尚、No.2は初期構想ではここまで書くつもりだったらしい。
亡命を果たしたとはいえミューゼル姉弟の道は前途多難…………だと思ったらちょっと違った。
首都ハイネセンに到着し、正式な亡命手続きを終えた2人を迎えたのは人材資源委員の外部団体である亡命者支援事業所の役人だった。この亡命者支援事業所、実の所近年仕事が減っている。亡命者のピークを迎えたのが有名なダゴン星域会戦後であり、その後は帝国内部の政変なりなんなりの事件が発生する度に無視できない波が発生するという流れであったが大量亡命のメインルートであるイゼルローン回廊に要塞が建築された事によって直接亡命はほぼ不可能となり、主ルートは資金力のある貴族などによるフェザーン経由に限定された。現在はそれが細々と続くのみとなっており、事務所の要員も縮小傾向にあった。
そのような状況下にて未成年のみ亡命者となると役所としては久しぶりの大物(?)という扱いになり(予算を使い切るという役所的思考の元)支援のフルコースが振る舞われる事になったのである。
といっても未成年である姉弟の受ける支援についてはある程度限られたものである。同盟においては特別な事がない限り学業に努める年齢なので入学月の9月(※1)まで現状の学力チェックや自由惑星同盟国民としての基本知識に勤め、それぞれ中等学校と幼年学校(※1)に入学する事となり、住居においても姉弟の希望通り、小さな宿舎での生活となった。
2人暮らしについて生活が心配されたが元々アンネローゼは親子3人の家事を担っており、その手腕は学業に励みつつでも何の衰えも見せず、役所が推薦してくれた後見人(=保護者 未成年なので必要)もそれを認めてくれた。そのようにして姉弟の学生生活は始まったのだが入学して数か月で姉弟の評価がはっきりしてくる、
姉、優等生 弟、規格外
但し、両名とも交流関係において積極性が足りず改善・努力が期待される
特に弟、弱き者を助ける気持ちは良いが喧嘩は交流ではない
亡命して数年が経過すると、この姉弟はご近所の名物としてよく知られる存在になっていた。最近のトレンドはアンネローゼに色目を仕掛けようとするチャラい男どもをどこからともなくやってくる弟が吹っ飛ばす光景である。大体数週間に1度は発生し、ご近所さんも「あー、またやってるなー」程度で流すのが常となっていた。尚、アンネローゼはその方面に非常に疎く、男性が何故よく自分に話しかけてくるのかがあまりわかっていない。
姉弟のその後の評価
姉:優等生 中等学校を卒業し、2年制の調理系技術学校に進学。学費については学術優等生枠と入学前実技確認の結果、全額無償。
弟:規格外 幼年学校全国模試常時1桁キープ 有名中等学校からの引き合いが多々発生するもその品行を確認すると扱いきれぬと判断したのか以後連絡が無くなる
790年の12月、アンネローゼ19歳・ラインハルト14歳。この2人には珍しい姉弟大喧嘩が発生した。
事の起こりはラインハルトが幼年学校の早期卒業制度を使いこの年末に卒業して軍属へ志願する手続きを既に行っており、その事後承諾を求めてきたからである。このような手続きは当然ながらラインハルト個人では行えない。2人には形式上、保護者となる後見人がいる。元軍人であるその後見人は日常の生活においては干渉はせず、2人のやりたいようにしてくれる人であった(無責任・放任ではなくアンネローゼの家庭力を認めての全権委任)。 しかし、その元軍人という立場につけこんで頼み込んだらしい。さすがのアンネローゼもこればっかりは許す気にならずラインハルトは連日説得を試みる事となった。最終的には本人の意思を尊重し、許すことになったが休養の度に帰宅、機嫌取りに励む弟と会えることを喜びつつも小言の飛び出す姉の何ともいえない生活は長い付き合いのご近所さんに「姉弟じゃなくて姉さん夫婦よね」と冷やかされる名物風景となるのである。
791年 アンネローゼは卒業後、中堅ホテル併設の料理店兼菓子店に就職。ラインハルトは軍属としての申請が正式に受理。亡命者支援事業からも独立し自分の力で"生き抜く"生活が始まった。
軍属として志願した場合、その配属先についてはある程度希望が受け入れられる。そうしないと希望者数が低下してしまうからである。しかし、希望受け入れは戦災遺児対策で有名なトラバース法の対象者が優先され、それ以外の人たちについては受け入れ率は低かった。特に後方勤務などの非戦闘系事務への志願はその職務上十分な基礎教養が必要であり、少ない枠も政治家を筆頭とする一部職種人子息の前線回避策として埋め尽くされていた。そのような志願制度にてラインハルトが選んだのはなるべく早く、実力で出世できる所、少なくとも士官学校に"寄り道"するよりも早く!!!
「確かに君はうちに志願する資格はある。だけど成績を見る限り他の部署も狙えただろうし、なによりも士官学校に入れば良かったんじゃないかなぁ。いい順位で卒業できると思うよ。…………といっても本人が希望する限り、それは認めてあげないとね。まぁうちとしても有望そうな若い子は大歓迎だ。ということで」
「ようこそ、薔薇の騎士へ! ここがいわゆる地獄の入り口だ!」(※2)
ハイネセンにある連隊施設は地獄の有様だった。といってもその方向性は違う。案内を受けるラインハルトにも何やら雰囲気がおかしいという事はわかる。
「今、連隊は出兵中だけど、いや……ね………… 居なくなっちゃったんだ」
案内をしてくれている下士官がなんともぎこちなさそうに説明を開始した
「連隊長が」
「え?」
新入りの理解も処理能力も飛び越えている。
11代目連隊長、リューネブルク大佐 出兵先にて帝国軍に亡命
その連絡が昨日届いたらしい。亡命するや否や帝国軍側から本人の宣言音声と共に現地の同盟軍に通知、現地軍は軽いパニックになっているらしい。
「まぁ、度々ある事だから少し経てば落ち着くよ。なんせ11代目で6人目の亡命だからね!」
(申請先間違えてしまったかもしれない)
少し後悔し始めた。しかし本当に、数日後には周囲から感じるそわそわ感も消えどうやら"普通"に戻ったらしい。
初陣は予想よりも早かった。6回目の連隊長亡命は元々低い首脳陣の印象をさらに下げてしまったらしく遂には解散も視野に入れた検討が始まったという噂すら流れてきた。その噂を跳ね返し連隊を存続させる為には戦い続けるしかない。本来は精鋭である薔薇の騎士連隊を出すまでもない小競り合いにも介入、一つの作戦が終わったら次の作戦の戦場へ直接移動する事すら行い、少しでも印象を良くしようという努力が続けられた。通常の5割増しペースの出兵は昇進機会の5割増しでもある。非士官は比較的昇進しやすいとはいえこの時の連隊は空前の昇進ブームとなりラインハルトもその恩恵を受ける事となった。問題があるとすれば出兵が多すぎて不機嫌なアンネローゼ対策であり、曰く「100人の敵兵よりも姉上1人の方がつらい」という日々を過ごす事となる。
そんなラインハルトが昇進の罠に気づいたのは階級が兵長から曹長とに変わったある793年のある日。
「幹部候補生育成所経由しないと兵卒上がりの士官は別兵科への転属はほぼ不可能になるよ」
相手は日ごろよく話すようになった上官のブルームハルト少尉、ラインハルトと同じように兵長からスタートし現在21歳で少尉、今年中に中尉昇進は確実と言われている将来の幹部候補。ラインハルトも度々訓練で手合わせをしているが"世の中には何をやっても勝てない人は存在する"という事を教えてくれる連隊の中でも指折りの化け物の1人である。
日ごろから話しているのでラインハルトの目標が艦隊勤務であることも知っているからこそのアドバイスだった。当然ながら士官になる工程は調べるつもりであったが如何せん出兵の連続、帰還したらアンネローゼの機嫌取り、と手を付けることが出来ないままここまで来てしまったのである。
士官学校や幹部候補生育成所など正式な教育工程を通らずに士官になった場合、あくまでもそれはその兵科で認められただけとなる。例えばこのまま薔薇の騎士連隊で兵卒上がりで昇進し大尉・少佐となったとして艦隊勤務に転属してもそこで求められる仕事が出来るか? となると出来ない。その為に別兵科での出世を望む場合、幹部候補生育成所で適性の確認をすると共に基礎教養を学んで士官となるのである。ここを突破すれば形式上士官学校卒と同じ出世コースに入ることはできる。
わかるや否やラインハルトは事務に事情を説明し必要な資料と事前に見ておいた方がいい教本の取り寄せを依頼する。別兵科が目標だとは知られてなかったが出世意欲がある事はよく知られていたので事務は快く引き受けてくれた。しかし、受け入れてくれたのは事務の人が女性だったからというのもある。ラインハルト=フォン=ミューゼル、793年で17歳。姉と同じでその手の事にはとことん疎い。
そしてラインハルトは794年の年初に准尉に昇進。上官を拝み倒してかき集めた推薦状を用意し3月から1年の幹部候補生育成所課程へと駆け込んだ。
尚、連隊からの門出としてとある副連隊長から「記念と言っては何だが士官としての勉強とは別にやっておくといい勉強がある。一晩時間あるか?」と何かのお誘いが入ったが腹心の部下たちから「彼は未成年です」と総突っ込みを受けて断念する事になった。
ラインハルトの幹部候補生育成所での評価はまさしく規格外の面目躍如 といえるものであった。幹部候補生育成所での研修期間は1年である。しかし4年制士官学校と同じ内容を詰め込まれるし試験内容も同等のものとなっていた。同じ少尉という地位になる為の学習であり試験なのだからおまけする所などどこにもない。ここで落とされる者の大半が事前勉強不足、本気で士官になりたいのであれば事前にどれだけ学んできたかが問われる育成所なのである。それでも絶対的に不足する学習時間は休日の減少、夜間講習の追加で叩き込まれる。身分が学生ではなく軍属なのでそのあたりはやりたい放題の施設であった。覚悟して入ったので講習そのものには苦痛を感じなかったがさらなる休日の減少はアンネローゼの機嫌をさらに損ねる事となり、「職業軍人としてスタートして落ち着いたら絶対に有給は全部使う」と方向性のおかしい決意がみなぎる日々を過ごすことになる。
795年2月、ラインハルトは幹部候補生育成所の課程を修了し3月1日に少尉任官。全科目にて同期首席であり、総合成績は前年度士官学校首席を上回っていた。
少尉の初年度は何も期待されない。それは士官としての鉄則であり1年程はそれこそ各箇所をたらい回しにされ"士官の現場はこういうものだ"という雰囲気を叩き込まれる。首席卒業でもそれに変わりはない。配属された第四艦隊は現在集中整備後の訓練対象となっており今年中の出兵予定はない。その分、頻繁に行われる訓練を利用し今月は戦艦、次月は駆逐艦、その次月は駐留コロニー(※3)の工廠といった具合に各環境体験が行われる事となった。ラインハルトにとってまさしくやりたかった事がスタートした希望の日々ではあるが当然ながら休みらしい休みもなく、アンネローゼの機嫌は相変わらずである。しかし流石に翌年成人となる弟をこれ以上縛るのも良くない、と少しは心変わりしてきたようである、
796年1月、中尉昇進。
1年間、少尉として現場を学び2年目に中尉に昇進してからが本当の士官生活のスタートである。逆に言えば1年経過して少尉のままというのは非常に見栄えが悪く、当人のキャリア上とても問題となってしまう。その為、特別な事がない限り人事は事前通知なども利用し、当人のキャリアに傷がつかないように心掛けている。今回の中尉昇進もその一環であり、出兵が決定し戦地で丁度1年経過となる可能性のあったラインハルトには評価が良いこともあり出兵前に昇進させておこうという人事部の判断である。
中尉に昇進したラインハルトは第四艦隊所属の空母ハーミーズ艦長付士官(※4)として出撃。艦艇勤務としての初陣となる戦場の名はアスターテ。
※1:入学月9月 中等学校と幼年学校
作品内に6月卒業という話が多々出ており、ユリアンがヤンに卒業後の進路を相談している時の年齢から考えると15歳で一区切りみたいなので、
6月末卒業9月頭入学のアメリカンスタイル
幼年学校:小学校&中学校にあたる15歳までの学校
中等学校:高校にあたる18歳までの学校
という設定にしました。
なんだけどそれだと士官学校入学年との間に1年隙間があったりする。
ヤン(767/0404生まれ 782/09幼年学校卒業のはず 783/9? 16歳で士官学校入学)
備考 ユリアン(782/0325生まれ 797/06幼年学校卒業予定)
よし、考えるのをやめよう。
※2:薔薇の騎士連隊
亡命者を集める必要があるとはいえ肉体労働の塊であるここに15歳の軍属志願者が入れるか?だがブルームハルトは非士官学校出身で22歳で大尉になってるんです(外伝3)
幼年学校卒16歳軍属スタートが出来ないととてもじゃないが到達できない速度です。16歳スタートでも兵長→軍曹→曹長→准尉→少尉→中尉→大尉で1年1昇格。隠れ化け物出世マンです。
尚、ユリアン(16歳11か月くらいで中尉)は例外とするw
※3:駐留コロニー
同盟軍の艦艇は大気圏突入能力を持たず、ハイネセンのラグランジュ点上にあるコロニーに駐留しています。
乗組員は基本、ハイネセンにある宿舎等に宿泊し、専用シャトルでコロニーまで移動して艦艇に乗り込む形になります。
備考同盟でのクーデター時においてクーデターに参加した第11艦隊以外の艦艇が動けなかったのはクーデター側が専用シャトルとアルテミスの首飾りを制御下に置いた為、地表の乗組員がコロニーの艦艇に移動できなくなったからだという認識です。
※4:艦長付士官
雑用要員