翌日、カズキに借りてた車を返した俺が事務所にやって来ると何やらげっそりした表情の八乙女と所長の姿が目に入る
「二人とも、大丈夫か?」
「あぁ……うん……なんとか……」
「ヒロト先輩、今まで何してたんですか……」
「えっ? 普通に車借りてたからそれを返しに──」
「それって、わざわざ就業時間中にしないといけない事だったんですか?」
「えっ、いや、それは別に──」
「ですよね!? それなのにわざわざ車を返しに行ったんですね! 可愛い後輩であるこの私と! 所長をほったらかしにして!」
「……なんかテンションおかしくないか?」
「私はいたって正常ですよ!? 正常です? 至ってまともなんです!?」
いや、あからさまにぶっ壊れてるなコレ、もう駄目だ取り返しがつかない程にぶっ壊れちまってる
「……なぁ八乙女」
「なんですか!?」
「仮眠室、使うか?」
その一言を聞いた瞬間、さっきまで暴走特急みたいなテンションであった八乙女の身体がピタッと停止する……と言っても俺一人で許可を出していいのかわからないし所長に許可は取っておく
「所長、仮眠室使っても大丈夫か?」
「……問題ないよ」
「だそうだ」
八乙女は無言のまま仮眠室まで猛ダッシュ、扉を閉めることなくベッドの中にダイブするとそのまま寝息が聞こえてくる……仮眠室のドアを閉めてどうして二人がこうなっているのかを考えると理由の検討はつく
昨日の夜、悪魔を倒した後にストレスを起点とした諸々の原因でぶっ壊れたフタバ先輩は所長と八乙女を伴い十時頃からまさかの調査を強行、一応会社としての権限でどうにかなる範疇ではあったらしくマンションの住人全員から事情聴取の後現状整理、そして終わったのが朝方らしい
「マジでウチが開店休業状態で良かったな」
「……聞こえてるよ」
「おっとすまん、軽率だった。それより所長も寝た方がいいんじゃないか?」
「……そうだね、とりあえずここで少しだけ仮眠を取らせて……それと……机の上に新しいスタンプ……おいて……ある……から……」
それだけ言い残すと所長もソファーの上で寝息を立て始めた、さてと……こうなると俺が普段から使ってるデスク代わりの場所がなくなるわけだが──
「そうだな、今日は所長の席借りるか」
丁度新しいスタンプが机の上に置いてあるとも言ってたし、丁度良いだろうそう思って所長の使ってるデスクまで向かうと小さいケースが一つ置いてあった。鍵もかかってないから中身を見るとそこには確かに新しいスタンプが一つ……このレリーフは
「コングスタンプか……だけど、今回の悪魔で使うか?」
言っちゃなんだが今回の悪魔は弱い部類に入る……偶然出来たんだろうけどわざわざ新しいスタンプを使う必要なない気がする。それこそオウインバスターを作ってくれたおかげで俺も戦いがだいぶ楽になったわけだし
「まぁ、持っとくだけ持っとくか」
にしても、今回の仕事はフタバ先輩がぶっ壊れてるのもあるが相手が幽霊じゃなくて悪魔ならスタンプは回収しないといけない……そうなってくると契約者を探さないといけないわけだがSNSを駆使する八乙女も所長もダウン中……となると俺の取れる方法は一つ
「足を使って契約者を探すしかないか」
流石に寝てる二人がいるのに事務所をそのままにしていくわけにもいかず事務所の鍵を閉めて看板を休業中にする。よし、これでオーケー……それじゃあ早速契約者探しに向かうか、と意気込んで外に出たところで丁度フタバ先輩と鉢合わせた
「フタバ先輩、お疲れ様です」
「あ、あぁ……お疲れ……その、二人は大丈夫か?」
「今はダウンしちゃってます、かなり疲れたみたいなんで」
「そ、そうか……申し訳ないことをしたな」
「そう思ってるなら後で謝ってなんか奢ってあげてください……それより契約者について何か分かりましたか?」
「いや、明確な目撃情報はまだない……正直私の方も、契約者には検討がつかない」
「そうですか」
この手の事件で大体契約者に判明するのは大体被害者の知り合いって感じなんだが……フタバ先輩にも見当がつかなってなっちゃうと本当に全く知らん人が契約者って可能性が高くなっちゃうのがキッツいな
「フタバ先輩、D.D.C.Uのデータベース使わせて貰う事って出来ますか?」
「一応私の権限で使える所なら大丈夫だと思うが」
「それで大丈夫です、多分普通にスマホ使うより悪魔関連の情報は集まると思うんで」
「そうか、それならついてきてくれ。オフィスに向かおう」
「了解」
不アバ先輩に連れられてやってきたのはD.D.C.U本部というか別名高梨警備保障本社、相変わらず何度来てもあんまり慣れないなこの場所は……とそんな感じで会社の中に入りエレベーターまで向かっていると──
「うぉっ!?」
しまった、完全に周りへの注意が散漫になっちゃってた
「すいません、大丈夫ですか」
「あ、あぁ……気にしないでください、大丈夫なんで」
「何をしてるんだ、後輩がすまない。迷惑をかけた」
「い、いえ、とんでもないです」
足を引っかけてしまった用務員さんに謝って改めてフタバ先輩のオフィスまで向かう。エレベーターに乗って地下に移動する……そう言えば少し聞いておきたいことがあったしこの際だから聞いとくか
「そう言えばフタバ先輩、鏑木隊員ってどうなったんですか?」
「鏑木か、彼は現在謹慎中だ」
「謹慎……」
「あぁ、能力は優秀だったんだが今までもたびたび独断専行が問題視されていた……だがこの前の一件で本格的に問題が浮き彫りになってな、ほとぼりが冷めるまで自宅謹慎との処理を上層部が下した」
「それは何とも……」
こういうのを聞いてしまうとうちは個人経営でホントに良かったと感じてしまう。正直俺は独断専行とかしない自信ないし……最も、こういう会社に所属してたら俺が仮面ライダーやってることもないんだろうけど
「ついたぞ、ここが私のオフィス。ノートパソコンからもデータベースにアクセスできるようにしているから使うといい」
「ありがとうございます」
使用許可も貰った事だし早速データベースにアクセス、まず最初に調べるのはフタバ先輩が住んでいるアパート付近の監視カメラ映像。数日起こっているのだからわざわざ昨日の映像を見る必要はない
「先輩、具体的にいつから幽霊騒ぎ起こるようになったか覚えてます?」
「そうだな……確か二週間くらい前だった筈だ」
「了解です」
それなら大体二週間くらい前まで遡るのが良いか、ノートパソコンを操作して監視カメラの映像が保存されているフォルダを開く
とりあえず一番古い映像ファイルを2倍速で再生する──見た感じ不審者っぽそうなの見当たらないな、同じアパートの住人っぽい人たちがゴミ出しに来ている他には奥様方が井戸端会議をしているくらい
その次の映像がいるを確認するが映っている映像はそこまで変わらない……こうなってくると本当にアパートの近くに犯人はいないのか、その後もずっと映像ファイルに目を通しているが全然犯人らしい人物が見えない
「それらしい人たちは見つかったか?」
「いいえ、こっちは全然ですね……先輩は何をやってるんですか?」
「一応過去に恨みを買ってそうな人物の整理をな……しかし、こんな嫌がらせじみた方法を取るような人物は見当たらないな」
そう言っている先輩におそらく過去に捕まえたであろう人物の資料を見せてもらったが確かにいかにも凶悪犯ですって顔の人物ばかりだ……少なくともスタンプ使って幽霊騒動なんて嫌がらせをするような人物はいなさそうだ
「いっその事、別の視点で見てみます? 過去に恨みを買ったじゃなくて普通に同僚の犯行とか」
「考えたくはないがその線でも見てみるしかないか」
出口の見えない迷路に入ってしまったような感覚に襲われているが何にしろ犯人を見つけなければどうしようもない……改めて気合いを入れ直した俺はノートパソコンを使って監視カメラの映像を一から見直し始めた