セントラルタワーを狙ったデッドマンの襲撃とそこに現れたクリスパー・國本キミによる宣戦布告、どうして彼女がそんなことをしたのかわからないがそれはそれとして今俺たちがやらなければならない事は、記念式典を無茶苦茶にするという敵の思惑を阻止することだが――
「――正直、俺達だけでどうこう出来る問題でもないだろ」
「敵が一人……とは限らないもんね」
「デッドマンだけじゃなくてクリスパーが襲ってくるかも知れないもんね」
「デッドマンとクリスパーの二体、それを同時に相手するのはキツくないか?」
「……でも、ベルトは渡さないからね」
「そんなこと言ってる場合じゃなくないか?流石に今回は一人でって訳にはいかないだろ?」
最初にクリスパーと戦った時だって一人で戦ってたら劣勢に追い込まれただろう……まぁだからって俺が加わってどうにかなったわけでもないんだけどそれでもいないよりはマシだった筈だ
「大丈夫だよ、今回の事件だってこうなっちゃったらフタバ先輩たちにも協力してもらうつもり」
「けど、もしI2型が出た場合どうするんだ?流石にこのままって訳には――」
いかない、と伝えようとしたがそれを狩谷は制止する。流石にそのまま伝えてもこのまま話は平行線だろう……最近はこんな話ばっかりだし
「――いや、やっぱやめとく。そん時はそん時か」
「…………」
「大丈夫だって、もう無茶はしない」
「……信じるからね」
少しジト目をしているウチの所長様に対して、少し苦笑いになってしまったが笑顔を返した
翌日、私と八乙女さんの二人は狩谷警備保障にあるフタバ先輩の部屋までやって来ていた。要件はシンプルで昨日の事件の助力を先輩たちから得るため。正直疲れている様子のフタバ先輩に頼るのも少々申し訳ないが、もしもの時は先輩から手を貸してくれそうな会社を紹介して貰えればと考えてやってきた次第だ
「わざわざすいません、忙しいのに」
「気にしなくていい、丁度昨日で仕事は片付いて暇になった所だ……それよりここに来たって事は、昨日の件か?」
「昨日の件って事は、先輩も知ってるんですね」
「あれだけの騒ぎになればな」
やっぱり知っていたかと思いつつ、そうだよねと納得する。あの場所には門原くんと八乙女さん以外にも民間人がいた。その中には当然悪魔災害だからって理由で通報する人もいるし、何よりも悪魔関係の事件は大体関係者の耳には入る訳だし
「それで、今日は協力の打診に来たんだろう?」
「……お見通しですね」
「最近は今までよりも君たちに頼られる機会が多いからな、その分我々も君たちに頼る機会が多いのだが」
そう言うとフタバ先輩は苦笑いを浮かべて私たちの方を見た
「……そう言えば、門原君はいないんだな。今日は」
「先輩は今日は一人で現場を調べに行ってます」
先輩の問いに答えたのは私じゃなくて、一緒に来ていた八乙女さん。基本的には門原くんとバディを組んでいるような扱いになっている彼女だけ、今回に限っては門原くんがもう一度現場を見に行きたいって言ってたから八乙女さんには証言するために一緒に付いてきてもらった
「とりあえず、協力をするのはやぶさかではない……元々式典には警備保障として仕事を請け負っていたからな。悪魔の警戒をすればいいんだろう?」
「はい、お願いできますか?」
「あぁ、警備をする分には構わないが……流石に悪魔探しに手を貸す余裕は我々にもないぞ」
「大丈夫です、悪魔探しが我々がやります」
今回の一件に関しては悪魔……いや、クリスパーから挑戦を受けたのは私たちだ。それならこの事件は私たちで解決しないと……それに、私もしっかり戦えるって所を門原くんに見せておかないとまた無茶するかも知れないし
そんな風に考えていると、フタバ先輩は少し怪訝な表情で私の方を見てくる
「……どうかしました?」
「いや、何でもない。それより八乙女さん、悪魔の情報を聞いてもいいか?もしかしたらウチのデータバンクに似た悪魔の記録が残っているかも知れない」
「わかりました」
そう言うと八乙女さんはフタバ先輩の近くまで行って悪魔の特徴を話し始めた……ホント、最初は依頼人だった筈なのにすっかり成長したな。今じゃもう立派に事務所の一員だし――そろそろ渡しても大丈夫かな
所長と八乙女の二人はフタバ先輩に協力を求める為に会社まで向かい。俺は一人昨日、悪魔が襲い掛かってきた場所に向かっていた。昔の刑事ではないが現場百遍という言葉もある通り何度も向かえば何かしらの手がかりが見つかるかも知れないからな
「っと、やっぱり現場は閉鎖されてるか」
悪魔災害のあった現場は基本的に殺人やら事故やらが起こった時と同じように立ち入り禁止の黄色テープで封鎖されている、もちろん警備員はいるから勝手に入る事が出来ない訳なのだが今回に限っては所長の方から入れるように取り計らって貰っているから問題はない
「さてと、昨日の悪魔は一体どこから出てきた……?」
確か悪魔が最初に出たのは市街地の方向からこっちに来てたはずだ。なのにも関わらずここまでやってきた、そもそも何を狙ってきていたのかもまだわかっていない以上何を考察するにも考察する材料が少なすぎる
「あの悪魔を最初に見たのは、確かこの辺りだったよな」
地面にはヒビが入り、少しだけ動きずらくなっている地面をうまい感じに移動してあの悪魔が立っていた場所までやって来ると、奴の見ていた景色を目に焼き付ける。目の前に広がっているのはセントラルタワーの管理棟があるだけ、こうしてみるとあの悪魔は管理棟を狙ったもんだと思うんだが……
「……なんか引っかかるんだよな」
あの悪魔は”お前、俺の邪魔をするのか”と言った直後に”邪魔するなら消えろ”と言っていた。明らかに意思疎通できるあたりI型であるのには違いなさそうなんだがそうなってくるとあの悪魔……いや、契約者の狙いは一体何なのかという話になる
「あー、駄目だ。わからん」
『行き詰ってるみたいだね』
頭を悩ませていた俺の耳に聞こえてきたのはいつごろかに聞いたあの時の声、その声が聞こえてきた方を振り返ってみるとそこにいたのは蜘蛛の柄が入っている着物を身に纏った一人の少女
「君は……?」
『あぁ、今度は私の事が見えるんだ……少しずつだけど戻って来てるみたいだね』
「今度は見える?戻って来てる?それって一体どういう――」
『ごめんね、今は疑問に答えてる時間はないんだ。今日はただ君の顔を見に来ただけ』
顔を見に来ただけって事は、俺は目の前にいる子と面識があるってことか?いや、でもそれならどこかしらで記憶に残っている筈だ……何処だ、どこで俺はこの子に出会ってる?昔の記憶を掘り返していくとノイズのかかった記憶にぶち当たる
――中学二年の頃……俺は……巻き込まれた――
巻き込まれた?
何に巻き込まれた?
そうだ、中二の頃に俺はこの島にあったデパートの火災に巻き込まれて……そこで煙吸って意識を――
どういう事なのだろう、不思議と自分の記憶に自信を持つことが出来ない。そもそも本当に俺は火災に巻き込まれたのか?あの日どうして俺はデパートなんかに居たんだ?どうして俺は――
『はい、そこまで』
記憶のドツボに陥り始めていた俺の耳に届いたのは目の前にいた少女の声、ハッとして目の前を見るとそこには微笑みを浮かべた少女が立っている。彼女はそんな俺の様子を見た直後に軽く頷いて背を向けて歩き出してしまう
「待ってくれ!君は――」
『一つだけヒントをあげる』
俺の言葉を遮るように少女は口を開くとこちらを向くことなく言葉を続ける
『行き詰ったら、その生物の特徴を見てみると良いよ』
生物の特徴を見る?
『それじゃあね、今度会うときはもっといっぱい話そうね
その言葉を最後に、あの少女は消えた。瞬きをした一瞬で……本来そこに少女がいた筈の痕跡は何もなくなっていた