変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第90話 夢を見る者見せる者

 

 

 NHKマイル杯の翌週は、華やかなシニアが走るヴィクトリアマイルが開催していた。 

 目玉選手になっていたのは、シニア最年長でG1三冠のグラスワンダー先輩。今年に入り、重賞二勝を挙げたオークスウマ娘のウオッカちゃん。それと、芝ダートを選ばない二冠ウマ娘のビジンの三人。

 咲き誇る花のように華やかな美しいウマ娘達も、いざレースが始まれば荒々しい闘争心をさらけ出し、力の限り相手を捩じ伏せて貪欲に勝ちを奪いに行く。まさしく獣の戦いだった。

 そして最後に勝者となったのは、≪雪の天使≫ユキノビジン。ことレースにおいては世間が付けた二つ名など、全く意に介さない強さを見せつけての勝利だった。

 けど俺はそれでいいと思う。世間がアイドルのように持てはやそうとも、俺達はアスリートなんだ。レースを走り勝つ事が喜びであり、ちやほやされるのはオマケだ。ウイニングライブだって勝たなければ脇に遠ざけられる。そこをはき違えると、後は一気に弱くなって負けていく。第一に優先すべきはレースで一番速く走る事である。

 ビジンもそれが分かっているから、俺と同様にさらなる階段を登ろうとしていた。

 彼女はレース後の記者会見でアメリカ遠征を発表した。

 俺とナリタブライアンのイギリス遠征を真似をしてというわけではない。実際はもっと前からそれとなく相談は受けていた。

 かつてクラシックの時に、四人で冗談交じりに遠征する話をしたことがある。

 あの時はまだ俺しか本気で海外レースを走る気は無かったみたいだが、俺がゴールドカップやメルボルンカップを勝ち続けた事で、ビジンもこのまま同期に負けたくないという対抗心が段々と育っていた。

 そこでダートが盛んなアメリカで、今まで以上に強くなるべく遠征を担当の久保田トレーナーと計画した。学園もG1二冠二刀流のビジンを評価して、充実したバックアップを約束した。

 世間も三冠目を獲得した矢先の発表だったので、さらなる飛翔を期待して好意的に受け止められた。

 出発は六月初週。現地で数度の重賞レースで経験を積む。

 そしていよいよ十一月となると、アメリカレースの最大の祭典≪ブリーダーズカップ≫に参戦する予定だ。

 既にヴィクトリアマイルを勝っているので、芝レースの一つ≪ブリーダーズカップ・フィリー&メアターフ≫の出走権は得ている。

 場合によっては現地でさらにトライアルレースに出て、ダート路線に切り替える事も考慮している。

 こういう時に臨機応変にダートも走れるビジンの汎用性は、俺達には無い強みだよ。

 

 

 さて、シニアにばかり目を向けてはいられない。

 四月から続いた怒涛のG1戦も、今日の日本ダービーが最後を飾る。

 天気は快晴。初夏の風が吹く絶好のレース日和の午後。チーム≪フォーチュン≫は全員で、東京レース場に応援に来ていた。

 

「モシャモシャ――――マヤノさんもそろそろ着替えた頃かな」

 

「そうだね、ハムハム――――あーあ、私も早くデビューして、勝負服が着たいのう」

 

 アメリカンドッグを頬張るブラックちゃんと、お好み焼きを食べるジャンがぼやく。

 現在は午後二時半。レースまで一時間も無い。出走者はそろそろ勝負服に着替えて、最終確認をしている頃だろう。

 

 食べ過ぎないよう程々に間食をしながらレースを見て、いよいよメインイベントの時間が迫った。

 観客も興奮を抑えようと必死である。

 そしてその時がようやくやって来た。

 パドックに最初の主役の一人が堂々とした姿を見せる。

 クラシック期に入り、どんどん力と自信をつけていく様は見ていて気持ちが良い。己が栄光を手にするのを疑いもしない。

 世間は今年のクラシックも去年と同じぐらい見応えのある世代と言う。

 ティアラ路線は桜花賞を勝ったドーベルちゃんが引き続きオークスも勝つかと思われた。しかしそうはならず、ティアラの第二戦を制したのは、ドイツからの留学生エイシンフラッシュちゃん。

 遠い異国の地で懸命に走る姿には、多くのファンが彼女の勝利に惜しみない声援を送り、彼女もまた日本の観客に片膝を折っての礼で返した。この敬礼がニュースで取り上げられて、全国に一躍名を響かせた。

 負けた三着のドーベルちゃんも悔しがっていたけど、切り替えて秋華賞を目指してこれから頑張ると言っていた。メジロの子はダンを筆頭に打たれ強い。

 もう一人のメジロの子、ライアンちゃんも姿を見せた。

 G2弥生賞を勝ち、一冠目の皐月賞は三着と好走。昨年の自信の無さと危なっかしさはなりを潜め、今では立派なアスリートの姿になっている。

 

 さらに見た顔が出てきた。黒いドレスに身を包んだ≪スピカ≫のライスシャワーちゃんか。

 骨折も無事に治り、元気に走れるようにはなった。戦績はスプリングステークス4着、皐月賞6着と、悪くはないが今一つという結果だ。

 ただ、あの子はどちらかと言えば長距離向きの資質だから、より距離が長くなっていくクラシック後半には手ごわい相手になっていくだろう。

 

「がんばれよーライスー!」

 

「素敵ですライス先輩ー!」

 

 俺達から離れた前の席で≪スピカ≫が声援を送る。そういえば最近新人が入ったとゴルシーが言ってたな。

 ―――あの黒髪の眼鏡をかけた小柄な子か。確かゼンノロブロイという子だったか。大人しそうな子だけど、あの癖の強いチームに馴染めるのかな。

 まあ、そこら辺は面倒見のいいゴルシーが色々フォローするだろう。

 さらに数名がお披露目をして、いよいよお待ちかねの時間だ。

 

「ガンちゃーん!!今日は勝つんだぞー!!」

 

「マヤノさんーファイトですわー!!」

 

 俺達や多数の声援を前に、フライトジャケット風の勝負服に身を包んだガンちゃんは、敬礼して翼を広げた飛行機の真似をしながらパドックを走る。ちょっとしたパフォーマンスで観客を沸かせた。天真爛漫なうちの後輩は、その愛らしさで人気が高い。

 あの様子なら、今日のレースは面白くなりそうだ。レースを楽しんでいるガンちゃんは物凄く強いぞ。

 ところが観客にとっての一番人気はうちの後輩じゃなかった。

 

「きたぞーミホノブルボンだー!!」

 

「無敗の三冠期待してるぞー!」

 

「テイオーの後継者はお前だぞ!」

 

「頑張ってーブルボンっ!」

 

 現在5戦全勝の皐月賞ウマ娘、白いレオタードの勝負服?を着たミホノブルボンが姿を見せた瞬間、会場が一気に盛り上がった。

 レースを志すウマ娘なら誰もが夢を見る三冠覇者に、今年もまた挑戦者が現れた。それも昨年三冠を目前にして、怪我で無念の断念をしたウオーちゃんと同様に、無敗のまま皐月賞を勝った。

 観客の中には彼女自身のファンだけでなく、ウオーちゃんの遂げられなかった夢の続きを彼女に託して応援する者も居るんだろう。それを悪いとは言わない。どんな理由で応援するかは個人の自由だ。

 しかし観客の想いだけで勝てるほどレースは生温くは無い。今日は辛い結末を見る事になるかもしれないな。

 

 お披露目が終わり、コースに18人のウマ娘が勢揃いする。一生に一度しか走れない栄光のレース≪日本ダービー≫。その栄誉を得られるのは只一人。

 ファンファーレが響き渡り、それぞれのタイミングでゲートに入る。

 静まり返るスタンドがスタートと同時に再び沸き立つ。

 一斉に飛び出した走者が我先にと己のポジションを奪おうとパワーファイトを繰り広げる中、先頭に立ったのは一番人気のミホノブルボン。

 予想通りの展開かな。あの子は過去のレースを見れば分かる通り、典型的な逃げウマ娘。最初から最後まで先頭を渡さずに走り続ける。

 ガンちゃんはその少し後ろの三番手をキープしている。今日は先行で行くつもりか。

 オンさんはレース展開は何も指示はしない。いつも自分の好きなように走れと言っている。天才の後輩は誰かに言われるより、本能でやりやすいように走らせた方が上手く行くという事だ。

 そのまま最初のコーナーに入り、ミホノブルボン中心でレースが形作られていく。

 ライアンちゃんは後方で機を窺い、ライスシャワーちゃんはガンちゃんの後ろ五番手辺りにいる。

 第二コーナーも終わり、向こう正面の長いストレートに入った。この頃には後方は激しく入り乱れて順位が変動するものの、先頭から五番目まで変化はない。

 髭がストップウォッチを見ながら厳しい顔をする。あの様子ではミホノブルボンのタイムに乱れは無いようだ。

 先頭を走るミホノブルボンの走りには大きな特徴がある。走り出してから先頭を譲らず、1ハロン(約200メートル)のタイムが常に一定を刻む事だ。ペースが乱れる事無く、機械のようにひたすら勝利目標タイムを刻み続けてゴールする。

 そのためにはどんなレース展開でも、追い立てる重圧に負けず自分の走りを乱さない頑強なメンタルとスタミナが必要になる。

 

「分かっていたけど、あの子は乱れないな」

 

「むむむ、あのブルボンさんからもバクシン魂を感じます!ですが、今はマヤノさんの勝利が大事です!マヤノさーん!頑張ってください!!」

 

 バクシさんの琴線に触れるほどの逸材だったか。少し巡り合わせが違っていたら、彼女がうちのチームに居たのかもしれない。

 髭が元来ミホノブルボンはスプリンターと言っていた。しかし彼女は適性が違うクラシック三冠を目標にした。よって担当トレーナーは勝たせるため、並のウマ娘の数倍のトレーニングを積むことを命じた。彼女はそれに応えて、スタミナを鍛え続けて適性距離の壁を乗り越えた。その結果が皐月賞勝利である。

 その努力は並大抵ではあるまい。だからこそ困難を乗り越えたミホノブルボンは、世間からウオーちゃんに匹敵する絶大な人気を誇る。民衆は困難に立ち向かう英雄が好きだから。

 既に英雄は最終コーナーに入った。まだ一度もハナを取られるのを許していない。流石にこの段階になると後方も焦りを覚えて、無理にでも追いつこうとペースを上げ始める。

 数名が無理をしてでもミホノブルボンの前を走り、しかし長くは続かず、最終直線に入った時には脱落していた。

 ガンちゃんは現在二番手、先頭と二バ身離されている。その後ろにはライスシャワーちゃんが詰めている。

 残り直線300メートルを切った。後方待機していたウマ娘達も、最後に勝つためにスパートをかけてきた。

 ライアンちゃんも切れ味のある脚でグングン前へと突き進んでいく。

 残り200メートル。先頭は変わらず、ミホノブルボン。

 

「いけーいけーブルボンっ!!」

 

「二冠目は貴女の物よ!」

 

 スタンドはミホノブルボンコールで埋め尽くされる。もはや勝った気でいる。

 ゴールまであと100メートル……70メートル………

 ここでついにガンちゃんが沈黙を破って、溜めていたスタミナを一気に解放して加速を始めた。爆発的な加速の末脚を見せて、少しずつ先頭との差を縮め、残り30メートルで並んだ。

 ゴール板まであと10メートルで僅かに前に出て、最後の最後で抜き切って勝利を手にした。

 

「やったぞー!!ガンちゃんがダービーウマ娘だーー!!!」

 

「おーしっ!!ほらタキオン、教え子がまたG1ウマ娘になったんだからもっと喜べ!」

 

「クフフ、そうだねえ。マヤノくんはよくやってくれたよ」

 

 常軌を逸した鍛錬で困難を覆した傑物も、真の天才には及ばない。残酷な事実を突き付けるようだが、これもレースだ。悪く思うなよ。

 スタンドからは無敗の三冠が途切れた事への落胆も多く聞こえたが、それを遥かに上回るガンちゃんへの称賛に溢れ返ってる。

 そうだ、これが見る者が勝利者へ贈る最大の礼だ。

 その礼に応えるように、コースではガンちゃんがスタンドに向けて投げキッスを返す事で、より一層ファンは熱を上げて拍手とマヤノトップガンコールを挙げた。

 夢敗れたミホノブルボン、三着のライスシャワーちゃんにも拍手と、次のレースへの激励が贈られた

 夢と誇りをかけたレースが終われば、記者会見の後にお待ちかねのウイニングライブ。

 惜しくも四着になったライアンちゃんも気を取り直して、ライブを華やかに彩った。

 それから学園に帰り、チームの部室で祝勝会を開き、ガンちゃんのG1初勝利を盛大に祝った。

 そうそう、忘れる所だったがダービーの後の目黒記念は≪カノープス≫のマチカネタンホイザちゃんが優勝した。

 あそこのチームはG1こそ勝っていないが、重賞はコンスタントに勝つ実力派チームという世間の評価は大体正しい。

 

 

 日本ダービーの翌日。学園の駐車場で髭ともう一組を待っていた。

 しばらくして、待ち合わせをしていた二人がやって来た。

 

「待たせてしまってごめんなさい」

 

「まだ時間前ですから大丈夫ですよ東条さん」

 

「おはようナリタブライアン、調子はどうだ」

 

「悪くない。気が満ちているよ」

 

 共にイギリスに向かうナリタブライアンと東条トレーナーの調子は良さそうだ。

 今回は髭と一緒に、四人でイギリス遠征をする。

 オンさんは屈腱炎のダンを放ってはおけないので、今回は髭トレーナーの方が一緒に行く。

 そして本音を言うと、ドレスコートとスカウトの相手が面倒くさいから嫌がったのはここだけの話である。

 ≪リギル≫の方もサブトレに任せてあるから不安は無いと聞いている。

 

「イギリスでは貴女が先輩ね。頼りにしてるわよアパオシャ」

 

「多少の手助けぐらいですけどね。ナリタブライアンなら大丈夫ですよ」

 

 強いて言えば他の参加するウマ娘とのコミュニケーションかな。こいつはあまり話さないタイプで、初対面の相手には誤解されやすいから、俺が多少フォローしないといけない。誘った以上はそれぐらいの労は気にしないけど。

 挨拶を済ませて、トレセンの車に乗る。

 目指すは二人一緒のイギリス制覇だ。

 

 

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