俺たちの元に走ってきたシイナのマネージャーの息はかなり乱れている、その様子を見ても何かあったというのは一目瞭然であった
「何かあったんですか?」
「し、シイナを……見ませんでしたか?」
「見てませんけど、もしかして彼女の身に何か──」
「いないんです」
いない? いないってどういう事だ?
「彼女が、部屋にいないんですッ!」
それは、俺に……いや、俺たちにとって衝撃的な事実だ。本番の当日になって彼女が部屋から姿を消した、昨日の彼女の発言を考えるに本番直前でいなくなるなんてことは考えられない気がするがそれはあくまでも俺にとっての主観に過ぎない
「……どこかで不安を紛らわしているのではないですか?」
「彼女はどちらかと言うと本番直前まで控室や部屋でじっとしているタイプなんです、急にどこかにいなくなるなんて……」
「とりあえず、そこら辺は置いといて。マネージャーさん、彼女が何処に行ったのかとかわかりますか?」
とりあえず、今考えるべきはどうしていなくなったかじゃなくて何処に行ってしまったのかだと思う。誘拐されたのか、それとも自分の意思でいなくなったのかは彼女の事を見つければ理由は分かる。それよりも今怖いのは居なくなった彼女の身に何かが起こる事だ
「流石に何処に行ったのかは私も」
「それじゃあ、本番前のルーティーンとかないんですか?」
「そう言われても……」
「門原くん、私たちは彼女の泊まっていた部屋を見に行きます」
「わかりました」
フタバ先輩はそう言うと同行していた隊員を二人連れてシイナの泊まっていた部屋まで向かった。何処でいなくなったのかはわからないが正直部屋にも手がかりが無かったら完全に手詰まりだ……というかあんな脅迫状を出しておいて一番注目を集める場所で攫わないのは流石に我慢できなさすぎるだろ、今回の犯人
「あの」
「何ですか?」
「電話……なってますよ?」
マネージャーさんの言葉で俺も自分のガンデフォンがなっていることに気付いた。画面を確認すると八乙女からの電話
「八乙女か、どうした?」
『良かった、少し気になる事があったんで電話したんですけど繋がりました』
「気になる事?」
『はい、SNS使ってSI-NAさんの熱狂的なファンを探してたんですけど少しだけ毛色の違うものがあったんそれが気になって』
少しだけ毛色が違うって、どういうことだ……とりあえずこっちの目でも見ておいた方がいいか
「とりあえず、そのアカウントこっちでも確認したいから送ってもらっていいか?」
『わかりました、すぐ送ります』
電話が切られた後、すぐに八乙女から話題に上がったアカウントが送られてくる……それを確認すると確かに少し違うというか、なんというかかなりポエミーな感じだ
「これは……何というか」
「随分と痛い感じのファンですね」
履歴を遡ってみると風景写真&ポエミーな言葉を綴った投稿にSI-NAに関連した投稿が交互にされている。その内容はどれも独創的と言うか……何とも言えない、傍から見たら完全に意味の分からない文章の羅列みたいになってる
「……あれ、この場所」
「どうかしたんですか?」
「さっきの、少しだけ戻ってもらっていいですか?」
「わかりました」
マネージャーさんの言葉に従って遡っていた投稿を少しだけ戻る
「あぁ、そこです。ストップ」
「えっ、はい」
大体今から1か月ほど前の投稿で止めてくれと言ったマネージャーさんは自分のガンデフォンを取り出して何かを確認すると、俺の方に画面を見せてくる
「これ、見てください」
「アングル違うけど、同じっぽいですね」
マネージャーさんの見せてくれた画像と、このポエミー投稿者の上げている画像はアングルこそ違えど同じ場所……マネージャーさんの見せた場所を特定して写真を撮ったと言うことになるのだろう
「よく見るとこれ、何処もかしこも私たちの知ってる場所だ……ブログに載せてたり、公式サイトに上がっている場所ばかり」
その言葉を聞いた限り、只のポエミーな投稿の数々もビックリするくらい不気味なものに見えてくる。写真から場所を特定すること自体は出来るのだろうがそれを抜きしても同じ場所、同じアングルで写真を撮るという行為……それにこの不気味なポエム
それだけなら良いが、アカウントの持ち主はそれを絶えず行っている……ここまで来ると恋慕とかの領域ではなくもはや執着とかそこら辺に到達してるんだろう
「……絶えずこんな投稿をしてるって事は──」
最も新しいツイートに戻ると、昨日の夜、場所は俺はシイナと話したファミリーレストラン……あの場所で話したことは公式サイトは愚かブログにすら載せる筈のない情報、それを突き止めていたって事は、あの近くに契約者はいた
──今回の一件は、そこまで考えが至らなかった俺のミスだ
こうして考えていても埒が明かない……もしかしたらゆっくりと待っていればいずれされる投稿で場所の特定自体は出来るのかも知れない。けれどそれを待っている余裕はない、悠長に待った結果何があるかわからない以上、片っ端から探しに行くしかない
結局、彼女の泊まっていた部屋から明確な手がかりを見つけることが出来なかった。それどころか荒らされた形跡もないいじょう部屋の中よりも部屋の外、ホテルの外でいなくなっている可能性が高い……せめてアニメとかスパイ映画でもあるサポートガジェットでもあれば違うんだろうがない以上頭で考えるしかない
どこに行ったのかわからない以上、俺たちがずっとホテルの前にいたら不審がられてしまう。ひとまず会場の控室まで戻ったわけなのだが……
「一体、どうすれば……」
「可能性が高いのはスタッフの中に犯人がいる……それは貴方も犯人の可能性が高い……という事です」
「それは、そうですよね」
マネージャーも犯人の可能性も高い、けれど今回ばっかりはそれは違う気がする……というよりも犯人がこんな事をするのか、その思い込みが足を踏み外す原因になるのかも知れないがそれでもいい。リハーサルの時間までに彼女を見つけるのが最優先事項
「もし犯人がスタッフさんだったら、案外安直な所にいたりするかもしれませんね」
「安直な所とは、どういうことですか?」
ふと呟いた八乙女の言葉に疑問を抱いたであろうフタバ先輩がそう訊き返すと、八乙女の方は少しだけあたふたしたような態度を見せた後に話始める
「えっと、ほら。推理小説とか基本的にミステリーを難しくしがちじゃないですか。でも普通の人ってそこまで頭回らないんですよ……多分」
「そこは自信を持った方が……」
「自信とか持てませんよ、ともかく普通の人ってそこまで頭回らないと思うんでわかりやすい場所にいるんじゃないかなと」
そうなったら随分と拍車抜け以外の何物でもない……けれど引っかかる所はかなり多い
──昨日襲い掛かったのはSI-NAを攫うためじゃなかった?
八乙女の考察を紐づけるなら可能性として高いのは会場の一角を潰すため……そして、監禁場所を作り出すため?
「八乙女、悪魔はどのタイミングで襲ってきたんだっけか?」
「えっと、飲み物を買いに行ったとき急に……」
「どこから来たとか覚えてるか?」
「それが、音もなく急に」
音もなく急にって事は、やっぱり内部の犯行であるのには間違いない、それにあの戦いで色々な場所に被害が及んでる……具体的に言うと最後の攻防やらなにやらで廊下はボロボロ。立ち入り禁止状態になっている──
「──そうか、案外拍車抜けの場所ってそう言うことか」
「何か分かったんですか?」
「多分ですけど……はい。とりあえず行きましょう、化物は俺が何とかします」
そして俺たちが向かったのは昨日俺が悪魔と戦った場所、少し足場が悪くなっている所を進んでいくと一室だけあまり傷のついていない扉があった。鍵がかかっているその部屋ではあるがそれに構ってる余裕はない、ガンデフォンを使って扉の金具を破壊して扉を蹴破る
「な、何だッ!?」
「……ホントに、拍車抜けもいいところか」
「あの人が、犯人ですか?」
「見たいんだな」
扉の先にいたのはタオルで口を塞がれているシイナと手にスタンプを持った一人のスタッフの姿、拍車抜けする結末ではあったシイナが見つかったのならやるべきことは一つだけ
「お、お前ら……一体なんで……」
「理由を話すのは後だ、まずはスタンプを渡して自首してくれ」
「い、嫌だッ! せっかくここまで来たのに……こんなところでッ!」
『イーグル』
目の前にいる男はスタンプを押し付けると、俺たちの目の前に先日戦った鳥男が姿を現す……けれど、契約者の男はそこで止まらなかった。男が悪魔を呼びだしてすぐにもう一度自分の身体にスタンプを押し付けた
悪魔はその姿を無数の契約書へと変え、契約者の身体に纏わりついていった。纏わりつかれたそばから黒煙を放ち、姿を人間と鳥類の骨格を雑に組み合わせたような意匠と刺々しい鱗で覆われた爬虫類のような怪物へと変える
「な、何ですかアレ……」
「I型……イレギュラータイプの悪魔だ、正直かなり面倒なタイプ。ひとまず三人はシイナを……俺はあの悪魔を何とかする」
襲い掛かろうとした悪魔に対してガンデフォンの銃撃でこちらに意識を向ける。あの両手になってる剣みたいなのに加えて鳥の特徴まで加わってるとなると、流石に厄介以外の何物でもないな
「門原さんッ!」
「アンタたちは今やるべきことを! こいつは絶対に近づけさせないから……それにシイナ、契約の内容忘れんなよ」
それだけ言い残して、俺は目の前にいる悪魔を引き付けたまま、会場の外に出る……向かう場所はここから割と離れたところにある森の中、正直広い所で戦いたくないって気持ちもあるが背に腹かえてらんねぇ
【デモンズドライバー】
「契約遂行の時間だ」
『スパイダー』
【Deal】
「変身ッ!」
【Decide up】
【Deep】〘深く〙
【Drop】〘落ちる〙
【Danger】〘危機〙
『仮面ライダーデモンズ』
デモンズの姿へと変身した俺はまっすぐ飛んでくる悪魔に対して蹴りを入れて地面へと叩き落す。飛ばれると厄介でしかないからこのまま飛ばれる前にささっと倒す、悪魔の振るってくる剣を避け、掴み、相手に拳を叩き込む
「……体表が固すぎてまともにダメージが入らねぇ」
『ジャマヲ……スルナァァァァッ! 』
「それを言われて邪魔をしねぇのは無理だよッ!」
拳でダメなら至近距離でガンデフォンをぶっ放す。それでも体表を少しだけ削った程度、致命傷にはならない……そしてこっちはこっちで至近距離で動いたのがまずかったのか鉄のように硬化した羽根の弾丸が俺に向けて放たれる
「ぐっ──あぁぁぁッ!?」
想像以上のダメージを受けて思わず膝をつく。硬度だけで見ても昨日の攻撃の非じゃない──本当に厄介以外何物でもない
「マズいな……このままじゃジリ貧だ」
相手方もこっちの攻撃がろくに通らない事は察したのだろう……というかパッと見た感じでも悪魔側に呑まれてて契約者の意識は喪失している可能性がありそうなのが厄介だ、やっぱ狩谷に頼んでた数は増やしておいて貰うべきだったか
「ぐぅぅッ!」
こっちのそんな考えを見透かしたように、悪魔は加減の無い攻撃を続ける、あと一撃喰らったらヤバい──と言ったところで悪魔に向かって銃撃が飛ぶ
「門原くん! 大丈夫ッ!」
「狩谷、どうしてここに……」
「門原くんのガンデフォンの位置情報を辿って、新しい手札、届けに来たよ」
そう言いながら狩谷の渡してきたのは深い青色の銃、どうやら先端がスタンプのようになっておりそこには悪魔の顔のようなレリーフが彫られている
「これって、銃?」
「なんとか仕上げてきたよ、オーインバスター50!」
「何故50?」
「何となく、使い方は……説明してる時間はないか」
「みたいだな……でも、有り難く使わせて貰う」
立ち上がった悪魔に向けてオーインバスターの引き金を引く、放たれた光弾は敵の身体に当たり火花を散らす……威力も問題はなし、相手の体表を十分削れる
「反転させると斧としても使えるよ!」
「了解」
斧にしたオーインバスターを使って相手の悪魔に斬撃を放つ、体表が破壊されると共に地った火花を見ながら斬撃を続ける。先程の劣勢から一転、こっちの攻撃が通るようになったなら十分決めに行ける
「銃口になってるスタンプを外して、武器に着いてる台座に押印して!」
「わかった!」
【スタンプバイ!】
斧の刃の部分に集中するエネルギーを見ながらスタンプを銃口に戻し、引き金を引く
【オーイングスラッシュッ!】
深い青色の斬撃を放ち悪魔を思い切り後退させる、一撃で貫いて……決める
【スタンプバイ!】
今度はスパイダースタンプを台座に押印し、斧から銃に持ちかえる。何をしようとしているのか気付いたであろう悪魔は翼から羽根を打ち出してくるが、その狙いは今までに比べると散漫
【必殺承認!】
鋼鉄の羽根がこっちに放たれ、火花を散らすが問題はない。エネルギーのチャージが完了したことを確認し──引き金を引く
【スパイダー! スタンピングストライク!】
銃口から放たれた一撃は眼前に存在する悪魔を貫き、爆発を引き起こした……爆発の中から出てきた契約者を回収し、変身を解除する
「良かった、完全に同化はしなかったか」
今回はかなり疲れたがひとまずは報告をしない事には始まらないだろう
今回の顛末
あの後、俺たちは契約者をD.D.C.Uへと引き渡しライブ会場に戻った。今回の被害者であるシイナも最初は同様していたものの俺との契約はしっかりと守ってくれたらしくライブは大盛況のうちに幕を閉じた
「お疲れ、大変だったみたいだな」
「……ん、そっちも大変だったみたい」
終わった直後にシイナと一言だけ、そう声をかけたがまぁそれに関しては置いておくとして、無事今回も依頼を達成できた。そこからは諸々の後処理で大変だったこともありシイナ本人と話す機会もなかったが、まぁ機会があればそのうち会うこともあるだろう
何はともあれ、今回の依頼は無事終了──ただ一点、気になる事は俺が見たあの男は何だったのか、あの違和感が何だったのか、それを突き止められなかったこと。その違和感がどこで解消されるのか……この時の俺には、何もわからなかった
少し駆け足気味になりましたが、今回の話はここまで
今回も用語解説があります
-用語解説-
・I型悪魔
門原ヒロトたち、悪魔関係の事件に関わる人物たちからは”イレギュラータイプ”と呼ばれるタイプの悪魔
基本的には悪魔と契約した人物が更に契約をする、又は特殊な要因で悪魔が変質した場合にのみ出現する
悪魔としての姿は原典におけるギフテリアン
C型と契約した上で追加契約をした悪魔は、ギフテリアン+スタンプのレリーフとなってる動物の特徴が追加される