偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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 皇帝に対する言葉遣い等については丁寧に書こうと思ってはいますが作者の頭に限界がある事をご了承ください。
 道原さんのコミックは良い意味で丁寧に描かれていると思います(故に連載にするには尺と場所が無かった)。藤崎さんのコミックは良い意味で駆け抜けていると思います(故にああいう描き方にしないと走り切れないんだと思う)。


No.24 継嗣問題

 

「それは本当か?」

 

 銀河帝国軍宇宙艦隊司令長官グレゴール・フォン・ミュッケンベルガー元帥は一瞬の狼狽を見せたが直に元の佇まいに戻り、その報を確認する。

 

「政府の非常用暗号通信です、間違いありません。政府、というより国務尚書(リヒテンラーデ)が速やかなる帰還を望まれております」

 

 参謀長アーベントロート中将が眉を潜ませて小声で応える。事が事だけに他人に聞かれる声で話す事が出来ない。

 

「…………叛徒軍はもう来ない、と考えていいと思うか?」

 

「その気があるのなら見える場所で集結するでしょう。占領区域を全て捨てて引いている以上、もう来ないと考えて良いかと」

 

「そうか」

 

 ミュッケンベルガーが目を閉じ、考え始める。しかし事が事だけに決断は早かった。

 

「元よりオーディンを長く空けるのは好ましくないと皆も承知しているはずだ。後処理を行う部隊を残し撤収する。幕僚達を集めろ」

 

 一〇月一六日、帝国軍は撤収を開始する。奪回地の回復作業、捕虜の取り扱い、万が一の同盟軍の逆襲への備えとしてシュヴァルベルク上級大将を総大将として四個艦隊(他艦隊からの臨時編入を行い完全充足状態)が残留する。他の艦隊は準備が出来次第一斉に帰路に就く。通常より移動基準を緩め、帰還予定日を若干繰り上げる。帰還時に一定の脱落が出る計算だが首都防衛艦隊を合わせて"あの勢力"を威圧するには充分であろう(※1)。

 

「気持ちは判らんでもないがもう少し落ち着いて欲しいものだ」

 

 帰還開始後三週間が経過した中でミュッケンベルガーが自分宛(政府非常用暗号通信&司令長官専用解除キー)の電信を読みつつぼやいてしまう。六〇〇〇光年の帰路は多少急いだとはいえ一ヵ月以上の時間が必要であり、その間にも定期的に政府から表向きの状況を知らせる電信は入ってくる。やはり正規軍不在の不安があるのだろう、帰還予定日に変更は無いか? 遅れは無いか? という文面が多い。崩御に伴う国葬はその準備に時間がかかる為に(残留組を除き)帰還そのものは間に合うのだがその後が問題だ。政治とは距離を置きたいのだが嫌でも巻き込まれるだろう。

 

「残留艦隊より作業が大筋終了したとの連絡が入りました。残りは現地の部隊なり行政に任せる事が可能なようです」

 

「三週間で終了か。叛徒共もここから再侵攻してくる事はあるまい。準備出来次第撤収するように伝えよ。我々と同じ移動基準で良い」

 

「了解しました」

 

 アーベントロートの報告に応え、ミュッケンベルガーが一息つく。オーディン帰還まであと二週間程度。政府からの電信は来るがこっちで何をどうできるなどという事は無い。各艦隊にも既に皇帝が崩御された事は知れ渡っている。しかしある意味、帰還しない事には何もできないので皆が皆、浮つく事もなくある種の達観・開き直りに近い心理状況になってしまっている。だが、ほんの一部の例外として何とも言えない不安に包まれている人もいることにはいるのである。

 

「帰りたくない」

 

「家出したお子様かなにかですか……」

 

 司令官席で凹むフレーゲル中将を見ていつものアントン・フェルナー大佐が突っ込みを入れる。だが事態が事態なのでその突っ込みも力が入らない。残留組だったので帰還はこれからだが戻り次第巻き込まれるだろう騒動にどう対応するか、考えるだけでも恐ろしい。だが逃げてはいられないし現実を見据えないとこれからの生活どころか生き死ににも関わる。そう考えると流石に茶化す訳にはいかず彼は主人に小声で"進言"を行った。

 

「これからは政治に類する一切の発言には気を付けられますように。幕僚達が何処からの出向者なのか、よくよくお考えを」

 

「そうだな」

 

 中将となってはいるが分艦隊司令官のままなので幕僚陣は更新する必要もなく結果としてブラウンシュヴァイク本家からの出向者がそのまま残っている。自身が正規軍に染まりつつある現状では無意識な言葉が不用心な一言となる。そう考えるとその進言は理にかなっているのだが……

 

「…………ん?」

 

「何か?」

 

「そういうお前も"出向者"のはずだが?」

 

 フレーゲルの(これも小声の)突っ込み返しを受けてフェルナーの顔が完全に真顔になる。

 

「…………そうでしたな」

 

 完全に"忘れてた"という顔だ。

 

「本家の本業に戻るか?」

 

「さて、どうしましょうか?」

 

 結構深刻な問題の気がするが飄々と受け流す。

 

「まぁ何をするにしても帰還してからの話だ。今この立ち位置も伯父上の敷いたレールの上にいる事に変わりはない。次のレールを見てから考えるとしよう。お互いにな」

 

「そうするしかないのでしょうなぁ」

 

「何をするにせよ」

 

「?」

 

「帰還したらまず、ご家族をいつでも隠せるようにしておくといい」

 

「…………心得ておきますが、そうなる覚悟もしておけという事でよろしいですかな?」

 

 家族を隠す、という事はブラウンシュヴァイク本家から睨まれる事に自分を巻き込む可能性があるという事だ。

 

「まだわからん。しかしそれもありうるという事だ」

 

「そのお言葉そのものを私が"手土産"にしてしまった場合は?」

 

「諦めるしかあるまい」

 

 フレーゲルがお手上げのポーズを取って苦笑いを浮かべる。しかし彼には諦める時があるとは思えなかった。このうるさい男が本家に付く、あの伯父上に仕えるという姿がまったくもって想像できなかったからである。だからフレーゲルは無意識にこの男を信頼し、本音を口に出しているのだ。

 

 

 一一月二二日、ミュッケンベルガー率いる帝国艦隊本隊は静かに帰還した。本来、未曽有の国難を大勝利で切り抜けた彼らは万雷の歓迎と共に迎え入れられて然るべきであるがオーディンは弔旗が立ち並び人々の顔は(本音か演技かは判らぬが)悲しみに満ちている。帰還した提督達も凱旋らしい顔で表に出るわけにはいかないし諸事務を終わらせた後、自宅に帰る際もどういう顔をしていいかわからない。そんな奇妙な帰還の最中、ミュッケンベルガーはあらかじめ指定された皇宮の一室に赴く。

 

「火急の事態とはいえ急かしてしまって申し訳ない」

 

 皇帝よりこの一室を与えられた主、国務尚書兼帝国宰相代理クラウス・フォン・リヒテンラーデ侯がミュッケンベルガーを招き入れる。同席するのは軍務尚書エーレンベルク元帥と統帥本部総長シュタインホフ元帥。

 

「ただの帰還戦勝報告ならばこれだけ急ぐ必要もありますまい。これは"今後"の協議一回目、という認識でよろしいか?」

 

 用意された席に座りながらミュッケンベルガーが釘を刺す。

 

「いかにも」

 

 応えつつリヒテンラーデも席に座る。

 

「率直に申し上げる。帝位を継がれるエルウィン・ヨーゼフ様の元、共に戦っていただきたい」

 

 リヒテンラーデが淡々と主題を述べるがエーレンベルクとシュタインホフは何も述べず静かに見守っている。要するに既に彼らとは話が済んでいるという事なのであろう。

 

「宇宙艦隊司令長官という役職は現場の長でありその行動は基本、軍政(軍務尚書)と軍令(統帥本部)の統率下にある。ご両名がそれで行くというのであれば私としてはただ従うのみ。そもそも何と戦うおつもりですかな?」

 

 こういう場を設けたうえで"戦う"となると相手は簡単に想像できる。しかしそれを表に出さずミュッケンベルガーは当然の回答と質問を行う。エルウィン・ヨーゼフの即位そのものは政府を掌握しているリヒテンラーデが(外部の抗議を無視して)決めると決断すればあっさりと決まるだろう。しかしだからといってブラウンシュヴァイク、リッテンハイム両家が武力蜂起を行うという確証はどこにもない。表の政治、裏の政治でその次の継承を早める手もあるしエルウィン・ヨーゼフに自家の血を混ぜるという方法もあるだろう。そう考えていたミュッケンベルガーであるがリヒテンラーデの回答はそれらの想像を上回るものであった。

 

「あ奴らは決起する。いや、しないのであれば"決起させる"。これが政府及び軍の合意事項だ」

 

「…………何故、今それを行うのか存念をお聞かせいただきたい」

 

 リヒテンラーデの爆弾発言に対し、エーレンベルクは我関せずと目を閉じ、シュタインホフは流れる汗を何度もハンカチで拭き取る。それに対するミュッケンベルガーの問いは丁寧なように見えるがその眼力といい雰囲気といい"本音を聞かせろ"と問いかけている。それを理解したのかリヒテンラーデは手元の飲み物で軽く喉を潤すとその意中を淡々と語り始た。

 

「要はこの世代の問題はこの世代で片付けよう、という事だ。長きにわたり肥大していった門閥貴族達のエゴはブラウンシュヴァイク、リッテンハイム両家によって極まったといえよう。貴族というものは帝国にとって不可分なものであるが度を超え過ぎたものは国家を蝕む癌となる。今、この時が帝国という母体を殺さずに取り去る事が出来る最後の機会なのかもしれぬと判断した。幸いにも叛徒共は卿が対応してくれたお陰でしばらくの間、邪魔に入ってくる事はない。この機を逃してしまったら少なくとも私が引いたのちの政府にはもうあの者達を止める胆力を備えた者がおらぬ」

 

 リヒテンラーデが一息ついて目線で"言う事はあるか? "と問いかける。

 

「いい加減にあの門閥貴族共を掃除しないと隠居も出来んという事か。だが、掃除してどうする? その場しのぎだけではなくその後の手当てをせねば残った貴族の中から次のブラウンシュヴァイク家やリッテンハイム家が出るだけであろう? そこは次の世代の課題とするのか? それともそこまでやり通すのか?」

 

 ミュッケンベルガーの言葉にリヒテンラーデが目を見張る。ミュッケンベルガーという男は"現場の長"という立場を盾に政治をとことん避けてきた。だがここで最初に問いかけてきたのは"その後"、つまりは政治の話であった。考えてみたらこの場にいるミュッケンベルガー以外の三名が引退すれば嫌がうえにもミュッケンベルガーは政治にも関わる立場に繰り上がる。自分がそれをやらねばならぬ立場になるのか対処したうえで引き継ぐのか、政治から距離を置いていたとはいえ自分の未来の事は流石に気になるらしい。

 

「戦うのならどうやって戦うか、という話になると思ったのだがな。卿から政の話が最初に来るとは思わなんだ。ならば先に問わねばならないが戦うとなった場合、勝てるのであろうな? その後とは勝った後なのだぞ」

 

 戦いに勝たねばその後もなにもない。その為にミュッケンベルガーを呼んだのだ。

 

「奴らがどれだけの束になるかは未知数だが言われた通り叛徒共が静かにしてくれるなら最終的には勝ってみせる。だが、その下準備や本戦の戦い方そのものについてこちらが主導で動けるなら、だ」

 

 要はまかせてくれるなら勝ってやるという事だ。

 

「それは約束しよう。本職の現場には口を出さぬ」

 

「それならそれでいい。ならば話を戻そう。"その後"はどうなる?」

 

 ミュッケンベルガーが話を元に戻す。今度はリヒテンラーデが答えねばならない。

 

「かの両家のような過剰な勢力が再び現れぬよう、貴族社会そのものに一定のメスを入れる必要はあるとは思っている。だがあくまでも過剰勢力の再来を防ぐのが目的であって一般貴族達への影響は極力抑えたものにする。その為にも両家には"ここまでなってしまったら仕方ない"と周囲から思われる形で潰れてもらわねばならぬ。そしてそれは少なくとも(エルウィン・ヨーゼフが)御親政を始められる前に終わらる事が望ましい。そうすればもしその変化に間違いがあり修正が必要となった場合、臣下の間違いを御親政で正すという形を取ることが出来るからだ。その逆を陛下にやらせるわけにはいかぬ」

 

「政治を変えてこなかった貴殿にしては思い切った事をいうものだ、だがまぁ本音としては十分だろう」

 

 ミュッケンベルガーがその回答に"合格"といえる反応を示す。

 

「その後にリヒテンラーデ家がどうなるのかはわからぬが少なくとも門閥貴族共を今までよりもマシなものにはしてくれるのであろう。わしとしてはもうこれ以上の事は言わぬ。現場として合法的に設定された敵と戦うのみだ」

 

 場に静寂が訪れた。

 

「決まった。といって宜しいか?」

 

 今まで一切の口を挟まなかったエーレンベルクがやっと口を開く。悠然と佇む様は高官としての威厳を漂わせるものだが面倒くさい事はあっち(政府)とこっち(現場)に丸投げするいつもの姿勢である。

 

「決まったのであればかの者達を如何にして追い詰めるか? となるが国務尚書としては腹案はおありで?」

 

 シュタインホフが汗ばむ顔でリヒテンラーデを見つめる。こちらは軍令の長としてやるべき事はいつもやっているはずなのだがこの風貌が人々を不安にさせる。

 

「表立って動くのは国葬後となるがそれまでにしておきたい事を含め考えはある」

 

 そういうとリヒテンラーデがいくつかの手立てを述べ始める。軍部三名はそれを聞き、感心するというよりもため息が先に出る。それはかの門閥貴族達のプライドを逆手に取ったとても丁寧な嫌がらせそのものであった。

 

 

「公の御機嫌はいかがな程に?」

 

「その前に当然のように私の家で寛ぐのはやめろ」

 

 フレーゲルが自宅に戻ると当たり前のようにフェルナーがいる。最初の頃はその都度説教に近い苦情申し立てとなっていたが今ではこの程度で流しておしまいである。

 

「して、公は?」

 

 華麗にスルーしてフェルナーは飲み物を用意しつつ尋ねてくる。彼が自ら入れるのは二人で話す為である。

 

「思いのほか機嫌悪くない。継嗣に関する交渉は拒絶されておらず、お互いに希望の者に継がせる代償として何を差し出せるのか落とし所を探っている状態らしい」

 

 アムリッツァ居残り組がオーディンに帰還したのが一二月一五日、既に国葬は終わり表面上人々の生活は元に戻りつつある。しかし、一般民にはほど遠い選ばれた立場の人々にとってはこれからが本番であった。フレーゲルもさっそくブラウンシュヴァイクに呼ばれ"当面の指示"を受けてきたのだ。

 

「軍部が表立って味方になる事はそもそも考えてない。いつも通りの生活を送り軍内部の空気を知らせよ、だ」

 

「意外ですな。もっと軍内部での勢力拡大なりの動きを期待されるかと思いましたが」

 

 軍内部の空気というがそんなものは他の出向幕僚達が毎日のように報告をしているだろう。ほぼほぼ何もしなくていいといっているようなものだ。

 

「思いのほかお早い崩御であった、という事だ。だから俺がまだ直接振るえる戦力がない事も理解されている。せめてそこそこの基地司令なり艦隊司令官なりになっていたらもっと期待も出来たのだが、とは言われてしまったがな」

 

「まぁ、ただの分艦隊司令官ですからな。いつも通りとの事ですが縁を広げる活動は行うのですか?」

 

「甥という立場はそれだけで目立つ。それで普段接点のない人に近づいていっては活動とみなされる可能性があるから駄目だ。こちらからは動かず日常業務をこなしつつ聞き耳を立てるしかあるまい。お前の方もいつも通り飄々と動いて情報収集でもしておくように。それがお前の本業のはずだからな」

 

 そういうとフレーゲルはフェルナーが用意していた飲み物を一気にあおり片手をひらひらさせる。「今日はもうおしまい」という事だ。それを見るとフェルナーが軽く挨拶をして退出する。そして一人になった後に落ち着くとついつい考え込んでしまう。

 

「それにしても本当に政府と妥協出来ると思っているのか? といっても伯父上がそれなりに機嫌がいいとなると相手がそれほどの演技上手なのかエリザベートの線があるのか?」

 

 この時点でかなり門閥貴族とは違う空気に揉まれている事をフレーゲルは自覚する。以前の社交界デビューしたての頃だったらそれこそエリザベートが継ぐのは当然と政府の態度に憤慨していただろう。しかし、正規軍という全く違った空気を持つ場所で軍部・政府・貴族世界・ブラウンシュヴァイク家を見てしまうとどうしても「そうなのかなぁ?」という気持ちになってしまうのだ。

 

「出向者がいるからいい、と自前の幕僚や家人を用意してこなかったのが辛いな。だからといって今から露骨に集め始めるとそれはそれで伯父上に睨まれる。となるとやはりあいつをアテにするしかないのか……」

 

 そいつも出向者なのだがそれはもう考えないようにする。ここから波乱が起きたとして己だけで乗り切る自信はまったくもって無いのだからあれの能力を使うしかない。それで駄目なら諦めろ、だ。

 

「あとはまぁ、今年世話になった人たちにお礼挨拶巡りくらいはしておこう、何か情報を引き出せるかもしれない。この程度なら睨まれないはずだ」

 

 そこまで考えるとフレーゲルは自室に戻る。明日もまた朝から動かねばならない。ただの分艦隊司令官として戦後の後片付けは色々とやらねばならいのだ。しかしどろどろした政治の事を考えるよりもこういう軍の庶務の方が気が楽と考えてしまうあたり違う空気にたっぷりと染まっているのだがそこまでは流石に自覚をしてはいなかった。

 

 

 そして水面下での綱引きが続く一二月二五日、それは突然発表された。

 

「新年一日、全人類の支配者にして全宇宙の統治者、天界を統べる秩序と法則の保護者、神聖にして不可侵なる銀河帝国皇帝、その第三七代としてエルウィン・ヨーゼフ様がご即位なされる事となった」

 

 官民同時、帝国内での発表後に即フェザーンにも通知されそれを通して"銀河帝国内における自由惑星同盟を自称する叛徒達"にも通達が行われた。叛徒とはいえ"本来、仰ぐべき銀河唯一の支配者の名は正しく知っていなくてはいけない"という帝国政府による"好意"である。そしてこの発表を皮切りに政府と軍部による新体制が次々と発表され、今までの表裏全ての交渉が演技だと知った門閥貴族というよりもブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯は文字通り憤怒の形相を見せつける事になる。そして止めとばかりに両家に対して政府より正式な使者が到来する。

 

「この度、公爵となられ宰相兼摂政に就任する事になりますリヒテンラーデ侯におかれましてはブラウンシュヴァイク公爵様とリッテンハイム侯爵様のご両名にこの喜ばしい皇位継承の式において全貴族を代表し皇帝となられますエルウィン・ヨーゼフ殿下に変わりなき忠誠をお誓いになられる場を設け、その団結を内外に知らしめようとお考えです。皇室への忠義厚きブラウンシュヴァイク公におかれましては何卒ご参加の程、よろしくお願いいたします」

 

 丁寧な回答を行い、使者が館を出るその時まで爆発しなかったのは流石はブラウンシュヴァイク公である、といえるものであった。

 

「しばらくの間、誰も通すな」

 

 傍らに待機する腹心、アンスバッハ准将にそれだけを言うとブラウンシュヴァイクは居間の一つに入る。何を言っているか判らない怒声、物が叩きつけられる音、盛大な台風が通り過ぎた後、ブラウンシュヴァイクは息を切らしつつ居間から出てくる。

 

「アンスバッハ、リッテンハイム侯に連絡を取れ」

 

 息は上がっているがその分、怒気は下がったのか落ちついた声でブラウンシュヴァイクがアンスバッハに命じる。

 

「承知いたしました。その間にお召し替えを」

 

 台風通過中に用意させたのであろう、侍女が何人かタオルやら着替えやらを用意して待機している。

 

「わかった。終わる頃に繋がるようにしてくれ」

 

 それを聞いてアンスバッハはその場を後にした。

 

 

「リッテンハイム侯、少し髪が乱れているようですな」

 

「そちらも。整えているようですがやや汗ばんでおりますぞ」

 

 通信スクリーンを通して、帝国最大の貴族二人が顔を合わせる。

 

「帝国と我ら伝統ある貴族の未来の為に、これまでの事を水に流し腹を割って話さねばならぬ時が来たと思っている」

 

「いかにも。その為にはまずここまでの事をお互いに吐き出してしまいましょう」

 

 二人の大貴族による表裏無き話し合いは続き、即位の日を迎える事になる。

 

 





 ラインハルトがいなくてもリヒテンラーデは動いたでしょうし、ラインハルトじゃないので逆に動きやすいといえるのかもしれない。そしてラインハルトの存在自体が両家への挑発になるんでいないのならば自らやる事も厭わないだろうな、と。けどリヒテンラーデは政治家としてはいわゆる保守系なので貴族社会という大枠はそのままに飛び出した勢力を作らせないという保守系改革が精一杯だろうな、と。
 
※1:移動時の脱落
 ワープ航法での移動にて例えば一個艦隊一万数千隻が一斉にワープすれば当たり前のように失敗(ワープキャンセル(※2))される艦は発生する。その場合、一回遅れ(一日遅れ)でそれらの艦は追いかける。ワープには十分なエネルギー充填が必要であり、その充填度によって安定度に差が付く。移動速度(ワープ間隔)と安定度(脱落数)はトレードオフである。 という作者認識。
 原作例として原作二巻でガイエスブルク→オーディンを二〇日→一四日に短縮(約五割増し速度)した時は八五%が脱落した。恐らく情報・経験の蓄積が進んだ結果、脱落しないぎりぎりの速度は計算しつくされていると思われる。なので少しでもスピードアップするとすごい勢いで脱落する。

※2:ワープの失敗
 あれだけじゃんじゃかワープしてワープアウトの衝突や行方不明などが発生しないのを考えるとかなり強固(安全第一)なワープ制御が行われていると思われます。なのでシステムが少しでも異常に近い数値になったら遠慮なく自動キャンセルされていると思います。その発生率が極限まで低下した状態で移動しているのが通常移動。早く移動したい場合はエネルギー充足ぎりぎりで飛んでいるんだけどぎりぎりだとシステムのキャンセル率ががっつり上がり、結果として脱落になっている。という作者認識。

※:皇帝の葬儀関係
 崩御から葬儀まで準備や来賓調整などの為に月単位の間が空くのは多々ある事なので本作ではそうしました。原作だとアムリッツァが一四日なのにその月のうちにオーディンに帰還してて新帝即位、司令長官就任とかになってるんですよね。時間軸むちゃくちゃ。
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