先程まで整理中だった書類の束を纏めて所長席の机の上に纏めた俺たち狩谷相談所の面々は新たに事務所にやってきた依頼人の対応をしていた。今回はかなり珍しい依頼人で男女一組……見たところカップルのようだ
「花菱タクトさん、それに音無アスカさん。お二人は恋人同士ですか?」
「はい、近々式を挙げる予定で……けど、その時になってポストにこれが──」
そう言って花菱タクトという男性が見せてきたのはかなり汚い字で書かれた紙の束、そこには例外なく”自分だけ幸せになるなんて許さない”と書かれていた
「うわぁ、酷いですね……これ」
「……これは一体誰が?」
「それが……わからないんです」
「わからないって、どういうことですか?」
「それは私からお話しさせてください」
花菱さんに代わって事の経緯を話し始めたのは彼の恋人である音無さん。彼女が言う所にはこの手紙が入れられるようになったのは今から二か月前、入れられている時間は決まって朝方
「多分ストーカーだとは思うんですけど……」
「ストーカーならウチじゃなくて警察に行った方が……」
「警察に行きましたけど、被害が出ていない以上動くことが出来ないって言われて」
この感じだと警察には門前払いを喰らったって感じなのか、それなら藁にもすがる思いでウチに来たのも何となくわかる……とりあえず今は依頼内容の確認に移るか
「それで依頼内容はこの手紙の送り主……ストーカーの特定って事で良いんですか?」
「はい、出来ればこんな事をやめるように言っていただけると助かるのですが──」
「流石にそこまでは、我々に出来るのはあくまでストーカーを見つけるまで……そこから先は警察の仕事ですから」
この手のストーカー事件ってのはこっちにも依頼回ってきてそれに対処したことも一度や二度ではないんだが、当たる依頼が悪いのかいっつもストーカーが重すぎる愛を暴走させがちなんだよな、普通の人間相手じゃドライバーは使えないからガンデフォンが限界だし、それも迂闊に撃つことはできないし……おかげで何度刺されかけた事か
「とにかく、よろしくお願いします! この時期に……こんなことが起こるんなんて」
花菱さんの言った言葉、あまり変なことは言っていない筈なのにそこには何か別のニュアンスが含まれているように感じた
そして依頼人の二人とわかれていざストーカー探しをすることになった我々なのだが、流石にあの手紙一枚で特定をするのは難易度高すぎないか?
「先輩、どうしましょう……ストーカーなんて簡単に見つかりませんよねぇ」
「見つからないだろうな、一番堅実なのは依頼人の家の前で張り込む事だが……」
「一応まだ別々に住んでるんですよね、あの人たち……張り込みも別々は面倒ですよねぇ」
「……なんか八乙女、いつになくテンション低すぎないか? というか仕事に対するモチベーション低すぎないか?」
「いやー、別にやる気がないとかじゃないんですよ? ただあの花菱って人モデルの仕事やってた時に言い寄ってきた人と似た雰囲気があって」
そういやすっかり忘れていたが八乙女って一応モデルやってるから芸能人の部類ではあるんだよな、というかモデルの仕事してた時に言い寄ってきた男と似てるからやる気が出ないは流石に花菱さんに失礼すぎるだろ
「まぁいいや、とりあえず聞き込みだな……行こう八乙女」
「わかりました、最初は何処でしたっけ?」
「とりあえず二人の職場からだな、そんじゃ────危ねぇッ!?」
「へっ? きゃっ──ッ!?」
言葉を続けようとしたところで無数の針が俺たちの方に向かって飛んできた。何とか八乙女を抱えて避けることは出来た……でもさっきの攻撃、何か違和感があった気がする。なんて考えていると俺たちの目の前に現れたのはヤマアラシ……いや、ハリネズミか
「な、なんで急に襲ってきたんですか!? 私何もしてませんよ!?」
「んなことわかってる……とりあえず、隠れてろ」
とりあえず周りに全然人通りが無くて助かった。人目を気にしないで思う存分戦う事が出来る
「よし、それじゃあ行くか」
『スパイダー』
【Deal】
スタンプ台にバイスタンプを一度押印し、今度は液晶に押印しようとした瞬間。目の前にいるハリネズミの悪魔がゆっくりと口を動かし始める
『……ォ、ネガィ』
「えっ?」
『……ォ、ネガィ、ァノ……コ……────ッ!! 』
言葉を紡いだのはそこまでで、目の前にいる悪魔は理性を失ったかのようにこちらに向けて針を飛ばしてくる。さっきの言葉が頭から離れきっていなかった俺の袖を針が僅かに掠る
『おい、油断をするな』
「わかってるよ──変身ッ!」
【Decide up】
デモンズへと変身した俺は横のホルダーに収納されていたオーインバスターのスタンプを地面に押印しながらハリネズミの悪魔へ向かって走り出す。押印された場所から出現したオーインバスターは自然と俺の右手に収まる。そのまま持つ武器を反転させて斧形態にするとまずは一撃……目の前の悪魔に叩き込む
『ァア──ッ!? 』
敵にダメージを与えるたびに漏れ出る苦悶の声に少しだけ戦意をそがれつつも攻撃を続けていく。正直引っかかる所はあるものの暴走してる悪魔はここで──
『……アㇲ……カ──』
「今、何て────」
確かに目の前の悪魔は、アスカって口にした……どういう事だ、コイツもI型なのか? いや……でも、見た目は完全にC型……一体何が──
『坊主ッ!』
「──やっぺッ!?」
ベイルの声で無理矢理現実に引き戻された俺は何とかその場で体勢を整え直して目の前の悪魔と向き合い直す……だめだ、さっきから余計な思考が邪魔をしまくって戦いに集中出来てない
「今は戦いに集中しろ──目の前の悪魔を何とかしねぇと」
『ア……アァアァァアァ────ッ!! 』
先程とは非にならない程錯乱した悪魔は俺の方に向けて大量の針を飛ばしてくる。直線だから避けることも出来るがそうなったら隠れてる八乙女に被害が行くかも知れない──それなら、迎え撃つ
【スタンプバイ!】
【Charge】
【デモンズフィニッシュ】
デモンズの必殺技に使うエネルギーを全て糸の生成に使ってネットのような形状で蜘蛛の糸を展開する。人間サイズの大きさであるため撃ちだされる針もかなりの大きさがある、升目をある程度小さくすれば受け止めることも出来る──そして受け止めた糸を
【オーイングスラッシュッ!】
斧形態にしたオーインバスターから放たれるエネルギーの斬撃で粉々に砕いた。糸の残骸と粉砕した針が光の粒子になって消えていく中でさっきまで悪魔のいた方に目を向けるがそこには既に悪魔の姿はなかった
「……逃げられた、けど──」
さっきの悪魔、今までの悪魔とは違った。今までもうめき声を上げたりする悪魔とは戦って来たが……あそこまで明確に──いや、片言ではあったがそこまで人の言葉を話す悪魔とは遭遇したことがない、それにスタンプの力に頼らない出現ならいざ知らず明らかにスタンプを使って暴走している様子もあった
「一体、何がどうなってるんだ」
「先輩! 大丈夫ですか!?」
「あ、あぁ……大丈夫だ、それより八乙女。早く聞き込みに行こう」
「え、でも手当てとか──」
「このくらいかすり傷だ、今は一分一秒が惜しい」
あの悪魔はアスカと口にしていた・それならもしかして今回のストーカー事件と関係があるのかも知れない……それに、俺がここで逃がした所為で他の人に被害が出るのは流石に勘弁願いたいからな
最初に向かうのはウェディングプランナーをしている花菱タクトが現在勤めているという会社、そこに向けて俺たちは歩き出した
今回はここまでになります
タイトルのわりに恋愛要素全然なかったな……すみません