ホノルルと一緒にサンデーを食べたい。   作:ペニーボイス

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第2話

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヨロレイヒ〜♪ヨロレイヒ〜♪ヨロロロ、ヨロロロ、ヨロロロ、ヨロロロ、ヨロロロロロロ、ヨロレイヒ〜♪ヨロレイヒ〜♪ヨロロロヨロロロヨロロロヨロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロロ」

 

「うるせええええええッ!!」

 

 

 堪らなくなり、私は鉄血勢の集う酒場のドアを蹴飛ばした。

 ティルピッツはヨーデルを歌うのをやめ、伴奏を担当していたらしいビスマルクがピアノから顔を挙げて、プリンツ・オイゲンはビールを飲むのをやめる。

 堪らなく不思議そうな顔をしているので、彼女らはきっと私がSWAT隊員よろしくドアを蹴飛ばした理由に覚えがないと見えた。

 なんて奴らだろう。

 

 

「………指揮官、教えておこう。艦隊を率いる者として、そのような態度は望ましくない。だから」

 

「お前らのせいだろうがよおおおッ!」

 

 

 ビスマルクが凛として私の暴挙を咎めたが、私には咎められる所以がないと思う。

 

 

 

「あのね、オラぁこれからもう寝るところなのよ。それでね、忘れてるかもしれないけどアンタら鉄血勢のお部屋の隣は指揮官寝室なんですよ。…一般にね、この国の財務省は兵舎作る時にお金をかけたがらない。だから壁は薄いし防音性なんて大して考えられてないわけ。…つまりね、もう分かってくれると思うけどね。」

 

「「「「……………」」」」

 

 

 鉄血艦達は相変わらずとぼけたような顔をしている。

 

 

「………全力のヨロレイヒが私の寝室との壁を突き破ってくるから寝れないんだよッ!!」

 

 

 眠れないのは腹立たしいが、私の主張に対するKANSEN達の反応は更に腹立たしい。

 ビスマルクは何故か「それはあなたの都合だろう?」的な顔をしているし、プリンツ・オイゲンはビールを飲み続けている。

 最も卑怯なのはティルピッツで、ヨーデルを非難されたからか表情を崩して啜り泣いていた。

 他の鉄血艦達は「あ〜あ、泣かせた」みたいな目で私を見てくるもんだから余計にタチが悪い。

 

 しばらく沈黙が続いて、ティルピッツの啜り泣きがこだまする。

 おいやめろよティルピッツ。

 めっちゃ罪悪感じゃん。

 え、何これ私が悪いの?

 私が悪い流れなの、これ?

 もう時間も時間だから静かにしてくれってだけの話なんだけどさ、つーかこんな夜中にズンチャズンチャとヨーデルやられたら周辺住民に迷惑が掛かるとか考えないのかアンタらは。

 

 気まずい沈黙を破ったのはプリンツ・オイゲン。

 何を思ったのか彼女は皿にソーセージを盛り付けて、ビールを一杯と併せて私の下に持ってきやがった。

 

 

「まぁまぁ、アンタの言い分は分かったから。とりあえずこれでも飲んで落ち着いてみたら?」

 

「あのな、だからな、言うとるやろがい。私はこれから寝る」

 

 

 

 

 〜〜〜〜a few minits later〜〜〜〜

 

 

 

 

 

「「ヨロレイヒ〜♪ヨロレイヒ〜♪ヨロロロヨロロロヨロロロヨロロロヨロロロレイヒッヒ〜♪」」

 

 

 あまりよく覚えてないが、何故か私は完全に出来上がり、周囲の鉄血艦達の手拍子の下ティルピッツと肩を組んで一緒にヨーデルしていた。

 一応明日もお休みっちゃあお休みなのだが、こんな夜中に飲んで馬鹿騒ぎなんてするもんじゃない。

 するもんじゃないのは分かってるのに何故かヨーデルをやめられない。

 ビールを飲んで、ソーセージを齧り、何故か同じく酔っ払っているティルピッツの谷間に顔面を押し当てられてから、またビールを飲んでヨーデルを歌っている。

 

 

 どうしてこうなった?

 ティルピッツのヨロレイヒを止めに来たはずなのに2人揃って肩を組みながらヨロレイヒしてる。

 いやまあ、確かに普段は表情に乏しいティルピッツがこんな感じになるのは珍しくて可愛らしくて良いんだけど。

 だけどもいい加減にヨロレイヒは止めておかないと…

 

 

「るっさいのよアナタ達、今何時だと思ってるのよおおお!?」

 

 

 

 鉄血勢の部屋の扉が再び暴力に襲われる。

 襲ったのは我が秘書艦ホノルルで、普段からほんのり赤みを帯びているその顔を真っ赤にして突入してきた。

 ホノルルちゃんは普段決して声を荒げたりしないし、張り上げたりもしない。

 けれどもそんな彼女が顔を真っ赤にして怒っているのは、我々がもう真夜中の時間帯に全力で民族芸に勤しんでいたからだろう。

 秘書艦の部屋は指揮官の部屋の隣にある。

 モルタルの薄い壁は2部屋分の防音能力を保証しないことなど容易に想像できた。

 

 ホノルルの後ろからはリトル・ヘレナちゃんを腕に抱いたセントルイスが続いてくる。

 リトル・ヘレナちゃんは外見相応にもう眠い時間のようで、可愛らしいパジャマに身を包んでいた。

 しかし彼女を腕に抱くセントルイスは何故かホノルルの方を咎める。

 

 

「ホノルル?鉄血の娘達が楽しんでいるのだから、そんな風に止めるのは良くないわ?」

 

「でも………リトル・ヘレナちゃんが…」

 

「私たちが場所を変えればいいだけでしょう?」

 

「うぅ………ねむぃよぉ…」

 

「ああ、そうよね、リトル・ヘレナ…もう少し鉄血の娘達とお話をしたら、共同の娯楽室にいきましょう。」

 

 

 セントルイスの豊満な胸元でグズり始めるリトル・ヘレナちゃん。

 何処からか哀愁溢れるバイオリンのBGMが聞こえてきて、鉄血勢や私の良心を削り始めた。

 

 

「やだ!私たちの部屋がいい!私たちの部屋で寝たい!」

 

「我儘を言ってはダメよ、リトル・ヘレナ?鉄血の娘達は楽しみたいのだから…」

 

「でもあのお部屋は寒いよぉ!」

 

「そうね。だから私も一緒に寝てあげるわ?…ごめんなさい、ビスマルク。あなた達の楽しみを奪ってしまって。私たちは娯楽室で眠るから、どうか続きをしてちょうだい?」

 

「いやだ!いーやーだ!どうして私たちのお部屋で寝れないのー!」

 

「こ、こら!リトル・ヘレナ!」

 

 

 "マッチ売りの少女"を目の前で繰り広げられてるかのような、そんな罪悪感に襲われる。

 罪なき幼げな少女が理不尽にその寝床を追われる光景など、見ていて良い気分になるものではない。

 それは鉄血勢も同じだったのか、ビスマルクがピアノのカバーを閉じてセントルイスの前に出る。

 

 

「す、すまない。少し熱が入り過ぎてしまったようだ。今日はこの辺でお開きにしよう。」

 

 

 ビスマルクが両手を叩くと、鉄血勢は一も二もなく片付けに入った。

 まるでプロフェッショナルのような手捌きで、鉄血色丸出しの部屋は黙々と片付いていく。

 

 

「そんな!いいのよ、ビスマルク!あなたも楽しみだったんでしょう?」

 

「いや、そろそろ終わろうかと思っていたところだし、その子に申し訳ない。」

 

「リトル・ヘレナと私なら大丈夫よ!」

 

「いやいや、それでは鉄血の品位に関わる。我々ももう少し早い段階で気づくべきだった、本当に申し訳ない………」

 

 

 

 完全に酔いが覚めかけながらもセントルイスとビスマルクのやり取りを見守っていた私を、ホノルルが現実に引き戻す。

 彼女は自身の腕を私の腕に組ませると、強く引いてから耳元でこう言った。

 

 

「指揮官、この後話がしたいんだけど?」

 

「………はい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 …………………………………

 

 

 

 

 

 

 

「指揮官失格じゃない、もう!どうして止めに入ったのに、一緒になって飲んだくれてるのよぉ!」

 

 

 ホノルルが怒るのは無理もない話で、ご指摘も至極その通りなのだけれど。

 こうも憤然も怒るホノルルもまた可愛い。

 しかしながら、いくら私でもこの場で「可愛いよ、ホノルル」なんて言葉を使うべきじゃないことぐらいは承知していた。

 今は彼女の前で正座して、ただただその御言葉にひれ伏すのみである。

 

 

「だいたい……」

 

「まぁまぁ、ホノルル?リトル・ヘレナもちゃんと寝付けたんだし、指揮官くんにももう寝てもらうべきじゃないかしら?結局鉄血の娘達も非を認めてくれたんだし。」

 

「ルイス…ッて、そういう問題じゃないの!指揮官は確かにルイスと結ばれたかもしれないけど、いつまでもルイスを頼ってて良いわけじゃないんだからね!」

 

「……誠に、仰るとおりで…」

 

「でも、ホノルル?指揮官くんが心配で私を頼ったのは、あなたも同じじゃないかしら?」

 

「〜〜〜ッ!なんで余計なことを言うの!?」

 

 

 前秘書官にして私の素晴らしき嫁艦のセントルイスは人身掌握の達人だった。

 鉄血勢を止めるにしても、リトル・ヘレナに協力してもらい、正面から怒鳴り込むのではなく罪悪感を掻き立てるようなやり方を披露した。

 元来規律正しい鉄血勢にはそれが大変な有効打になったのだろう。

 

 セントルイスのそんな特技を知って、きっとホノルルは彼女の協力を頼んだのだろう…それも私を心配して。

 我ながら情けなくは思うが、ホノルルの気持ちと、それに応えてくれるセントルイスにとても嬉しい気持ちになる。

 だから私はホノルルの方を向き、恐らくは少し笑みを浮かべたような顔で、こう言った。

 

 

「そうなのか……私を心配して………ありがとう、ホノルr」

 

「指揮官はもう寝ててッ!!!」

 

 

 気を失う前に見たのは、その頭髪よりも赤いホノルルの顔と、彼女の靴底だった。

 

 

 

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