ウルトラマンノーデンス   作:リョウギ

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第1話「夢のヒーロー」

炎の海

街並みも何もない真っ暗闇、ただ炎が揺れる空間に俺はいた

 

どこまで走っても、どれだけ叫んでも

何も見つからない、誰も応えてくれない

 

ーズゥン!!

 

そんな俺の前に地響きを立てて巨大な何かが現れる

 

赤い光が顔に十字に走る黒い巨人

体の各所に赤い光のラインが走り、その胸には黒い光をたたえた水晶体があった

 

巨人はこちらに手を伸ばす

衝撃に巻き込まれて倒れた俺は立ち上がれない

 

ーもうダメだ

 

ージュアァッ!!!

 

その瞬間、俺の背後から現れた白銀の光が黒い巨人を打ち据え、大きくその体を吹き飛ばす

 

振り返った俺の目に映ったのはもう一人の巨人

 

優しい白い光を放つ双眸

清らかな青い光を放つ水晶体を胸に持つ白銀の巨人

 

俺をー夢追(ゆめおい) 勇人(ゆうと)を見下ろしたその巨人は確かに頷いた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「……人、勇人!もう朝だよ!」

 

騒がしい声に目を開ける

 

ベッドから身を起こし、眠い目を擦りながらあくびを一つ溢す

 

「あー……朝か」

 

少年ー勇人は気怠げに髪を掻き上げながら立ち上がり、部屋から出る

 

階段から降りた先のリビングではキッチンから運ばれたトーストやベーコンエッグがいい香りを放っていた

 

キッチンからブレザーの上からエプロンを着た黒髪ポニーテールの少女が顔を出す

 

「やっと起きた。おはよう勇人」

「あー、おはよ初子…今日も早いなぁ…」

 

勇人があくびしながら時計を見上げる

時刻は午前6時。高校生的には結構早朝な時間帯だ

 

「当たり前でしょ!部活の朝練とかあるんだから」

「だったらわざわざオレのとこに朝飯作りに来なくてもいいんじゃ…」

「だってあんたのこと放っとけないんだもん。一人暮らしだし、料理だって壊滅的だから栄養バランスとかだって…」

 

席に着いて手を合わせる勇人に小言を連ねてくるこの少女は浮橋(うきはし) 初子(はつね)

勇人の幼馴染の少女で、同じ高校に通う同級生だ

色々事情のある勇人を放っておけないと、こうしてよく家を訪れてくる世話焼きでもある

 

成績優良、剣道の腕も良い才色兼備。だが気の強さが災いしてかあまり浮いた話は聞かなかったりする

 

「へいへい、初子はオレのおかんか…?」

「おか…ッ⁉︎なんで言うにことかいてそっちなのよ⁉︎」

「いやどっちだよ……」

 

呆れ顔でトーストを食む勇人を少し赤らめた顔で睨みながら初子が時計を見てため息をつく

 

「そろそろ私朝練行かなきゃ、じゃあまた学校で!」

「おう、またなー」

 

エプロンを外し、部活道具の入った大きな鞄を提げて手を振りながら初子が家を出る

 

「さて、と。じゃあオレも朝の日課を……」

 

テレビのリモコンを手に取り、電源を点けて録画番組を呼び出す

 

『白熱戦士!ウルトカイザー!!』

 

流れ出したのは今放送中のヒーロー番組『白熱戦士ウルトカイザー』の最新話だった

 

テレビに映る白銀のスーツを纏うウルトカイザーの活躍を勇人はキラキラとした目で見ながら朝の支度を整えていた

 

 

「いや〜やっぱウルトカイザーかっこいいよなぁ…」

 

制服に着替え、家を出た勇人はウルトカイザーの活躍を脳内で反芻しながら通学路を歩いていた

 

「ん?」

 

と、交差点で信号待ちをしていると側のお婆さんが重そうな荷物を持って肩を揺らしていた

 

「ばあちゃん、荷物重そうだけど持とうか?」

「おや、助かるよ…ちょっと買い込みすぎちゃってね…」

 

勇人はお婆さんの荷物をいくつか持ち、近くのお婆さんの家までついていく

 

「ありがとうね、助かったよ」

 

玄関口に荷物を下ろす勇人に深々とお婆さんが頭を下げる

 

「いやいや、当然のことをしたまでですよ。じゃ、オレはこれで!」

 

勇人はお婆さんに手を振りながら通学路に戻る

 

「今日も一日一善!ヒーローに一歩近づいたかな?」

 

笑顔でガッツポーズする勇人

それを遠くから睨んでいる人物がいることに気づく

 

長い黒髪の少女。勇人と同じ学校の制服だが、リボンの色が青色なので勇人たち1年生よりも先輩の2年生だ

 

黒縁眼鏡の奥からこちらを見据える視線にはどこか敵意に似たものも感じられた

 

少女はこちらをしばらく睨むと踵を返してどこかに去っていった

 

(なんだったんだ…今の先輩…?)

 

首を傾げながらも勇人は学校へと向かって行った

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

白舟(しらふね)学園

勇人たちの通う高校の朝HRが終わり、生徒たちは授業準備や友達との談笑をしていた

 

1-Cの教室で勇人は大きく伸びをしながらあくびをしていた

 

「はぁ、今日も一日頑張りますか…ッて⁉︎」

 

油断しきったその頭にチョップが振り下ろされる

 

「……てて、って初子、何すんだよいきなり⁉︎」

「今日も遅刻寸前だったから喝入れといてあげたのよ」

 

頭をさする勇人を初子が睨む

 

「……今朝は通学路で何してきたの?」

 

問われた勇人が指折り数えながら答える

 

「えーっと、まず婆ちゃんの荷物持ちだろ?あとは側溝にハマった車押し出すの手伝って、外国人いたから道案内して、また大っきい荷物持ったじいちゃんいたから手伝って、自転車置き場で自転車ひっくり返した先輩いたから助けてー」

 

「やっぱめちゃくちゃお節介してるんじゃない‼︎ やりすぎよやりすぎ!!」

 

初子のツッコミに頬をかきながら勇人が反論する

 

「困ってる人は放っておけねぇだろ⁉︎ それにオレの目標であり日課」

 

勇人が指を一本立てて見せる

 

「一日一善!それがオレのヒーローへの道なんだし‼︎」

「もう一善以上してるじゃない⁉︎」

「困ってる人には何善でも、だ‼︎」

 

笑って応える勇人に初子が頭を抱える

 

「よーう勇人に浮橋さん!朝からおあつーなんでもないです」

 

話し込んでいた2人のところにクラスメイトの男子が1人やってくる

ちなみに後半に謝罪が挟まれたのは初子に射殺さんばかりに睨まれたからである

 

「どうした?洋介」

「そ、そうだった。なぁ勇人、今日掃除当番代わってくんねぇか?」

 

洋介が手を合わせる

それを見た勇人はサムズアップを返す

 

「ああ、いいぜ。任せとけ!」

「ほんとか⁉︎助かった今日どうしても外せない用事があったんだよ〜」

 

調子良く勇人の手を握りにこやかに去っていく洋介を睨みながら初子が勇人を睨む

 

「……ああいうの助けるのも、ヒーローなの?」

「困ってるヤツに違いはねぇからな。当たり前だろ」

 

勇人のその言葉に初子は眉根を寄せる

 

授業の予鈴が鳴り響く

 

「……だから嫌なのよ。ヒーローなんか…」

 

絞り出すように言った初子の言葉は、予鈴に掻き消されて勇人には届かなかった

 

何ごともないように、いつもの日常が再開した

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

放課後

教室の扉を開けて勇人が飛び出し伸びをする

 

「掃除終わり!一善、またまた完了!!」

 

そんなことを言いながら帰路につこうとしていると廊下の向こうから手を振りながら近づいてくる生徒が1人

 

「お、一郎!」

「勇人くーーーん!やっと見つけた…」

 

はぁはぁ、と息を切らして近づいてきたのはメガネをかけた小柄な少年だった

 

「宿題終わったから一緒に帰ろうと思って。今日はどこの助っ人してるのかなって思ったら掃除当番代行だったんだね」

「まぁな〜しばらく運動部の助っ人は無いんだなこれが」

 

この少年は富士川(ふじかわ) 一郎(いちろう)

勇人のもう一人の幼馴染であり、そしてー

 

「そういえば…勇人くん、今週のウルトカイザーもカッコ良かったよね!特に戦闘シーンとか激アツだったし!」

「だなぁ〜オレはもう3回は見返したぜ!」

 

ヒーロー特撮好きの仲間でもある

 

「今回のウルトカイザーのヒーローっぷりも良かったなぁ…特にタワーごと人質を取られた時のあの決断と行動力!オレも見習わないと…」

「行動力なら勇人くんもすごいと思うけど…」

 

はは、と一郎が苦笑いを漏らす

と、その時玄関の方で1人の女子生徒が柱の影に立っているのが見えた

 

うつむいた少女はよく見ると涙を流しているようだった

 

「どうかしたのか?」

 

それを見た勇人が声をかける

一瞬突如現れた勇人に驚いたような表情を見せたが、涙を拭いながら答える

 

「……いえ、ちょっと悲しいことがあったの」

「そうなのか…なんか力になれることはあるか?」

「大丈夫。その気持ちだけで嬉しいから…」

 

少女はぎこちなく微笑むと2人に手を振り去っていった

 

「やっぱり勇人くんの行動力凄すぎますよ…」

「……本当に大丈夫なのかな?まだ泣いてたみたいだけど…」

「簡単に話せない悩みもあるってことよ」

 

合流してきた初子が勇人にため息混じりに告げる

 

「話せない悩み?」

「むしろ話せる悩みの方が少ないわよ。誰もがあんたみたいにまっすぐ直球な訳じゃないの」

「たしかに…そういう悩みってありますからね…」

「そうなのか……」

 

難しい顔をして勇人が首を捻る

それを見た初子は呆れてため息をつき、一郎は苦笑していた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

玄関で勇人が声をかけた少女ー天使(あまつか) (まな)は夕焼けに染まる帰り道でまた一人涙を流していた

 

「……(よう)くん……」

 

愛は陽という少年に告白をし、フラれてしまったのだ

 

初めての気持ち、初めての告白

ダメでもいいとは覚悟していても、それでもやはりすごく、すごく辛かった

 

『ごめん、俺お前のことよく知らないし…それに声が小さいヤツ、あまり好みじゃないんだよね…』

 

フラれた時のことを思い出し、また心がズキリと痛む

 

辛い、つらい、辛い

 

胸を押さえた愛の頬から涙がこぼれる

 

『おや、お嬢さんどうなされた?』

 

そんな時、どこからか声がかけられた

 

声の主人は道の端に構えてあった簡素な露店に座っていた

 

じゃらじゃらと様々な色の原石をぶら下げた黒いローブを頭からすっぽりと被った正体不明の人物

 

ローブ奥の顔は何故か闇に包まれて見えなかった

 

「な、何……?」

 

あまりにも怪しい風体に怯える愛にローブの人物は手を振る

 

『ああ、怖がらせてごめんよ。そんなに苦しそうに涙を流していたなんて何があったのかと思ってね』

「なんでも……ないです。放っておいてください……」

 

玄関で声をかけてきた少年のことを思い出し、突き放すように言う

 

なんでこうも、今日はお節介な人が多いのかと愛は苛立ちが溜まっていたのだ

 

『ふむ、ではワタシからこれをキミにプレゼントしよう』

 

ローブの人物は小さな緑色の石がはめられた置物のようなものを愛に近づいて手渡す

 

「…これは?」

『ワタシの故郷のお守りだ。嫌なこと、辛いこと、キミにとって悪夢のようなことをすっかり吸い取ってくれるモノだよ。枕元に飾っておきなさい』

 

ローブの人物はひっひっ、と微笑む

 

「でも、こんな高価そうなの…」

『サービスだよ。傷心のお嬢さんが立ち直れるよう、ワタシからの親切心として受け取っておくれ』

 

渡された置物を困惑しながら見つめる愛

やはり返そう、と顔を上げたが

 

「えっ…」

 

露店も、ローブの人物もどこかへと姿を消していた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

「言えない悩み、ねぇ……」

 

その夜、ベッドに寝転がりながら勇人は未だ初子に言われた言葉を反芻しながら頭を捻っていた

 

「わっかんねーな……」

 

勇人は大の字に手足を投げ出し、思考を放棄する

 

そのうち瞼を閉じ、眠りへと落ちていく

 

 

ぱちくり、と目を開け勇人が体を起こす

 

何故か制服を着ており、そこは自分の部屋ではなかった

 

「おはよう、こっちの世界…ってか?」

 

もうすっかり馴染になった巨木が聳え立つ白い街並みを見下ろし、伸びをする

 

 

5年前、勇人の住まう白舟市にある災害が起こった

街の中心に隕石が落下し、半径数キロが火の海に包まれたのだ

落下した隕石は着弾時の衝撃で吹き飛んだらしく、今はもう復興も終わり、災害の後は見受けられない

 

その時の記憶が何故か勇人にはない

記憶と同時に、勇人は二つ失ったものがあった

 

一つは両親

大災害に巻き込まれ、両親は勇人を置いて亡くなった

今勇人は両親の遺産とたまのバイトで日々過ごしている

 

もう一つは「夢を見ること」

夜眠る時に見る夢、それを見れなくなり、代わりにこのよくわからない世界に導かれるようになったのだ

 

 

『ユート、マタキタ』

『アソボ、ユート』

 

目を覚ました勇人の周りにフードを被り、そのフード越しに猫のような耳が動く小人たちがわらわらと集まってくる

 

「わかったわかった、今日こそは追いついてやるからなぁ〜」

『ムリムリ』

『ユート、マダマダ』

「言ったなお前らぁ!!!」

 

蜘蛛の子を散らすように逃げていく小人たちーウルタたちを追いかけていく勇人

 

パルクールのように屋根から屋根へ飛び移り、階段を駆け降り、高く壁を飛び越えながら走る

 

何故かこの世界では体が軽い

眠っているはずなのにしっかりとした意識がある

 

5年前以来こんな感じなので、勇人はいつも少し寝不足気味だった

 

「今日こそは、絶対捕まえてやるからなぁ!!!」

 

最初こそ衝撃的でわけがわからなかったが、勇人自身、毎晩のこの遊びが大好きになっていた

 

そして、逃げ回るウルタたちを捕まえるのが小さな目標になっていた

 

 

同時刻 天使(あまつか) (まな)の寝室

 

「う、うぅ……」

 

ベッドに横になった愛は脂汗をかきながらうなされていた

 

とても、とても辛い悪夢を見ていたのだ

 

告白し、陽にフラれる

その繰り返し

その中で、陽が自分を罵倒してくるものもあった

もっとひどく、愛自身の何もかもを否定するようなそんな罵倒を

 

『やめて!!もうわかったから!!』

 

『私が陽くんに似合わないのはわかってたの!!』

 

『でも、でもそれでも好きだった』

 

『好きだったのに!!!』

 

うなされる愛の枕元に置かれていたあの置物が怪しく光っていた

 

『お前声小さいし気持ち悪いからムリ!!』

 

『嫌だね!お前の告白なんかしらねぇよ!!』

 

『近づくんじゃねぇよ、隠

 

ーバクリ

 

ーもぐもぐ、むしゃり

 

ーバリバリ、ごくん、がぶり

 

何故か夢の中で咀嚼音が響く

 

陽が齧られる

あの場面が齧られる

 

齧られる、齧られる、どんどんとなくなっていく

 

悪夢のようなあの一瞬が、なくなっていく

 

 

天使 愛の自宅の屋根の上にしゃがみ込んでいた黒ローブが愉快そうに肩を震わせる

 

『ヒヒッ、いい悪夢だねぇ。これはこれは、メアゴーントも良く育ちそうだぁ……』

 

 

白亜の建物の屋上に着地した一人のウルタの背を勇人が掴む

 

『ワワッ⁉︎』

「つか、まえ、たぁ!!」

 

ぜぇぜぇと息を切らしながら勇人がガッツポーズと共に叫ぶ

 

『マイッタ…』

『ユート、ショウリ、スゴイ!』

『アトイチネン、カカリソウダッタノニ』

「どうだ!オレだって頭も使うんだよ」

 

あぐらをかいた勇人が誇らしげに腕を組み笑う

その周りをワラワラとウルタたちが楽しそうに駆け回る

 

と、勇人はいつも見ている街の真ん中に生えた大きな木の異変に気づいた

 

「……あの枝、あんなに黒かったか?」

 

大きく広がるその木の枝の一本が黒ずみ、紫色の煙のようなものをあげているように見えたのだ

 

『…メアゴーント…‼︎』

『メアゴーントダ…』

『コワイ…』

 

その枝を同じく見つけたらしいウルタたちはどこか怖がるような素振りを見せている

 

「お前らにも気持ち悪いものなのか…?」

『メアゴーント、スゴクコワイ』

『アクム、タベル、カイブツ』

「悪夢を食べる怪物…?ソレっていいヤツなんじゃ…?」

 

ウルタたちは一様に首を振る

 

『ユメ、ニンゲン、トテモダイジ』

「そりゃ夢が大事なのはわかるけど、悪夢は……」

 

と、勇人は何かに気づき立ち上がる

その姿はうっすら消え始めていた

 

「ごめんな、そろそろ朝みたいだ。また夜に!」

 

手を振る勇人にウルタたちも手を振りかえす

 

遥か遠くに見える大樹の枝はますます黒くなってきていた

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

翌日 白舟学園

 

「なぁ、一郎。悪夢って大事なものなのか?」

「唐突だね勇人くん……」

 

通学の途中で出会った一郎に勇人が問う

一郎はしばらく顎に手を当てながら思案して答える

 

「う〜ん…僕も大事とはあまり思わないけど…怖いこと、嫌なことってある意味心のバランスを整えるのに必要なのかも?」

「心のバランス…?」

 

「夢にまで見ることって、それだけ何か印象に残ったことのはずだし、例え悪夢だとしても心がそれだけ覚えたことがなくなるのはまずいこと、みたいな…」

 

一郎の考えを聞いて勇人はますます首を捻り始めていた

 

 

同じ通学路 2人の後方

天使(あまつか) (まな)に同級生の友人が合流していた

 

「昨日は大変だったね愛…まぁ気を落とさないで、他にいい男ならきっと見つかるよ…」

 

と愛を励ます同級生

その言葉に愛が首を傾げる

 

「昨日…?何かあったっけ?」

「……何かって、あんた陽くんに告白してー」

 

「陽くん?それって誰だっけ…?」

 

まるで覚えがないように愛が首を傾げた

 

 

授業が始まっても勇人はどこか上の空だった

 

(悪夢、夢……それが食べられる、か……)

 

「……やっぱわかんねぇな…」

 

ふと窓の外に目をやる

 

いつも通りの街並み

だが、異変はたしかにそこにあった

 

街並みの中に陽炎のように何かが揺らめいていたのだ

 

「……?なんだあれ…」

 

 

1-Aの教室

 

いつも通り授業を受けていた愛

ふと、睡魔に襲われて目を擦る

 

(……おかしいな、昨日はよく眠れたはずなのにー)

 

睡魔に抗いきれず机に突っ伏す

 

閉じる直前、その右瞳が紫に輝きヤギを簡略化したような紋章が浮かび上がっていた

 

愛が目を閉じ、夢の世界へ落ちる

 

 

瞬間、学校に大きな衝撃が走った

 

 

「な、なんだ⁉︎」

「落ち着いて!校庭にひとまず避難して!」

 

勇人のいるクラスも突然の地震に大騒ぎになり、教師がなんとか宥めようとする

 

「なんだあれ!?」

 

と、学生の一人が窓の外を指す

 

白舟市の街並み

その中に奇妙な異物がいくつも現れていた

 

ビルの壁を這う木の根、街並みの中から無秩序に生え出した白亜の建造物たち、そしてー

 

ー■■■■■■■■■■■■■!!!

 

巨大なワニに似た四足歩行の黒い巨大生物

巨大生物は大きな口を開いて不気味な咆哮を上げていた

 

キャアァァァァァァァァァァ!!!

うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!

 

あまりの非現実的な光景にパニックを起こした生徒たちが我先にと教室から出て行く

 

その中で勇人はただ一人呆然と現れた怪獣を見つめていた

 

「なんだよ……これ……⁉︎」

 

怪獣以外に現れた構造物に更に勇人は驚く

 

「冗談キツいぜ……なんで、オレが見てるあの街が現実に現れてんだよ…⁉︎」

 

そう、現れた構造物たちは勇人が夢の代わりに訪れるあの白亜の街並みのものだったのだ

 

5年も通い続けた勇人が見間違えるはずがない

 

「勇人!!」

「勇人くん!!」

 

その背に初子と一郎の声が響く

 

「何ぼけっとしてんのよ⁉︎ 逃げるわよ‼︎」

「あわわ…あんな怪獣がどこから…⁉︎」

「あ、ああ…そうだよな。逃げよう…‼︎」

 

初子たちに促され、3人で教室から飛び出す

 

「誰か!誰か助けてぇ!!」

 

と、パニックになった生徒たちが行き交う廊下に助けを求める声が響いた

勇人の体はすぐにそちらに向かって動いていた

 

「ちょっ⁉︎ 勇人‼︎」

「わりぃ‼︎ 先に逃げててくれッ‼︎」

 

声の方に生徒を掻き分け、逆走して行く勇人を見て初子が頭を押さえる

 

「あのヒーローバカ…‼︎一郎‼︎」

「は、はい‼︎」

 

幼馴染の言葉の真意をすぐに受け取り、一郎が頷く

2人も勇人を追って1-Aのクラスへと急いだ

 

「どうした⁉︎」

「愛が、愛が目を覚さなくて…‼︎」

 

クラスの中にいたのは2人の女子生徒

片方は机に突っ伏して眠っており、もう片方は半泣きでその肩を揺すって起こそうとしている

 

「勇人!こんな時まで…‼︎」

「初子、一郎!」

「あれ、あの子もしかして昨日の…」

 

一郎の言葉を聞いて勇人も思い出す

机に突っ伏したままの女子生徒が昨日声をかけたあの子だったことに

 

ー■■■■■■■■■■!!!

 

歪な咆哮に校舎が揺れる

 

あの黒い怪獣がこちらに向けて突撃してきていたのだ

 

「ひッー」

 

恐怖のあまり助けを呼んだ女子生徒が気を失い脱力する

それを初子が慌てて抱きとめる

 

「この野郎…‼︎」

「バカ‼︎何するつもりよ⁉︎」

「なんかする‼︎どうにかアイツの気をそらして…」

「無茶ですよ⁉︎ あんな怪獣それこそウルトカイザーみたいなヒーローにしか…」

 

制止する一郎の言葉を聞き、勇人が悔しげに顔を歪める

 

(どうにもできないのかよ…‼︎ ヒーローになりたいって言っといて、こんな土壇場にオレは…‼︎)

 

ー■■■■■■■■■■■■!!!

 

怪獣がこちらに迫る

 

瞬間、勇人の目の前に眩い銀色の光が現れた

 

「⁉︎なんだ…⁉︎」

 

目を開いた勇人の目の前には、一つの手持ち大のデバイスが浮かんでいた

 

「こいつは…」

 

勇人がそれを手に取る

 

「何よそれ…」

「一体何が…⁉︎」

 

それを手にした勇人の脳内にあるビジョンが浮かび上がる

 

炎の街の中、立ち上がる白銀の巨人

 

かつて勇人が見た、あの巨人の姿

 

それを見た勇人は確信する

 

「初子と一郎はその2人を」

「あんたはどうするつもりよ⁉︎」

「決まってんだろ」

 

勇人はニッと笑って指を一本立てる

 

 

「一日一善、だよ‼︎」

 

 

勇人がデバイスを前方に掲げる

その姿が眩い銀の光に包まれた

 

 

光の中、勇人の左手首に大振りな腕輪が出現する

 

「こいつを、こうか?」

 

ビジョンに従い、その腕輪をデバイス全面に押し当てる

レリーフ装飾のようになっていた部分が持ち上がり、2本のツノのようになる

 

《エントリー:シルバー》

 

そのままデバイスを地面に突き立て、真ん中のツノが伸びて小さな三叉槍のような形状に変化する

 

「なんだか知らないが、オレしかできないなら…」

 

「オレが今、ヒーローになってやる!!」

 

三叉槍デバイスーノーデンストライデントを天高く突き上げる

 

「ノーデェェェェェンス!!!」

 

《プログレス》

 

《ウルトラマンノーデンス》

《シルバリック・ブレイブ》

 

勇人の体が変化する

 

普通の高校生の姿から、左腕に銀色のガントレットを装備した白銀の巨人の姿へと

 

ーデュアッ!!!

 

◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆

 

眩い白銀の光が晴れると共に、初子と一郎は目の前の光景に驚愕する

 

学校の窓の外、そこには怪獣の前に立ち塞がる白銀の巨人が屹立していたのだ

 

その左腕には銀のガントレットが装着され、プロテクターに覆われた胸の中央には青く輝くクリスタルが輝いていた

 

「勇人……くん…?」

「なんなのよこれ……なんの夢なのよ⁉︎」

 

白銀の巨人ー勇人は自分の手や体を見下ろし、巨人と一体化していることに気づいて驚愕する

 

『え、えぇッ!?オレが巨人になってる!?!?』

 

ー■■■■■■■■■■■!!!

 

驚愕する勇人を待たず、怪獣ーメアゴーント・プリミティブ体は突進してくる

 

『おおお!?!?』

 

たまらず両手を広げてその突進を受け止める

ジリジリと後退していくが、なんとかすんでのところで踏みとどまる

 

『このォォォォォォォォォ!!!』

 

ー■■■■■■■■■!?!?

 

今度はノーデンスがプリミティブ体を押し返し、そのままひっくり返す

 

ワニのような体型のプリミティブ体はひっくり返った体勢から立ち上がれず、体をバタつかせる

 

『どうだ、参ったか⁉︎』

 

と、プリミティブ体が急に動きをピタリ、と止める

 

 

【ないとめあ あぶそーぷしょん こんぷりーと】

 

 

ーめきめきっ

 

何やら生々しい音と共にプリミティブ体の下顎が持ち上がり、裂けんばかりに開かれていく

 

がちり、と180度開ききり、口の中から白黒の皮膚が持ち上がっていく

 

『な、なんだなんだ!?!?』

 

膨らんだ卵膜のような皮膚が限界を迎え、裂け開く

 

ーキィヤァァァァァァァァ!!!!

 

そこから現れたのは新たな姿に生まれ変わったメアゴーントだった

 

恐竜のような体に背中から翼のように弓が2本生え、その頭部はクロスボウをそのまま頭としてすげたような歪な形をしていた

 

『な、形が変わりやがった⁉︎』

 

ーキィヤァァァァァァァァァァァァ!!!!

 

新たな姿になったメアゴーント・クーピードは女性の悲鳴のような耳障りな声で泣き叫び、その頭部をこちらに向けて突き出す

 

がこん、とその頭部のクロスボウに弾丸が装填され、放たれる

 

突然の飛び道具を避けきれず、巨人の胸部に直撃して爆発、その巨体を後退させる

 

ーデュアァァッ!?

『ぐあっ!?』

 

なんとか踏ん張り、構え直そうとする巨人に次々と放たれた弾丸が直撃し爆発していく

 

ーデュアァァッ……‼︎

 

よろめき、巨人が膝をつく

 

ーキィヤァァァァァァァァァァァァ!!!

 

クーピードの咆哮が響く

その咆哮を通じて勇人の脳内に新たなビジョンが流れ込んできた

 

 

【陽くん……大好きだったのに…わかってたけど……】

【私なんてやっぱり不釣り合いで……】

【辛い、辛い、辛い】

【私、やっぱりダメなのかな……】

 

 

それは、天使(あまつか) (まな)の心の叫び、負の感情の奔流だった

 

『大好きだったのに……って、失恋ってことか…⁉︎』

 

巨人が後方の校舎に目を向ける

 

眠ったままの愛、その側で心配そうにこちらを見上げる初子と一郎

 

『今、ここで初子や一郎を守れるのは……あの子たちのヒーローになれるのは……』

 

巨人が、勇人が拳を握る

 

『ーオレしか、いないだろ!!!』

ーデュアァァッ!!

 

気合い一喝立ち上がり、クーピードに向かって駆け出す

 

ーキィヤァァァァァァァァァァァァ!!!

 

クーピードは頭部のクロスボウから弾丸を乱射するが、巨人はそれを手刀で撃ち落とし、ながら突き進んでいく

 

とうとうクーピードまで到達し、その体に掴みかかる

 

ーキィヤァァァァァァァァ!!!

 

クーピードはジタバタともがくが、それをいなしながら拳を突き立てていく

 

その胴体に蹴りを撃ち込み、クーピードを大きく後退させる

 

『辛かったよな、こんだけの怪獣になっちまうほどの悪夢だもんな』

 

『オレは、恋愛とかよくわからないけど、その悪夢はここで終わらせてやれる!!』

 

 

『それが、今オレができる一善だ!!!』

 

 

巨人の中、インナースペースでノーデンストライデントをもう一度タップする

 

《マキシマム》

 

左腕のガントレットを突き上げる

眩いばかりの光がガントレットへと集結し、その腕を下げながら右腕とL字に組む

 

『シルバリウムシュートォォォ!!!』

 

組んだ腕から白銀の光線が放たれる

 

クーピードに光線が直撃し、その体に膨大なダメージを与える

 

限界を迎えたクーピードの体が銀色の宝石のように固まり、バラバラに砕け散っていった

 

 

『……勝った…のか…?』

 

巨人の中で肩で息をする勇人

その手にしたノーデンストライデントを見下ろし、脳内に響いてきた名前を口にする

 

『ノーデンス……それが、あんたの名前なのか…?』

 

 

佇む白銀の巨人ーウルトラマンノーデンスをビルの屋上から見上げる人影が2つ

 

『ぬおお……‼︎ せっかく育ったメアゴーントが……ッ‼︎』

 

ローブの人物が頭を抱えて身を震わせる

それを隣にいたパーカーを白舟学園の制服の上から着た人物が見てきしし、と笑う

 

『残念だったなぁ、結構早めにデカくなって面白そうなヤツだったんだがなぁ〜』

 

カシュッと缶コーラの封を開け、パーカーの人物が缶を傾ける

 

『……メツ、アナタも動いたらどうなのです?』

『嫌だね。俺が動くのは俺の動きたい時だけだよ』

 

フードから覗く口元からベーと舌を出すパーカーの人物ーメツ

 

『とか言っといて、アクムには悪いが次は俺が動いてやるよ』

『ほう?なんの風の吹き回しですか?』

 

ローブーアクムの問いにメツはきしし、と笑って答える

 

『なぁに、ヒーローになりたいとかいうオコチャマに、ちとイタズラしてやるだけだよ』




オレが、ヒーローになっちまった⁉︎

いつもの夢世界の街にも変なヤツが出たり大変だけど
ついにオレもヒーローだ!!

って一郎?なんか最近変だけど、どうしたんだ?

次回
「ヒーロー失格」
銀色に輝け!夢のヒーロー!!
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