ブラウンシュヴァイク公オットーはフレーゲルにとって叔父ではなく伯父であるとの指摘をいただきました。設定としてはまったくもってその通りです。後日まとめて修正します。
感想については返信なしで行こう、と最初に決めたのでそれを貫いておりますが全部見てますありがとう。
ヨーゼフ二世については原作では"躾を直さないまま五歳で即位"ですが本作では"五歳になる前から躾を直し続けて一〇歳で即位"となっております。なのでまぁそこそこ自制は利きます。
!!!注意事項!!!
フレーゲルの家族構成に関して
※:フレーゲルってのは姓なので父も母もフレーゲルなんですが(笑)ここでいうフレーゲルはフレーゲルであり見分けの為に両親は父・母と記載します。
原作において自分が調べた範囲でブラウンシュヴァイクの甥というという事以外さっぱりだったので"両親健在"という設定になっています。父は現役の内務尚書、母がブラウンシュヴァイクの妹。ブラウンシュヴァイク家による勢力拡大の為、優秀な官僚であった父を取り込む為の政略結婚。しかし、官僚としてだけではなく政治家そのものとしても優秀であったのか取り込まれる事なく独立した立場を守っている(なので現政権に残れている)ブラウンシュヴァイクは本人の取り込みをあきらめたのか直系男子がいない(娘はいるが彼女を帝位にというのが夢なので実家は継げない)反動なのか乗っ取り(若しくは本家の相続)は次代でという事でフレーゲルをとても可愛がり優遇している。その結果の一つが両親健在にもかかわらず彼個人にも"男爵"の地位が与えられている事である。独自に爵位を得ている事や軍人としての生活もあったりで両親との同居(実家通い)ではなく独立した生活をしている。その家は軍人として染まるにつれて晴れやかさとかそういうものが減ってきており家人も最小限としている為、某幕僚が"居心地良いから"と入り浸っている(のだが裏では独自のセキュリティ構築などを色々とやっている)。
(これは駄目だ、伯父上は腹をくくっている。そっち(政略)ならまだしもこっち(軍略)の舞台で争って事を成せるとお思いか?)
式典が終了し、貴族界の知人たちと表面上はにこやかに挨拶を交わしつつ彼は流れるように会場を巡る。彼らは同じような口調でブラウンシュヴァイク公の言葉を褒めたたえ、彼には"期待している"と語りかける。一体、その言葉は表面上の事なのか裏の事なのか? どちらにせよあまり良い気はしない。しかし自分も数年前まではそれを聞いて有頂天になる世界にいたのだと思うと色々と考えるものがある。今ではこの雰囲気にさらされる事自体に違和感を感じるようになっている。
ある程度、貴族界の空気を感じ取ると彼、フレーゲルは足早に会場を後にする。待たせている家人の車まで行くと当たり前のようにその男が待機していた。
「特別呼んだ記憶はないが、どこかで見ていたのか?」
「今後の為に映像ではない現場の雰囲気を見渡しておいた方が良いと思いました。一介の佐官ですのでブラウンシュヴァイク家のコネを使ってすら隅の隅ですが」
いつものアントン・フェルナー大佐が憂鬱そうな顔で応える。この男もある意味、貴族軍人両方の世界を跨いでいる者であるし双方から離れた(ひねくれた)視線で見渡す事の出来る頭脳もある。あの場の空気を感じ取るには適任なのかもしれない。
「やはり公の……」
フェルナーが何かを言おうとしたのをフレーゲルが仕草で止める。顎で乗れ、と示し車に乗り込む。乗るや否やスイッチを入れ前席と後席間の防音壁を稼働させる。これで二人の会話は運転手(家人)には聞こえない。
「結論から言おう。伯父上は腹をくくったと考えていい。従うなり静観するなりするのであればもっと違う言い方にするはずだ。少なくとも陛下を直接称える言葉を混ぜる。例え意中の君でなくとも伯父上は必要と考えればそれが出来る。しかしあれでは完全に隣同士(ミュッケンベルガーとブラウンシュヴァイク)の売り言葉と買い言葉だ」
「やはり……」
フレーゲルの言葉をフェルナーがごく当然のように受け止める。
「伯父上に最後にお会いしたのはご即位発表前の機嫌の良い時だ。その後の状況は判らんがその発表が実質的な"決裂"だったのだろう」
「あなたならお会いしようと思えばいつでも出来るはずでは? …………逃げておりましたか?」
痛い所をつかれ、フレーゲルが苦い顔になる。
「正直な所、そうなのかもしれん。心のどこかでもう距離を置きたいと無意識に考えていたのであろう」
思わず本音が出てしまう。目覚めたというべきか毒気が抜けたというべきか、伯父からの期待に対し段々と圧迫感を感じ始めている事を自覚し始めた頃に丁度軍に出された。そこで"現実"を見る事で一気に"抜けてしまった"のだろう。
「しかしどこかで明確に立場を決めませんとご自身の為になりません。こちらにしてもそうして頂かないと動くに動けません」
こちらも本音が出ている。誰の為に動くのかはわからぬが少なくともブラウンシュヴァイク家の為に動いていたのであれば今頃こうして会話する事もなかろう、その程度の信頼はしているし現状嫌々ではあるが一番の側近と言わねばなるまい。
「分かっている。けじめは付ける。一度、伯父上に会いに行くしその時は本音で語る。最初で最後の伯父上との大喧嘩になるやもしれんがそれはそれで楽しみだ」
肝が据わったのか思わず含み笑いを漏らしてしまう。
「まぁ一応この状況下で手を下す事はないのでしょうが…………あなたにならば公も本音を語るかもしれません。それで、"事が起きる"のであれば……」
「今の私では伯父上と同じ所に立つことは出来ん。かといって恩もあるし実の伯父だ、討つ事も出来ん。出来るものなら退役し、家に引きこもるさ」
「そううまくいくものですかな?」
「何もかもわからん。だがはっきりと判る事といえば」
そういうとフレーゲルは悟りを開いたかのような清々しい顔になる。
「私はこれから、伯父上の引いたレールを外れて歩いていくという事だ」
「お疲れ様です。…………えー、その、お疲れ様です」
あれから数日後、ブラウンシュヴァイク家から帰宅したフレーゲルを当たり前のように出迎えたフェルナーであったがその憔悴しきった顔を見て色々と悟ったのか静かに招き入れる。といってもここはフレーゲルの家である。
「どうやら、駄目なようですな」
話を聞かせられないので家人を介さず、フェルナーが飲み物やら菓子やらを用意する。フレーゲルがロングソファーに座るどころか寝っ転がるかのように倒れ込み、その行為をぼーっと見つめる。完全な"ガス欠"状態である。
「駄目だ。悪い方に入り込んだ時の伯父上だ。あくまでも"帝国としての道に外れた者を正すのは伝統ある貴族の役目である"の一本筋なのだが、その相手が何であるのかは明確なのに明言はしない。それでいて"然るべき時が来たら頼りにしているぞ"だ。もう、自分の都合しか見れていない」
「それはもう口論の末の疲労というか何を言っても通じなかったが故の徒労、といった感じですな」
「徒労、というべきか……伯父上はそんな状態だが頭は働いている、むしろ日頃よりも回りは早い。だがその方角がよろしくないのだ。なんというか"聞く耳を持たないスピード狂が運転する車の後部座席に座らされている感じ"というか。どれだけ止まるように言っても、方向を変えるように言っても聞いているような返答はするのだが何も変わらないのだ」
ソファーに座り直したが頭は抱えたままにフレーゲルが呟く。話が通れば"口論"も出来る。それで決裂するのであれば"退官したので軍人としての協力は何もできません"と宣言する事も出来る。だがこれでは……
「嫌う人も多いのは事実ではあるが伯父上は愚かではない。個人としては賢いし、人の上に立つ者として人々をまとめ上げる器量もある。そうであるからこそ今の繁栄があるのだ。ここまで急に"狂う"ものなのか?」
フェルナーが空いたカップに飲み物を追加し、フレーゲルが吐き出し終わるのを静かに待つ。"レールを外れて歩く"と言ったからにはまずは歩いてもらわないと困るのだ。少なくとも"指示もせず立ったままの主人をそのままにして従者が前を歩く"などという事はしない。そして助言をするにしてもまだそのタイミングには一歩足りない。
「そもそも私が伯父上に与するという保証などどこにある。今日の会話をそのまま上に報告するだけで終わりになるかもしれないのだぞ。……しかしあんな状態になっているとなるともはや打つ手が思いつかん」
考え抜いた末の決起であればまだ交渉の余地はあると考えていた。それがこの有様である。軍に出されて苦労もしたがそれ故に何か橋渡し出来るようになれるのではないかと自分に少しは期待もしていた。だが結果としては伯父と軍との板挟み。いや、巻き込まないように距離を置くようになってしまった実家も含むと三方向からの圧迫である。
「そろそろ"潮時"なのではないでしょうか?」
フェルナーからしてみれば軽く背を押してみる程度の一言ではあるがフレーゲルにとっては身に堪える言葉である。だがもうその時なのかもしれないという事は判っている。どれだけ恩があろうともまずは己の家であり身を守らねばならない。となるともはや伯父上に追従する事は出来ない。一度目が覚めて(低レベルながら)軍人という目で見るとなると"正規軍に喧嘩を売る"というのがどういう事か、図らずとも分かってしまうのである。
「私が伯父上を止めようとしたのは武力に訴えれば即ち"謀反"となるからだ。どれだけ不満があろうともこの即位は合法的なのだからな。そして政府としては謀反を起こして欲しいのだろう。謀反であれば合法的に全てを断つ事が出来る」
「ブラウンシュヴァイク家とリッテンハイム家、そしてこの両家を盲信する取り巻き。政府はこれらを合法的に潰したいのでしょう。近年における両家の勢力は一家臣の枠を超えてしまっています。少なくとも軍との協力体制があり、比較的強く安定しているリヒテンラーデ政権だから抑えが効いているのでしょう」
「しかしリヒテンラーデ公はいい年だ、本来は隠居してもおかしくはない。だが身を引いてしまえば伯父上達と渡り合える力量を持った政治家がいない」
ここまで話せば何故このような状況になったのかは理解できる。
「政府、いやリヒテンラーデ公は両家勢力相手に耐えつつもずっと機会をうかがっていたのでしょう。そして叛徒軍の侵攻を撃退し、しばらくの間は静かになり先帝が亡くなられ継嗣問題が発生した」
「後は手を尽くして追い詰めるのみ。私程度がどうにかできる次元ではないのだ」
「つまり」
結果は簡単だ。
「事は起きる。どうにもならん」
はぁ、とため息をつき、空になったカップをフェルナーに突き出す。
「それで、引きこもりますか?」
カップに飲み物を追加しつつ、フェルナーが尋ねる。
「駄目だな、中立になったとしてもプラマイゼロではない。この身に流れている血そのものがマイナスだ。ここまでやると決めている以上、私が政府側の気持ちになって考えるのであれば中立になろうとも愁いを断つ為に私も理由を付けて潰す。何せ私はブラウンシュヴァイク一門の頭領後継候補筆頭格だからな! 政府に恭順せず生き残ったら残党のいい旗頭だ」
自分で言って"そうなんだよなぁ"と思うしかない。事が起きるのであれば生き残る為にはあちらに立ってあちらを勝たせるかこちらに擦り寄って身を粉にして働いて"潰す事よりも役に立つ"と証明するしかない。前者は無理、となると後者で生き残るしかない。伯父上"が"謀反を起こすのであれば伯父上"に"謀反するしかない。
「戦後が大変でしょうがまずは生き残らねばなりませんからな」
「ところで、お前はどうするのだ?」
そろそろ、きちんと聞いておいた方がいい。
「今更聞きますか? それを?」
含み笑いを浮かべ、それのみを答える。だがそれだけでもあり難い。
「ご助言頂きまして家族はいつでも長期旅行を半年ほどですが行けるように手は打ってあります。しかし……」
「しかし?」
「如何せん一介の大佐の給与ですので家族全員が安全なリゾート地やらフェザーン観光巡りとか半年するとですね、先立つ物がないものでして、予約は何時でも出来るようにはしているのですが……」
「ブホッ!!」
思わず飲みかけのコーヒーを吹き出しかける。
「口座を教えろ、振り込んでおく。伯父上も使っているフェザーンの秘匿口座からだ、足はつかん」
「有り難く。これからもよろしくお願いします」
どっちが上でどっちが下なのだ。
「ふぅ。なんか真剣な悩みが全部吹き飛んだ。何も解決していないのだがな」
流石に狙ってやったという事は無いだろう。
「それくらいで丁度いいのでは? あなたはご自身がお考えになる以上に良い判断が出来ます。変な方向に曲がりかけたのなら私が突っ込みますし出来る範囲でひん曲げます。お家とご自身を守る事、まずはそれに集中なされませ」
そうだな。そうするしかない。伯父上には恩を仇で返す事になるが身を滅ぼす負け戦に乗る程の阿呆ではない。
「フェルナー」
「は」
「ご家族に内密に旅行と引っ越しの準備をさせろ。近日中に司令部に赴いて立場を明確にする。そしたら我が領に家族共々来い」
「御意」
よろしい、ならば戦争だ。事を起こすのであれば、伯父上お覚悟を。
「貴官のたどり着いた結論は大筋正解だ。国家百年の大計の為、我々の世代における最大の問題を我々の手で終わらせる」
今後の身の振り方について直接お話させて頂きたい。その連絡に対してミュッケンベルガー元帥は一対一の場を設けた。これから起こりうるであろう事と何故それが起きるかについて所感を述べたフレーゲルに対し、ミュッケンベルガーは大筋でそれを認めた。
「ここからは全て"その事が起きてしまったら"という仮定ではあるが最も関心のある事はどこまで連座となるか。露骨に言うのであれば貴官とその御両親がどう扱われるか? だな」
「はい。フレーゲル家は親子共々伯父に与する事は致しません。しかし我が家はブラウンシュヴァイク本家に最も近い親族であります」
一対一の場を設けた以上それなりに突っ込んだ話もしてくれるのであろう。そもそも"その事が起きてしまったら"と言っている時点で突っ込んだ底の話だ。それならば少なくともフレーゲル家が生き残る条件は引き出さねばならない。
「他家であれば中立であればそれでいい。根底に思うものがあっても二度とそういう気持ちを起こす気になれない様に中核を潰せばいい。だが、すまぬが貴官の家だけはそうはいかん。気づいておるだろうが貴官の家は生きていればある意味、その後の貴族界の一つの核になる。それが帝国にとって悪い意味にならないようにこれからも生きるのであれば貴官には働いてもらわねばならない」
うむ、少しは希望を持ってはいたが退官なんて口に出せない。
「つまりは先頭に立って戦え、と」
「そうだ」
そういうとミュッケンベルガーはいかつい顔をにやりとさせる。
「然るべきタイミングで本業でなかったディッケルに代わって艦隊司令官になってもらう。尚、参謀長以下艦隊司令部スタッフはそのまま引き継ぐものとし貴官の現幕僚は全員解任。実際の指揮にしろこちらからの命令にしろ参謀長を中心に行ってもらう。貴官の仕事は先頭に立って相手に姿を見せる事、その上で政府の主張を淡々と相手に伝える事だ」
「良い的ですな」
「そうだ、的になってくれればそれでいい。あと言っておくが貴官に対して降伏乃至便宜を求める者も出るだろうが一切これに応じる事も秘匿にする事も許さん。歯向かった時点で一切の減刑は無しだ、そしてその相手が出撃したのを確認した場合は優先して貴官の艦隊に討たせる」
「これまた素晴らしいお役目で。戦後の役目も大体予想がつきますな」
「うむ。しばらくの間は"ぶり返しの潰し役"が必要になるのでな」
いやはや素晴らしい将来設計だ、とことん使い潰すらしい。天秤の片方には"親子連座"が乗っているからもう片方には乗せ放題、我が家であれば中立を謳おうがどのようにでも"罪状"は作ることが出来る。死ぬか、死ぬほど働くか、だ。
「ここで否、と言ったらその時点で色々と終る算段なのでしょうな。是非も無し、というものです言われたようにしましょう。その代わりにお家存続の保障を。当然ですが実家の方は少なくとも中立にはさせます」
「今、保証はしない。すべては結果次第だ。もし勝利しようとも勲功次第では"ついでに"潰れてもらう」
まさにやりたい放題。ここまでやられると流石に腹に来るものがあるがだからと言ってあちらに走っても大勢に変化はない。自慢にもならないが大勢を動かせる才能などないし軍首脳部にとって自分などは"使えなければ潰せばいい"程度の扱いという事だ。
「……わかりました。それと現幕僚で一人、既にこちらというか私個人に就いている者がいます。その者だけは引き続き傍らに置く事をお許しください」
「その者が少しでもおかしい動きをしたら貴官の罪とするが良いか?」
「結構です」
流石に見捨てる訳にはいかない。想定以上であろうこれからに付き合わせる事になるが選んだお前が悪い、と愚痴をこぼしたら言ってやろう。
「では、艦隊司令官に任命された時が"合図"だ。それまでは分艦隊司令官としての通常業務を今まで通りにやる事」
そういうとミュッケンベルガーは立ち上がる事で対面の終了を伝える。まさしく"もうどうにでもな~れ"と言った気持ちでフレーゲルはその場を後にした。
「改めて、参謀長を務めますエルネスト・メックリンガー少将です。よろしくお願いします」
あれから一ヵ月程度が経過した二月の中旬、先日決起した"リップシュタット帝国正道軍"に対する政府・軍部の行動は迅速であり全てが予定通りの行動である事は明らかであった。その一環として予告されていた司令官への任命を受け、フレーゲルはなんとかかんとか情報参謀としてねじ込んだいつもの奴(家族全員長期リゾート地巡り旅行中)と二人で艦隊司令部に乗り込む事となった。
「ところで、宇宙艦隊司令部からは何処まで話を聞いているのだろうか?」
形だけの挨拶が終わり、艦隊司令官個室にはフレーゲル、メックリンガー、そしてフェルナーの三名のみとなり本音トークが始まる。
「心苦しい事ではありますが閣下が元帥とお話になられた内容については全て、となります」
おや? という気持ちになりフレーゲルがメックリンガーの顔色を伺う。己の立場は自覚している。もっと"圧力"があっても仕方ないと考えていたがこれが演技でないのだとすればそれは"後ろめたい"というやつだ。
「全てを聞いているのであれば簡単だ、予め言っておこう。事ここに至っては私自身と両親、つまりはフレーゲル家の存続を第一としている。それに必要だと判断したのであれば受け入れるので遠慮なく強権を揮ってもらいたい。階級が上であろうが下であろうが"出来る者に任せてその中で少しでも学ぶ"、それが軍人としての私の処世術という奴だ」
「そこまでご自身を卑下に扱わなくても良いかと。例え部下の手腕が全ての結果だとしてもそれを妨げずに行わせたのであればそれは上官の功績です」
「何か元帥とのお話以外にも色々と知ってそうだな」
考えてみたら過去の実績(=特にカストロプ動乱)についてはどれだけ知れ渡っているのだろうか? あれを実力と勘違いされても困る。もう隠す必要もないので素直に公けにした方が良いのだがこの艦隊司令官としての"的"が終わるまではしない方が逆にいいのか?
「私は平民ではありますが軍以外の道でそちら(貴族界)とは縁を多く持っておりまして。閣下の事は血筋の事もあり気になり、私なりに色々と探りは入れておりました。なので閣下の"実力"に関しては隠される必要はありませんしこちらとしても艦隊司令官としてぞんざいに扱うつもりはありません」
思い出した。エルメスト・メックリンガー、芸術家として既に名をはせており軍人を辞めてそちらに専念するのならパトロンに手を上げる支援者も多数いるだろうと言われている。彼ならば確かに我々の社交界にも自由に出入りできるだろう。軍人としての才と社交界での交流を考えると自分の正しい評価に辿り着いていたとしても納得がいく。
「ふぅ」
思わずため息が出る。
「それならば話は早い、私の実力は知っての通りだ。死なない為に多少の努力はしているが程度がある。こんな指揮官の元で死ぬ兵は可哀想だし何より私が生き残りたい。なので実質的艦隊司令官として存分に腕を振るってもらいたい」
「承知いたしました。艦隊指揮を私が行う件については宇宙艦隊司令部の命令にもなっていますがこれを逆手に取れば私が指南しつつ動かしても大丈夫という事。辛いお役目でしょうが今後の為に存分に学ばれると良いと思います」
「わかった。学ばせてもらおう」
"お目付け役"である事は判っているがどうやらある程度は友好的に事を進められそうである。のだが、この手の学のある人は指南役になった途端に恐ろしくなったりするタイプもいる。油断できん。かといってあの赤毛の完璧人のようににこやかに全てを粉砕されても何か、こう、困る気がする。
「ところで……二人で話し込んでしまいましたが彼は閣下がご一緒させているという事は事情を知っている腹心という考えで」
「こいつは腐れえ」
「改めて、アントン・フェルナーと申します。ブラウンシュヴァイク家に仕えておりましたがこの度、閣下個人に仕える事となりました」
こいつ、仕えるというのなら主人の言葉を遮って潰すな。なに腹心って言葉に喜んで反応しているんだよ。
「宇宙艦隊司令部からは"怪しい動きを見せたら直ちに拘束せよ"と指示されています。大丈夫かと思いますがお気を付けを」
一瞬顔色が変わった。ざまーみろ。
「冗談は置いておいて、これからの予定はどうなっている?」
直に事が始まるという訳ではないが今、司令官を拝命したという事は今からやらないといけない事があるという事だ。
「その事ですが、新しい司令官を迎え先の叛徒軍迎撃時の損兵補充も完了しております。仕上げとして若干長めの星域外の訓練巡行を行う予定です。予定は一ヵ月程度で巡行ルートとしては……」
そういうとメックリンガーが一枚の地図を取り出す。基本的な星域地図でありルートらしきものに線が引かれているのだが…………
「ブラウンシュヴァイク家とリッテンハイム家の重要星域ぎりぎりを進んで集中訓練はその星域への最重要航路にて実施、と。訓練ですから、という建前の軽い挑発行動といった所か」
流石に現実の行動として見ると色々と考える物がある。しかしこの道を選んだからには進まねばならない。
「この艦隊は分艦隊単位での動きが主であり、艦隊としての運用はあまりよろしくない。と先の作戦で実感いたしました。その不安を解消する為の艦隊練度上げ、これが本命であり行動範囲についてはついでのようなものです」
この行動が"ついで"になる状況になった、という事なのだろう。
「つきましては艦隊の運用について、事前に閣下にご理解頂きたい事をまとめておきましたので習得しておいていただけると幸いです」
そういうとメックリンガーが分厚い書類を取出しテーブルの上に置く。ドスッっとした音がその書類の厚さを語る。
「士官学校の教本、高級士官用の副読本などを中心とした書物から艦隊司令としてご理解頂きたい物をまとめておきました。実際に指揮をするしない関係なくその立場であるならば知っておくべき事柄となりますのでこちらとしては訓練巡行中には習得して頂いてその後は"知っている事を前提として"お話させて頂ければと思っております」
いかん。鬼教官だ。本来ならそこ(中将)に至るまでの長い期間で積み上げるべき事を一ヵ月程度で形だけでも身に付けろ、という事だ。しかし彼は少将なのだがこういうのを纏めて出せるという事は既に理解しているという事だ。この手のタイプは自分に出来ない事を他人に求めない。これが実質的艦隊司令官として任される人材という事か。フォンの称号を持っているのなら階級がもう一個上がって"実質的"という言葉が不要になっていただろうな。
「私は艦隊の準備や指揮で忙しいので合間合間での確認となりますが、日頃の管理は……任せて宜しいか?」
「お任せください。サボらぬ様にきっちりと見張りますのでご安心ください!」
こいつ、嬉々としやがって。
「では、改めてよろしくお願いします」
「う、うむ。お手柔らかに頼む」
これは色々と、覚悟が必要だ。本当に色々と、死なずに生き抜くっていうのは本当に大変なものなのだな。
普段は優しいが怒ると怖い、は原作キャラに多々おりますが"鬼教官"でしっくりくるのは自分の中ではメックリンガーさんなんですよ。完全に個人の見解である。
大体一話あたり6000文字程度を平均にしたいなぁ、と。一週間というのはスムーズにいくときは簡単ですが上手くいかない場合は全く足りないといった感じ。なので臨週にしたら少し出っ張る程度、という試算。出っ張り続けて溜まったなと思ったら二話同時に出せばいいかなぁ、と。
9000字だったわ。