げて、次の勝利を目指してトレーニングに励め!」

 

 必要な事は言い終わったから退散だ。これで奮起する子も少しは増えると思う。勝てるかどうかは別問題だが。

 さて、選抜レースはまだまだ続くから観戦再開だ。

 しかし、いつまで経ってもメジロ家の新しい子は出てこなかった。

 選抜レースの翌日にはキタサンブラックちゃんが、一着になったサトノダイヤモンドちゃんと一緒に見学に来た。この二人、元から小学校が同じで親友である。

 二日間見学と体験入部をしたキタサンブラックちゃんは、色々考えた末に≪フォーチュン≫に入ることを決めた。トレーナーはバクシさんを鍛えた髭が務める。

 

「このチームなら、あたしが憧れているトウカイテイオーさんに勝てるように鍛えてもらえますっ!」

 

 特定の相手に勝ちたい。それも一つの『証明』だろう。

 友達のサトノダイヤモンドちゃんは、家の方も交えて選考会を開いてトレーナーを決めると言っていた。

 大事な娘を任せる以上は親御さんも、トレーナーを見定めたいと思うのは常識的な親心だろう。

 しかし名乗り出たトレーナー十数名は誰一人として合格せず、後日トレーナー契約したのは先日レース場に居ても、選考会に行かなかった新人トレーナーだった。しかもサトノダイヤモンドちゃんからの逆指名。中々無いシチュエーションでの契約は結構話題になった。

 ともかくキタサンブラックちゃん(以降俺はブラックちゃんと呼ぶ)は正式にチームメイトになった。

 バクシさんは今後もまめにチームに顔を出しては、ブラックちゃんに『逃げ』の技術を継承させると楽しみにしている。

 俺もチームリーダーとして頑張って行かないとな。

 

 

 後日、新入生のメジロブライトという子はのんびり屋で、うっかり選抜レースの申し込みをしていなかったと、ダンから聞いた。

 ただし、これには続きの話があり、何故かその後にブライトちゃんは桐生院トレーナーと仮契約していた。なんかハッピーミークと池の亀を眺めながら意気投合して、流れで次の選抜レースまで指導する事になった。

 

 

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