変なウマソウルと共に歩む架空ウマ娘の日々   作:ウヅキ

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第95話 おふくろの味ならぬ姉の味

 

 

 華やかだったアスコットミーティングにも終わりが来る。

 最終日の五日目が無事に終わり、五日目のレースの授賞式と閉幕式も済んだ。参加者の多くは荷物を纏めて、故郷へと帰っていく。

 その翌日には俺とナリタブライアンは、去年と同様に仲良くなったウマ娘達とお別れ会に呼ばれた。

 ナリタブライアンは最初、面倒くさがって乗り気じゃなかったので、各国の肉料理が食べられると囁いたら手のひらを返して行く気になった。

 ただし最低一つは料理を持参の条件に悩んでいたが、ホテルの厨房を借りて俺とは別に色々やってるみたいだから大丈夫だろう。

 

 パーティー当日。ホテルのスタッフの運転で、会場まで送ってもらった。護衛はアスコットミーティングまでだから、昨日には引き上げた。

 パーティー会場は去年に引き続いて、アスコットレース場近くのカシーの家の別荘を使う。

 ホテルから車でほんの10分もかからない丘の上の邸宅まで送ってもらった。車は料理の残り香があるから、後で消臭するんだろうな。仕事を増やしてしまって申し訳ない。

 使用人に持ってきたクーラーボックスの一つを渡して、取り扱いを説明する。ナリタブライアンも大きな寸胴鍋を渡した。

 主催者のカシーがこちらに気付いて挨拶に来た。

 

『ようこそアパオシャさん、ナリタブライアンさん。本日はぜひ楽しんでいってください』

 

『こんにちはカシー。連絡した通り、これから一品作るからキッチン借りるよ』

 

『家にある物はどうぞご自由にお使いください。ナリタブライアンさんはこちらで寛いでください』

 

『わかった』

 

 手を取った二人は会場の方に連れ立って歩く。

 実はあの二人は同じプリンスオブウェールズステークスを走った仲だ。カシーの方は残念ながら3着だったものの、優勝したナリタブライアンを嫌ったりはしない。むしろ率先してパーティーに誘っている。自分を負かした相手への尊敬の念が感じられた。

 おっと、俺の方も料理を作らないと。

 

 料理自体はあらかじめホテルでメインの食材を下ごしらえしておいたから、手早く終わって使用人に運んでもらった。

 パーティー会場では数十人のウマ娘達が寛いで、トークに盛り上がっていた。ナリタブライアンも周囲を囲まれている。

 本人は辟易しているみたいだけど、今回のアスコットミーティングで、ヨーロッパのウマ娘とレース関係者から一目置かれる存在になり、放っておいてはくれないらしい。

 英語はあまり得意ではないみたいだけど、片言でギリギリ意思疎通は出来るみたいだから、俺が助けなくても何とかなるか。

 それから何人かの子に挨拶したり話をしていたら参加者全員揃い、ホストのカシーの挨拶でパーティーが始まった。

 みんな目に付いた料理というかスイーツを好きに取って味わい、人にも勧めては和やかな雰囲気でお喋りをしている。

 

「おっガレットだ。―――うーん、スモークサーモンが美味い」

 

 他にも野菜とベーコン入りや、フルーツとホイップクリームの入ったバージョンもあって飽きさせない。フランスの子の自作らしい。

 

「おいアパオシャ、肉料理が少ないぞ。半分以上お菓子じゃないか」

 

 ナリタブライアンが大きなソーセージを齧りながらジト目でこっちを見る。

 

「そりゃ参加者は俺達と同年代だぞ。持ち込むなら肉よりお菓子の方だろ」

 

 ウマ娘がお前みたいに肉料理ばかり食べるわけじゃないんだぞ。

 それにカシーの家のコックが腹に溜まりやすい料理は作ってくれるんだから文句言うな。

 微妙に騙されたと感じたナリタブライアンは不機嫌になった。しょうがないから俺が作った料理を皿に盛って渡してやる。

 

「む、味噌の匂いがする。――――――鶏肉のみそ炒めか。悪くない」

 

「うちの地元の鶏ちゃん焼きだ。野菜も残さず食べるんだぞ」

 

 鶏ちゃんはぶつ切りにした鶏肉を、味噌と醤油とみりんを混ぜたタレに一晩漬けこんだ後に、キャベツやタマネギと一緒に炒めた岐阜県のローカル肉料理だ。

 美味しくて手軽に作れるから、大人数のために用意するのも割と楽で良い。鶏肉チョイスはイスラム教の子が豚肉を食べられないから避けたのもある。

 近くに居た子達にも勧めて、美味しいと評判は良かった。

 肉を食ってちょっと機嫌の直ったナリタブライアンと幾つかの料理を食べた。

 去年に引き続いて世界各国の見慣れない料理を食べられて幸せだ。

 

「――――おいこれを食え。さっきの肉料理のお返しだ」

 

 唐突にナリタブライアンからカレーの入ったスープ皿を渡された。あぁ、この匂いは。

 ともかくテーブルに置かれていたチャパティを千切って、カレーに漬けて食べてみる。

 辛味はほどほど、野菜の甘みと肉の旨味が染みわたって食べやすいカレーだ。店やトレセンの食堂のと違って、家で作ったような素朴な味がどこか安心する。

 

「いいねこの味。よその家庭のカレーも美味しい」

 

「姉貴の味だ。自分で作るのは時間がかかった」

 

 溜息を吐いた。昨日は厨房でやけに長い時間作業していたものな。

 肉とカレールーしか無いように見えて野菜の味がするのは、原型が無くなるまでかなり長い時間煮込み続けた証拠だ。

 あーこいつ野菜嫌いだから、どうにか野菜を食べさせようと苦心したんだな。

 

「ビワハヤヒデさんは良いお姉さんじゃないか」

 

「口煩いのは余計だがな」

 

 世話を焼かれているのにこの対応とは。ビワハヤヒデさんは結構苦労しているよ。

 でもカレーは美味しく、イギリスの子も自国のカレーと一味違う日本式カレーに不思議な顔をしながら、美味しいと言って食べていた。

 何だかんだ言ってナリタブライアンも姉さんの事は好きなんだろう。

 ビワハヤヒデさんの連絡先は知ってるから、後で教えてあげよう。

 

 みんなでこの料理が美味しい、どこの国の料理、名前を教えて。そんな会話がどこかしかで聞こえる。

 和やかな時間が続き、腹が満たされれば、今度はゆったりと腰を落ち着けて、お茶とお菓子でお喋りの時間になる。

 好きにお菓子を取り、使用人にコーヒーを入れてもらった。

 

『こちらの不思議な味のゼリーはどなたがご用意しましたか?』

 

 イタリアの子がガラス皿に入った暗褐色のゼリーを見せる。あ、俺の持ってきたやつだ。

 

『それは俺が作ったものだよ。日本の『羊羹』と言って、豆を砂糖で煮て冷やして固めたお菓子』

 

 説明に何人かがビックリしている。ヨーロッパでは普通豆を甘く煮ようとする発想が出てこないし、それを固めてゼリーにする事も無い。たぶん日本以外は中国とかアジア圏でしか食べないんだろう。

 

「アンタ、羊羹も作れたのか。レースを引退したら本当に料理人でもなるつもりか?」

 

「手抜きのパチ物だから、この程度は誰でも出来るよ。金を取るのは無理」

 

 ちなみにこの羊羹は小豆を日本から持ち込んで、ホテルで煮濾して寒天の代わりにゼラチンで固めたなんちゃって羊羹である。水分も多いから、食感はどちらかと言えば水羊羹に近い。

 それでも未知の味を試そうとする子は多く、結構な勢いで羊羹モドキは食べられていく。ただ、慣れない味なのか鶏ちゃんに比べて反応は今一つに見える。味が受け入れられないのはしょうがないか。

 そんなこんなで色々なお菓子を食べて、共に笑い、別れを惜しみ、夕方にはパーティーはお開きになった。

 

 ホテルに戻ってから、厨房のコックに道具を返してお礼もした。その後に荷造りを始めた。明日にはグッドウッドトレセンに移動だ。

 ゴールドカップは負けた。ならグッドウッドカップを勝たないと格好がつかない。必ず勝つ。

 ナリタブライアンの方はこのまま来月までアスコットに滞在して、キングジョージ6世&クイーンエリザベスステークスに備えるから、一旦お別れになる。

 ここのホテルは食事も美味しくサービスも良かったから、ちょっと名残惜しい気持ちがあるけど仕方がない。

 

 翌日、予定通りホテルを出てグッドウッドに向かった。一年ぶりのグッドウッドトレセンはどうなっているか。まだ飯が美味しくないのかな。

 あの味気の無い日々の食事を思い出して、ちょっとやる気が下がった。

 

 

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