偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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少ない脳味噌で原作でさらっと流している所をなるべく書こうとしてるので苦しむ。


No.16 帝国領侵攻作戦(6)

 

 

「閣下、総司令部からの秘匿通信です。輸送艦隊の予定です」

 

 フレデリカが一枚の紙をヤンに差し出す。全てを端末で済ませる人もいるがヤンは紙を好む。人に何かを押し付ける事は好まない彼なのだがこれに関しては皆に"お願い"している。

 

「出発は三日後の八日で到着はそれから四~五日後の予定、か。予定より一週間近く巻いているね」

 

 当初の予定ではイゼルローンから最後の艦隊が出発してから約一ヵ月後に輸送艦隊は出る予定であった。そう考えると六日程度は早まっている。その為に一番苦労をしたであろう人を知っているだけに"足を向けて眠れない"とはまさしくこの状態だろう。

 

「輸送艦隊の安全は確保されているのでしょうか?我々から移譲された後方哨戒は思った以上に総司令部がやってくれているのですが・・・・」

 

 参謀長ムライ少将が最大の懸念を口にする。総司令部はなんと一〇〇個の分隊(一六隻程度)を繰り出して哨戒活動を行っている。同じ分隊レベルでの遭遇戦は発生しているが哨戒網に穴は開いておらず、潜伏している敵も大してはいないだろうと予想されている。

 

「哨戒そのものも良くしてくれているし何処かにいると判っている潜伏部隊はそこまで多くないだろう。それを踏まえて総司令部が用意した輸送艦隊護衛は一個分艦隊"二四〇〇隻"だ」

 

 二四〇〇という数に皆が感嘆とも喜びとも見れる顔を浮かべる。

 

「確か総司令部直轄が六〇〇〇隻、哨戒と護衛に四〇〇〇隻となると限界まで出しているといえますな」

 

 副参謀長パトリチェフ准将が確認するようにゆっくりと語る。残りの二〇〇〇隻は流石に使えない、総司令部が動けなくなる。そう考えると四〇〇〇隻を出しての支援は総司令部が行える最大限だろう。

 

「という事は出発直後に発見されてしまった場合、前線の各艦隊は到着直前の一〇日前後が一番"危険"という事だね」

 

 安堵の表情となっていた幕僚達にヤンがさらりと重要な事を呟く。

 

「焦土戦として最大限の負担をかけるのであればぎりぎりまで様子を見るのも手段ですが長期戦にはしない、と」

 

 ムライが焦土戦=限界に追い込んでから攻撃、という常道を示しつつヤンに説明を求める。

 

「長期戦は待つ側にも負担がかかるからね。それに帝国にしたって国民を長く苦しめるのは政治的に良くないだろう。なによりも補給を受けて落ち着いた我々が安定する所まで範囲を縮めてしまったら致命的だ。初めての国内戦であると言うリスクを考えれば長引かせずにこのタイミングで打って出る事も十分にありえる」

 

「ならば各所に警告を発するべきでは? いえ、今の状況では・・・・」

 

 ムライが自分の進言に?マークを付与する。ヤンも幕僚達も苦い顔をする。今、第一三艦隊は己の位置を秘匿する為に高出力(=遠距離)の通信発信を禁止されているのである。例外が直近の第五艦隊との通信のみである(それも必要最低限と釘をさされている)

 

「警告の話なども含めてビュコック提督に相談しようと思う。それに、艦隊の位置を事前に知らせておかないと補給を受け取れないからね」

 

 ヤンが苦笑交じりに語る。こちらからの通信は禁止されているが先任であるビュコックには必要に応じて"伝令"を出す許可を受けている。伝令というのは文字通りの意味であり通信する艦が1日全力で後方に移動しそこで発信するというだけである。現在地を悟られない為の原始的な手段だが原始的な分、非常に有効である。回答はその場で聞いてから戻るかその場から秘匿通信を使って伝達をするかである。

 

「では、相談したい内容をまとめよう」

 

 ヤンの発言を合図に各自が思い思いに意見を述べる。ここでまとめた内容がビュコックを通じて各艦隊に伝達されるのだがこれが今のヤンにとって"通信制限をされている一個艦隊司令官"に出来る精一杯の事であった。

 

 

「五隻撃破でこちらは修理可能な損傷が二隻か。今回は不意打ちに成功したお陰だな」

 

 シュタインメッツが額に滲んだ汗を拭きつつ呟く。分隊レベルでの行動は常に緊張を強いられる。何せ一六分の一の確率で自分の艦が撃たれるのだ。

 シュタインメッツ部隊はその活動位置を変更していた。一週間程度前からであろうか、イゼルローン回廊より哨戒任務と思われる多数の分隊が出撃し前線とを結ぶ航路の保護を開始した。彼は部隊を下げて監視し哨戒ラインぎりぎりの位置を確認、その付近の隠蔽可能ポイントのいくつかに性能の良い偵察巡洋艦を単艦で配置、電波妨害装置なども駆使し徹底的な隠し覗き窓にした。しかし、そのポイントは複数艦が入り込むのも難しい場所なので担当艦以外は暇になる。そこで彼はそのポイントから敵の目を逸らす意味合いを込めて活動箇所を移動し危険を覚悟で哨戒部隊との小競り合いを開始したのである。

 

「では、予定の位置まで後退します」

 

 艦長が確認をし、シュタインメッツが了承する。彼はこの活動開始の為に間借りしていた偵察巡洋艦から本来の乗艦に戻っていた。その偵察巡洋艦は一番性能がいいものだったので一番危険位置に近い覗き窓担当になったのである。色々と小言を言われてしまったし実際に危険な行動ばかりさせていたので、作戦後上官への報告書には個別の勲功枠として記載しておこうとシュタインメッツは決めていた。

 

「哨戒ルートは半固定とみて良いのだがもうそろそろ"予備"が追加で来て遭遇率が上がる頃合いだ。しかし、もう少し続けねばならん。奴らが侵攻してもうそろそろ一ヵ月、このタイミングで哨戒を厚くしたのだ。本格的な輸送艦隊がそう遠くないうちに回廊から出てきてもおかしくない」

 

 ディスプレイに映される情報を睨みつけつつシュタインメッツは考える。事前に配置していた監視ドローン等はかなり目減りしたがそれを引き換えに哨戒ルートや数についてはかなり把握できた。しかしながら困ったことに数が多い。少なくとも五〇だか六〇だかそれくらいの分隊を繰り出さないと計算が合わないレベルの頻度なのである。こちらは直轄部隊で一〇個分隊が精一杯(お高い偵察巡洋艦はこういうドンバチに気安く投入できない)、これで相手の航路を定期的に覗けるだけの接近をしなくてはいけない。隠し窓から敵の目を逸らす為の接触でもあるが見張りがその隠し窓だけだと見逃す可能性がある。隠し窓とここの二ヵ所で見れるようにする必要があるのだ。

 後退後に同じように"つついてみた"他の分隊の情報を集める。総勢一六八隻の部隊を元に一〇個分隊を用意し、二~三分隊で"つっつき"を実施している。本来、哨戒同士の衝突と言うのはあまり発生しないのだが、見たいポイントが限られている事と相手の哨戒網がやたらと濃いので想定以上に消耗している。

 

「四日で一個分隊分が喪失及び戦闘不可、か。・・・・あと一週間続けて動きが無ければ次の手を考えよう」

 

 シュタインメッツが苦渋の選択をする。あと一週間続行けた場合、単純計算であと二個分隊程度は駄目になる。全体で考えれば三割近い損耗となり一つの戦いとしては非常に高い損害率になる。しかし、この哨戒網をわざわざ敷いて二~三週間も追加の動きが無いとは考えられない。前線とはスケールは違うが苦しい我慢比べである。

 その我慢がある意味報われたのはさらに数日が経過した一〇月八日の事であった。

 

「数千隻規模の艦艇移動を感知」

 

 隠し窓の一つから発せられたその通報はシュタインメッツが苦心して作り出した迂回通信網を通り彼の元に辿り着く。どこかにいるであろう友軍本陣にも辿り着くだろう。

 

「数的に純粋な戦力強化ではなく輸送部隊とその護衛である事は確かだろう。少し移動して明日、偵察巡洋艦も込みで全艦出して詳細を確認するぞ」

 

 隠し窓は距離的な問題もあり艦艇の塊は感知できるが艦種などの詳細までは判らない、それを確定させる為の強硬接近である。シュタインメッツ部隊の各分隊は敵哨戒網を乱して穴をあける陽動、本命はそこをすり抜けさせる偵察巡洋艦だ。これ(輸送部隊発見)がメインオーダーなのだから出し惜しみは無しである。シュタインメッツは部隊を損傷艦を除いた艦で八個分隊に再編成、二個分隊に偵察巡洋艦数隻を追加したのを一チームとして四チームを構成し残りの偵察巡洋艦はすり抜け担当とする。二個分隊を組ませるのは今回は敵哨戒分隊を避けるのではなく打ち破って道筋を作る必要があるからである

 

「敵部隊の予想位置はこのあたり、俺達の部隊が穴をあけるのでそのエリアを中心に偵察するんだ。一日動いて見つからなかった場合は各自の裁量で退避ポイントまで撤収してくれ」

 

 集合した各艦にシュタインメッツからの命令が伝えられ、出発する。今回はメインの航路に偵察巡洋艦を送り込む事が目的なので四チームはばらけずに一定の距離を保って突き進む。敵哨戒分隊と遭遇したら一チームを残して他は進行継続。分離した分隊は敵を徹底的に攻撃、その後はその周辺でアンテナを伸ばし近づく敵分隊を可能な限り攻撃しつつ"哨戒ライン外に追いやられるようなルートで動きながら"誘導。四チーム使い切るまでには偵察巡洋艦を放つエリアまでは進めるだろう、という計算である。相手の数が多いとはいえ至近距離に全ているという事ではない、作戦終了まで活動できればそれでいいのだ。そうして突き進んだシュタインメッツ部隊は敵哨戒分隊と二度遭遇したが予定通りチームを当てて前進、哨戒の壁を突破した所で広域偵察担当の偵察巡洋艦達が予定していた方面に散らばる。

 

「後は追いかけっこだ。といってもこちらが追いかけられる側なのだがな。相手には"強行突入しようとした偵察隊を追い払った"と思ってもらわねばならぬ」

 

 シュタインメッツは残り二チームをUターンさせ、戦闘を行ったもう二チームとの合流を目指す。合流をすれば一〇〇隻を越える数になる。敵哨戒分隊が群がってくるとは言え流石に二〇や三〇の分隊が同時に来ることは無いのだから適度に戦いつつ逃げききれる自信はあった。

 

 

「前方の哨戒ラインで複数の小競り合い?所詮は哨戒部隊で小競り合える程度の数という事だろう。念の為、総数だけは確認しておけ。進路そのまま、予定の航路に変更なしだ」

 

 グレドウィン・スコット少将率いる同盟軍の輸送艦隊は予定の航路を予定通り進んでいた。元々、小競り合いの情報は入っていたしその規模も分隊レベルのつつき合いであるという事も知っていた。彼の輸送艦隊に対する唯一にして最大の任務が「期日までに確実に届ける事」という事もあり、この程度で変更させるわけにはいかない。しかし、その完全な予定通りのルートであるという事が見つけたい側にとって有り難いのである。帝国も同盟も速度に差がある訳でもないので一日でこれくらいというのは比較的簡単に計算できる。そこに多数の偵察巡洋艦をばら撒けば発見の難易度は高くない。そして、

 

「最大戦速、相手の横をすれ違うぞ。敵艦種識別に全力を傾けよ」

 

 その偵察巡洋艦の一隻が左前方にそれらしき部隊を発見、すかさず艦長が指示を出す。数千隻規模であり隠し窓が発見した塊と同レベルである。偵察巡洋艦がいわゆるステルス性を考慮されているとはいえ艦種識別可能な距離まで接近すれば流石に見つかる。あとは"一隻"という数をどう考えるか、だ。そして急速に近づく艦を発見した輸送艦隊の対応は"無視"。一隻で攻撃してくるはずもないし最大戦速ですれ違う単艦を落とす為に部隊を動かすのも馬鹿らしいという判断である。

 

「奴らは別に見つかってもいいと思っているのか、単純に馬鹿なのか・・・。ならば有り難く情報を頂くとしよう」

 

 艦長はそう判断すると更に寄せつつすれ違う。距離だけでいえば高出力ビームなどはもう射程距離に入っている、しかし"真横に撃てるビームは無い"。

 

「反応あり!!一〇〇〇万トン級輸送艦が・・・少なくとも数百隻!!!!」

 

「符丁発信!!! 右回頭だ、逃げるぞ!!!」

 

 お高い偵察巡洋艦だからこその強力な通信機能を全開にして符丁が発信される。可能な限りのルートでそれは帝国軍全体に伝達される。それと同時にその符丁発信はシュタインメッツ部隊の任務達成を意味していた。

 

 

「全軍に伝えよ、作戦開始は一一一二である。本陣は予定の位置に移動、現地からの目も発進させろ」

 

 ミュッケンベルガーの号令で帝国艦隊は遂に"決戦モード"に移行する。符丁受信の情報を受けた帝国軍総旗艦から輸送艦隊の位置、予想速度を元に定められた決戦日時が通達される。一一一二は一一日の一二時という意味である。足止めに成功した敵六個艦隊にはそれぞれ一個艦隊を割り振っており既に一定距離を置いて布陣済み(A方面)。残りの五個艦隊のうち三個艦隊は未発見の敵二個艦隊を引き付けたかった領域まで一気に進む(B方面)。現地に用意していた目(偵察部隊)は主要航路を通って奥(イゼルローン方面)に突き進みあえて見つかる事で存在を見せつける。見つからない二個艦隊に対応を強要させる為である。残りの二個艦隊は予備としてA・B両方面に直行できる位置に待機、未発見二個艦隊がすぐに見つかった場合はB方面に合流し合計五個艦隊で袋叩きにする。見つからなかったらA方面の増援にする。ここまで来たら総司令部で細かい指示は出来ない、各艦隊の健闘を祈るのみである。

 

 

 戦闘開始まで、あと四〇時間。

 

 

 





 毎週このくらいの時間に、というのを一つの目標にしようかな、と。

 山盛りの哨戒部隊と輸送艦隊護衛の一個分隊二四〇〇隻を差配したのはフォークです。こちら(総司令部)から後陣部隊(第五・一三艦隊)に前進しろと言った立場上「なら受け持っていたい哨戒はそっちでやって」と言われて断れないし、輸送準備をしてるキャゼルヌからは護衛はきっちりきっちりと五月蠅いし、となっていた所でロボス(グリーンヒル承認済)から「最低限の総司令部護衛を除いて直轄使っていい」と言われたので「輸送護衛に一個分艦隊(二四〇〇隻)、哨戒に一〇〇個分隊(一六〇〇隻)、分隊は三分の二使ってこんな感じのラインでローテションで見回りして残りは予備。これで駄目なら総司令部手持ちでは対処不可能。じゃ、あとの細かい所はよろしく」という感じであっという間に手配しました。グリーンヒル&キャゼルヌからも文句なしの一発回答。まぁここまで綺麗にやれたのは本人が前線に出るつもりが無い(=直轄を使ってもいい)&「こんな地味な作業はさっさと手放したい」という気持ちが起こした無意識最適化思考のお陰ですがw 困った(?)事にやっぱり地頭はいいんです、でないと将官にはなれません。
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