響きだけで設定した リカルド という名前が リヒャルト と同じということなので リカルド・オイゲン→ラムゼイ・オイゲン に変更しました。
殴り合い宇宙(そら) 開始です。
「情報が正しければ相手は第一〇艦隊ウランフ中将。敵軍において三本の指に入る勇将、武人の本懐であると言いたい所だがこれはただ単に貧乏くじを引いただけという事ではなかろうか?」
旗艦艦橋で"その時"を待つアーダベルト・フォン・ファーレンハイト中将がやや首を傾げながら呟く。実の所、彼の心境としては不安要素だらけなのである。相手は同盟軍随一の将、自分は艦隊指揮官なりたてで万余の指揮では初陣、相手の艦隊は情報通りなら一五〇〇〇隻、こちらは一三六〇〇隻。相手に増援予定はないがこちらにも無い。とどのつまりは
(補給万全での"殴り合い"だとしたら数と経験値に劣るこちらが普通に負けるぞ、これは)
という事なのである。司令部の策がきちんと効いているのなら敵艦隊は推進剤を筆頭に艦隊の活力に響く要素を手あたり次第占領下の民需として提供するはめになっているはずである。そもそもその策が成功していないと食料以外の要素で艦隊の戦闘力を低下させるものが無い。帝国軍は総数で優位に立っているが全戦場で優位な数を一つ一つ用意している訳ではない、ここを筆頭に半分程度の戦場では一対一のガチンコである。これだけ必死に準備しても予想が少し外れるだけでいくつもの戦場で"返り討ち"が発生してもおかしくないのだ。
「接触まであと一分」
オペレーターの声で現実に引き戻される。何度も見た光景であるが今回は命令してくる上官はいない、全て自分でやらねばならぬのだ。初陣以来の重圧が圧し掛かるのを感じる。
「もはやただやるのみだ。撃ち方…………始め!!!」
七九六年一〇月一一日正午、帝国領内において初めての艦隊戦が開始された。
「ほぅ、ねちねちと消耗させに来ると思ったがなかなかに積極的だな。いや、積極的と言うか落ち着く事が出来ないといった方がいいのかもしれん。敵旗艦の識別を急いでくれ、多分俺が相手をした事のない敵だ」
状況的に有利になれるはずのファーレンハイトが不安を隠しつつ戦うのに対して不利を自覚しているはずのウランフには余裕すら感じられる。しかし実際の所、彼の艦隊はいつもとは違う状態となっていた。帝国軍の策により推進剤をはじめとする"通常の戦闘では欠乏を考えなくていい"物資が多数予備無しの状態となっている。普段の戦場で弾薬以外の有限物資が不足する事はまず無いと言っていい。それらの物資は生存して動くのに必要な為、予定してる最大活動期間+αで用意しているのである。そうでなければ戦場で集中できない。
「やはり上手く動けていないようです。損失ペースはいつもの比ではありません」
参謀長のチェン少将がディスプレイで色々な数値を確認しつつ報告する。この戦いにおいて艦隊の各艦は機動に使用する推進剤の最大出力などを絞る事で不足している物資の消費を抑えている、そうしないと無意識に使ってしまうのだ。この手の消耗物資は最大出力に近づくほど燃費が加速度的に悪くなるので一割~一割半も絞ればそれに倍する燃費の改善となる。しかし、この少しの動きの違いの分、機動も回避も遅れるので損害は増える。この消費と損害のバランスを何時まで保てるかが指揮官の腕の見せ所だろう。
「情報を見る限り損害の絶対数は同程度に抑えている。だとすればこちらが物資に負けるか相手が恐怖心に負けるかの競争だ。恐怖に負けてくれたなら"あれ"を使って一気に逃げる」
ウランフが見つめるディスプレイの隅には艦隊の総予備と見られる場所に待機するアッテンボロー分艦隊の姿があった。
(本当に相手は弱体化しているのか? この損害数は弱体化のせいなのか? 俺の手腕のせいなのか? あの予備はどう使うんだ?)
艦隊戦はファーレンハイト艦隊が徐々に前進し、第一〇艦隊は徐々に後退はしている。けれどもファーレンハイトの不安は収まるどころか膨れ上がる一方であった。最初はとにかく"押す"と決めてあらゆる手段で主導権を握って叩きに行ったはずだったのだがいつの間にか主導権もなにもないただの叩き合いになっていた。こちらが動く、相手が合わせて動く、それを見てこちらが……となりお互いにいい形を作ろうとするのだが手と手の間の考える時間が相手の方が明らかに早い。その結果、いい形になる頃には相手も同程度の形になり攻撃が同着になってしまう。明らかに艦隊運用の"腕"が違うのだ。同時に撃ちあう結果、同じような損害を双方が受ける。
「どこかで流れを変えなければ最後の一隻までの撃ち合いになりますぞ」
「わかっている。いつか相手は息切れするだろうという希望論だけで続けるつもりはない。あの予備隊の動きえ掴めれば動きようはあるのだが……」
第一〇艦隊の右翼最後尾に位置する一部隊は予備隊なのだろうか全く動く気配が無い。数にして二〇〇〇弱。これが動いていないので実際の戦場でやりあっている総数は若干ながらこちらが有利である。それにもかかわらず損害は相打ちと言うべきペースなのだからその予備隊が本気で勝つ為の切り札なのだとすると…………
(少し様子を見るべきか)
「喪失乃至大破、全体の二割を突破しました」
参謀長の報告が決め手となりファーレンハイトは少し落ち着かせる事を決断する。
「前進速度を緩めよ、長距離主体の位置まで間を空ける」
落ち着かせる為には当然の命令であるがこれがウランフの望んでいたタイミングであった。
「行動プラン発動!! アッテンボロー、行け!!」
その一瞬を逃さず、ウランフが全艦艇に指示を飛ばす。艦隊全体が後退を停止し前進に転じる。そしてアッテンボロー率いる分艦隊(二四〇〇隻)が艦隊の横をすり抜け最大速度で敵左翼に突入を開始。見かけ上は明らかに動きを止めた敵への全力反攻である。
「やはりあれが切り札か!! 艦隊を後退させろ!! 右翼部隊は全力攻撃準備、敵本隊が追いつく前に打ちのめせ!!」
全面反攻と判断したファーレンハイトが立て続けに指示を出す。飛び出してきた予備隊は本隊を追い越して最大速度で突っ込んでくる。少しでも後退して予備隊と本隊の間を空けたうえで予備隊を叩ければ各個撃破の形になれば総数でこちらが上回る事も出来る。そう考えて後退しているファーレンハイト艦隊に対して予備隊は完全に飛び出した状態になり目論見が成功しようとしていたのだが……
「て、敵本隊停止!! いや、後退しています!!」
「なんだと!」
「敵突入部隊が分離! 一部が前進を停止し、残りがそのまま突っ込んできます!!」
敵本隊がいつの間にか前進を停め、後退に入っている。予備隊との連携どころか完全に無視しての後退である。そして予備隊も二~三割が前進を停めて残りが突っ込んでくる。
「後退停止!! 全砲門突っ込んでくる部隊にぶつけろ!! とにかくこいつらを薙ぎ払え!!!」
慌てて集中攻撃を開始するが突入部隊は突撃を止めない。明らかにオーバーヒートになる過剰出力でビームを放ち、バリアを張り、そのままま突っ込んで正面衝突する艦すら発生する。暴走する艦艇の群れをなんとか"全滅"させてひと息つく頃にはそれ以外の敵艦隊は追撃可能距離の先まで逃走していた。
「あれは無人艦だったのでしょう。初期突入位置を指定し後は艦が沢山いる方向に自動転回。壊れてもいいので最大出力で攻撃防御。艦を使い捨てにしていいのであれば有効な攻撃方法でしょう」
追撃の為に乱れた陣形を再編している途中、情報をまとめた参謀長が報告をする。
「俺が怖気づいて止まった瞬間にあれだけの動きをしたという事は完全にあの逃亡から逆算して予定を立ててた行動であったわけだ。まぁ殴り合いを続けていたら更に数を減らした状態であの突撃を受ける事になるのだがな。しかし……」
ファーレンハイトが最も重要なポイントに気づく
「あのタイミングで敵本隊が本当に攻勢をかけてきた場合、確実に粉砕されていた。それをしなかったという事は逃げるのを最優先にしていたと言えるし攻撃できない状態であった可能性も高い。そもそも物資の欠乏が元で逃げたいとならない限りあれだけの艦を使い捨てにはしない。ならば出来るだけ早く追撃をする必要がある。補給前に追いつければ戦果は一気に拡大するぞ!! 再編成急げ!!!」
気合を入れ直したファーレンハイトであったがそこに思いもかけない"攻撃"で追撃が遅れる事となる。
「民間通信によるリューゲンからの救援要請です」
オペレーターからの報告にファーレンハイトと参謀長が顔を見合わせる。
「罠だな」「罠ですな」「しかし」「はい」「無視する事は不可能だ」
「そう来たか! くそっ!」
ファーレンハイトが思わず司令官席を蹴飛ばしそうになり、ぐっとなって耐える。
「意趣晴らしと言う奴か。逃走後にタイミングを合わせてるからには完全な仕込みだ。だが最低限、確認だけでも行かねばならん」
艦隊が攻撃に専念できるようにと住民への支援部隊は別途編成されているので一~二日もあれば到着する。けれどもその支援要請が本物でその一~二日が待てずに何か起きてしまったら一大事である。それが本当か偽者かの確認の為に現地に行かねばならない。現地の軍は撤収しているが諜報員が残っているはずなので長距離通信は無理だとしてもすぐ近くであれば連絡は取れるだろう。かといって本当に至急の救援が必要だった場合、艦隊の物資からの融通が必要となるし人を下すとなったら現地にどれだけの残兵がいるかもわからないので少人数でいくわけにもいかない。
「奴らは大義名分の為に要請を断れなかった。立場は変われど俺たちも同じで要請は無視できん。なにせ自国の一般人だからな」
ファーレンハイト艦隊が惑星リューゲンの軌道上まで移動し、それを発見した現地諜報員からの短距離通信で状況を知るまでに数時間を消費。その後すぐに追撃を再開するが行く先々の惑星で同様の足止めを食らい、(撤収に間に合わなかった地上要員の捕虜以外の)新たな戦果を得る事は出来なかった。
「何とか安全圏までは逃げきれたと考えていいだろうな」
その宣言を聞き、幕僚達が安堵のため息を漏らす。第一〇艦隊は侵攻ルートをほぼ逆走し占領下だった有人惑星からの撤収を支援、逃げつつばら撒いた監視ドローンの反応を元に捕まる前に次への移動を繰り返しつつある程度の距離を置く事に成功した。それでも時間の関係で地上要員の完全撤収は行えず四分の一程度が残される事になった。それでも結果として先陣任務群の中では最も沢山の地上要員を連れて帰ることが出来たのである。
「後陣からのおすそ分け、アドバイスを元に仕込んだ足止めの仕掛け。あとはまぁお前のアイデアも助けになったと言っておこう」
「お褒め頂き恐悦至極」
ウランフの言葉にスクリーン越しのアッテンボローが砕けた仕草で応える。実際の所、一八〇〇隻もの無傷の艦艇を無人使い捨て突撃兵器にしてしまうなど普通の頭では思いつかない。こう見えても彼は今年で二七歳、今准将でこの戦いが終われば(恐らくは今回の功績で)少将。もしかしたら二〇代の艦隊司令官すら視界に入る超エリートなのだ。
「それで、これからの行動だ。補給部隊とも合流出来たので動こうと思えば動くことが出来る」
ウランフの言葉に幕僚達と(スクリーン越しの)各分艦隊司令官が反応する。
「地上要員は補給部隊の帰路に便乗させてもらおう。ついでに被害の大きい艦も同行させる。元々の護衛艦艇と合わせれば回廊付近で小競り合いをしている敵小部隊程度なら守り切れるはずだ。それ以外については総司令部との通信が取れ次第、その指示に従う事となる」
総司令部という言葉に顔をゆがめる者もいる。あまり良い印象を持たれていないのも仕方ない。
「あの作戦参謀もいなくなっている事だしここに至って反攻作戦という事も無いだろう。恐らくはそのまま撤退か他艦隊の撤退支援になるだろう。すまんがもうひと踏ん張り、力を貸してくれ」
ウランフの言葉に皆が力強く頷く。撤退させた損傷艦を除き、残るのは約九〇〇〇隻。第一〇艦隊は未だ健在であった。
しかしウランフが撤退支援として考えていた二つの艦隊、同じ任務群に所属する第三・八艦隊はそれぞれ別の意味で支援不要な状況となっていた。
「悪い、間が悪すぎる! しかもこれは私のミスだ。すまぬ!!」
第八艦隊司令官アップルトン中将は断腸の思いで撤収作業の打ち切りを決断する。第八艦隊は命令が届く前より独自の判断で"配置転換"を実施していた。しかしながらその影響で主だった輸送船が一時的に占領領域後方に移動していたタイミングでの本命令受領となってしまったのである。後方から空にした輸送船を最前線に移動させている間、少ないシャトルでピストン輸送を試みるも限界があり輸送船到着が間近に迫った時に敵艦隊襲来が知らされたのである。目の前の惑星は第八艦隊占領領域で最大の人口であり、当然ながら配備した地上要員数も最大である。これがほぼ丸々、取り残されたのである。
「輸送艦にはUターンさせろ、全艦総力戦準備!! いいか、逃げの一手だ。もう背中を見せられん距離だからひたすら後退して仕掛けで敵の足が止まるのを祈る。仕掛けへの伝達だけは怠るなよ!!」
「前進継続、戦闘開始」
これに対するフィリップ・フォン・アイゼナッハ大将の命令はいつもながら質素である。無口として有名なこの提督は治安維持、後方支援などのいわゆる"後方系"業務を得意としておりいつかはその部門のトップになるのは確実と言われていた。彼の本分としては攻勢後の支援活動を統括すべきものなのだが今回に関してはそうする余裕もなくこの艦隊としては珍しい全力出撃での艦隊戦である。支援活動については彼が主なスタッフを司令部に推薦したのだが自分よりも数段優れていると筆頭に挙げた従弟が彼に輪をかけて無口でありはたして適切にコミュニケーションを取れるのか? だけが心配である。
艦隊司令官としての力量は並、そして艦隊の主任務の特性上分艦隊単位での活動が多い為、アイゼナッハ艦隊の攻撃はやや精彩を欠くものとなった。それでも優勢に事を進められるのは前進に対する後退の難しさ、そして(物資消耗を恐れて)思い切り動けないという第八艦隊の苦しみなのだろう。それでも順調な撤退が成功したのはアップルトンの手腕であり、"仕掛け"に反応したアイゼナッハが支援の専門家故に"最悪の状況"を深読みしすぎて確認に手間取ってしまったからである。
第八艦隊はさらにもう一度、大規模な追撃を受けた(後方には輸送艦が多く配分されていたので撤収を欲張りすぎて追いつかれてしまった)がその頃には補給も受けており艦隊を削られはしたものの余裕を持った撤退に成功。最初の惑星で多数の残留者を出してしまった事以外は理想的な結果となった。
理想的な撤退が成功した第八艦隊と真逆の結果になってしまったのが第三艦隊である。
第三艦隊司令官ルフェーブル中将は撤収作業中の友軍を見捨てることが出来なかった。惑星手前にて防衛ラインを構築、引き上げが完了するまで死守する姿勢を示したのである。
「それは好都合だ。敵艦隊の拘束のみを考えて行動せよ。後は予備隊から高速な艦を抽出、撤収作業中の敵軍に回り込む素振りを見せるのだ。後は勝手に向こうが慌ててくれる」
相対するシュターデン大将は教科書通りの拘束・陽動の指示を出す。彼の戦域は本隊との距離が近く、一個艦隊の増援が約束されてというのもあり留まってくれるのはむしろ有り難いのである。後は友軍到来までの時間さえ稼げれば、と考えていたのであるが……
「友軍はいつ来るのだ????」
その友軍が予定の時間になっても来ない、そこから一時間経過しても来ない。流石に攻めあぐねる仕草にも限界がありシュターデンが本気の攻勢に転じてさらに一時間。彼らはやっとやって来た。
「さぁ、黒色槍騎兵の初陣である。焦らず急がず突撃しようではないか」
「閣下、とりあえず遅刻の弁明だけはしておいた方が良いかと」
黒色槍騎兵艦隊(自称・五日前に命名)司令官マクマン・フォン・カルネミッツ大将が仁王立ちでふんぞり返り、参謀長のラムゼイ・オイゲン少将が冷静に突っ込む。見慣れた風景なのだろう、誰も相手にする素振りが無い。
「カルネミッツ提督、遅刻ですぞ」
通信の繋がったシュターデンから早速の苦情申し立てがやってくる。
「すまぬ! 割り込んでいる時に敵の兵員輸送艦がバラバラに逃げてるのを見つけてしまってな。一通り捕まえているうちに時間が過ぎてしまった。しかし今、逃がそうとしている者たちはほぼほぼ捕まえたと思うぞ。小部隊だが別動隊を向かわせているからもう逃げ道は無いだろう」
カルネミッツの弁明にシュターデンが"ほぅ"っと反応する。
「それは朗報。ならば敵がそれに気づくまでに艦隊を片付けるとしましょう。守るべきものが無くなったと知ったら抵抗を諦めて逃亡を図る可能性があります。正面からの抑えは続けますので後は存分に」
「承知した」
基本方針が決まり、黒色槍騎兵艦隊が第三艦隊後方に急速接近する。シュターデン艦隊の攻勢への対応で陣形を大きく動かしていた第三艦隊はこの急接近への対応には後手にならざるを得なかった。そして当然ながらシュターデン艦隊は手を尽くして後ろを振りむかせない。
「両翼に力点を置いて敵を中央に寄せて半包囲を目指そう。シュターデン艦隊も同じ動きをしてくれれば全包囲だ。後はまぁ倍の戦力だしなんとかなるだろう」
カルネミッツが大筋を決め艦隊が前進する。黒色槍騎兵艦隊の初陣は本当に実力があるか判らない背面攻撃で開始された。
「さぁ、旗艦王虎(ケーニヒス・ティーゲル)の初陣だ。怒られない程度に突撃するぞ」
「閣下、とりあえず一番前に出るのだけはやめておいた方が良いかと」
先頭集団となる分艦隊のさらに先頭となる小部隊を率いるフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト准将が仁王立ちでふんぞり返り、副官のリヒャルト・オイゲン大尉が冷静に突っ込む。見慣れた風景なのだろう、誰も相手にする素振りが無い。
「駄目か?」
「駄目です」
ぐぬぬ、と残念そうにビッテンフェルトが唸りを上げる。そもそも先頭の先頭に立っているとはいえ指揮権を持つ艦は二〇〇隻にも満たない。その中でさらに先頭に立とうなど将官が選ぶ戦闘位置ではないのだ。
「せっかく頂いた王虎なんだがなー」
残念そうにぼやくビッテンフェルト。残念がるのも仕方がない、この王虎は本来准将などが乗るべきではない現役最新世代の艦隊旗艦クラスの高速戦艦(の試作品の失敗作)なのだ。
旗艦型高速戦艦王虎は第三世代艦隊旗艦の試作品としていくつか建造された艦の一つである。本来、艦隊旗艦に求められる最大要素は通信性能と生存性であり、如何にして指揮能力を維持するかが大事とされていた。その中で試作品という事をいい事に(一部の)開発設計班が"攻撃は最大の防御"という名目で暴走した結果誕生したのがこの王虎である。だが"絶大なる攻撃力"と引き換えに"通常型戦艦より多少マシな程度"の防御力となり"そもそも艦隊旗艦はその攻撃力が発揮出来るような位置では(危険だから)戦わない"という現実がこの試作品に埃を被らせる事になった。本来、試作品は運用試験として前線部隊に貸し出されるものなのだが誰も手を上げなかったこれをカルネミッツが面白そうだからと引き取ってプレゼントという名目でビッテンフェルトに与えた(=試験運用担当にした)のである。
「つまらん」
とぼやきつつビッテンフェルトが部隊の指揮を執る。それだけではつまらないので要請や進言と言う形で先頭集団の分艦隊司令官や近くの小部隊を仕切り始める。困った(?)事にそれがえらく正確なものだから力点を置いているはずの両翼と競える戦果を上げはじめ、負けてなるものかと両翼が奮闘する。良い意味での戦果競争が第三艦隊を無残にも切り裂いていった。
第三艦隊もただ打ちのめされている訳ではなかった。後方から猛進する黒色槍騎兵艦隊から逃れるように前進しつつ紡錘陣を形成、中央突破での離脱を試みる。しかしながら後方からの攻撃は恐ろし勢いで艦隊をそぎ落とし、正面のシュターデン艦隊は典型的な中央突破に対してこれまた典型的な迎撃を行う。つまりは自艦隊の中央にわざと隙間を作り敵の脱出を誘導、その通り道にいくつもの火線ポイントを形成、突破を図る敵艦隊を正面以外の全方面から文字通りの袋叩きにしたのである。第三艦隊の悲劇はさらに続く、それはこの艦隊の逃走先である。第三艦隊は地上要員が退避中であった惑星を背にシュターデン艦隊を迎え撃った、そしてそのシュターデン艦隊を正面から中央突破する形での戦場離脱をするハメになる。結果として第三艦隊は"本来逃げたい方向の一八〇度逆"に突き進む事になり、さらに追い立てられ、艦隊後方にいるはずだった艦隊用補給艦はカルネミッツに薙ぎ払われており、戦闘どころか動く為の物資の底が見えてしまった。どう計算しても逃げつつ帰還する事は出来ない。
第三艦隊残余、シュターデン艦隊に降伏。艦隊司令官ルフェーブル中将、降伏受領確認後、自決。
「降伏艦の処置や占領地の奪回は後続の支援部隊と共に私が行います。カルネミッツ提督は本隊の指揮下に戻り、指示を仰いで下さい」
「承知した。うちから出していた別動隊はそっちに合流するように命じるから申し訳ないが世話をしてやってくれ」
「了解した」
両提督は手短に会話を交わすと艦隊を移動させる。同盟軍先陣第一任務群の一次戦闘は終結した。それは艦隊だけでもアスターテ会戦に匹敵する損失であり、地上要員を含めれば同盟軍過去最大のものであった。しかし、その過去最大はもう一つの任務群が更新するのである。
同盟軍先陣第一任務群
戦闘艦艇(三個艦隊)
参加艦艇:四万隻余
参加人員:四〇〇万名余
損失大破:二万三〇〇隻余
損失者数:一八〇万名余
地上戦要員
参加人員:六〇〇万名余
損失者数:二七〇万名余
合計
参加人員:一〇〇〇万名余
損失者数:四五〇万名余
帝国軍
戦闘艦艇(四個艦隊)
参加艦艇:五万一八〇〇隻余
参加人員:六二〇万名余
損失大破:七〇〇〇隻余
損失者数:八五万名余
フィリップ・フォン・アイゼナッハ、ラムゼイ・オイゲン、王虎はオリジナル設定です。二名に関しては"原作キャラの親族を崩さない程度に出してみたかった"というものであり王虎はただのネタです。
次は久しぶりに帝国のあの人が出る予定だぞー! 苦しめー!(鬼)