偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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アーベントロートに反応あったのうれちい。
ただ単にあの時期に中将くらいになっていて馬鹿ではなさそうな参謀系の人が彼くらいしか見つからなかっただけなんですけどね。

結局同盟も帝国もやってる事同じなんだよね、って感じです。戦争ってのは大きくなればなるほど、"ここ"で勝負がついてしまうものなんだと思います。


No.14 帝国領侵攻作戦(4)

 

 出撃を開始するまでの数日間、幕僚達の作業は寧ろここからが本番であった。概要案は所詮は概要案、二四時間で出来ることなどたかが知れている。艦隊の平均的移動速度・出撃時に所持する標準的補給物資・イゼルローンへ回廊への規定ルートに設けられている補給基地の備蓄量・辺境地方基地の標準的配備内容、それらを元にして"これくらいの時間でここに○個艦隊配置、ここに補給物資集積"というレベルでの基本配置と大まかな活動方針、それらに少し色を付けた程度なのが現時点で定まっている"迎撃案"の全てであった。

 

 まずは艦隊が準備完了するまでに各艦隊に移動ルート・使用する補給基地・集結地点を指示しなくてはいけない。イゼルローン回廊への規定ルートのみで移動するわけにはいかないのだ。いわゆるワープ航法において移動ルートというものは道としての線ではなくワープの出発・到達点となりうる点の繋がりである。障害物がなくて現在座標が確認出来る事(※1)という矛盾した要素を持つエリアがワープポイントの対象となり活用される。万単位の艦艇が効率よく活用できるポイントは軍用となり民間には解放せず、その航路は機密性の高い情報として管理される。当然ながら一つのポイントに展開できる艦艇数には限界があり、これがその航路での限界通航量となる。その限界を超えた数で移動したい場合はいわゆる順番待ちとなり先頭集団がAからBにワープ、先頭集団から後続集団にAへの跳躍が可能である事を通知、後続集団がAへワープといった手順が必要となる。これらの通航を効率よく行うために軍には通航管制を行う部署があり移動の際には事前申告が必要となるのだがそれを出発までに一括して行わなくてはいけない。数千光年という広い宇宙であるがこのルールを守らねば基本、艦隊は安全に移動できないのである。

 航路を設定したらその過程にて前線突入前の最終補給ポイントの指定が必要となる。艦隊は基本、首星オーディンとその周辺に常駐されており艦隊随伴の補給艦を満たす物資は用意されている。しかしイゼルローン近辺までの移動には一ヵ月以上かかるのである、可能な限り戦闘領域へは補給物資を満載にして行きたいので移動で減った分は途中で補給しないといけない。イゼルローン陥落前はオーディンからイゼルローン回廊への規定ルート途中で補給を行い、イゼルローンでは微調整の補給(※2)しか行わないようになっていた。そしてそのメインルートに常備されている物資は標準的な同盟領侵攻兵力(数個艦隊)+αを基準にしたものであり当然ながら一一個艦隊への対応は出来ない。順番待ち覚悟でメインルートに全艦隊を進ませたら半分以上の艦隊は補給無しになってしまう。なので艦隊は複数ルートからの進軍を余儀なくされ、通常使用しない地方基地等での補給指示がされる事になる。そこまでの手配をして、やっと艦隊は現地に到着できるのである。

 

 これらの作業に数日が費やされ、なんとかかんとか各艦隊の出発までには間に合わせる事が出来た。各艦隊は出発を開始するが総旗艦を含む長官直属艦隊は最後の出発になるのでしばらくは時間があるし外部からの応援人員も徐々に集まってくる。だからといってここで一休みとなるはずもなく次は現地への指示内容の作成が始まる。

 まずは物資関係として現地にてすぐに引き上げを行う場所と、いつでも引き上げる事が出来るようにしておく場所を設定する。前者は侵攻軍を一定距離進ませる為にあえて占領させる星域、後者は侵攻軍を足止めさせる星域である。前者の星域に関して、軍事施設は完全撤収となり当然ながら物資も可能な限り持ち帰る。必要に応じて現地の民間船舶の徴用も許可する。間が悪い事にイゼルローン近辺の星域にはイゼルローン対策としての大掛かりな基地整備が開始された直後であり各資材が山のように蓄積されている。そこまで運んできた輸送部隊には申し訳ない話だが奪われたら困る(相手の戦力になる)ものに関しては持ちださなくてはいけない。彼らには一定距離後方の軍事基地まで引いてもらい、その後艦隊や戦地住民達への支援物資をかき集めてもらう事になる。後者に関しても同様に軍事物資の持ち出しをするのだが同時に現地住民用の食料は生活必需品の確認も行う。そしていつでもそれらの総引き揚げが出来るように準備をし、作業にかかる推定日数を報告させる。ここまでが"引き上げる"物資関係の指示である。

 "引き上げる"物資関係が終わったら次は"持っていく"物資関係の指示である。前述の一一個艦隊が補給する場所以外の基地から余剰物資や輸送艦を前線近くの地方基地に集結させ、最終的には引き上げ部隊と合流させる。支援物資として足りなそうな分については民間から買い込むしかないがそれは総旗艦に同行させる統帥本部なりなんなりの他組織人員にやらせる。現場実作業の統括は該当星域を含む地域司令に行わせるしかないだろう。幕僚達は細かい指示は出さず、どこどこの基地に集結した部隊はこの領域の民間支援を担当する、ここの基地は○個艦隊×ヵ月分の物資を準備、こっちの基地には引き上げ物資を下して輸送船はあっちの基地に移動といった大まかな指示に止め、詳細についてはやっと集まって来た外部からの応援や地方組織などを使い行わせる。ここまでやって初めて幕僚達は本来の仕事である細かい作戦案を考えることが出来るのである。

 

 

 七九六年八月二三日 最初の二四時間作業から一一日目 総旗艦ヴィルヘルミナ

 

 "出発直前での最新情報と今後の予定について"という事で幕僚達が旗艦の一室に集合する。ミュッケンベルガーとアーベントロートが入室しいつものように軽い挨拶だけでミュッケンベルガーが語りだす。

 

「先ほど、敵軍の詳細な規模などについて最新情報が入った。総兵力三〇〇〇万は前回の情報のままであるが艦隊は八個であるとの事。そして、こちらの方が重要なのだが敵軍はイゼルローンに総司令部を置き、艦隊は随時出発しているらしい。情報元が言うにはそれが三日前、八月二〇日付の出来事という事だ」

 

 八月二〇日付、という日付に幕僚達が苦難の表情を浮かべる。

 

「もう判っているだろう。敵軍は二〇日から出発している、それに対して我々の艦隊が出発を開始したのが一七日。つまりは予定している足止め地点で敵軍が足を止めたとしても"その時まだ我々は現地に集結していない"という事だ。故に、何があっても足止め策は成功させねばならない。私を含むここにいる者たちが現地に到着するまでの間に何を命令し、何を現地にさせるか。それが本戦の勝敗を決する要素となる。それを肝に銘じ、職務に臨んでもらいたい。私も参謀長も出発すればこの一戦に集中できる、我々が直接顔を出した方が効率が良い事があれば遠慮なく使え。使えるものは使いつくして、この至難を乗り越えてみせよ。以上!!」

 

 締めの言葉を聞くや否や幕僚達はここを作戦室とすべく動き始める。この場を使う許可も得ていないし艦の要員にもなし崩し的に準備を手伝わせるあたり、彼らの開き直りも見事なものだが、その姿を「それでいい」と満足そうにミュッケンベルガーが見守っている。

 

「準備が終わる前に決めてしまおう。手を付けねばならぬことは何だ? そしてどこから手を付ける?」

 

 先任将官がキルヒアイスとオーベルシュタインを準備作業から引き離し確認する。他の幕僚達にとって短い期間であったが"この二人の頭をフル回転させて出たネタをまわりが詳細化する"という手法が一番早くて確実という事は理解できていた。故にこの二人には準備作業などで体を動かす暇があったら頭を動かさせる。

 

「全てを任せても大丈夫そうな作業の仕分けをして長官や参謀長に差配してもらいましょう。また、我々は前に集中する必要があるので後方の特に支援物資については万全を期してもらう必要があります」

 

「敵軍の情報を得る手段の構築を、イゼルローン回廊からの移動を感知できる探索網と各地に残す諜報員の編成が必要です。正しい情報が得られないと適切なタイミングでの物資引き上げが出来ません」

 

 自分達以外の人の作業の事と後方の事、自分達の作業の事と前方の事。ものの見事に正反対な返答を聞いて思わず先任将官が吹き出しそうになる。

 

「わかった。まずは全員で全てを任せる仕事の選別を行う、それらは基本長官と参謀長にまとめてもらう。その後は中佐の言う内容を細かく詰めるとしよう。あと、既に出している後退命令はそのままお任せ側の管理になるだろうからその中で"引き上げずに残してほしい物"などがあったらあらかじめ考えておくように」

 

 二人が頷くと先任将官が「早めに巻き込んでくる」と言って参謀長の方に足を進める。"後でこういう話が行くので差配してもらいます"という事前予告である。それを言っておけば話が行く前から長官と参謀長が勝手に事前準備をしてくれるだろう。"遠慮なく使え"というのであれば有り難く使うまでである。

 作戦室も作り終え、まずは作業仕分けを開始する。といってもここまでの作業で大まかな区切りは出来ているのでその再確認と整理が主となる。作戦範囲は戦闘圏、被戦闘圏に分けられた。戦闘圏は最前線(民需物資引上(=焦土戦)対象地)・前線(民需物資引上非対象地)・回廊出口付近の3領域、被戦闘圏は民間支援拠点・艦隊支援拠点・その他の3領域、帝国領をこの合計6領域に分ける。そして幕僚達は被戦闘圏の管理を全部任せる事にした。他部署からの応援人員をかき集め、参謀長を呼び寄せて説明をする。説明と言っても要約してしまえば「これから我々は戦闘の事だけを考えますので後ろは全部お任せします」である。

 

「これが一番判り易い分担とはいえ丸ごとか。まぁいい、その代わりに貴官達が引き受けるといった物については一切の妥協を認めんぞ」

 

 とアーベントロートが苦笑いしつつ受け入れる。時期も範囲も明確になったここからが幕僚達の本番開始と言えるだろう。

 

 

 七九六年九月二日 最初の艦隊が出撃して一六日、長官直属艦隊が出撃して一〇日

 

 幕僚達はこの一〇日で大まかな行動方針を作成、指示可能なものについては命令を発動した。長官直属艦隊が現地に到着するのはまだ一ヵ月前後の時が必要であるが敵艦隊はそれよりも早くイゼルローン回廊を出てくる。敵艦隊の出撃開始が八月二〇日だと仮定すると現地が安全に事前準備出来るのは三週間後くらいが限界だろう。となると残る準備期間は一週間程度しか残っていない。ワープ航法での移動の為、ワープアウトして次のインまでの間しか情報の送受信と分析が行えず現地への細かい調整指示が難しい状態となり小さな入れ違い、ミスも発生し総旗艦ヴィルヘルミナはストレスの溜まり始めた高級士官達の形容しがたい"嫌なオーラ"が漂い始めていた。

 その中で幕僚チームは比較的冷静さを保っていた。もはや中心となっている二人、ストレスを感じている所を見た事のない大佐とそもそも感情が判らない中佐というコンビは他の幕僚達を巻き込んで淡々と工程を積み上げていく。しかし万事が万事、彼らだけで解決出来るという事ではない。

 

「最前線から引き上げる物資の"種類"が足りません」

 

 オーベルシュタインのその言葉に周囲の者が"なんだそれは? "という顔をする。

 

「それだけではよく判らん。詳しく話したまえ」

 

 先任将官の突っ込みを受け、オーベルシュタインが詳細な説明を始める。

 

「現在の引き上げ対象物資は敵軍の兵站に負担をかけ、動きを止める事に主軸を置いております。故に食料や生活必需品が中心です。これだけですと"敵艦隊の戦闘力を削ぐ要素"がありません」

 

 この一言で"種類"の意味を皆が悟る。つまりは、

 

「艦隊固有の戦闘力に直結する何かを提供しなくてはいけない状況を作り出さねばならない、という事か」

 

 先任将官の言葉にオーベルシュタインが頷く。

 

「どのような大義名分があろうと、空腹で動けなくなる前には引き上げるでしょう。しかし、そこまで待ってしまった場合、政府や軍上層部に許容してもらえない損害が一般民に降りかかる可能性が出てしまいます」

 

 "略奪"という言葉が皆の頭によぎる。流石にその発生を判っていて見守っていたとなったら許容などしてもらえまいしオーベルシュタインの"やむなし"のラインも越えてしまう。

 

「……艦の物資管理担当と他部署からの増援で民需に詳しそうな者、それに補給艦の一般的な積荷に詳しい者。でいいな?」

 

「それで良いと思います」

 

 判りそうな人をかき集めて考えさせる、という事である。今ここで幕僚達から意見が出てこないという事はその手の事に詳しい者がいないという事だろう。艦単体や艦隊などに関わる事なら判る。しかし、民需品との関係まで詳しく理解している者などめったにいないだろうから仕方ない。

 

「となると敵の戦闘力が削がれていない状態で攻勢に出なくてはいけない時のパターンを更に細かく考えておく必要があるな。ははは、やっと前準備の構築が終わり実戦闘を考える段階に来たという事だ。まだまだ休まる時は無いな」

 

 先任将官のその一言に幕僚達がげんなりとした顔になる。しかしまだ実戦闘の詳細はまだ定まっていないという事実は存在する。あと一〇日程度も過ぎれば招かれざる客人はやってくるのだ。それまでになるべく丁寧で盛大なお出迎えの準備を整えるのが彼らの仕事なのである。

 

 

 イゼルローン回廊出口付近にばら撒かれた使い捨て定置型ドローンが艦隊規模の同盟軍を最初に感知したのはそれから九日後の九月一一日の事であり、その時の帝国艦隊は最も進んでいる艦隊ですらイゼルローンまでまだ二〇〇〇光年の距離を残していた。

 





 敵軍・侵攻軍・叛徒軍、国民・臣民・一般民 この辺りの用語がぐちゃぐちゃしてますが目をつむってください。

 あぁ見えて、実の所同盟の方が出発前準備期間は充実してたのである、という話。要するに帝国側の幕僚達は同盟(キャゼルヌ達)が侵攻決定(8/6)から各艦隊出撃開始(8/20)までの間にやった準備をさらに短い時間でやらないといけなかったわけである。双方芋づる式の綱渡りならぬ綱走り。
 先任将官さんは実は原作キャラなのですが名前を出さずに先任将官と書いてしまったので当面このままですw

 原作で同盟軍に戦闘力を削がれる何かがない限りあれだけボコボコになるはずがないと思うんですよ。焦土作戦で食料以外の何かが奪われているはずです。

※1:現在座標が確認出来る事
 現在座標を正しく計測できないと次に飛ぶポイントの計測が出来なくなる。現在座標が判らないまま憶測でワープを続けてしまった場合、いわゆる"迷子"になる。当然ながら間違えた航路データで間違えたワープを繰り返してしまうと死にかける(原作外伝2のドールトン事件)

※2:イゼルローンの補給物資
 イゼルローンの補給物資は駐留兵力の維持・籠城時の物資であり安易に減らすわけにはいかない。例えば三個艦隊が二ヵ月分の物資を同盟領侵攻の為に持って行ってしまったら駐留艦隊にとっては半年分の物資がなくなってしまう計算である。そしてそれを受け入れられる程の予備物資となると一個艦隊常駐用の物資としては明らかに過剰となる。
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