翌日の早朝、具体的に言うと朝の4時過ぎ、俺こと門原ヒロトは一人事務所で片手に持った資料と睨めっこをしていた
「明確にこれと言った犯人候補がいない……一番怪しいのがマネージャーである事には間違いないんだが」
それもなんか違う気がするんだよな。あくまでも俺の直感でしかないんだがあの人は契約者ではない気がする
「ここで睨めっこしてても仕方ないか」
時間的には微妙だがもしかしたら早めに入ってるスタッフさんがいるかも知れない。昨日変わったことが無かったかとか、そこら辺の事を聞くために会場に向かうか
事務所で見ていた資料をカバンに纏めた俺はバイクを走らせて会場の前までやってきた、事務所から会場までそこそこ時間がかかったこともあり現在時刻は朝の5時
「流石にまだ人は少なそうか」
だがまぁ今の俺には都合がいい、昨日受け取っておいた関係者用のカードを首からかけて俺は裏口の方から会場の中に入る。やはり準備の最終確認が必要と言うこともあってか僅かではあるがちらほらとスタッフの姿が見える
「あっ、すいません少し話を訊きたいんですけど大丈夫ですか?」
「はい? 何ですか?」
とりあえず近くに居たスタッフに話を聞く
「突然なんですけど、昨日不審な人とか変なモノを持ってる人見たりしてませんか」
「不審な人はともかく、変なモノって何ですか?」
「大体手のひらサイズのスタンプなんですけど」
「スタンプですか……申し訳ないですけど見てはないですね」
「そうですか、ありがとうございます」
俺は話を聞かせてくれたスタッフさんに軽く頭だけ下げると次のスタッフに話を聞きに行く……が特に目立った情報もなく時間だけが過ぎていく。話を聞くだけでかれこれ30分、特に目立った情報を得ることが出来ない
「流石に手詰まりか?」
「なーにが手詰まりなんですか、先輩?」
「あぁ、契約者探し何だが流石に目立った情報が手に入らなくてな…………って、八乙女?」
「はい、八乙女リサです。おはようございます」
「随分と早いな」
「まぁ、流石に遅刻するわけにはいかないと早く起きてここに来た次第です……早起きしすぎましたけど」
まぁ開場が午後1時からだから確かにだいぶ早い……というよりも早すぎるってのが正直な所ではあるが折角早く来たんなら丁度いい。少し別のベクトルから調べて貰うことにする
「八乙女、突然で悪いんだがSI-NAの熱狂的な信者とかSNSで探せたりするか?」
「多分できると思いますけど、それが何か関係あるんですか?」
「……あるとは言い切れないんだが、少し別ベクトルから物事を見るのも必要だと思ってな」
「とりあえずやるだけやってみます」
「任せた、俺はもう少しだけ聞き込み行ってくる」
「了解です」
そう言った八乙女はガンデフォンを取り出して画面を操作し始めた。俺は俺でもう一度スタッフさん達に聞き込みをする……前に少しだけ思考をする
──SI-NAに近づくならどのタイミングで襲い掛かる?
『ライブの前が一番妥当な所ではある……がそれなら昨日襲えばよかった』
──いや、昨日襲い掛かった時にはマネージャーや八乙女がいたのに加えて俺が邪魔をしたから失敗した
『そもそも、あんな脅迫状を送るような人間があのタイミングで襲うのか』
──手紙の感じからして、正体の特定を恐れているが自己顕示欲は強そうだ。それに執着心も並みじゃない気がする
『そんな奴が誰にも見られないタイミングで襲うか?』
──欲しいものを手に入れたくてたまらない奴が、それを手に入れる力があるのにわざわざ待つかと聞かれたら否だ
『我慢できなくなって襲った。そしてその上で彼女を監視できる場所は何処だ?』
──ステージ裏に常駐するスタッフ……そこから契約者を特定する条件は
「昨日の夜、シイナと同じホテルに泊まっていたスタッフであること……後はそこから片っ端に当たっていくしかないか」
とりあえず特定の方法は大雑把になっちまうがそれでもバカみたいな人数のスタッフを片っ端から当たるより多少の負担は減る。とりあえずその条件にも当てはまってる最重要容疑者であるシイナのマネージャーさんに話を聞きに向かう
「昨日の一件で控室が使えなくなったから新しい控室になったんだっけか」
正直時間的に来てるかまだ微妙な所ではあるが──
「──っと、フタバ先輩からだ。どうかしたんですか?」
『門原くんですか? 今どこに居ます?』
「契約者のこと色々調べたかったんで会場ですけど」
『そうですか、それなら少しお願いがあります……今から会場近くのビジネスホテルに行ってもらっていいですか?』
「……急ぎの用っぽいですね」
普段の口調とあんま変わった様子はないがそれでも声の感じからわりかし焦ってるのは分かる
『はい、鏑木がSI-NAさんのマネージャーに対して独断で身柄拘束の手続きを行いました』
「身柄拘束って、上が受理してなかったら問題ないんじゃ……」
『えぇ、受理していないので問題はありませんが独断専行をしている鏑木は勝手に身柄拘束に動くと思います』
「それを止めればいいんですね、了解です」
勝手な行動をする奴は何処にでもいるが流石に今回ばっかりは面倒な事態になったな。というか鏑木隊員いくら自分の力を過信してるからってそこまでやるのか……そうなるともう大馬鹿野郎としか言いようがないぞ
そんなことを考えながら全力疾走でビジネスホテルまで向かうと、しっかりと装備を固めた鏑木隊員がホテルの中に入ろうとしているところだった。悪魔関係はかなり面倒な部類に入るんだからあんなあからさまに動くなよ
「ちょっと待った!」
「ッ! お前……確かあの民間の……」
「門原ヒロトね……とりあえずちょっと待った」
「わざわざ邪魔をしに来たのか?」
息を整えつつ鏑木隊員の方を見るがこの男の目には見に覚えがある……あの目は完全に自分が正しいと信じ切ったのに加えて自分より下を見下している目。相手にするときは少しだけ荒っぽくなることを覚悟した方がいいタイプの目だ
「俺は身柄拘束願いを提出した上でこの場に来ている。俺と事を構えるという事はD.D.C.Uと事を構えるのと同義だぞ」
「……さっきフタバ先輩──あんたらの隊長さんから連絡を受けましてね。身柄拘束願いは不受理、だからアンタがやろうとしてるのは独断専行とクライアントに対する迷惑行為なんだってよ」
「馬鹿なッ! 状況証拠から見てもあのマネージャーが契約者なのは確定のはずだ!」
「確定じゃなくて疑惑の段階だよ、とりあえずこの場は一旦引いて、上司から話を聞いた方がいいと思うけど?」
とは言ったものの、目の前にいるのは完全に自分の行動が正しいと妄信している奴の目だ。強硬手段を取ることに決めた俺は悟られないようにガンデフォンをガンモードに変形させて内側にスパイダースタンプを構えておく
「……そう言うことか、お前達の会社は俺が手柄を立てるのが悔しいのだろう、民間企業ならば当然だな……だが悪いな、俺はこの仕事を完遂させて貰う」
そう言った鏑木隊員が俺から目を離した隙をついてガンデフォンを構えてスタンプの天蓋を押す
『スパイダー』
『CHARGE』
「なっ!? 貴様それは──」
電子音声を聞いた鏑木隊員がこっちを向いて何かを言おうとするがもう遅い、スタンプを認証させた瞬間にこっちの装填は完了してる。あとは引き金を引けば
『スパイダー CHARGE BLAST! 』
電子音声と共に放たれた蜘蛛の巣が鏑木隊員の身体に絡みつきその動きを止める。それから程なくして後ろに見慣れたマークのワゴンが見えた
「門原くん」
「フタバ先輩、お疲れ様です」
「隊長! そいつはスタンプを所持しています! 契約者です! 今すぐ拘束を!」
「……基本的には公表しないように厳命されているのですが仕方ありませんね。鏑木、彼と彼の所属する狩谷相談所は限定的な武装の行使及びバイスタンプの使用が許可されています」
「そ、そんな! どうして民間企業にそんなことがッ!?」
「詳細をここで話すのは契約違反です。鏑木、貴方の処分は追って伝えます……連れて行きなさい」
連れていかれる鏑木隊員の姿を見ていると、俺たちの元にSI-NAのマネージャーが走ってきた