世界に勝った男   作:ジークフリード

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 臨海学校。

 泊まる旅館は花月荘。一夏と竜木の部屋は女子達から離れ、千冬の部屋の隣。

 

「十万ボルト!」

「ぐああああ!!」

 

 竜木のピカチュウが一夏のカイオーガを打ち破った。

 

「あー、負けた。バッキー、そろそろ海行こうぜ。千冬姉に怒られちまう」

「そうだな。ん?」

 

 不意に竜木が柱に目を向ける。何やら妙な模様が描かれた紙が貼られていた。

 

「変な装飾品だな」

「だな。何処ぞのインチキ霊能師に頼んだんだろ。ただの絵だ、こんなもん」

「詳しいな」

「俺実家が神社だから」

 

 と、竜木は蹴鞠を拾い部屋の隅に置いておく。あんなのあったっけ? まああるからあるのか。

 

 

 

 

「すげぇ、すげえよバッキー!」

「ははは、そうだろう」

 

 竜木は海に入れない代わりにサンドアートを作っていた。西洋の城の上に逆さまのピラミッド。そしてその上に日本の城。後ろにはゴジラとメカゴジラ。

 

「で、イッチーは何作ったの?」

「ふふ、見て驚け!」

「ネオアームストロングサイクロンジェットネオアームストロング砲じゃねえか。再現とたけーなおい」

 

 2人は楽しく遊んでいた。竜木はディテールに拘ると言い出し、一夏は海に向かった。竜木は本当に海に入る気がないらしく、砂を濡らすにもわざわざバケツを持って水道に向かっていたほどだ。

 

「う〜ん、バッキー本当に海に入らないんだな」

「………………」

 

 唯一の男友達が砂浜にいるため、幼馴染の箒を誘ったのだが話しかけても何処か上の空。どうしたのだろう?

 

「………箒?」

「っ! あ、ああ………なんだ?」

「いや、だからバッキーは本当に海に入らないなあって………」

「………本当に仲が良いなお前達は。何時も一緒にいるくせに、ここでも」

「まあ同じ男だし。後専用機持ちだからアリーナの申請さえすれば直ぐに訓練もできるだろ?」

「…………専用機か」

 

 何処か悔しげな声で呟く箒。篠ノ之束の妹と言う以外、特に何の価値もない。ISに造詣を持つ訳でもなければ、剣道大会の優勝者ではあるがISの操縦技術に優れている訳ではない。

 

 彼女が専用機を手にする事は決してない。唯一可能性のあった姉は人形を渡していただけで連絡も取れない。

 人形に関しては実は盗撮カメラが付いてるかもしれないので押し入れの奥に入れてある。

 

 何やら黙り込む箒に首を傾げる一夏。と、その時だった………

 

憎しや

 

「ん?」

 

 妙な声が聞こえたと思ったら、急に影がさす。

 

「一夏!?」

 

 箒が叫ぶ。一夏は、突如発生した高波に飲み込まれた。

 

 

 

 

「ぶは! でっかい波だな、箒………大丈夫か? あれ?」

 

 波にさらわれ、なんとか海面から顔を出す一夏。足がつかないところまで流され、すぐに箒を心配するあたり出来た人間だ。だが、箒の姿は見えない。何なら陸地が見えない。

 

「…………は?」

 

忌々しい、忌々しい

支配者気取りの星外の創造物の末裔か? 珍しくもない

よく嗅げ。濃厚な匂いだ

眷属か?

寵愛を受けている

 

 それは声のようだった。波の音にも聞こえるし、魚が跳ねる音にも聞こえる。

 何時しか一夏の周りには魚群の影。鰯、鰤、鮪、鮫、蛸、烏賊、海蛇………数多の海の生き物達が渦巻いていた。

 

沈めろ

飲み込めめめ!

水底で生きられぬ陸の者、ふやかしてその肉食い違ってやる

 

 魚群が泳ぐ速度を上げた。速さと量が海流を生み出し、巨大な渦となって一夏を飲み込んだ。

 

「──!!」

 

 咄嗟に白式を起動した一夏。宇宙空間でも活動可能なISが、水を押しのけ生命維持の為の酸素を取り出す。

 

妙な鎧だ

知っているぞ、陸の者の新しい鎧だ

空を飛ぶらしい

不愉快だあああ

 

 グン、と負荷がかかる。まるで海そのものが敵意を持ったかのように、海流が変わり…………

 

 

 

 その海には密漁者達が居る。今日も船を出し、勝手に魚を取っていこうとしている。だがその日取れたのは魚ではなかった。いや、魚の形はしていたが………。

 

「み、みろ! これ全部、宝石だぞ!」

「なんだって魚の形してるんだ?」

「関係ねえ! これで俺達も大金持ちだ!!」

 

 大喜びで騒ぐ男達。後日、乗組員の居ない船が発見された。

 食料や服をそのままに、人の姿だけが消えていた。

 

 

 

 

「私の子供達が迷惑をかけたね」

 

 その声は男にも女にも、子供にも老人にも、動物の鳴き声にも機械音声にも聞こえた。

 誰だろう?

 

「名前はないよ。古き者………君達が旧支配者と呼ぶ者達や、彼等に保護された者達よりも古き、火の星を水に沈めた者」

 

 火の星? 旧支配者?

 

「君達は忘れて久しいね。まあ、君の友達の友達と覚えてくれればいい。いや、覚える必要はないよ。忘れさせるから。でも、面白いものを持っている」

 

 紅葉のような赤子の手にも、老人のようなシワクチャの手にも、何なら蛸や烏賊の触手にも見える手で白式を撫でる。

 

「帰巣本能かな? 君達は外より訪れ支配者を名乗った彼等が創った者達の末裔だからね。でも、おすすめはしないよ。水底を持ち上げ作られた領域に住まう君達では、(そら)はあまりに広すぎる」

 

 宙? そう言えば、ISって元々は宇宙活動用に作られたんだっけ?

 

「なるほどね。だから星の外でも活動出来るのか。でも、活動出来るだけなら(そら)に住まう者達の餌にしかならない」

 

 一応戦闘能力もあるけど。

 

「足りないね……おっと、彼が怒っている」

 

 彼………?

 

「君の友達。星の外、星海の果ての果ての、更に外の外………彼等よりも遠い場所から来た、産声と共に星々を産み微睡みと共に星海を搔き回し目覚めと共に全てを滅ぼした孤独なる者。この星で彼の名を知る者はいない。あの変わり者も、そこまで遠くを見据えられなかったからね」

 

 孤独………?

 

「誰も彼に並ばない。誰も彼の隣に立てない。君は、()()()()()()()()()だ。神の創作物の末裔に似た、神なき創作物。だからこそ、君達は神を理解しえず、故にこそ恐れず対等にあれる。たった数十年の、瞬きの刹那なれど彼と共にあれるのは君達姉弟だけだ。よろしく頼むよ。私は彼に謝って私の子達を返してもらってくる」

 

 

 

 

 

「あれ………」

「起きたか………」

「千冬姉?」

 

 一夏が目を覚ますと旅館の天井が見えた。布団の直ぐ側に座っていた千冬は安堵したように息を吐く。

 

「情けない、たかが波に攫われただけで溺れるとは。竜木に礼を言っておけ」

「…………溺れてた?」

「記憶にないのか? まあ、そういうこともあると聞く。礼は明日にして、今日はこのまま休め」

 

 と、頭を撫でる千冬。こういうのは、懐かしいな。

 

「………千冬姉は、バッキーが怖いか?」

「なんだ、突然?」

 

 本当に、突然だと自分でも思う。だが聞いておきたかった。

 

「………正直怪しむ要素はいくらでもある。が、周りの怯えようは少し過剰だとは思う」

「そっか」




最も古き者
神話に名前も存在も言及されなかった星の誕生と共におり、本来は陸地の無い星の影にしてそのもの。一夏の友達の友達らしい。


最も古き者の子供達
陸に上がることの出来ぬ者達であり、海棲哺乳類を抜いた海の生き物達。
宝石にされたがなんとか戻った。密漁者? 地上で勝手に定めたとはいえ定められたルールを守らない者に慈悲はなし。
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