桜も散り、トリプルティアラとクラシック三冠の始まりとなる、桜花賞と皐月賞が滞りなく終わった。
まず桜の冠を手にしたのは前評判の高かったドーベルちゃん。メジロ家に久しぶりにティアラを持ち帰った事で、彼女の評価は一層高くなった。
そしてもう一つのクラシックの祭典、皐月賞も昨年に並ぶ盛り上がりを見せた。
一番人気の優勝候補は現在全勝中のミホノブルボン。彼女は本来スプリンターである。それでも本人たっての希望でクラシック三冠制覇を望み、実際に皐月を制した。その話題性が人気の源泉だ。
うちのガンちゃんも頑張ったものの、惜しくも二着で負けてしまった。どうもうちのチームは皐月賞に勝てないジンクスでもあるんだろうか。来年は是非ともジャンに勝ってもらいたいよ。
と思ったが一番最初にオンさんが皐月賞勝ってたから関係無かった。いやーうっかりしてた。
あと、三着はライアンちゃんだった。そして≪スピカ≫のライスシャワーちゃんは着外の六着で終わった。まだ骨折の影響があったのかな。
終わったレースの事は仕方が無い。ガンちゃんも次の日本ダービーに向けて、オンさんの特製お薬を飲んでトレーニングに入っていた。
新人のキタサンブラックのブラックちゃんも率先して雑用を引き受けたり、毎日懸命にトレーニングを重ねている。
まだ入学したてで学ぶ事は沢山ある。それでも持ち前の元気で、日を追うごとにメキメキと力を付けていくのを見ているのは楽しいものだ。
それに今年はジャンがメイクデビューを果たす。こちらも初めて会った時に比べて格段に速くなっている。出来れば勝ってほしいよ。
後輩が頑張っているんだから、俺もチームリーダーとして頑張らないといけない。
都内の某所。今日はURAが春の天皇賞に出走するウマ娘を一堂に集めて記者会見をする日だ。
G1レースをするたびに毎回出席しているから、この会見もそろそろ慣れてきた。
勝負服に袖を通して、会見会場の隣の選手控え室に顔を出せば、今回走る十五人のウマ娘達が一斉に俺を見る。
ある者は俺への畏怖、またある者は挑戦者として王者に挑む果敢な視線、また別の者はただ友好の感情を見せる。
実際は半数以上がとっくに顔見知りなんだから、気安さも幾らか含まれている。
特に最初に駆け寄るこいつとかな。
「あっ、遅いぞアパオシャ!――――新作の勝負服、良い感じじゃん!」
「ありがとよセンジ」
センジは俺の勝負服をペタペタ触る。
年始に年度代表ウマ娘に選ばれたご褒美に、URAから贈られた勝負服は悪くないみたいだ。
その次にはゴルシーも勝負服の品評を始めて、似合うと言ってくれた。
練習で馴染むために一度着ただけで、まだチームメイトにしか見せていなかったから、結構不安だったがこれなら人前に晒しても良さそうだ。
新しい勝負服は、以前の中東風とはかなり趣が異なり、純日本式のデザインに即している。
基本は巫女服を思わせるデザインで、長い袖の赤い上着、袴の代わりにくるぶしで絞った黒いズボンに前垂れ。踵を固定する白いサンダル。
額飾りには放射線状に伸びた金細工をあしらった小さな鏡、首には翡翠色の勾玉の首飾り、腰帯には古式デザインの短剣を差してある。言わずとも分かる三種の神器だ。
俺は髪がほぼ無いから、長い黒髪に見せるように黒く長いベールを後ろに着けてある。
「前のと違って、いかにも和風のデザインよね」
「日本のウマ娘を印象付けたいから、天照大御神をベースにしたって」
デザインはURAの指定と聞いている。海外で走るのに明らかに中東風だと紛らわしいから、一目で日本代表と分かるよう今回のデザインにしてある。
テーマが天照大御神なのは、俺が太陽の意匠を好んでいるのを知って、デザイナーが出来るだけ意に添うように考えた結果だろう。
肌の露出も少なく着心地も良いから、まあまあ気に入ってる。ただし同居者は、前の方が良かったと露骨に不満タラタラである。
「アタシも今年の年度代表ウマ娘に選ばれたら、アパオシャみたいに和風の勝負服もらおっと」
「ぬかしおる」
軽口を叩くゴルシーに苦笑いで返す。そう言うのは次の春天皇賞でも俺に勝ってから言え。
そしてこの場で勝利宣言するもんだから、対抗心を刺激された子達が何か口にしようとしたが、その前に会見の時間が来て肩透かしを食らった。
スタッフに呼ばれて一番最後に隣の会場に行けば、報道陣のシャッターの嵐で出迎えられた。
「―――歴代G1優勝数首位タイ。昨年春天皇賞、有マ記念王者アパオシャ!今日初公開の新たな勝負服は、日本神話の天照大御神をイメージした神々しいデザインです」
それから一人一人に今回のレースへの意志表明を発言する時間が回ってきた。
例えばシャル先輩は二度目の優勝を宣言したり、マチカネタンホイザちゃんは初のG1勝利への意気込みを語る。
「ボクは無敗のウマ娘のまま走り続けるよ!」
「私はライバルと尊敬するチームの先輩に勝って、メジロ家に最高の栄誉を持ち帰りますわ」
ウオーちゃんとうちのクイーンちゃんは俺への勝利宣言を高らかに掲げる。
ゴルシーやセンジも似たようなものだ。
「では最後に、アパオシャさんどうぞ」
「―――これでも日本の顔になった以上は勝ち続けるつもりだ。数を競うつもりは無いが、このレースで日本のウマ娘の歴史を塗り替えよう」
『おおっ!!』
只の勝利宣言でも、今の俺ぐらいになれば多少脚色した物言いの方が世間の受けは良い。実際に勝てばルドルフ会長のG1勝利数を超えるから、記録は塗り替えられる。
「皆さん、ありがとうございました。それでは、来週のレースを楽しみに待っていてください」
記者会見はこれで終わった。あとは本番のレースを待つばかり。
髭の運転する帰りの車の中で、クイーンちゃんとちょっと話す。
「いよいよ自慢の後輩と対決か。結構長い道のりだったかな」
「そうですわね。いつかこの時が来ると思っていました。次のレースでは手加減は無用ですわ」
「ナリタブライアンに勝ったクイーンちゃんに、手を抜いて勝てるほど俺は楽観的じゃないよ。全力で捩じ伏せて価値ある八冠目を手にする」
互いの目を見て、昂る闘志を確かめた。ここで勝てなかったら、キュプロクスには到底届かない。
必ず勝って、再びイギリスに行こう。