私と八乙女さんはフタバ先輩から警備に回す人員の割り振りについて聞いていた
「フタバ先輩、この場所なんですけど。警備に回す人員が少ない気がするんですけど」
「そこは主にスタッフが利用する場所だな、そこから少し行った場所……ここだな、この場所が当日参加する要人たちの入場口になるから自然と警備が薄くなるんだ」
フタバ先輩が地図を指でさしながら説明してくれたお陰で合点がいった。確かにスタッフ用の入口と要人たちの入場口なら後者を優先するのは自然なことだ
「じゃあ八乙女さん、私たちは当日スタッフ用入口に重点を置こう」
「わかりました、先輩にも伝えておきます?」
「そうだね、これから合流するつもりだしそれからでも──」
私が言葉を言い切る前にガンデフォンの着信音が鳴り響く。画面を確認すると表示されていたのは門原ヒロトの文字、なんともタイミングが良いというか狙いすましたようにも感じつつ私は電話に出る
「もしもし、門原くん?」
『狩谷! まだフタバ先輩の所か!?』
「う、うん、そうだけど……どうしたの?」
『そうか、まだ居てくれて助かった……早速で悪いんだが、式典会場の地図を見せてくれるように聞いてくれないか?』
「式典会場の地図なら、丁度今見てた所だけど……ホントにどうしたの? 息も切らしてるし」
『詳しいことは後で話すが、確かめたいことがある』
まだ所長たちが双葉先輩の所に居てくれて助かった、これで幾分か体力の消費を抑えられる
「詳しいことは後で話すが、確かめたいことがある」
『確かめたいことって……まぁ良いけど、フタバ先輩。これ見せても大丈夫ですか?』
『こっちはマズいな、警備状況とかも書いてあるし……確か、もう一枚予備を貰ってるからそれを取ってくる』
電話越しに聞こえたフタバ先輩の声と足音、恐らく所長たちの見てた地図には社外秘な情報がいくつか書かれてたんだろう
『フタバ先輩が予備の地図取りにいった、少しは時間も出来たと思うから……話してくれる?』
「あぁ、確かに丁度良いな」
走りながらではあるが少なからず頭の中で情報を纏めることが出来た。後はそれを所長たちに共有するだけだ
「それじゃまず、念頭に置いて欲しいのはこれはあくまでも俺の推測以外の何物でもないってことだ」
『うん、それは了解』
「じゃあ一つ目、今回の事件は犯人が単独犯だと俺達は考えてた」
『そうだね、現に出てきた悪魔も一体だった』
「けど、その前提条件が間違ってた可能性がある」
『間違ってたって、犯人が単独犯じゃなくて複数犯だったって事?』
「あぁ、クリスパーは敵の事をジャッカルって呼んでた。だから俺は犯人の使ってるスタンプがジャッカルであると仮定して考えて……それでその生物の特徴を考えて、ジャッカルの群れはオスメスのペアがリーダーになって形成されるらしい」
まだ確証がある訳じゃない、けどこの可能性を考慮しておけば少なくとも二人同時に襲撃をかけられるって自体は避けることが出来る
『けど、オスとメスのペアが群れを作るって言うのと、式典会場の地図に何の関係があるの?』
「巣穴だよ、契約者が潜んでる巣穴が式典会場の中にあるかも知れない」
『……成る程、だから式典会場の地図が見たいんだね』
「あぁ、もしかしたら巣穴が会場の中に作られてるかもしれない」
あくまで推測以外の何物でもないが、それでも可能性を潰しておくに越したことはない
『すまない、待たせた』
『大丈夫です、門原君。フタバ先輩戻ってきたよ』
所長からそれを言われた後、通話がビデオ通話に切り替わり画面上に地図が映し出される
「これが式典会場の地図か」
『うん、ここが入口で──―』
そこから所長に式典会場がどういう構造になっているのか、当日はどこから参加者や要人が会場に入るのかを聞いていく。聞いた感じだと人員は足りてるし集中すべき箇所の割り振りもしっかりしてる
『……どう? 何か分かった?』
「いや、画面越しで少し見ずらいから何とも言えないが……変な所はないよな」
画面越しだから自然と大さっぱになっちまうが確認しても変な所は特にない。メインホールにスタッフ用の搬入口、要人用の入口に中庭、やっぱ大雑把に見ても変な所はない────
「──あれ?」
『どうかしたの?』
「いや、メインホールから伸びてる通路の先なんだけど……控室ってそこなのか?」
メインホールから舞台裏を通る形で作られている場所に一つだけある部屋、恐らくそこが控室になってるんだろうけどそこは当日誰が使う予定なんだ
『控室ってこの場所? フタバ先輩、ここって当日誰か使うんですか?』
『……その部屋は、誰かが使う予定はなかったはずだ』
「なら、当日はその場所を警戒しといたほうがいいかも知れないな」
未だ犯人が誰かはわかっていないが、それでもこの場所を使う可能性が高いと考えるのが自然だろう
『じゃあ、門原君は当日その控室を見張る?』
「あぁ、そうした方がいいだろうな」
一番敵が潜んでいそうなのは控室なのに違いはい。犯人が複数犯だったとしてもどちらか一方がここに来るのは間違いないだろう。今の俺は変身することは出来ないが、それでも今出来ることを精一杯やるだけだ
そして時は流れて記念式典当日、多くの参加者で賑わっている会場内を所長、八乙女と並んで三人で歩く
「じゃあ、今日は手筈通りによろしくね」
「はい、先輩が控室の見張り、私と狩谷所長で手薄になってる入口の警備ですよね」
所長は兎も角あんまり悪魔やらと戦ったことない八乙女に任せるのは少し怖くはあるが、そこは今更言っても仕方ないだろう。時間も時間だしそろそろ持ち場に行こうかとしたところで
「相談所の皆さん、お疲れ様です」
「あっ、川瀬さん。お疲れ様です」
こちらに声をかけてきた川瀬さんは、少し不安そうな表情を浮かべながら改めて口を開く
「あの……それで、襲撃犯は、見つかりましたか?」
「手がかりは掴んでるんですけど、肝心の犯人はまだ……」
「そうですか……」
所長のその言葉を聞いた川瀬さんは露骨に落胆の表情を浮かべる、この人……依頼に来た時も嘘をついてるって感じたが、今も何か重要なことを隠してる気がする。それは一体なんだ?
「あっ、すみません。私から話しかけたのにそろそろ仕事に戻らないと」
「いえ、犯人は絶対に見つけますから、川瀬さんも仕事に集中してください」
去っていく後ろ姿を見送りながら、改めて所長と八乙女の方に目を向ける
「それじゃあ、私たちも持ち場に行きましょうか」
「そうだね」
「……あぁ、そうだな」
まずは自分の仕事をする、気になる事はそれからだ
少し離れた所から、式典が始まった音がする。出来る限り影になっている部分に身をひそめながら控室に目を向ける。スタッフも会場に集中しているのか人通りはビックリするほどない
「……本当に、これで良いのか?」
静かな空間で、ふと冷静になった瞬間俺の中に現れた微かな違和感、オスメスのペアになっている、これは恐らく間違いないだろう。そうなると襲撃を仕掛けてくる悪魔の数は二体、次に犯人は何処かを巣穴として使用している、これも恐らく間違いはないだろう……だが巣穴が何処にあるのかを掴めていない
「二人いる筈なのに一体しか姿を現さなかった悪魔、どこに存在するのかわからない巣穴、そして川瀬さんが隠している何か……この三つを繋げることが出来れば──」
自分が遠回りをしているのではないか、そんな感覚に襲われながら、俺は思考を続けた
門原君と別れた私と八乙女さんの二人は、すっかり人通りの少なくなった裏道に視線を向ける、背後からは式典開幕の音が聞こえてくる
「式典、始まりましたね」
「そうだね……気合い入れないと」
悪魔が襲撃をかけてくるならそろそろの筈だ。頬を軽く叩いた直後、カバンの中からベイルが声をかけてくる
『おい、悪魔の匂いだ』
「ベイル、それホント?」
『貴様等を騙す必要はないからな、近づいてきてるぞ』
ベイルがその言葉を発した直後、少し離れた所から歩いてくる警備服を来た男の人の姿が見えた
「あれ、あの人……先輩と来た時に見た」
「八乙女さん、それホント?」
「はい、管理区画に行ったときに対応してくれた受付の人です」
八乙女さんからそれを聞いた直後、警備服の男の人は私たちに挨拶をして通り過ぎようとする、悪魔の匂いがするって言われた直後に来た人がこの人……ならこの人が犯人なんだ。そう思った私は咄嗟に彼の腕を掴む
「……なんですか?」
「すみません、会場に入る人には念のため不審な物を持ってないか確認をさせて貰ってるんです」
「私、ここの職員ですよ?」
「念のためですから、ご協力お願いします」
私がそう言うと、警備員さんは少し動きを止めて、すぐさま私の腕を振り払って来た道を戻っていく
「待て!」
「所長!? 私はどうすれば──」
「フタバ先輩たちに連絡をお願い、契約者みたいな人を見つけたって!」
「わかりました!」
八乙女さんに連絡を任せて私は契約者の後を追うと、少し広い場所に出た瞬間立ち止まってこちらに振り返る。その手には確かにスタンプが握られている、少し睨み合いになった後、私は口を開く
「……どうしてこんな事をするんですか?」
「俺は、ただこのスタンプを渡されただけだ、これを自分に押すだけで金が手に入るって──」
「渡されたって、じゃああなたが脅迫状を送った犯人じゃないの?」
「お、俺じゃない。俺はただ写真とスタンプを渡されて、その写真の男が来たらこれを使って襲えって言われただけだ! 脅迫状なんて知らない!」
どういうこと? 写真とスタンプを渡された? その言葉を聞いた瞬間、私の中で一つの考えが浮かび上がる。まるでこの事件そのものが裏にある小さな一を隠すためのカモフラージュみたいだって……けど、今はそれよりもあの人の持ってるスタンプを優先しないと
「貴方が脅迫状を送った犯人じゃないなら、スタンプを渡してください」
「……無理だ」
「どうして、理由を教えて──」
「無理なものは無理なんだ! こうする以外……何も出来ないんだよ!」
『ジャッカル』
私の目の前で、あの人はスタンプを押すと溢れ出した契約用紙に身体が飲み込まれ、その姿をジャッカルデッドマンに変質させた
「……わかった、悪魔の契約者はそっちに出たんだな?」
『はい、今は狩谷所長が後を追ってます』
「そうか、持ち場を離れるのは危険な気もするが俺も一旦そっちに合流す──ッ!?」
言葉が完全に発せられるより前に、ゾクリと嫌な気配が身体中を襲い咄嗟にその場所から退くと、視界に映ったのはこの前対峙した悪魔だった
「……悪い八乙女、合流遅れそうだ」
『えっ? 先輩、それってどういう──』
「詳しくは後で話す、じゃあな
『えっ? ちょ、せんぱ──』
八乙女との電話を切ってすぐさまガンデフォンをガンモードに切り替える
「……お前、誰だ?」
『…………』
「言葉は、なしかッ!」
悪魔に向けてガンデフォンの引き金を引いた
『ッ! 』
「あぶねッ」
一射目を避けた悪魔は壁や天井を使い俺の方に突撃してきた、流石にこっちも積んできた経験があるから何とか避けられたが、動きが変に機械的だ
「式典は始まってるぞ? 滅茶苦茶にしに行かないのか?」
『……』
「答えはなしか」
わかっちゃいたが、この前襲ってきた奴に比べて口数が少ない。同一人物じゃない……って考えた方が妥当だな
「先輩ッ!」
「! 八乙女、なんで────」
「これ、受け取ってください!」
急に出てきた八乙女を見て少しだけ、思考が固まりそうになったがすぐに彼女が投げてきたものを見てそれを掴み取る
「デモンズドライバー……」
「本当は使って欲しくないけど、今回は致し方なしです! 戦ってください、先輩!」
「助かる……よし」
掴み取ったデモンズドライバーを腰に巻き付け、スパイダーバイスタンプを取り出した