偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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 話が間延びしてるやんもうちょっと何とかならないのという自己突っ込みはええやろ個人のオナニーの二次創作やろ好きに書けや、という自己突っ込みを受け入れた結果好き勝手やっぱり書いていこうという気持ちになったのである。


No.37 決戦前の懐事情

 

「恥ずかしながら帰って参りました」

 

 アイゼンフートが深々と頭を下げる。部屋にいるのはアイゼンフートとブラウンシュヴァイクのみ。何一つ戦っていない敗軍の将は心なしか身体全体が小さくなったようにすら見える。

 

「やはり玄人は舞台を作らせてはくれんか」

 

 事前に受け取っていた報告に目を通しているのだろう、ブラウンシュヴァイクがため息交じりに呟く。アイゼンフートからしたらいっその事怒鳴られた方が気が楽なのだが自分に出来ない事をやらせていると認識しているブラウンシュヴァイクはむしろ同情の気持ちすらもっている。

 

「なんならもう全軍で帝都に進軍してしまうか?」

 

「いや、流石にそれは……」

 

「ははは、冗談だ。ならばここで何かをせねばならぬな。これから見切りをつけた兵が多く去るだろうがそれでも残った者は強さはともかく覚悟はある。彼らに…………それなりの場を用意してやらねばなるまいて」

 

 それなりの場、それは死に場所という事だ。

 

「……そうですね。もはやここから出たガイエスブルク圏外で舞台を作る事は出来ません。ならはここを基点に悪あがきする方法でも考えるとしましょう」

 

 早速立ち上がろうとするアイゼンフートをブラウンシュヴァイクが止める。

 

「時間が無いとはいえ一日でいい、卿は少し休め。報告を見る限り何から何までお主が考え決めているようではないか。それでは最後まで頭が持つまい。少しは他の者に考えさせるのだ」

 

「…………有難く。正直、頭が上手く回らなくなっているのは事実ですので。疲労はありませんので適当にふらついて頭を休ませることにします」

 

 あっさりと受け入れ、アイゼンフートが退出する。部屋に残るはブラウンシュヴァイクのみ。

 

「…………それなりの場、か。ぎりぎりまで引き延ばすと思わぬ醜態を晒しそうだからの、わし自身も考えねばならぬな。しかし、ただ死ぬだけでは芸が無い。何か妙案でもないものか……」

 

 

 肉体的にはタンクベッドで回復できるが精神的には回復しない。それを癒すのは時間と娯楽なのだが要塞に娯楽施設などなくアイゼンフートは言葉通り適当にふらつき始める。こうふらついてみると判るのだが人が多い。ガイエスブルクは最大級の要塞であり数百万の人員を抱える事が出来るがそれ以上の人員を取り込んでおり駐留艦艇人員は要塞内ではなく駐留中の艦艇を寝床にしなくてはならない有様である。

 

「……であるからして我々の正義は!」

 

 とある一角に人だかりが出来ており、それなりの身分に見える誰かが適当な土台の上で熱弁を振るっている。要は中身のない精神論だ。やれ正義が、名誉が、伝統が。現実を相手に当たって砕けてるアイゼンフートにとっては無性に腹が立つ代物であり、総司令部の発足当時はこの手の輩に辟易した挙句に主だった輩を一カ所に集めて"処理"したものである。したはずなのだが…………。アイゼンフートは周囲を見渡しその光景を彼と同じ心境の目で見つめる士官を見つけると声をかける。

 

「すまんがあれはいつもの事なのか?」

 

「いや、最近レンテンベルクから"解放"された連中だよ。あぁやって中身の無い演説で……って、失礼いたしました!!!」

 

 話しつつ振り向いたことで相手が誰だか気づいたらしく慌てて敬礼しようとした所を止める。

 

「気にするな。でだ、その解放というのはなんなのだ? 詳しく教えてもらえないか?」

 

 そう言いつつ手振りで移動を促し、人気の少ない所で詳細を確認する。時期的にはアイゼンフートが部隊を率いて出撃したのとほぼすれ違いで彼らは帰還した。主にヒルデスハイム艦隊所属で敗北時に捕虜になっていた彼らは「このまま朽ち果てるのは惜しい。正々堂々と決着を付けましょう」と乗艦ごと解放され、そして帰還するや否やあのような"演説会"を通じて勢力拡大を志しているらしい。その手の輩で分艦隊級の兵力を有する者は艦隊としてまとめて処理すれば残る単艦、分隊指揮官レベルの跳ね返りは上から押さえつける事が出来る。そう考えてヒルデスハイム艦隊を送り出したのだがこうやって奴らが帰還してしまったからにはその小さな跳ね返りを吸収し勢力再興になりかねない。その経緯を聞いてアイゼンフートが何とも言えないため息を発する。

 

(要するに処分したかった害にしかならん者共をご丁寧にも返却してきたという事か。奴らも判っているのだ、無能を通り越した有害な人材は捕虜にしておくより返却した方がいい、とな)

 

 礼を言い、元の所に戻ると演説は終了したらしく万雷の拍手とふんぞり返る主が見える。一度こっぴどく負けたというのに、と言いたいがこの手の輩は"懲りない"。そもそも自分たちが間違えた事をしているという認識が無いのだ。

 

(いかん、いかんぞ、これから嫌でも擦り減る兵力を適切に再編せねばならんのだ。あんな輩に"勢力"を作られたらたまったものではない)

 

 そう考えていると足が自然と総司令部に向かっている。今日は休もうと思っていたし正直この状況は一日の差で大きく何かが変わるというものでもない。まぁ来てしまったからには、とアイゼンフートは総司令部の扉を開いた。

 

「すまん。ちょっと体調が良くないので今日は休む予定だったのだがどうしても確認したい事が出来たのでな」

 

 帰還した艦隊の受け入れ(※1)でてんてこ舞いの総司令部の面々に迷惑をかけないように隅っこから腹心のクレーゲ少将を呼び寄せる。

 

「彼らの事ですか……」

 

 クレーゲが苦々しく経緯を説明する。彼らは悪びれる事もなくむしろ英雄の帰還の如き態度で帰って来たという。そして「正々堂々、雌雄を決する為」として顔見知り(且つ格下)達に自分達の所に集結するように呼び掛けようと試みた。しかし居残りの大半がブラウンシュヴァイク家所属の為、駆けつける者もなく目上(ブラウンシュヴァイク)には諂うので強く引き抜く事は出来ない。仕方ないのであぁやって(演説)してうさを晴らすと共になんとかして勢力を得ようと彼らなりの努力をしているらしい。その結果として現状としてはなんだかんだと彼らの乗艦を除けば五〇~六〇隻くらいの跳ね返り達程度がその"勢力"との事だ。

 

「その程度の数ならまだ大丈夫だな。総司令官名義で全艦隊に"これから再編等をするので総司令部の許可なく部隊間の移動などは行わない事"という感じで訓令を出しておいてくれ」

 

 そういうとアイゼンフートは本当の休憩に入る。彼の考えが正しければ当面の間、正規軍は押し寄せてこない。その間に落ち着いて何が出来るか考えるとしよう。

 

 

「諸君らにこれより三日間の自由を与える。立ち去るも良し残るも良し。よく考え己の信じる道を歩むのだ。但しその後は規律を改め、総司令部の指示に忠実に従ってもらう。その命に背くものは厳しい処罰の対象とする」

 

 アイゼンフート軍がガイエスブルクに帰還した事を確認した正規軍は彼が考えた通りに可能な限りのチャンネルを利用してリッテンハイム軍の消滅と一〇個艦隊による進軍を知らしめ、リッテンハイム軍に行ったのと同様の勧告を行った。これによる流出が一段落するまで正規軍は交戦域まで来ない事が予想され(中途半端に近づきすぎて逃げれないと腹をくくられると困る)その間の再編を速やかに進める為もあるが"踏ん切り"をさっさと付けてもらった方が都合が良いので総司令部の進言の元、盟主ブラウンシュヴァイクによる訓示が行われたのである。そしてその過程で数少ない喜ばしい事といくつかのめんどくさい事は飽きずに次々と発生する。

 

 

「よくぞ戻られました」

 

 アイゼンフートが思わず両手でその手を、モントーヤ男爵の手を握った。

 

「途方に暮れ、亡命なども考えましたが皆と話し合った結果ここまで来たらもはや最後まで意地を貫き通さねば気が済まぬ。となりまして」

 

 モントーヤ男爵が照れくさそうに答える。キフォイザー会戦の末期、もはや彼の才ではどうにもならない支離滅裂の中で逃げ惑ううちにごく自然に生き残り達が集結してしまった。降伏しても許されないであろう盟約に名を連ねた貴族やその一族、その中で"この戦いで生き残れた"という運やわずかな才を持っていた者達が集まったこの集団はじたばたしているうちにガルミッシュ要塞への道を正規軍に封鎖されてしまった為、見つからぬ様に戦地にならなかった盟約勢力下を迷走し巡り巡ってここまで辿り着いた。その数五七四隻、これが四四〇〇〇隻で出発したリッテンハイム軍の全帰還数である。彼らは少数ではあったがこの状況下で生き抜いただけあって個の質も指揮能力も(盟約軍基準で)平均以上であり、再編成の際に艦隊統率力の向上に貢献し、最後まで意地を貫き通す事になる。

 

「増えてるな」

「はい、増えてます」

 

 あの"跳ね返り"勢力の事である。盟主によって与えられた三日間。その間に自分達の意思で立ち去る者が多数発生したが有難くない事にこの跳ね返り共は逃げてはくれなかった。それどころか立ち去ろうとした者達を攻撃(物理)しようとして止められる始末である。そして猶予期間のうちに隙が出来たのか悪い意味で腹をくくったのか彼らに同意する者達も増え始め、今では艦艇数四桁に届きそうな勢いである。そこまで行ってしまったらこれはもう一つの部隊として指揮系統を作らなくてはいけない。一〇〇〇隻という数は勝敗の決定打にはならないが大戦果・大損害の引き金にはなってしまう。

 

「あいつらだけを餌に出来るなら敵ごと要塞主砲で撃てるんだけどなぁ」

 

 とぼやく幕僚もいて流石に周囲に窘められていたがその会話をアイゼンフートは何とも言えない表情でじーっと見つめていた。

 

 

「ついにこの時が来たか」

 

 総司令部の一同が緊迫した趣でそのグラフを見つめる。そのグラフの意味する所は……「物資、そろそろ危ないの出てくる。少なくともガイエスブルク籠城越年なんて出来ない」。元々自領防衛が主任務である各貴族私兵艦隊は補給を始めとした支援艦艇が貧弱であった。各要塞にあった補給物資を根こそぎ持ってきたからこそここまで動けていた訳であり追加供給能力には難があった。ひとまず各貴族領からの持ち出せなかった私兵部隊用物資をかき集め輸送するように命じたのだが馬鹿正直に運ぼうとして正規軍に拿捕される艦も多数発生し、見つかりにくいルートを確立する頃にはその輸送力そのものが目減りする結果となってしまった。そしてそのような結果となると当然ながら

 

「一息ついてはいますが長期籠城出来る程ではありません」

 

 その報告を聞いて総司令部で皆が頭を抱える。面白い事に有力門閥貴族は中継基地としての要塞運営を長くやっていた為にこの手の人材は層が厚くその計算は実に正確であった。むしろ近年例のない全艦隊動員(一二個艦隊が出撃中、一個艦隊がオーディンで即戦待機)を行いながらもそれ(中継基地要塞の補給能力)を使えなくなった正規軍の後方支援の方が火の車になりつつあり、何時までも叛徒共を無視できない事からもしかしたら時間切れ和睦の可能性があるのではないか? という期待が出てきたからこそ実行できる籠城戦である。少なくとも年を越せるだけの物資はかき集めたい。それを考えての備蓄を早期に開始していなかった事が悔やまれるが後の祭り。仕方なく各領から市場余剰物資の収集・輸送の追加命令を出す事で希望をつなげようとするがこれが後に洒落にならない一大事に繋がるのである。

 

 

「思った以上に残ったと考えるべきか、こんなにも去っていったと考えるべきか?」

 

 新たな編成表を眺めつつ、アイゼンフートが呟く。盟主ブラウンシュヴァイクの訓示から一週間、兵の流出はほぼ収まったなかで大まかな再編が進む。現時点にて艦艇数五九八三二隻、訓示により二割弱が去っていった。ガイエスブルク圏外に打って出ても袋叩きにあうだけの数にはなってしまったが圏内で要塞砲で脅しつつ存在し続けるには十分な数はまだ確保しているといえる。艦隊としては元々五個(ブラウンシュヴァイク、アイゼンフート、ジェファーズ、サブロニエール、ウシーリョ)であったがサブロニエール、ウシーリョの両艦隊を一艦隊規模に合併縮小し四個艦隊+予備に再編成が行われた。モントーヤ男爵の残兵はジェファーズ艦隊に組み込まれ、あの跳ね返り共の部隊(困ったことに一〇〇〇隻を超えた)は予備独立部隊という名目で要塞内に押し込んだ(恐れ多いがとある企みの為にブラウンシュヴァイクが「暴発されないように適当に相手をしながら首根っこつかんでおく」と監視を引き受けてくれた)。そして再編等も終了し一段落した時、哨戒ラインに正規軍の反応が感知された。数にして予告通りの一〇個艦隊。隠す必要なしと偵察艦などを無力化せずに見せびらかしての進軍。遂に最終決戦が近づいた、と思った時に両軍共にすっかり忘れていた所の情報がやってくるのであった。

 

 

「ガルミッシュ要塞が陥落したそうです」

「………………すまん、すっかり忘れていた。それに関しては共有情報網に上げておいてこっちには直接関係のある情報のみ報告してくれ、正直忙しい」

 

「ガルミッシュ要塞が陥落したそうです」

「そうか、当面の追加指示は直に出す。その後は指示の範囲から逸脱しない限り、定期報告のみでいい」

 

 なんともすっかり忘れてた&相手にされてないガルミッシュ要塞(=リッテンハイム侯)である。ガイエスブルクに返却された跳ね返り共然り、ガルミッシュに引きこもったリッテンハイム然り。敵として存在してくれていた方がいい無能を正規軍は処分せずに突っぱねた結果の一つである。

 ガルミッシュ要塞に引きこもったリッテンハイムは一番豪華な個室に引きこもり、来るであろう正規軍の陰に震えていた。困り果てたのは一緒に逃げてきてしまった三〇〇〇隻の将兵と元から配置されていた要塞基地要員達である。いつものリッテンハイムであれば意にそわない事を勝手にやると怒るのだが何かやると思ってたのに何もやってなくても怒る。仕方なく彼らは籠城の準備を進める最中、リッテンハイムが動き出したのはその数日後であった。

 

「和睦をする。エルウィン・ヨーゼフ二世を正式に皇帝と認め、娘を正室とまでいかぬとも側室として献上する。わしは責任を取って隠居し、リッテンハイム本家は然るべきものに相続させる。遺憾ながら幾許かの領土返上を行う。これで鞘を納める旨を先方に伝えよ」

 

 周囲の者が呆然とした表情で見つめる。

 

「どうした、誰か使者となる者はおらぬか? リッテンハイム家の名代としての名誉ある使者であるぞ」

 

 リッテンハイムが自信満々に周囲を見渡すが皆が皆、目を逸らす。いつまでも無視するわけにはいかず、その中の一人が勇気を振り絞り発言する。

 

「恐れながらもはや政府にその意思はないと思われます。我々は既に逆賊なのです。もしその和睦案をお望みであればまずはこの要塞を監視している艦隊司令官に直接その意をお伝えいただくのが良いと思います」

 

「その相手は誰だ。わしが直接交渉を行うに値する地位であるのか?」

 

「地位などもはや関係ありませぬ。政府より我々の地位の剥奪宣言が発せられています。我々がどう思おうと相手から見て我々は貴族でも平民でもない逆賊なのです。本来、和睦というのは双方が相手の立場を認めてこそ行えるもの…………」

 

 その者はもう腹をすえたのか今まで言えなかった口調で進言(を通り越した諫言)を繰り返す。ひと悶着ふた悶着の末にリッテンハイムは自ら交渉する事を認める(あくまでも進言を受け入れてやったという態度。実際には見放された結果)。そして要塞を監視する司令官オスカー・フォン・ロイエンタール中将(裕福な帝国騎士)にその意を伝えたが得られた回答は周囲の誰もが驚くべき内容であった。

 

「有難き申し出ではありますが僭越ながら私はそれだけの大事を裁可する権限をもっておりません。然るべき所より回答を頂きますのでしばらくお待ちいただけないでしょうか? それに伴い最も重要なのは御息女であるサビーネ様の安否。事が成されましたらサビーネ様の皇宮献上をもって和睦の証となりまする。ご準備だけは滞りないようにお願いいたします」

 

「うむ、"実家"の者達に伝えていつでも献上できるように用意をさせておこう」

 

 通信の完了後、周囲の者の驚きを見渡し、ふんぞり返るリッテンハイム。

 

「はっはっは、聞いたか? 乗り気ではないか。伝統ある名門貴族の価値というのはそういうものなのだぞ!」

 

 というリッテンハイムの言葉の裏でロイエンタールは矢継ぎ早に命を下す。

 

「シュタインメッツ少将!! 周辺基地部隊も同行させていい。リッテンハイムの"実家"に飛んでくれ。ケンプ提督にも応援を要請して表面上は万余の艦艇を集める。帝都からの正式な護送艦の警護と称して取り囲んでもらいたい。その間にその後の動きを司令部なりに聞いて事を決める。直接連絡が行くかもしれんので注意してくれ」

 

「承知した! それにしても見事な腹芸で」

 

 シュタインメッツが吹き出したくなる口元を必死に我慢する。

 

「あれ(サビーネ)の確保は最重要事項の一つだからな。あのような馬鹿げた和睦案を出すとは既に気がおかしくなっているのだろうしそれを止められないという事は奴の周辺にはもう人がいない。後は適当に希望が持てるようにおだてれば勝手に理想の道筋を想像してくれるというものだ。ありがたく確保させてもらうとしよう」

 

「ですな。ではお任せください」

 

「お願いする」

 

 シュタインメッツを送り出した後は上司への連絡である。

 

「面白い事をするではないか」

 

 流石のミュッケンベルガーもその報告には口元が緩ませる。

 

「帝都の留守部隊から見栄えのいい艦を受け取りの使者という名目で飛ばす。サビーネと共にその母も同行させよ。先帝の血を引く両名は今の所命を取る予定はないからな。その後は予定通りだ」

 

「了解しました。が、それだと騙した事を知ったブラウンシュヴァイク家の方が隠れてしまうというのが問題になりますが如何なる差配を?」

 

 とっさに張った罠の為、その場ではブラウンシュヴァイク家に関してまでは頭が回っていない。

 

「かまわん。あっちに関しては何処に逃げようが地獄の先まで追いかけねば己の首が飛ぶ者がいるのでな。そいつに処理させる」

 

「判りました、では指示の通りに。現地には直接指示が行くかもしれないとは伝えてありますのでお望みの通達方法をご利用ください」

 

「うむ」

 

 通信が終了しロイエンタールがふーっと息を吐く。ブラウンシュヴァイク家方面で貧乏籤を引かされる人物は簡単に想像がつくがこれは下手に触らない方がいいだろう、と気にしない事にする。こうしてとんとん拍子に"和睦"の段取りが決まり、実家にいたサビーネとその母クリスティーネ(当主名代としての挨拶役として口先三寸で"そういうものか"と納得させてしまった)があっさりと迎えの艦に乗り込んでしまう。それを確認するとロイエンタールがその後の指示が書かれたメモを一読再確認し、ポケットにそれを治めるとガルミッシュ要塞への通信を開く。

 

「確かにお預かりした、との連絡が入りました」

 

「うむ。では和議は成立したのだな。一応、お主には仲介をしたという功がある。我が親族から然るべき娘を出させて一門の末席に加えてやっても良いぞ」

 

 ロイエンタールの淡々とした報告にリッテンハイムが当然のように"褒美"を与えようと言う。

 

「それに関しては一旦控えさせていただきまして政府からの正式な回答を頂いておりますのでお伝え致します」

 

「聞こう」

 

「ではリッテンハイム侯爵家の処遇ですが……」

 

 

・リッテンハイム侯爵家について

 侯爵家は取り潰しとする

 当主:ウィルヘルム・フォン・リッテンハイム三世は死刑とする

 当主の子(庶子含む)、子の母は死刑とする

 但し、先帝の血を引くサビーネ及びその母クリスティーネは皇室預かりとする

 当主の養子は死刑とする

 独立別家を立てていない侯爵家同居の親族のうち、リッテンハイム一族の血を有する者(=侯爵家継承権持ち)は死刑とする

 死刑とならなかった同居一門については身分剥奪の上、永久流刑とする

 

 

「以上です。終わらせ方はお任せいたしますのでのでお望みの形で終わりを迎えられませ」

 

 言うだけ言うとロイエンタールは一方的に通信を打ち切る。残されるのは事情が理解できず立ち尽くすリッテンハイムと今すぐにも逃げ出したい顔をしている近習達。

 

「お気持ちが決まりましたらお呼びください。準備いたします」

 

 長年仕えていた執事が声をかけるが何も答えず、リッテンハイムは夢遊病者のような足取りで己の部屋に戻っていった。

 

「艦艇出入口を硬く見張れ。一隻たりとも逃すな」

 

「逃げるとお考えで?」

 

「判らぬがこれだけやって逃げられたりしたら軍歴に残る一生の恥だからな」

 

 ロイエンタールの指示を受け、ベルゲングリューンが差配する。詳細な要塞設計図は正規軍の手にあるので出入口の位置は簡単に把握できる。攻撃を受けないぎりぎりの位置まで前進し、更に監視の為に偵察ユニットを取り付けたワルキューレが空母から発進し遊弋する。そして四日後、

 

「リッテンハイム旗艦であるオストマルクを撃沈したとの報告がありました。こちらの呼びかけに応じず単艦で逃亡を試みた為、撃沈したとの事です。担当の分艦隊司令からは事後報告になった事と拿捕できなかった事に関する謝罪をしたいという事ですが……」

 

「言って止まるものでもあるまい、謝罪は必要ない。逃さなかった功に報いる事を約束するし、もし上が何か言ってきても責は命じた俺が取る。よくやったと伝えておいてくれ」

 

「はっ」

 

「それと、一部始終の映像データを要塞に送り付けたうえで再度降伏勧告をしておくように。もしそれに乗っていたのなら……これで終わりだ」

 

 ガルミッシュ要塞から降伏勧告受諾の通知が届いたのはそこから更に三日後、死を恐れた貴族達と少しでも生き残る可能性を繋げたい平民将兵の凄惨な同士打ちの末の降伏であった。

 

 

「ロイエンタール提督はレンテンベルクでケンプ提督と合流し投降艦と捕虜の整理・監視(※2)を。シュタインメッツ少将はガルミッシュ要塞を拠点に現地の治安維持を行うべし」

 

 ミュッケンベルガーの元から今後の指示が発せられ総司令部の大半はそれらを含めた"後ろ"の事を頭から消し去り前と足元の事に意識を集中する。

 

「結果として"いつまで動ける? "」

 

 ミュッケンベルガーが"足元"の代々懸念材料を問う。

 

「今年中は何とか、という程度には計算できました。その後に関しては軍需消耗品を中心に産が追い付かない物が出る可能性があります。ただでさえ門閥貴族が握っている所が多く、さらに近年の消費が激しかった事もありまして…………」

 

 艦隊司令官から解放され、本作戦の後方統括を行っているディッケル中将が文字通りの"苦虫を潰した顔"で応える。

 

「奴らの利権絡みか。一度破壊すると決めたとはいえ今後の立て直しが思いやられる」

 

 ミュッケンベルガーの眉間に皺が寄る。ある程度は知っていたがここまで根が深いとまでは思っていなかった。位が高くなりすぎると根を深く見る事が出来なくなる。

 帝国における軍需消耗品生産地は大きく分けて三つ、ヴァルハラ星域の国営大工廠・イゼルローンを含む要塞群の内部工廠・その他地方基地の工廠に分かれている。同盟領遠征時の消耗分は要塞工廠、訓練や正規艦隊の辺境征伐などについては国営大工廠、地方基地の維持には地方工廠が基本となっている。しかし、昨年のアスターテ出兵と同盟軍迎撃で年間平均を上回る消費となり、イゼルローンを失い生産量が低下し、盟約軍の決起で要塞群の物資を根こそぎ持って行かれ稼働も一時停止、そしてアルテナ・レンテンベルク・シャンタウ・キフォイザーの連戦で年間消費量に近い物資がこれまた消えている。決起前に各要塞で生産していた分は対イゼルローン用としてアムリッツァ星域に整備中の基地に蓄積するという名目でそれなりの量を引っこ抜いたが元々その手の消耗品は移動中に要塞群で補給するのが定例としている以上、大義名分を与えない為に無用な引き抜きは出来なかった。奪取した要塞は可能な限り手早く再稼働を試みるが要塞の生産用原材料倉庫すら空にする徹底度、尚且つそれら要塞群へに送られる物資はもちろん利権として彼ら門閥貴族領から搬出されていたから代わりを用意しなくてはいけない。とてもではないが消耗に追いつかない。

 

「ある程度は覚悟はしていた。残敵数から考えれば事足りるであろう。問題はどこまで"実験"するかだな……」

 

 ミュッケンベルガーが応えると共に思考に入る。"実験"とはこれから行うガイエスブルク要塞攻略においてどこまで"イゼルローン要塞攻略研究の為の実験台"にするか、というものである。当然、長引けば長引くほどに物資は足りなくなる。幕僚陣どころか各艦艇司令部にもそれを念頭に入れた戦術案の提出を命じている。

 

「(要塞の)中は崩せんか?」

 

 ミュッケンベルガーの視線が幕僚陣の一人、先任将官ヘルムート・レンネンカンプ少将に向かう。

 

「残念ながら。かの要塞はブラウンシュヴァイク家が長らく管理していた事もあり主管制機能については子飼いの者共が占めております。あらかじめ潜めていた部下(※3)の報告を見る限りまだ亀裂は発生しておりませぬ」

 

 これ(内部工作)についてはオーベルシュタインが中心になっているが相性が最悪なのでワンクッション置いてレンネンカンプが応える。レンネンカンプ本人もその堅物生真面目さからミュッケンベルガーとの相性が良いとは言えないがオーベルシュタインよりかは空気は読める(普段はさらにアーベントロートがクッションになっている)。

 

「現地までで考えられる事はこの程度だな。後は各自事前の予定通り事を進めるように」

 

 ミュッケンベルガーの一言で総司令部が一時解散となり各自の仕事に取り掛かり、正規軍艦隊は粛々とその場へと駒を進めていった。

 

 

「普通だな」

 

「普通ですね」

 

 ガイエスブルク要塞に布陣する盟約軍艦隊の配備を見たミュッケンベルガーとアーベントロートの第一印象がこれであった。出撃している盟約軍は三個艦隊、要塞の三方向に陣取っている。

 

「これが全て、ではないな?」

 

「はい。入手した情報から考えるとあと一個艦隊半程度はいるかと。ガイエスブルクの駐留可能数的にも収容可能です。ブラウンシュヴァイク家の艦隊と予備と言った所でしょう」

 

「それにしても向こうにも一応は計算できる者がいるのかイゼルローンの経験者がいるのか。布陣位置が適切である。予行訓練と考えれば有難いが三ヵ所同時となると厄介なものだ」

 

 ミュッケンベルガーが呟く布陣位置とはイゼルローン駐留艦隊が使用していた布陣ポイントの一つ、"攻め手による要塞主砲圏外からの攻撃は正面遠距離砲撃戦のみ可能だが正面以外に回り込もうとすると主砲圏内ぎりぎりに踏み込む必要がある"というポイントである。遠距離砲撃戦のみでは致命傷を与えるのは難しい、回り込む場合は要塞主砲に撃たれる危険性を考慮しないといけないし要塞側艦隊は少し引く事で安全圏に逃げる事が出来る。帝国軍がイゼルローンを維持していた時は如何にこの状況を維持するかが駐留艦隊司令官の腕の見せ所であり攻め手は如何にして引きずりだすor平行戦のまま押し込むかで頭を悩ませた。そしてイゼルローンと違い、全方位を使えるガイエスブルク要塞に盟約軍は三個艦隊で三個のポイントを均等位置で作っている。ガイエスブルクには要塞主砲があるとはいえ艦隊支援の無いポイントは作りたくないという事である。イゼルローンはその狭回廊故に一個艦隊で正面を埋めればそれで良しだが全方位だとそうとはいかない故の三個艦隊展開。

 

「こちらの布陣を伝える」

 

 ミュッケンベルガーの指示で各艦隊が大回りで要塞周囲を旋回し、初期布陣を完了させる。

 

 

「現状は予定の通り、各部隊の健闘を祈る」

 

 アイゼンフートが通信を終了し、正面に布陣する正規軍二個艦隊を見据える。さらにその後方に同規模の反応を感知している。布陣した三個艦隊に対してそれぞれ二個艦隊、後方に見える二個艦隊で合計八個艦隊。残り二つは周囲警戒か何かの別行動と見るべきだろう。

 

「正面の艦隊、内一個艦隊が前進、一分後に遠距離砲撃圏内に入ります。他の戦域も同様の模様」

 

「了解。さて、ドカ損確定のジリ損状態。ドカ損までにどうやって"ぎゃふん"と言わせるか? だがまずはこの状況で戦えん事にはどうにもならんな。踏ん張るとしよう」

 

 そう言いつつアイゼンフートが右腕を上げる。それが振り下ろされると同時にガイエスブルク要塞攻防戦が開始された。

 

 





 考えてみたら同盟軍の三〇〇〇万動員は焦土戦無しだとしても血反吐吐いてたでしょうし、それより規模の少ないラグナロック作戦時の帝国軍は要本土からの輸送だとしてもやっぱりかなりの負担でした。で、原作リュプシュタット戦役では盟約側人員二五六〇万でラインハルト達の動員数を入れると合計四〇〇〇万を軽く超えて四五〇〇~五〇〇〇万といってもありえる状況。この両軍が帝国領内の補給網をお互いに奪うなり潰すなりしながら同盟の帝国領侵攻作戦と同等以上の期間やりあってたんですよ。これ、補給的にヤバくね?

 原作読んで頭抱えたのはラインハルト軍は士気が低下し混乱しつつある中とはいえ ガイエスブルクを正攻法で攻略している んです。そして流石に主機能は停止してないだろうと思われるのに 要塞主砲に関する記述が無い んですよ。そもそも完全に麻痺していなければ射程に少数しかいなくてはやけっぱちで主砲発射しているはずなのに・・・・・・・・・ 後にイゼルローンとあれだけガチってる要塞としてはあまりにも記述が無い。


※1:艦隊の受け入れ
 集結している兵力はガイエスブルクの収容可能量を遥かに上回っているので損傷艦の修理や負傷兵の要塞内受け入れや要塞周辺待機になる艦艇への補給などで兵站管理部門はデスマーチ状態である。しかし、正規軍に対する補給・支援機能としての要塞運営を長くやっていた門閥貴族家の運営官僚は非常に優秀なのでこれを"デスマーチ"で済ませている。この経験が無ければそもそも適切な補給・支援事態を行えない(何をすればいいのかが判らない)

※2:投降艦と捕虜
 キフォイザーでの降伏、ガイエスブルクからの投降など合計すると四〇〇〇〇隻近い投降艦とその人員を抱え込んでしまっている。復帰を認めたとはいえこの内乱が終わるまでは流石に一旦投降兵としての扱いになるのでどこかで管理する必要がありレンテンベルク要塞周辺に待機させる事になった。弾薬や停止するだけなら必要のない軍需消耗品は全没収しているが数が数なので監視役を追加する事になった。尚、没収した物資は有難く最前線送りになった。

※3:ガイエスブルクに潜めていた部下
 盟約軍決起の際にあらかじめ用意しておいた艦(乗員全員、事前調査済み志願者)を賛同者という名目で多数紛れ込ませていた。艦はいつ戦場に立つか判らないので万が一を含めて理解したうえでの志願者のみを使用している。また、それらの艦には乗員帳簿外の工作員を忍ばせており要塞内部で活動中である。数百万人の人を抱えているので数十人程度のプロの工作員が紛れ込んでも堂々と生活していれば誰も判らない。
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