怪力残念美少女とアホ(天才)美少女発明家に挟まれた男の話 作:不知火勇翔
この大陸の歴史は、ほとんどが争いでできている。
特異な粒子が各地で噴き出す肥沃な土地。特異な粒子を体内に内包する神秘的な獣。幻想的な大地に紛れ込んだ人類もまた、多くが特異な粒子を宿していた。
ある人は発火能力。またある人は事象の置換などなど。人類の科学では説明がつかないような『力』を手に入れた人類はやがて、神獣と崇めていた獣にすら手を伸ばし始め、そして神獣との戦争が勃発した。
神獣と関わったことで、神獣と交配する人々がちらほらと出始めた。彼らの子は神獣の『力』を受け継いだ特異な人類として列国から重用され、やがて英雄の時代が訪れた。
その英雄の時代の幕を引いたのが、大帝国初代皇帝の男。神話と大差ない大帝国の栄華は長らく続いたが、やがて滅亡し、数多の国が誕生して戦国時代に突入した。
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3人が通う予定の学校『春風学園』は英雄の時代に『魔王』と呼ばれた1人の青年の封印を守るために建てられた学校であり、大帝国以後からは列国が協賛して学生(強者)を送る習わしが続いていた。
晴れて列国の仲間入りを果たしたルイン王国にもその習わしが適用され、白羽の矢が立ったのが蓮と灯香と優奈の3人だった。言ったら3人は外交官なワケだが・・・。
「思い知ったか馬鹿野郎」
現皇帝の息子に暴言を吐くなど論外なワケで、ましてや殴るなど正気を疑う蛮行なのだ。なのだが、杉木 蓮というのはそういうことを考えない男なのだった。
ひっくり返って動かない皇帝の息子『雪街 シャハル』。彼は色々と災難な人生を歩んできた。生まれは帝国の辺境。皇帝のワンナイトラブで産まれたシャハルは6歳で暗殺が日常茶飯事な帝都に招かれ、そこで親類が次々と殺されていくのを間近で見ることとなった。大人でもキツい環境に1人取り残された彼はしかし、15まで生き延びることに成功した。皇位継承権を持つ人間がシャハルの上にまだ数人いることが幸いしたのだが、とにかくシャハルは生き残った。生き残ったは良いが皇位継承権が低い彼は親類からも雑に扱われ、粒子能力の特異性から『春風学園』へ送られた。
腐っても皇帝の息子。身分は絶対。シャハルの性格は典型的なお坊ちゃまのまま成長し、彼の溜め込んだ怒りは身分が下の人間へ向けられた。
時刻は夕暮れ時。お坊ちゃまムーヴをカマして街中で部下の無能を糾弾し、殴ろうとしたところで通りがかった蓮に殴られた。それが今の状況だった。
「こ、こんなことしてタダで済むと思っているのか!?」
シャハルの付き人が目を白黒させながら蓮を怒鳴りつける。しかし蓮は無視するとシャハルの胸ぐらを掴み、顔を寄せた。
「で?俺は暴力で解決したくない男なんだがよ、何故女の子を殴る選択に至ったかは教えてもらおうか」
蓮の奇怪な行動。これは別に灯香と優奈の前でカッコつけたかったワケではない。
ルイン王国にいた頃、蓮は何度も死を覚悟するような生活を続けていた。チリチリと精神が磨り減る中で、灯香の明るさだけが蓮の心を守っていた。だからこそ蓮にとって女の子とは太陽であり、言わば目上の存在。男が殴るなど、仕事でもないなら考えられないことなのだ。(まぁでも女の子が街中で殴られるのは、しかも殴る奴が太っちょなら不快に感じる人の方が多いと思う。蓮は人よりちょっと手を出すのが早かっただけ)。
「あ、あの!私が!私が悪かったんです!私が無能なばかりに・・・」
シャハルに糾弾されていた少女『音雪 絆』がオドオドとした様子で会話に割り込んだ。
「その、私が無能すぎて、その、違うくて・・・」
陰キャあるある、喋っている途中で何を言い出したかったか分からなくなる、が発動した。キズナの言葉は尻すぼみに小さくなっていき、何が言いたかったか分からなかった一同は黙り、静寂が降りた。
「理解しただろ?コイツは無能なんだよ!殴って何が悪い!オレの部下だぞ!」
「そうか」
「ブヘッ!」
シャハルが叫ぶと、見下げた目をした蓮がもう一発シャハルの顔面にパンチを叩き込んだ。
「き、貴様!オレの胸ぐらを掴んで殴るなど、戦争をしたいのか!?」
シャハル個人に戦争を起こす権利は無い。あくまで決めるのは皇帝だ。しかもシャハルはほぼ平民の扱いをされる立場のため、皇帝が利用しない限り戦争が起こることはまず無い。しかし強がりも含めて、シャハルは戦争というフレーズを出した。
「オレは皇族だぞ!分かっているのか!?」
「そうだぞ!帝国のお膝元で皇族を殴るなど・・・!」
シャハルの付き人も叫ぶ。すると蓮は堂々とした表情で言い放った。
「俺はな、外交や交渉も含めて全部好きにやって良いって言われてんだよ」
↑言われてません。
「・・・誰だよ。アイツにゴーサイン出したの」
↑出てません。
遠くから見ていた男が、半笑いで呟いた。しかしその声は誰の耳にも届かなかった。
「素晴らしいですわ。皇族の名前に負けないその態度」
パチパチパチ。拍手の音で全員がある一点を注目した。彼らがいる廊下の先、そこには1人の少女が立っていた。
レモンを薄めたようなクリーム色の長髪に緑色の瞳。頭に乗ったベレー帽が特徴的。背は優奈と同じくらい低く、貼り付けたような笑顔を浮かべてクスクスと笑っていた。
彼女を見た優奈は驚愕のあまり表情を失い、突然現れた少女を見つめた。
「はじめまして。杉木 蓮さん、中城 灯香さん。私は帝国の第3王女、『雪街 セスナ』ですわ。以後、お見知り置きを」
帝国の第3王女。彼女もまた暗殺祭りな帝都で生き残った猛者である。
セスナは蓮の近くまで歩み寄ると、静かに、しかし強い口調で言った。
「杉木 蓮さん。シャハルを放してやってはくれないかしら」
女の子に言われては仕方がないと、手を放して離れる蓮。満足げに頷いたセスナはシャハルの隣に座り、子供に言って聞かせるように説教をした。
「シャハル。皇族は何故偉いか分かる?」
「・・・優秀だからです。少なくとも、帝都の人間では政治などできない」
「違うわ。民に認められるからよ。だから時には任せることも必要。全てに口出ししてキズナちゃんを混乱させるのは、アナタの言う優秀な皇族という像も崩れるんじゃないかしら?」
「ですがキズナは、」
「口下手なのは知ってるわ。けど、キズナちゃんも変わろうとしていることは分かってあげて。ね?」
美女が優しくお説教するというシチュエーションに、シャハルは負けた。
「・・・分かりましたよ。実際アナタは優秀だ。アナタの言葉を信じます」
「うむ。よろしい」
セスナは立ち上がると、蓮を見た。
「ごめんなさい。身内が色々と揉めたみたいで。女の子を殴るのはイケないわよね」
スタスタと蓮に歩み寄るセスナ。そこに優奈が割って入った。
「『雪街 セスナ』さん、でしたっけ。それ以上蓮さんには近づかないでくれますか?」
セスナは優奈の動きを笑った。
「あら。こんな距離では話せないわ」
「知りませんよ」
「そんなに警戒しなくとも、とって食ったりはしないわよ」
「・・・・・・」
睨む優奈。諦めたセスナは距離を詰めず、聞いた。
「・・・ねぇ。私はアナタの名前を知らないのだけど、名前を教えてくれるかしら」
「・・・『辻 優奈』です」
「へぇ。辻、聞いたことが無いわね。辻 優奈。覚えておくわ」
「・・・・・・」
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蓮達3人と別れた後。シャハル達とも別れ、とある地下通路でセスナは黒ずくめの男と話し込んでいた。
「彼が例の・・・」
「そうですわ。ちゃんと成長しているようでしたし、計画を実行に移しますわよ」
「『中城灯香の暗殺』。これで世界が変わるというのなら、我々は喜んで身を捧げましょう。『魔王』様のために」
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その日の夜。優奈から送られてきた日誌に『お宅の息子さん、皇帝の息子を殴りましたよwwwww』というコメントとともに殴る蓮の画像を見た臥煙は、脳卒中を起こしたとか起こさなかったとか。