「えっと、それで何処に行くんですか?」
「腹ごなし、ばぁっと話して頭使っただろうからな」
「あれ、リサちゃん?」
そう言って俺が八乙女さんが昼食に手をつけようとしたところで俺たちのほうに近づいてきた少女が声をかけてくる。私服姿だが声をかけてきたって事は八乙女さんの知り合いか何かなんだろう
「やよいちゃん!? 今の時間って学校じゃなかったっけ?」
「実は少し用があって学校休んでたの」
「そうなんだ、大丈夫? 体調悪いとか?」
「ううん、そう言うんじゃないから大丈夫……それより、そっちの人は?」
何やら友人と話し込んでいるとこっちに矛先が向いた、そりゃそうだよな
「俺は門原ヒロト、八乙女さんとは仕事関係で打ち合わせをね」
「星川やよいです。それより仕事関係の打ち合わせ……ですか?」
「そう、まぁ打ち合わせは丁度終わったところなんだけどね」
そうは言っているものの疑われるのは当たり前だろうし案の定疑われてるのは何となくわかる
「あの、それなら私がご一緒しても大丈夫ですよね?」
「私は大丈夫だけど……」
「俺も問題なし、ちょっと聞きたいこともあったしね」
「訊きたいこと……ですか?」
「そう、良かったらで良いんだけど二人の通ってる学校のこととか教えて貰えないかなって」
「学校のことって、どうしてですか?」
やっぱりそこは突っ込まれるよな、けどその返答は用意済み
「実は従妹がこっちの学校気になってるみたいでね。とりあえず情報収集をと思って、こういうのは学校説明会以外に実際に通ってる生徒の意見って参考になったりもするから」
「門原さんって、従妹居たんですね」
「居るよ、歳は君らの二つ下くらいかな」
因みにこれは嘘ではない、実際に本島で生活をしている従妹は居る。ただしこっちの学校が気になっているという話は嘘だ、従妹は既に志望校を決めてるし滅多なことがない限りこっちの学校に入学してくることはないだろう……が、今回はそれを使わせてもらう
そこから二人に聞かせて貰ったのは、彼女たちの通っている学校は特に進学校とかではなく校則もそこまでキツくないということ、それ以外にもこの学校は全寮制の学校であり在学中の居住費は基本的に学校側が負担するらしい
「学校側が居住費負担してくれるって、卒業したら返済って形になるの?」
「いえ、私たちが返す分は居住費の1割くらいだそうです」
どうやらその学校はよっぽど儲かってるらしい、とりあえずどういう学校なのかはわかったがから次は生徒の事だな。正直学校そのもののことよりも重要なのはこっちだ、もしかしたら契約者に関する情報が手に入るかも知れない
「それじゃあ、学校生活とはどうなの? トラブルとか多いかどうかは知りたいんだけど」
「トラブルとかは特にないよね」
「そうだね、これと言って何か大きなことが起こるっているのはないと思いますよ」
まぁそりゃそうか、これで大きなトラブルが何度も起こってるようだったらそれはもう立派な不良高校だ
「成る程ね、そういえば二人は大丈夫なのか? 特に八乙女さんは色々仕事してるみたいだし、変な勧誘とかなかった?」
「特にないよね」
「……私も、特には」
「やよいちゃん?」
「どうかした?」
「い、いえ、別に……あっ、そろそろ時間が、私はこれで」
「えっ、ちょっとやよいちゃん!?」
急に立ち上がった彼女はカバンを持って出て行ってしまった。少し雑にカバンを取った所為かわからないが少しだけ中から猿のようなレリーフが見えたような気がした
「まさか」
「門原さん、どうかしたんですか?」
「八乙女さん……彼女が向かいそうな場所、教えてくれないか?」
「いいですけど、どうして──」
「悪魔の契約者が、彼女かも知れない」
俺がそう言うと八乙女さんは何を言われたのか理解できないと言ったように目を丸くした後に、目を鋭くする
「門原さん、その冗談は流石の私でも怒りますよ」
「冗談かどうか判断する為に彼女に確認を取りたいんだ」
「ありえません、やよいちゃんは私の一番の親友です、なのに私を襲わせるなんて──」
「八乙女さん。人の心ってのちょっとしたことで歪んじまうもんなんだ。たとえどれだけ相手を思っていても、その思いが転じてしまう場合もある」
「ふざけないでくださいッ! 第一どうしてやよいちゃんが契約者だなんて──」
「彼女のカバンの中に、スタンプ二刻まれてる生物のレリーフが見えた」
俺がそう言うと、八乙女さんは軽く息を吐いて席を立ちあがった
「依頼の件はもういいです、途中終了ですけど報酬もお支払いします……それじゃあ」
「彼女を探すのか?」
「はい、仮にやよいちゃんが悪魔の契約者だったとしても。私が説得します」
それだけ言い残すと、八乙女さんも店を出て行ってしまった
門原さんに言われたことがどうしても受け入れることのできない私は、一人でやよいちゃんの事を探す
「そんな訳ない……だってやよいちゃんは私の──」
やよいちゃんは私の一番の親友。小学校の頃からずっと一緒で、私の事を引っ張って来てくれた、応援してくれた……だから……だからっ!
「やよいちゃんっ!」
私がやってきたのはこの島に始めてきた時、やよいちゃんと一緒にやってきた高台公園。今までも何かに悩んだ時とかはここに来てたから。絶対にここだって思った
「リサ……ちゃん」
少し身体をずらしてこちらに視線を向けてきたやよいちゃんの目には少しだけ涙が溜まってる
「リサちゃん……私……」
「どうしたの、やよいちゃん?」
「ごめんね、私……私……」
やよいちゃんの様子が少しおかしい、よく見ると少し目の焦点が合っていないようにも思える……それに、やよいちゃんがこっちに振り返ってわかったけど、手に持ってるのって──
「──スタ……ンプ」
「ごめんね、私……最初は少し怪我すればって……でも、どんどん心の中が真っ黒になっていって……」
「そんな事どうでもいいっ! それは使ったらダメなものなの、だからそれを捨てて! いつもみたいに二人で──」
「無理なのッ! もう……無理なんだよ……」
無理? ……無理って、どうして……そんな私の疑問に答えるように、やよいちゃんは話始める
「もう私は戻れない、どれだけ捨てようと思っても……駄目だった、だから……」
『コング』
やよいちゃんは、その言葉のすぐ後自分の身体にスタンプを押してしまった。スタンプを押された場所から契約用紙のようなものが溢れ出し人の形を形作ってる。それが終わると紙の塊はこの前襲われたゴリラの化け物になった
「リサちゃん、逃げてッ!」
やよいちゃんの言葉と裏腹に化け物は私に向かって襲い掛かる……寸前で投げつけられたゴミ箱に当たって少し怯んだ
「大丈夫か、八乙女さん」
そう言いながら私に手を差し伸べてきたのは、ついさっき別れたばかりの門原さんだった
八乙女さんと別れた後、なんとか向かった場所を探して辿り着いたのは高台公園。場所的にはここに住んでる学生の憩いの場……というか悩みが来ると必ず来る場所だからか案の定二人もここに居た
「門原……さん」
眼前に居るのはゴリラのC型悪魔と契約者である星川さん。あの様子から見るに自分で契約した悪魔の制御が出来なくなってるんだろう。悪魔と契約をしても尚自分の中にある正気を失わずにいる。それどころか後悔の念すら見える辺り本当に今の状況を悔いてるんだろう
「八乙女さん、今の彼女はスタンプの呪縛に囚われる状態にある」
「スタンプの呪縛?」
「そう、今の彼女は正気を保った状態でスタンプに魅了されてる状態だ」
「助けられるんですか?」
「あぁ、つっても契約者自体は悪魔を倒せば助けられる……ただ、その後どうするかは彼女次第だ」
悪魔と契約した者は悪魔を倒した後でもスタンプの呪縛から逃れられない場合がある、そして呪縛から逃れられなかった人が一生苦しむなんて事例も少なくない
「八乙女さん、君は彼女を支えていけるか? 親友として、彼女を赦せるか?」
「当たり前です! やよいちゃんは私の親友、この程度で赦さないって言うほど私の心は狭くありません!」
「それなら、俺と契約だ」
「契約?」
「あぁ、俺はあの悪魔を必ず倒す……だからその対価として、君は何があっても彼女の友であることを貫いてくれ」
契約書も只の口約束、それでも俺にとってこれは重要な事であり、一種の決意表明でもある
「わかりました、何があってもやよいちゃんは私の友達……いや、親友です!」
「契約成立だ」
立ち上がったゴリラのC型悪魔を真っすぐ見据え軽く息を吐き、ベルトを腰に巻くと、取り出したスタンプのボタンを押す
『スパイダー』
【Deal】
「変身!」
自分の心を切り替える言葉と共に、構えていたスタンプをベルトの液晶へと押印する
【Decide up】
【Deep】〘深く〙
【Drop】〘落ちる〙
【Danger】〘危機〙
『仮面ライダーデモンズ』
小さな蜘蛛によって紡がれた糸が俺の身体を覆い、インナースーツとアーマーを形作られ、仮面ライダーデモンズ スパイダーゲノムへの変身を完了させた
「さぁ、契約執行の時間だ」
目の前に現れた俺を脅威だと認識した悪魔はこちらに向かって拳を振りかぶり攻撃を仕掛けてくる。普通の人間なら避けることが難しい速さの攻撃でも変身した状態の俺なら問題なく避けられる。少し後ろに下がって攻撃を避け、反動でがら空きになった悪魔の腹に拳を叩き込む
『ウ゛ッ!? 』
「もう一発!」
続け様に蹴りを悪魔の脇腹に撃ち込んで少し後退させる、やっぱり攻撃力が高い代わりにそこまで防御力は並みかそれより少しだけ高い程度……デモンズでも十分攻撃は通る
『ウ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛ゥ゛──ウ゛ァ゛ァ゛ッ!! 』
「まずっ!?」
手をクロスさせて防御態勢を取った瞬間、衝撃波で思いっきり後方まで飛ばされる
「衝撃波……ダメージはそんなでもないけど近づきづらいのはちょっと厄介だな」
それに、あんま乱発させたら他の所にまで被害が行くのは避けたい……とりあえずさっさと決めることに決めた俺はデモンズ……というかスパイダーゲノムの能力で糸を使って上空まで移動する
上空に移動した俺に対して悪魔はもう一発衝撃波を放ってくるがここなら特にこっちは大丈夫、そのままスタンプをベルトの液晶に押印しベルトの両サイドを押し込む
【Charge】
【デモンズフィニッシュ】
エネルギーが右足に集中していくのを感じながらライダーキックの体勢に移行する。悪魔に向かって降下していく中で右足に纏われたエネルギーが肥大化し、悪魔に直撃すると同時にそのエネルギーを悪魔の体内に流し込んだ。火花を散らしはじめた悪魔にもう一発蹴りを入れ離れた瞬間悪魔は爆散し、赤い粒子をまき散らしながら消滅した
「はぁー……一件落着」
「やよいちゃんっ!」
意識を失った星川さんを抱きかかえて一息ついていた俺の所にやってきた
「大丈夫、気を失ってるだけ」
「そうですか……良かった」
それから、新見さんや病院に連絡を取ってもらって色々と事後処理に追われ一日を終えた
そしてこれからはその後のちょっとした話、意識を取り戻した星川さんからバイヤーについての情報を聞いたけれど本人はそこら辺の記憶は曖昧らしい
「結局、スタンプを売ってた組織への情報はなしか」
「そうだねぇ、結局どの契約者からも詳しいバイヤーの情報はなかったもんね」
「公的機関も手に入れた情報はなし……得るものはなし、か」
「そうでもないよ、門原くん」
そう言う所長がこっちに差し出してのは一枚の紙、受け取ってみてみるとそれは──
「履歴書?」
「うん、採用することにしたんだ。なので、ウチの事務所に新メンバーを迎えることにしました! という訳でどうぞ!」
「は、はい! 失礼します!」
事務所の扉が開き入ってきたのは、この前の依頼人である八乙女さんだった
「八乙女さん、仕事があるんじゃ……」
「一時休業させて貰いました。今は誰がやよいちゃんにスタンプを渡したのか……知りたいんです」
今まで一般人だった彼女がこっち側の事情に踏み込む、正直こっちとしては勘弁してもらった方がいい気もするが所長が決めた以上こっちが何を言えない
「わかった、これからよろしく……と言っても基本的にウチの事務所は暇だから何をするでもないけどね」
「はい! よろしくお願いしますっ!」
今日、この事件をきっかけに一人事務所のメンバーが増えて、狩谷相談所は二人から三人になった