偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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本編No.9の次に投稿した話になります
本編No.9→外伝No.1(ここ)→外伝No.2→本編No.10の予定です。


外伝.1 カストロプ動乱(1)

 

 

 帝国軍宇宙艦隊司令長官室

 

 

「以上がこの度の出兵の最終報告となります」

 

「うむ、ご苦労」

 

 宇宙歴七九六年二月の出兵はこの報告をもって全ての作業が終了した。

 

「まぁ、そこに立ったまま話をするのもなんだ」

 

 報告を受けた帝国軍宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥は報告者であるウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将(大将より昇進)を来客用のテーブル席に誘う。

 

「卿らも遠慮せずともよい、座れ」

 

 後方に控えていたメルカッツの副官、ベルンハルト・フォン・シュナイダー少佐(大尉より昇進)と幕僚として貸し出されていたジークフリード・キルヒアイス中佐(少佐より昇進)も続いて座る。

 

「それにしてもだ、難解な任務を押しつけてしまって悪かったな」

 

 従者の出したコーヒーを飲みつつ、ミュッケンベルガーが言う。

 

「それなりに覚悟をして向かいましたが思いもよらぬ戦果を得る事ができました」

 

 そう言うとメルカッツはキルヒアイスの方に目を向ける。

 

「彼のお陰です」

 

 キルヒアイスが軽く会釈する。

 

「貸し出した甲斐があったというもの。中佐、出兵としての作業は終わっているが艦隊としてはまだ雑務が残っている。いい機会だ、艦隊作業の締めまで学んでから戻ってきたまえ」

 

「有り難く、勉強させていただきます」

 

 そこから会話は会戦の内容やその後の昇格人事などに移る。

 

「では、フレーゲル少将は……」

 

 メルカッツがやや顔色を曇らせて尋ねる。

 

「駄目だ。奴めには昇進に値する戦果も実績の蓄積もない。あの出兵がその為に仕組まれた事は理解している。だからといってお情けでくれてやるほど中将という地位は甘くないのだ」

 

 帝国軍にとって少将と中将では大きな差が発生する。中将になれば艦隊司令官や参謀長、大規模な基地や要塞の司令官など多数の要職に就けるようになる。故に過去の経験(評価)を始め、色々な条件を満たさない限り安易な昇進は行うことが出来ない。元帥府を開けば旗下に加えた人材の昇進に権限を持てるが安易な昇進はする側される側共に周囲からの評価と言うリスクを伴うものなのである。(※1)

 

「(ブラウンシュヴァイク)公がまた荒れそうですな……」

 

 仕方ない、という顔でメルカッツが呟く。

 

「あれ(門閥貴族)には少なからずの椅子をくれてやっている。本当に昇進させたければその椅子にしばらく座らせておけばいいのだ」

 

 ミュッケンベルガーはもう門閥貴族達に余計なものを与えるつもりはないらしい。近年の過剰な介入による軋轢で軍部と門閥貴族には大きな溝が発生している。妥協と手打ちの為にいくつかの(座っているだけでいい)椅子を用意する事である程度静かになったが門閥貴族の双璧であるブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム候は悪びれる様子もなく更なる勢力拡大を図っている。ブラウンシュヴァイク公にとっての尖兵がこのフレーゲル少将なのである。

 

「フレーゲル少将は色々と巻き込んでいる事に罪悪感を抱いている様でした。公の介入が悪い流れにならなければよいのですが……」

 

「わしは知らん。ただの少将として扱うだけだ」

 

 ミュッケンベルガーが立ち上がる。休憩時間が終わり、次の仕事が始まるようだ。メルカッツらは挨拶し、部屋を後にした。

 

 

 

「お前は何故昇進しておらんのだ!!!!」

 

 ブラウンシュヴァイク公の怒声が館に響き渡り、フレーゲルはその怒声を聞き流す。こういう時の公には何を言っても無駄であり、むしろ火に油を注ぐだけだ。しかし何も言わないとそれはそれで熱量が上がるのが近年のブラウンシュヴァイクである。

 

「わしがどれだけ根回しをしてお膳立てをしてやったと思っているのだ!!あとはお前がやるべき事をやるだけだろうに!!!」

 

(相手の都合がありますので。必要ならば相手にも根回しが必要でしょう)

 

 片方が熱くなればもう片方は冷める、そういうものなのだろうとフレーゲルは妙に冷めた感情で伯父を見続ける。これが帝国最大であり数千の貴族の頂点に立つ男。色眼鏡無しで見ても決して愚かではなくむしろ賢い。だからこそこれだけの勢力を維持し、更に拡大させる事が出来るのだ。しかしながら……

 

(やりたいのであればやりたい人達だけでやればいい。欲してない人は巻き込まないでもらえないだろうか……)

 

「聞いておるのかお前は!!そもそもこれはお前の為に」

 

 どうやらブラウンシュヴァイクの熱量はまだ収まらぬらしい。最近は熱量が長続きするようになった。器用なものだ。

 

「閣下、そろそろ次のご予定が……」

 

 傍に控えていたアンスバッハ准将がブラウンシュヴァイクに語りかけ、準備を促す。

 

「もうそんな時間か。フレーゲル!!次の手立ては既に考えておる、遠くないうちに連絡が来るはずだ!!これ以上私の手を煩わせるな!!!少しは役に立て!!!いいな!!!」

 

 言うだけ言うとブラウンシュヴァイクは部屋を出る。アンスバッハも続いて退室しフレーゲルは一人になる。

 

「役に立て、ですか。私の地位が上がったとしてそれはいったい何に対して役立てれば良いのでしょうか?」

 

 フレーゲルはそれだけを呟くと館を後にした。次の手立てと言うのが気になるがどうにもなるまい。そう考えたフレーゲルであったがその手立ては予想を上回る早さと大きさで彼の前に壁を作る事となる。

 

 

 

「勅命である。フレーゲル少将、マクシミリアン・カストロプを討伐せよ」

 

「勅命、謹んで拝命致します」

 

 宮殿から送り出された車でフレーゲルは考える。

 

 故カストロプ公の息子マクシミリアン・フォン・カストロプが政府と遺産相続で揉めている事は知っていた。貴族特権として相続税などは存在していないのだが、公が生前に貯めこんだ財には法の線上を掠めて増やしたものが大量にあるのは公然の秘密となっており、さしもの大貴族とはいえ陛下の定めし法には従う必要がある。公の生前にはあの手この手で逃げられていたが、この時は逃すわけにはいかないと政府から調査隊が派遣されたのだが、マクシミリアンが軍艦まで繰り出した妨害により現場に到着するまでもなく引き返す羽目になった。その行為に怒った政府は保留していたマクシミリアンへの相続を正式に却下、貴族としての権限等をすべて停止して討伐艦隊を派遣した。(なので政府はマクシミリアン・カストロプにフォンを付けない) しかし、その討伐艦隊が一方的な敗北を喫してしまったのだ。時期としてはアスターテ会戦とほぼ同じ頃の出来事である。その後、この勝利で図に乗ったマクシミリアンは近隣他領に侵攻を開始。実質的な独立国家となるべく勢力拡大へ直接の行動を開始した。そのような状況下で「大貴族としての誤りは同じ大貴族である我々が片付ければならない」という大義名分(とそれ相当の賄賂攻勢)を元にブラウンシュヴァイク公が押し込んだのがフレーゲルへの勅命なのである。

 

 考えれば考えるほど事の推移や己の状況にいてもたってもいられれない怒りが湧いてくる。車内、己の館、己の部屋。ここまでが我慢の限界であった。

 

「物には限度があるでしょうに!!!」

 

 我慢ならずに椅子を蹴り上げ、目に付いたカップを壁に叩きつける。

 

「単独ですよ単独!本職の提督が失敗しているものを私がどうにかできるとでも思っているのですか!!!!」

 

 伯父への怒りが収まらず、次の獲物を手に取ったその時、

 

「そこまでにしておきましょう閣下。御覧なさい、侍女殿が怖がって進めないでいる」

 

 振り向くとそこにはフェルナー中佐と用意していた飲み物を出せず震えている侍女がいた。フレーゲルは仕方なく席に座りフェルナーも当然のように座る。

 

「厄介、を通り越えてますな。公の根回しですが出来る出来ないくらいは考えて欲しいものです」

 

 フェルナーが侍女の用意した飲み物を悠々とすすりつつ語る。言葉の隅にブラウンシュヴァイク公への含みも多分に含んでおり昔ならば咎めたであろう。しかし今はそれがむしろありがたい。それ故に最近はこの男を傍らに置いているのである。

 

「断るわけには、いきませんなぁ」

 

「当然だ。勅命だぞ勅命。そんなことをしたら押した伯父上の立場は……いやもうそっちはどうでもいい、私とフレーゲル家(※2)の立場が崩れるのだ。私と伯父上だけなら私の動き一つでどうにでもなる。しかし、家そのものは何も関係が無いじゃないか」

 

 勅命を拒否したり、対応に大失敗したとしたらそれは大きな傷となる。"陛下のご希望を拒否した・ご希望を大きく果たせなかった"のだから本人はもとよりその一家や推薦者まで影響がある。

 

「政府と公の仲を考えれば勅命を出す側にとって失敗して一族に失点が付けば御の字。成功してもまぁ反乱は潰せるし貴方個人に恩を売る事も出来る。損のない手立てという事でしょうな」

 

「まったくだ。俺の苦しみを考えなければな」

 

「さて、どうなさいますか?事情が事情なだけに味方を軍部から探さねばなりませんが」

 

 苦虫を噛み潰したような顔をするフレーゲル。

 

「伯父上がこちらの都合を考えないのならこっちだってもう伯父上の都合は考えなくてもいいだろう。そもそも伯父上は私を"軍内部にコネクションを作れ"と送り出したのだ。有り難くそのご指示通りに動こうじゃないか」

 

「現場で含んでいる人は少なからずいますからな。探せば理解していただける人もいるでしょう。して、誰から?」

 

 フェルナーの問いにフレーゲルがはっきりとした声で応える

 

「まずは、メルカッツ提督に連絡を取ってくれ。あの人ならば、門前払いにはされない。少なくとも話は聞いてくれるはずだ」

 

 

「お仕事の合間を取ってしまったようだな。すまない」

 

「気になさらずに。どうぞ」

 

 アポを取ったとはいえ気まずそうに訪れたフレーゲルをメルカッツが温かく迎える。

 

「……勅命の件、ですな」

 

「あぁ、その件だ」

 

 フレーゲルが静かに応え、事情の詳細を説明する。

 

「勅命とならばお家の立場もあるでしょう。引くわけにはいきますまい。せめて中将のお立場なら手を尽くせは万余の艦を揃えらるのですが……」

 

「その中将の椅子を伯父上が欲しがっているからの行動だからな」

 

「少将という地位では加勢させられる兵力に限りがあります。然るべき地位と実力のある者を講師として付ける事でフォローする事も考えられますがそれでは……」

 

「実質的司令官だと見え見えの人が付き添ったら功績は全部そっちに行って私は少将のままだ。別に私はそれでもいいのだが伯父上のわがままが収まらない限り一時しのぎにすぎん」

 

「少なくとも少将より目立つ者を置かずに事を進めなければならない、と」

 

 二人の間に静寂が訪れる。

 

「忘れてた事があったな……」

 

 フレーゲルが何かを思い出したかのように持って来ていた未開封資料を取り出してメルカッツの前に置く。

 

「前回失敗した討伐の際の資料だ。本来はこちらで解析してから見せるのが筋だが館を出る直前に届いたのでな。これを元に何か助言を頂ければ有難い」

 

「拝見します」

 

 メルカッツがその資料を開き、流すように読み続ける。

 

「規模相当の私兵艦隊に強力な大型軍事衛星が複数、と。衛星がやっかいですが艦隊を切り離せさえすれば、ふむ、これは」

 

 メルカッツが資料の一部を凝視する。

 

「失礼、少々お待ちを」

 

 そう言ったメルカッツは席を立ち、部屋にある棚を開き何かの資料を取り出して戻って来た。

 

「こちらを」

 

 メルカッツが二つの資料を並べて置く。

 

「こちらが討伐資料にあった"大型軍事衛星"をとらえた映像の写し。そしてこちらが叛徒軍の広報が一般向けに公表した資料です」

 

 フレーゲルが二つの資料を見比べる、最初の(自分が持ってきた)資料の大型軍事衛星の写しはかなり拡大しておりぼやけているがもう片方の資料に映し出されているそれと非常に形が似ている。

 

「これは、同じものなのか?」

 

「恐らく」

 

 メルカッツが静かに肯定する。

 

「これはアルテミスの首飾り。叛徒軍が首都星としているハイネセンに配置されているといわれる大型軍事衛星です。軍事衛星としては最大規模であり、最小単位の自動要塞といって差し支えありません。ハイネセンには一二基配備されており、艦隊規模の戦力でも攻略は難しいと叛徒どもは評しております」

 

「それが数基と私兵艦隊。それだけの戦力となると誰でも勝てる状態にしたければ艦隊規模が必要な案件ではないか!」

 

 フレーゲルが唸るように呟く。

 

「私兵艦隊と衛星の個々、用意さえしてしっかりして各個撃破が出来れば少将が運用できる規模の艦隊でも対処できない事もありませんが……」

 

「指揮をするのは私、つまりは無理だ。伯父上が用意していた幕僚たちもアスターテの結果で分かるように迷惑をかけずに部隊を動かすのが精一杯だ」

 

 再び静寂が訪れる。資料を見る事で解決策が得られればという気持であったがむしろ相手の戦力がはっきりした事で限界が見えてしまった。しかし、やろうと思えば出来ない事もないというその戦力は想定外の敵戦力の判明を理由として勅命の撤回・変更を求めるようなレベルでもない。二人が困り果てたその時、

 

「閣下、指示されました資料の作成が完了しましたのでご確認を…… 来客中でしたか、申し訳ありません」

 

「あぁ、中佐か。来客中なのでそれについては後に……いや、その資料については置いておいて少し聞きたいことがある」

 

 そういうとメルカッツはその男、ジークフリート・キルヒアイスを呼び寄せる。彼に概要を話し、端的に聞く。

 

「やれ、と言われたら出来そうか?」

 

 キルヒアイスは「少々お待ちを」と言い資料を見比べ、確認する。目を閉じ、聞こえないような小言で何事かを呟く。考えがまとまったのか眼を開き二人を見渡すとゆっくりと回答した。

 

「なんとかなる、と思います」

 

 あっさりと答えたキルヒアイスをフレーゲルが呆然と見上げ、メルカッツが我が意を得たりという顔で何度か頷く。

 

「彼を貸しましょう。元々はミュッケンベルガー元帥からの借り物なので又貸しとなってしまいますが元帥へは私から説明しておけばなんとかなります。彼は出来る男です、必ずや成功に導いてくれるでしょう」

 

 にこやかに宣言するメルカッツをフレーゲルが呆然としたままの顔で見つめ、キルヒアイスは状況を把握するまできょとんと二人を見つめていた。

 

 




ごめんシュナイダー、喋らせる隙無かったw

この話を作った理由はキルヒアイスの昇進理由を作りたかったってのが一番の理由ですが便利な人達(笑)にも出張ってもらいました。
※1:元帥府による人事権
 贔屓の昇進人事を多々行うと、当然ながら周囲の評判は悪くなる。そして当然ながら昇進した人がその元帥府を離れ、人事権が移った場合はその先で「器量に対して不釣り合いである」として簡単に降格させられてしまう(降格可能にしないと階級を売りに出す元帥などが出てきてしまう) ラインハルトが元帥府を開いて多数の提督(中将)を作り上げたがこれはラインハルトが彼らを抱え続ける覚悟と周囲の目なんぞ気にしない気持ちを持ってるからこそできた所業である。

※2:フレーゲル家
 フレーゲルがブラウンシュヴァイクの甥という事はブラウンシュヴァイクの弟or姉or妹がフレーゲルの父or母として存在するという事になる。ここからはオリジナル設定ですがこの時期に帝国の内務尚書にフレーゲルという人がおりこれをフレーゲルの父としました。しかしブラウンシュヴァイクの弟がそういう役職に入り込むとは思えないので彼(内務尚書フレーゲル)にブラウンシュヴァイクの姉or妹が(勢力拡大の為に)嫁入りしたという設定にしています。そしてフレーゲル本人はブラウンシュヴァイク公に気に入られて当主とは別に爵位を手配されているという形です(後に父の爵位等を正式に継ぐ形になる) 彼はブラウンシュヴァイク公から見たら一門で成人で血も濃く繋がっていて且つ"最悪死んでもブラウンシュヴァイク公本家そのものには影響がない"という非常に便利な駒なのです。彼が何かあって失われたら嘆くでしょうがすぐに次の駒を探すでしょう。
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