偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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※:1話としての分量があまりに肥大化してしまい収拾がつかなかったので2つに分割しました。分割したら隔週としては小さくなったこのNo.36は週を開けずにUpして次のNo.37は通常通りの隔週6/23Up予定とします。


 素人の臨機応変という名の行き当たりばったりvs相手する気のない玄人の臨機応変な無視 という結果の見えている勝負の現実を思い知らされる素人。
 というだらだらした話。


No.36 徒労

 

「どのような形になるにせよ、敵艦隊の所在が判らない事にはどうしようもない」

 

 ガイエスブルクを発したアイゼンフートはまずは先行させている先導部隊(三〇〇〇隻)にリッテンハイム軍の経路を追いかけさせると共にその道から少し外れたいくつかの正規軍小基地の無力化を命じた。基地といっても自領自衛の原則である貴族領地帯にある小基地なので小型艦が多くて数百隻、機能としては連絡中継及び貴族領からヘルプが来た時の初動現場検証等くらいしか出番が無い。今回の内戦に関しては基地機能の維持くらいしか期待されていないので相互に専守防衛となりほぼ放置された存在であった。アイゼンフートはそれら小基地をいくつか潰し、進行予定ルート(元々盟約派領が多い&リッテンハイム軍が行き掛けの駄賃に正規軍基地潰しているから正規軍の哨戒網はズタズタ)から見つからずに逸れる道を作り出した。そしてその道はリッテンハイム領から離れ首都星オーディンに向かう事が出来なくもない道であった。これによりこちらの選択肢を増やすと共に正規軍の選択肢を減らそうとしたのである。こうしてボールを正規軍に投げたのであるが相手となるミュッケンベルガー元帥は・・・・・・

 

「ここまで来てもいない・・・・」

 

 嘲笑うかのようにその分岐まで姿を現さなかった。実際の所、ルートを少し外れた所で良いのなら隠れようと思ったらいくらでも隠れる隙間はある。それが嫌なのでこうしてつついてみたのだが何の効果もなかった。

 

「よし、進むぞ。全方位、指示通りの哨戒網を」

 

 意に介さずリッテンハイム領を目標に駒を進める。当然ながらこうなった場合の事も考えているから止まる事は無い。周囲の盟約派領に範囲を指定した哨戒を依頼し、不足している領域には先導部隊を割く。進行してきたルートには今まで通り監視ドローンを適度にばら撒く。後はもう進むしかない。そして目的地であるリッテンハイム領にあと数日となった所で状況は急速に変化していく。

 

「リッテンハイム領方面より通信を受信、一方的な伝達です。照合キーはモントーヤ艦隊。"我が軍はこれより交戦を開始、相互兵力は・・・・"」

 

 おそらくガイエスブルクに届く事を期待したモントーヤ男爵の独断であろう。

 

「味方は五〇〇〇〇、敵は四〇〇〇〇・・・・」

 

 その通信内容を聞いて考えをめぐらす。リッテンハイム軍に"艦隊司令官"として立ち回れる人材はいない(そもそもアイゼンフートとクレーゲ以外に艦隊を統べられる人材がいない)。貴族達が抱える武官は基本、自家の艦艇さえ扱えればいいので分艦隊規模が精一杯である。分艦隊司令官が多数の分隊を扱うのと艦隊司令官が多数の分艦隊を扱うのは似ているようで違う。はっきり言って合流するその日まで戦線を維持出来る可能性は低いだろう。もしこれが相互に連携した軍事作戦ならば持久戦を選択してもらい急行する事が出来るが如何せん喧嘩別れであり相手がこちらのお願いを聞いてくれるとは到底思えない。お願いを聞いてもらえる可能性ともらえない可能性、頻繁な通信が原因で現在地を明確にされてしまう可能性、それらを考えて交信を断念してしまったので彼らは持久戦など考えていないだろう。しかしこのまま自軍がスムーズに進めれば万が一がある、と思考に明け暮れる中でついに正規軍が姿を現す。

 

「一〇時及び二時方向に反応あり。それぞれ艦隊規模」

「後方領域の多数の地点で監視ドローンの通信途絶」

 

 ここが敵の網なのであろう。こちらの速度、リッテンハイム軍との交戦開始時期、前方の待ち伏せ、後方の活動開始。恐らく全部が計算済み。この艦隊は合流する事も舞台を作る事もなく敵の手の平の上に登っているという訳だ。

 

「途絶したドローンのポイントをディスプレイに」

 

 アイゼンフートの指示でディスプレイが広域地図に切り替わる。場所を知っていたかのように十数か所のポイントが短時間に次々と途絶しているのを見て首を傾げるが理由が判らない。運良く電波妨害を受ける前に送信できたデータを見ると多くて一〇〇~二〇〇隻程度の小部隊であるという情報しか手に入らないの後方の総軍の分量が判らない。

 

(後ろの分量は判らないが直に接触する位置でないから無視できる。無視できないのは前方だが無視を見逃してもらえるはずもないから数日間妨害されがら進むのは論外、あしらいつつ進む技量もなしい第一その速度だと間に合わない。一個艦隊ずつを当てて残りで進む、と当てた艦隊は潰される。だからと言って間に合う可能性は確定ではない。となるとこの状態からリッテンハイム軍と今後が有利になる形で合流する事は出来ないと考えるべき。ならば方針を決戦に切り替えといきたいがミュッケンベルガーを見つけない事には決戦にすらならない。・・・・つまりはやりたい事が全部できないという事だ。・・・・せめて少しは何かをしたいとするならばガイエスブルクに帰れる事を前提として艦隊の一つでも潰さないと割に合わない)

 

 今までの頑張りもわざわざお願いして出してもらった決戦指示みんな空回りした状態になっている。"現実とはそういうものか"とアイゼンフートは考える。今までの戦いは相互にやる気があったから発生した戦いであるがそうでない場合は要所でもないかぎり会戦は発生しない。相手とすれば目途を付けたといっているリッテンハイム軍との戦闘を予定通り勝ちさえすれば十分な数的優位を作れるのだからこのタイミングでややこしくなる会戦などやる必要が無いという事だ。

 

「後方の哨戒網関連に艦隊規模の把握を急がせろ。少なくとも一個はあるだろうが問題は二個あるかどうかだ。俺が穴をあけたオーディン方面と半々の配置だとすれば二個になるはずだ」

 

 そう命令すると意識を前方の艦隊に向け、全艦隊を向かって左前方の艦隊に突進させる。正規軍の"報告"通りに四個艦隊なら後ろに一個(だと思う)、前に二個、どこかに一個。どこにいるにせよ目の前の一個を捕まえて潰せれば二個と一個で勝負になる。(まぁそんな事は無いが)状況次第ではリッテンハイム軍に対している正規軍も含めての各個撃破すらねらえる。実はオーディン方面の四個艦隊もこっちにいるとしたら・・・・・素直に匙を投げる。

 

「もうそろそろ詳細情報が手に入ります」

 

 相手も当然ながら各個撃破を避ける為に後退し続けて距離を保とうとする。しかし後退より前進が早いのは当たり前なので差は縮む。

 

「敵艦隊が分離、一部が逃げ続け残りが停止しています。・・・・・・・いえ、残留部隊は艦隊ではありません!!ダミーです!!!」

 

「ダミー?!」

 

「そのようです」

 

 確か隕石など十分な質量を持つ物体に発信機を付ける事で偽装が可能と教本で読んだ気がするがこういうものなのか、と謎の納得をしているうちに逃亡を開始した本物の艦艇がさらに細分化して逃げていく。これで追跡が不可能になった。

 

「逆方向の艦隊が接近中」

 

「全軍反転!同じように分離したら即ルートに変更し全力で逃げる。本物の艦隊だったら全力で叩く!」

 

 こちらも同じだろうけどな、と思うが無視はできない。これで最悪、後ろの反応と前の反応を全部ひっくるめて一個、そしてどこかに三個という可能性すら出た。いやはや覚悟はしていたが用意周到で動かれるとどうにもならない。素人の臨機応変(という名の行き当たりばったり)がプロのそれに勝る事などないのだ。いっその事このままリッテンハイム領まで突き進もうかとも思うがここまでくると"どこかの三個"になってしまった三個がどう待ち受けているかも判らないしいたとしても相手にしてくれるか判らないしetcetc。頭を冷やしたいが冷やす時間も冷やしている間の代理もいない。思考回路がショート寸前になり脳内に"ギブアップ!!"の声が木霊する。

 

「敵艦隊分離。まだ識別可能圏ではありませんが量として先程と同じです」

 

 ギブアップ!!!

 

「方向転換だ!逃げるぞ!!相手が追跡を開始する前に少しでも距離を稼げ」

 

 その勢いに怯えたのかまだ距離はあるのだが敵艦隊が分離を開始する。それを確認するや否や全軍を転進、目標を後方(帰路方面)に現れている敵部隊に定める。ひどくあっさりとした合流断念ではあるがそもそも分断してしまった時点で破綻しているといっていい戦いの万が一を祈っての博打みたいなものである。駄目ならさっさと捨てて現実に帰るしかない。助言等をしてもらった盟主殿には申し訳ない結果だが自分が頭を下げて全ての責を負えばいい。

 

 

「ふむ、この位置で捕捉された事で合流は出来ぬと判断したか。あっさりと全力逃亡とは悪くない。アイゼンフート、今までの情報を考えると奴が柱か」

 

「となるとリッテンハイム軍の方はなんとかなるでしょうな」

 

 ダミーを率いていた分艦隊(アイゼナッハ艦隊より派遣)をからの情報を聞きつつミュッケンベルガーとアーベントロートが状況の分析に入る。ミュッケンベルガーの直属艦隊はアイゼナッハ艦隊の残りと一緒にリッテンハイム領へのルートを少し進んだ位置に待機していた。もしアイゼンフートが直進したのならダミー二部隊と三方向から囲むに丁度良い地点で発見されていただろう。ダミーと気づかなければ合計四個艦隊近い戦力による包囲網に見えたはずだ。ミュッケンベルガー本隊が四個艦隊なのは"報告済み"だし、敵後方で活動を開始した部隊もどこの所属かは直にはわかない。それなりに迷う餌も巻いたし、会戦になったとしても一日二日のらりくらりと時間を稼いで離脱すれいい。その程度の自信はミュッケンベルガーにはあった。

 

「追いかけるぞ。派遣していた分艦隊はそのまま先遣隊となって敵の待ち伏せが無いか見落とすな。それと"向こう"の艦隊には無理に立ちふさがらなくて良い、と連絡せよ。下手に動かれるよりガイエスブルクまで帰ってもらった方が計算がしやすい」

 

 ミュッケンベルガーが指示を出し艦隊が出発する。アイゼンフートは感知・傍受されるのを恐れてか遠距離通信を行わなかったがこっちは遠慮なく行う。直轄艦隊の位置は今感知されても問題ないし暗号化は内戦の開始と共に設定を変えているので内容を傍受される事は無い。宇宙艦隊司令部からの暗号設定変更キーが無いので元の設定のまま使うしかない盟約軍とは使い勝手が違う(※1)。後は逆襲を受けないように注意しながら敵軍の"帰宅"を見守るだけである。

 

「ふむ。予備部隊を使って敵の進行ルートに哨戒網を。日数的に予定していた無力化目標は達成可能だ。作業完了後に集結する。カルネミッツ提督にも同様の連絡を入れておくように」

 

 その"向こう"を担当しているシュターデンが当面の方針を指示する。本来、カルネミッツの方が先任なのだが役回り上ごく自然にシュターデンが統一指揮を行っている(カルネミッツの性格的にもこの流れでいいのだがこの内戦における彼の"テンション"的にも任せられない)。敵監視網の破壊は定石どおりにポイントに細分化した部隊を送り込んだら芋づる式に潰せたので時間に問題は無いだろう。あとは片付け後に指示された通り正面衝突しない場所で待ち受ける事になる。それだけではつまらないという"欲"も無いと言えば嘘になる。しかしカルネミッツの状態を考えれば無理は出来ないしそもそも出撃した敵規模を考えると下手につつかない方がいい。無理をしないで指示通りにするべきという"理"が脳内で勝利したのを確認するとシュターデンはひとまず各部隊に指示を出し、無力化を完了させる事に集中した。

 

 

「先遣隊が敵艦隊らしき反応を得たとの事です」

 

「規模は?」

 

 オペレーターの報告に応えるアイゼンフートの声には彼らしくない棘が含まれていた。この帰路の途中、実力不足は覚悟していたがやはり思い通りにならない現実とそれでも何かするでもなく言われた事しか出来ず彼に全部を押し付けてくる周辺と全力で駆けつけても間に合わなかったであろう短時間で敗れ去ったらしいリッテンハイム軍(支離滅裂となった時の乱れ飛ぶ通信や現実を叩きつけるように出された"こちらの通信暗号規格に合わせ発信された"正規軍の通信などで判明)と任されたのに何もできない自分自身と・・・・・色々な感情が彼を蝕んでいた。

 

「規模は推定二個艦隊、こちらの予定ルートからはかなり外れています」

 

「二個と二個だったのか・・・・・それにしても嫌味な位置にいやがる」

 

 ディスプレイに映し出された布陣を見て悪態をつく。ガイエスブルクへの帰路を塞ぐ位置ではなくどちらかというとオーディン方面といえる位置である。距離を置いているという事は戦う気はないのだろう。突っ込んだらオーディン方面に全力で逃げればごく自然に他の正規軍の包囲されかねない所に立ち入ってしまう。

 

「帰るか」

 

 肩を落とし、アイゼンフートが改めてガイエスブルク帰還を命じる。思考が追い付かない、考えてもまとまらない、一緒に考えてくれる人がいない。完全に自信を喪失したアイゼンフートが率いる艦隊はまともな会戦を行う事もなくガイエスブルクに帰還した。数は五六一〇〇隻。出撃時は総数五八八〇〇隻の艦艇であったが先導隊(三〇〇〇隻)の三分の一がその活動中に失われ、戦闘をしていないはずの本隊も"その後"が見えてきて踏ん切りがついたのであろう一七〇〇隻程度の艦艇がいつの間にか消えていた。

 

 





 テンプレ(定石、教科書通り)対応のシュターデンはむっちゃ計算できる。というかそれ以外に慣れさせたいのだがんな暇がない。 by宇宙艦隊総司令部


※1:通信暗号方式
 正規軍との交信の為、貴族私兵の艦艇も指揮官クラス用艦艇には正規軍規格の通信ユニットの装着が必須となっており各家や派閥毎の独自通信規格は別途搭載されている。そして盟約軍内における独自通信規格の統一はやはりというかブラウンシュヴァイク派系統かリッテンハイム派系統のどちらを使うかで揉めて統一できなかったしそもそも書き換える時間もハードウェアも足りなかったので物別れ前までは相互通信用として両派閥でお互いの艦を少し派遣して通信担当とする事で通信を行っていた。物別れによってその派遣艦は帰っていったがブラウンシュヴァイク派側にはジェファーズ艦隊が残っていたのでリッテンハイム派系統の通信は可能であった。
 正規軍規格の通信ユニットは同盟軍鹵獲対策もあり完全なブラックボックス化がされており重要な暗号キーの変更はオーディン停泊中に軍中央からの遠隔操作で尚且つ一部高官のみが知る暗号設定変更キーを使用して行う必要がある(なので実行はそれを知る高官しか行えない)。しかも暗号キーの変更時に次の暗号設定変更キーも再設定されるので理由があって変更時期に変更が出来なかったりすると通信ユニットの物理交換が必要になる。


あと、どうでもいい事ですが今日はおっさんの誕生日です。
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