警察署からの帰り道、思わぬ所から発見された繋がりを知った俺たちは何を話すでもなく事務所への道を歩いていた
「……あの、先輩」
「どうした?」
「仮に、仮にですよ。今回の依頼人の恋人が犯人だったとして……どうしてストーカー事件なんて」
「それは俺にもわからない、けれど悪魔の契約者は分かったならやる事は一つだ」
悪魔の契約者が判明したのなら、俺たちに出来ることは一つ──契約者からスタンプを回収する。その為にまずは彼女と話をする所から始めないといけない
「八乙女、明日早速アスカさんに聞きに行こう」
「わかりました」
「そのために、今日は一旦解散にしよう。英気を養うのも重要な仕事だ……俺はこれから事務所に戻って事のあらましを所長に伝えてくるから」
「私も一緒に行った方が──」
「心配はない、所長から受け取りたいものもあるからな」
今回ばっかりは新しいバイスタンプも必要になってくるだろう。この前実験で使ったバイスタンプを狩谷から借りに向かう
八乙女と別れた俺が事務所に戻ってくると、眼鏡をかけた所長がデスクトップパソコンとにらめっこしていた
「戻りましたけど……所長何やってんすか?」
「お疲れ、門原くんこそどうしたの? この時間ならもう帰ってる筈だけど」
「とりあえず契約者候補がわかったからそれの報告……それと必要そうだから新しいスタンプを借りにな」
「新しいスタンプって、どれのこと?」
「とりあえずモグラだけ貸してくれ」
「わかった、スタンプは明日渡すね……それと、もう一つ契約者候補がわかったって言ってたけどどういう事?」
「あぁ、実は──」
そこから俺が所長に対して話をしたことはさっき仕入れてきた情報──花菱ヒロトの元恋人だった女性が現在の恋人、音無アスカの同僚であった事。元恋人が事故にあったタイミングがほぼ同時期であった事……このことから悪魔の契約者は音無アスカであり、彼女がスタンプの使用者であり悪魔の契約者である可能性が一番高い可能性である事
「……そっか」
「そうなんだよなぁ、だから明日話が出来るか聞いてみる」
「わかった、一応こっちからも確認の連絡は入れておくよ」
「頼んだ……それより、狩谷の方は何をやってんだ?」
「あぁ、えーっと…………まぁ、門原くんなら良いか、これ見て」
狩谷が見せてきたのはデスクトップの画面、そこに表示されたのは新しいシステムとバイスタンプのデータ。見た感じデモンズドライバーのアップデート情報みたいにも見えるが違うな、データの名前は──O.V.E.R. DEMONS
「……オーバーデモンズ?」
「うん、門原くんが今まで戦ってきて収集したデモンズのデータを基に新しいシステムを構築してるんだ名前は
「O.V.E.R.って、何なんだそれ?」
俺の疑問に答えるように、狩谷は新しいシステム──O.V.E.R.の説明を始める
「デモンズドライバーって結局の所システムの中枢にいるベイルに依存しちゃってるでしょ?」
「そうだな」
現状のデモンズドライバーはシステムの大部分をベルトの中の悪魔──ベイルに依存している。その分引き出される出力も大きいが結局の所デモンズドライバーからベイルが抜けると変身自体は出来るが出力は大幅にダウンしてしまう……一回で強大な力を発揮することの出来るデモンズだが結局の所、悪魔が居ないと万全な力を出せないのには違いない
「そのためのO.V.E.R.って事か?」
「うん。悪魔の代わりに人間の身体能力を飛躍的に高める強化エンジン……それがO.V.E.R.ってわけ」
「悪魔の代わりにって……人工筋肉みたいなもんか?」
「端的に言うと……そんな感じかな」
あんまよくわかんないから多分の話になるがそのO.V.E.R.っていう強化エンジンを使うことでベイルの力を借りずに今と同等の力を発揮することが可能……という話らしい
「そのじゃあO.V.E.R.をデモンズドライバーに組み込むのか?」
「ううん、一応もう一台デモンズドライバーを作ってる所、基本的なシステムの構築とドライバーそのものは完成しているから後はO.V.E.R.を完成させて組み込むだけ」
思った以上に完成間近だったらしい。そこまで話を聞き終えた俺は一足先に帰宅することとなり……時は翌日まで進む
翌日の朝、俺と八乙女は音無アスカさんと会うために事務所にある喫茶店にやってきた。待ち合わせの時間は現在時刻より少し早かったが店の中に入ると既にアスカさんの姿があった。席に案内してもらおう来てくれた店員に対して待ち合わせである旨を伝えて二人でアスカさんの所までやってきた
「すみません、お待たせしました」
「いえ、私が早く来すぎただけですから……それで、話があるって所長さんから聞きましたけど……」
とりあえず話に上がってるなら話は早いか、いつまでも立っている訳にもいかないので椅子に座ってから話を始める
「とりあえずあまり時間を取らせる訳にはいかないので端的に……音無さん、佐伯ヒロコって人について知ってますか?」
彼女の名前を出した瞬間、音無さんの動きはピタリと止まる
「……訊いたことないですけど、誰なんですか?」
「花菱さんの元恋人です……あの人から何も聞いてないんですか?」
「あの人、昔の事とかあまり話すほうではないので……」
「それじゃあ会社で話に出たりとかなかったんですか? 調べてみたら同じ会社だったみたいですけど」
さっきから音無さんは俺たちと目を合わせようとしていない。それに少し様子が変だ。あからさまに心当たりがあるって雰囲気を醸し出しているがどう話を引き出したものか
「あの……音無さん」
さっきまで黙っていた八乙女が俺の横で話を始めた
「私も……いえ、私の友達もスタンプに手を出したんです」
「急に、何を──」
「ごめんなさい、正直な所。私は音無さんを疑ってます、もしかしたらそうなんじゃないかって……思ってます。それで、もしそれが合ってるなら、スタンプを渡してください……アレは簡単に手を出したら駄目なものなんだってわかったから」
八乙女のその言葉を聞いた音無さんが取り出したのはハリネズミのレリーフが刻まれているスタンプ、確かに俺たちが戦った悪魔の特徴と合致してるバイスタンプで間違いなさそうだ
「やっぱり、貴方が契約者だったんですね」
「……それは違うってハッキリ言えます。だって────そのスタンプ、私には使えませんでしたから」
スタンプが使えなかったって、どういう事だ? そもそものシステムが破損していたから使えなかったのか……いや、見た感じ使用不可って事はなさそうだけど
「どういうことですか?」
「スタンプを使おうとはしたんです……けど、使えませんでした。スタンプの起動自体は出来ても悪魔との契約は出来ませんでした……」
スタンプ自体の使用は出来ても悪魔との契約が出来なかった、そうなってくると考えられるのはそのスタンプを使って別の奴が悪魔と契約しているって事になる
「あの、音無さん……そのスタンプ、どこで手に入れたんですか?」
「彼女のお見舞いに行ったときに……病室で」
と言うことは、悪魔の契約者は音無さんじゃなくて……事故に遭った佐伯さんって事になる。それじゃああの悪魔が発してたのは音無さんに何かを伝えたかったから? それならどうして俺たちを襲ったんだ?
「そう言えば、佐伯ヒロコさんと音無さんって、どういう関係なんですか?」
「…………親友、でした」
「親友?」
「えぇ、彼女とは元々職場の同期で……一緒に仕事をすることも多かったんです。それで自然と仲良くなって……気が付けば一番仲良くなってました」
「じゃあ、もしかして花菱さんと佐伯さんの事も?」
「──えぇ、知ってはいました。けど……まさかヒロコの恋人がタクトだったとは思いませんでしたけど」
──音無さんは佐伯ヒロコと花菱さんが恋人だということを知らなかった。けれど花菱さんの方は佐伯ヒロコから音無さんの事を知っていたとしたら。花菱タクトは何かの目的があって音無さんに近づいた。そして佐伯ヒロコから生まれた悪魔はその事を伝える為に俺たちに襲い掛かった?
「だとしたら、悪魔は──」
──花菱タクトの命を狙う可能性も出てくる。俺の見た悪魔が暴走していて、音無さんを守るために本人の意志とは関係なく過激な行動に出る可能性は高い
「音無さん、花菱さんは今どこに?」
「今日は普通に仕事だったと思います」
「……八乙女、新見さんに連絡取っといてくれ。俺は花菱さんの職場まで行ってくる!」
八乙女にそれだけ言うと俺は喫茶店から出ていく。この場所から花菱さんの職場まではかなり距離がある、走ってる時間がないなら取るべき行動は一つ
『スパイダー』
「変身!」
人目につかない所でデモンズへと変身した俺は、能力を最大限使用し花菱タクトの職場まで向かった
デモンズ能力を使って職場まで向かうと、中からは騒音が聞こえてきている。状況はそれだけじゃない──会社の入口から逃げていく社員の姿を見る辺り、事態はかなり切迫している
「ベイル」
『何の用だ』
「悪魔の場所は何処か教えてくれ」
『……ビルの6階付近だ。それ以上はわからん』
「それだけわかれば上等だ」
会社の六階付近まで糸を飛ばしてガラスをぶち破って社内に入る……そこから物音が聞こえてくる方に進んでいくと、そこには襲い掛かる直前のヘッジホッグデッドマンと腰を抜かしている花菱タクトの姿があった
「やめろッ!」
『────ッ!? 』
「か、仮面ライダー!?」
花菱タクトは驚いているがそんなのに構っている暇はない。近くの壁をぶち抜いて目の前の悪魔ともども外に出ると、そこからは単純な肉弾戦勝負。俺が放った拳を受け悪魔は少し吹き飛ばされたが、すぐに体勢を立て直してこちらに向かって針を飛ばしてきた。何とか避けることは出来たがそれも数発、残りの鮭きれなかった針が俺の身体に接触した瞬間爆発が起こった
「ぐっ──あぁぁッ!」
正直変身が解除されなかったのが不思議なレベルの威力だったが、解除されていないなら問題はない
「なぁ──」
『? 』
「教えてくれ、アンタは何を伝えようとしてるんだ?」
『────』
「頼む、アンタは一体……何が──」
『ァ、アァァァァァ────!! 』
俺の言葉を聞いたヘッジホッグデッドマンは錯乱したように攻撃を仕掛けてくる。言葉が通じないのか……いや、悪魔と契約者である彼女の意識が混濁して自我が消えかかってるのか? どっちにしろ時間がないのに変わりない
「少しの時間でいい、教えてくれッ! アンタの願いを──思いをッ!」
『──ァ、ワ──タシハ──私は、騙されて──た』
「騙されてた?」
『タク──トは、詐欺師だった。私は──騙されて──このままじゃ──アスカも……だか────ら──』
花菱タクトが詐欺師? 目の前の悪魔は……いや、佐伯ヒロコは騙されてた……それで彼女は、アスカさんを助けようとして
『──お願い、アスカを──助けて』
「……わかった。絶対助ける……だからその代わり、アンタの元気な姿を彼女に見せてやってくれ」
その言葉に対して目の前の悪魔は軽く頷くと、再び苦しみ始めこちらに向かって針を放ってきた……けれど、その攻撃はもう受けない
『モグラ』
【Add】
【Decide up】
【モグラゲノミクス】
「俺の全身全霊で……アンタとの契約を遂行するッ!」
右腕に出現したドリルでこちらに向かっていた針を全て弾く
「ベイル、目の前の悪魔と佐伯さんの意識を切り離す方法……あるか?」
『普通に倒せばいいだろう、人間の意識が消えていないなら倒した所で害はない』
「そうか、それじゃあ一撃で決める!」
ベイルからの返答を聞いた俺はデモンズドライバーの両サイドをもう一度押し込む
【More】
【モグラデモンズレクイエム!】
エネルギーのチャージされたドリルで悪魔に向かって斬撃を放つ。その一撃は悪魔に直撃し爆散した
ここからは、今回の事件の顛末だ
悪魔を倒した俺はその後、警察や消防、それにD.D.C.Uに連絡を取って後処理を済ませる。今回の事件で発生した会社側の損害は一応島の管理会社が請け負ってくれるらしく特に問題はないらしい
そして今回の依頼人である花菱タクトはこれまでにもかなりの被害を出していたらしく目を覚ました佐伯ヒロコさんの証言も含めて詐欺罪で逮捕されることとなった、現在の恋人だった音無さんも最初は動揺したようだが時間が経つにつれて落ち着きを取り戻し現在では普通に生活をしているらしい
「なーんか変な気分ですねぇ、契約者側が悪くなくて実は依頼人が悪かったなんて──」
「そう言うこともある……結局のところ、依頼人の事は本人しかわからないからな」
今回の一件は、俺にとってもまだ新入りである八乙女にとっても良い経験になっただろう。そんなことを考えながら俺は目の前にある湯呑の中のお茶を飲みほした
今回は駆け足気味&詰め込み気味になってしまいました
そして、今回の話で出てきた新しい用語については用語まとめに追加しておきます