偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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 ちと今回は短くなってます(後書き参照)


No.41 一矢の矛先

 

 九月九日 ガイエスブルク要塞。

 

 勝利の式典がおこなわれる広間は何とも言い難い空気に覆われていた。式典で行われる引見順は以下の通りに行われる。

 

 1・非貴族高級士官(上官の命令等で従わざるを得なかった者)

 2・非貴族高級士官(元々お抱えだったり何らかの恩や縁があり自分の意志で参加した者)

 3・盟約に直接名を連ねていない貴族(数が多い為、引見は有力者のみ。処罰は全員)

 4・盟約に名を連ねた貴族

 

 個々の人物に対しての特別な扱い等は存在しない。事前に政府と共に定めた枠組みで対応が決定している。つまりこれは引見という名を使っているが実質的な集団簡易軍事法廷というものである。基本的対応については以下の通り。

 

 1・一階級降格のうえで僻地等の左遷任地赴任→一定期間勤務で元階級復帰(以後、"前科"として扱わない)

 2・不名誉除隊、公職追放&星間移動の事前申告制などの生活制限(将来的に恩赦や個別の推挙による処罰取り消しは有り)

 3・当主の場合、強制隠居。そうでない場合、家督相続権剥奪

 4・死刑

 

 さらに3と4の場合、貴族の家として以下の処置がとられる。

 

  ・当主の場合、爵位一段階降格(※1)

  ・領土&資産一部没収(※2)

 

 そして結果として新しい当主の選定が必要となった場合、対象は「独立していない前当主の直系及び兄弟姉妹(※3)」が優先して対象となる。対象者がいない場合はお家は取り潰しとなる。

 尚、ブラウンシュヴァイク本家とリッテンハイム本家は首謀者という事で無条件取り潰しである。

 

 式典は淡々と進む。非貴族高級士官や盟約に直接名を連ねていない貴族らは概ねこの裁きを従順に(寧ろ若干の感謝すら込めて)受け入れた。不名誉除隊を覚悟していたが一時左遷のみだった、死を覚悟していたが生き延びた、取り潰し&死を覚悟していたが生き延びたうえで家が残る可能性すらあった。甘い処分と言う声もあったが現実問題としてこれ以上の罪としてしまうと破れかぶれの再反乱の可能性もあり、釘を刺せれば十分であるとしてある程度の情けが入った処分となった。

 そして興味深い事に一番根の深い者達の生き残りが最も不満をあらわにしていた。彼らの大半は自ら艦艇に乗って前線に出ようともせず、自領に残り信じる者に全てを託して送り出す事もせず、ここまでわざわざやってきたのにずっとここにいた。それなのにこの期に及んでも自分たちが特別な存在である事を疑っていない。哀れみ、侮蔑、色々な視線を参列者から受ける彼らが盟約に名を連ねた貴族全てを表す訳ではない事は判りきっている。だが間違いなくこれが帝国の堕落が凝縮した姿なのだろう。

 

「この裏切り者め」

 

 そのような輩からの視線と怨嗟が参列する将官の一人に注がれる。フレーゲルはそれを正面から受け止める。どうせこれからの"後片付け"で同じような扱いを嫌というほど受けるのだ。この程度で怯んではやっていけないしやれなかったらそれどころではない。そもそも自分は恥ずべき行為は何も行っていないのだから気にする必要もない。まぁ、お陰で人生が大きく変わって(狂って)しまったのかもしれないがやっぱり気にしても仕方がない。送り出される者達の中には知っている顔も多数いる。家が潰れない様に何とかしてあげたいと思う程度の交流・恩のある人もいる。しかし大半の者達に対しては正直な所、何とも思わない。それが嘘偽りのない門閥貴族という存在への彼の本音になってしまっていた。

 

 

 静かになった会場に一つの柩が運び込まれる。オットー・フォン・ブラウンシュヴァイクの遺体の入った柩を運ぶのは生存する盟約連署者で最高位となったクラーク・フォン・ジェファーズ、そして忠臣アンスバッハ。二人が恭しく頭を下げる。

 

「フレーゲル中将」

 

 ミュッケンベルガーの指名でフレーゲルが一歩前に出て二人に軽く会釈する。

 

「検分させていただきます」

 

 その現場にいたとはいえこの場にて行う必要もあるし万が一であるが偽物という可能性もある。アンスバッハが頷き、柩のスイッチを押すと蓋が開かれる。そしてフレーゲルが確認の為に歩み始めるとジェファーズがごく自然にフレーゲルと柩の間を塞ぐ。一瞬立ち止まり、戸惑う仕草を見せると周囲の視線と意識は無意識にそちらに集中する。皆の視線から外れたアンスバッハが柩のスイッチをもう一度押すと柩の横から引き出しが現れ、そこに収められていた筒の様なものを取り出す。皆、理解が追いつかぬ顔でそれを見つめる中、

 

「我が主と盟約の為に、一矢報いさせて頂く」

 

 アンスバッハの静かな宣言と共にその筒、ハンド・キャノンから轟音と共に放たれた炎がミュッケンベルガー目掛けて放たれた。

 

 

 ミュッケンベルガーから数メートル横の壁画が粉砕され、凄まじい衝撃派が周囲の者を襲う。

 

「貴様ぁ!!」

 

 アンスバッハがハンド・キャノンを僅かに逸れさせた男、オフレッサーを睨みつける。アンスバッハにとっての不運、ミュッケンベルガーにとっての幸運。それはこのオフレッサーの立ち位置が参列者の序列順例外として引見者の近くになる位置であった事、そして結果としてそこがフレーゲルの正反対であった事。フレーゲルがそこにいたのは提督陣での序列的なもので、オフレッサーがそこにいるのは万が一引見者が何かを起こした時に制圧する為。そしてその万が一が今、発生した。

 オフレッサーも多分に漏れず、その直前はフレーゲルとジェファーズの方に意識が向かってしまっていた(意識が逸れたというか変な動きをしたジェファーズに反応した)。しかし立ち位置的に柩を挟んた向こう側だった事もあり視線の手前にいるアンスバッハが引き出しを出した所で意識がそちらに戻り、取り出したものがハンド・キャノンであると理解した瞬間、無意識に走り出していた。それでも間に合ったのはアンスバッハが一言申し上げたからであり、何も言わずに即発射していたら間に合わなかったであろう。オフレッサーは走り込みながらの右ストレートでハンド・キャノンを直接狙って逸れさせる。そして睨みつけたアンスバッハが呪詛の言葉を放つや否や

 

「ふんっ!」

 

 と左のボディブローをめり込ませる。骨、そして臓器の一部が砕け散るおぞましい音が響き渡る。アンスバッハの瞳孔が開き、震える左腕がオフレッサーの顔を殴りつけるかのように動く。オフレッサーがそれを受け止めようとするが形容しがたい恐怖をそれに感じるとすぐさまその手首を掴み、外に引き剥がそうとする。その瞬間、アンスバッハが付けていた指輪型レーザー銃から放たれた白銀色の条光がオフレッサーの右肩を貫いた。肩を貫く激痛と共にそこから先がコントロールを失い、掴んでいた手首を離す。しかし、すぐさま足を払い転倒させこちらも倒れ込む勢いで繰り出した左の掌底がアンスバッハの左手首を磨り潰しそこから先が千切れ飛ぶ。その一撃がアンスバッハの最後の意識を粉砕し、彼は永遠の眠りについた。

 

「・・・・・!!!! 医師だ!医師を呼べ!!!」

 

 誰かが叫びをあげ、一同の意識がやっと現実に戻る。慌てて駆け付けた医師がオフレッサーの軍服を魔法のような手つきで切り裂き、肩を強制止血帯で覆うと同時に逆の腕に緊急輸血パックの針を刺す。「自分で歩ける」と言うオフレッサーを「いいから乗りなさい」と一喝し担架で運び出す。

 

「貴公も知っていたのだな?」

 

 場から降りて来たミュッケンベルガーが取り残されたように立ち尽くすジェファーズに尋ねる。

 

「いかにも。こうして話し合えることが誠に残念です」

 

 正真正銘、最後の大物となってしまったジェファーズが堂々と応える。

 

「・・・・連れていけ」

 

 兵に連行され、ジェファーズがその場を去り、すれ違いにフレーゲルがやってくる。

 

「念の為確認しましたが間違いなく本人です」

 

「そうか」

 

 それを聞き、ミュッケンベルガーが少し考え込む。

 

「あれを許してしまうとは我ながら詰めが甘い。さて、これ(柩)はどうするか・・・。謀反人故に正式な墓は建てられぬが他と一纏めにしてしまうのも何かが違う。然るべき処分を行ったという事にしておいてやる。処分はお前でやっとけ」

 

 要するにひっそりと葬る分には良し、という事だ。

 

「ご配慮に感謝いたします」

 

 周囲を見渡すと処理も終わり、落ち着きを取り戻した参列者達の視線が集まっている事に気づく。

 

「式典はこれで終了だ。各々帰還の準備を行い、出来次第出立せよ!!」

 

 帰還して最低限の整理をしたら盟約軍領収公の為にまた出発しなくてはいけないが色々とあった戦いそのものは終わった。己の身を深く傷つけたとはいえ帝国という身体から主だった腫瘍と膿をほぼほぼ取り出す事に成功した。後は自由惑星同盟などという害虫に集られるより先に身をどこまで癒せるかである。

 

「残る"宿題"はイゼルローンのみ。これもわしの代の失点なればこの代にて片付けねばなるまい」

 

 ミュッケンベルガーの意識は既にこの戦いから離れ、次の戦いへの道筋作りに向かっていた。

 

 

 ・銀河帝国正規軍

  参加艦艇:一八万五七〇〇隻余

  艦艇人員:二二三〇万名余

  損失大破:四万一〇〇〇隻余

  損失者数:四七〇万名余

 

 ・リップシュタット帝国正道軍(盟約軍)

  参加艦艇:一四万四〇〇〇隻余

  艦艇人員:一三七〇万名余

  損失大破:八万八五〇〇隻余

  損失者数:八七〇万名余

  捕虜艦艇:四万一五〇〇隻余(脱走後降伏、戦闘後降伏など)

  捕虜人員:三四〇万名余(脱走後降伏、戦闘後降伏など)

  不明艦艇:一万四〇〇〇隻余

  不明者数:一六〇万名余

 

  人員は戦闘用艦艇に関するもののみ。

  正規軍の艦艇は首都星待機・ミッターマイヤー独立隊に動員された基地部隊・シュタインメッツ部隊含む

  盟約軍の艦艇は主にミッターマイヤー&シュタインメッツに荒らされた領土防衛部隊は含まず。キフォイザー会戦で追加動員された留守部隊は含む

  不明艦艇&人員は総数から撃破・降伏等をしていない現時点で結果の把握ができていないものの数

 

 

 ガイエスブルクに臨時のブラウンシュヴァイク領治安部隊(※4)を残し、各艦隊旗艦(※5)が首都星オーディンに帰還する。帝国史未曽有の大乱はあのダゴン星域会戦の損失者を、正規軍のそれだけで上回るという大きな爪痕を残した。だがこれで帝国はただ一点、イゼルローン要塞が占領されているという事を除けば国内での大いなる憂いと言うものが無くなり、後は如何にして立て直するかという正しくリヒテンラーデや軍首脳の思い描いた"己の代の不始末を片付ける"段階に入ったといえよう。その希望があるからこそ、これだけの出血を覚悟したのである。そして・・・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 帝国歴四八八年(宇宙歴七九七年)九月一四日

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全銀河人類に告ぐ。私はアイゼンフート、銀河帝国リュプシュタット帝国正道軍盟主代理にして軍総司令官フェルテン・フォン・アイゼンフートである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 全銀河人類に告ぐ。私はアイゼンフート、銀河帝国リップシュタット帝国正道軍盟主代理にして軍総司令官フェルテン・フォン・アイゼンフートである。

 

 我らが盟主オットー・フォン・ブラウンシュヴァイク公はその志半ばにして命を落とされた。貴族という大きな柱を自ら打ち砕いた屋上で帝国を手にした佞臣共が宴を開く。これは帝国の終焉を示すものなのか?人の命にいつか終わりがあるように国もまたいつか失われる時が来るのかもしれない。しかしそれは今ではない、それは天命が定めし給うものであり佞臣共の手により朽ち果ててしまうものではない。

 帝国の者達よ、このまま佞臣共の手により国が朽ちていく事を良しとするのか?それに従うを良しとするのか?我々はそれを認めない。故に立ち上がった。故に戦った。それで敗れた我らを笑いたくば笑え。しかし我らはそれでも奴らを認めはせぬ。帝国でなくなった帝国を認めはせぬ。そのような帝国であるならばそれを終わらす天命となる事が正道を担っていた我らが行える最後の忠義である。

 しかし、今の我々にはその力が無い。必要なのは力を蓄え、育てる雌伏の時を得る新世界である。皆に問う。朽ち果てる帝国に殉じるならばそれでいい。帝国を真に愛し、異なる帝国を愛せぬならば立ち上がれ。正道の志を持つならば立ち上がれ。そして集え。我らに集え。さすれば我らリップシュタット帝国正道軍が次なる道しるべを、次なる新世界を示そう。その新たなる世界で正道たる志を剣として朽ち果てゆく帝国を再生する不死鳥となろう。

 

 

 自由惑星同盟なる者達よ、我らを受け入れよ。自由なる思想を許すのであれば、我らの思想を受け入れよ。共存共栄の同盟と言うのであれば、我らとも共存せよ。我らを受け入れるのであれば、我らもまた自由惑星同盟という国を受け入れるであろう。

 

 

 我らリップシュタット帝国正道軍は自由惑星同盟への亡命を宣言する。

 





 オフレッサーがその位置にいた本来の役目は「貴族の馬鹿どもが逆切れしたら見せしめとして数人〆ろ」という事で引見者の立ち位置に近い場所(ミュッケンベルガーから見て前方左右の参列者の後ろの方)にいたのである。

 原作でもアイスバッハ、一言宣言する事なんぞせずに撃ったら多分、ラインハルト死んでましたよね・・・・場所的にオーベルシュタインも巻き込まれそうだし、それで止めに入ったキルヒアイスも原作通り死んだら。頭が全部なくなった一行に対して直接手を下さずともリヒテンラーデの一人勝ちになるじゃん。軍上昇部の人材も枯渇してまともな攻勢に出れなくて、それでも同盟は自然死しちゃいそうで、ってひでーgdgdだ。

 「怪我した時に軍医が命令口調で指示してきたら逆らうな。死にたくないのであればな」byオフレッサー

 オフレッサーは粗暴だけどここまで生きて来た戦士の心得は筋が通っている。と事前脳内設定してたんですがなんか立派そうな人物になってしまった。将官としての指揮、何一つしてないんだけど。

 内乱相軍の合計艦艇数がとんでもない量になっていますが同盟軍の最大時が一二個艦隊+各独立部隊+巡視隊警備隊等で二〇万隻は超えてただろうなぁって思うと帝国は元々人口が多く一八個艦隊+同盟と比べて棄民・海賊対策で数が多い辺境部隊+領内治安部隊としては過剰な貴族の私兵などなどを入れると倍の四〇万隻は超えてるんじゃないでしょうかねぇ、と。


 今回、短くなりましたが次がその分長いです。
 投稿日前日の時点で投稿予定の一話分とその次の一話分のストックが出来ている、というのが定例になってます。投稿したら次の次になる話を書き始め、次の投稿日に近づくとその二話分の話を見直して投稿分を修正する。と言う流れです。そして今回は二話分のストックを真ん中で区切れなかった、という事なのである。


※1:爵位
 公爵→侯爵→伯爵→子爵→男爵→帝国騎士(相続権あり)→帝国騎士(一代限り)
 帝国騎士(一代限り)の者は平民となる。

※2:領土&資産一部没収
 降格の場合は降格後の爵位における平均以下まで、降格でない場合は処罰対象者の一族内影響力に準じた量の没収となる。没収される地は有力鉱脈や工業・商業・農業地など美味しい所を優先で行われ、結果として残るのは"サイズの縮まった美味しくないのが多い土地"である。男爵→帝国騎士の場合、領土は全没収となり資産のみが残される。

※3:対象者
 自領で敵対行動(物資提供なども含む)を取った者も処罰対象となるので正しくは「独立していない前当主の直系及び兄弟姉妹で盟約参加にNOを出して何もしなかったor正規軍側に立った事が記録に残っている者」が優先して継承対象となる。これはカルネミッツのような立場の者を生かすための逃げ口として用意された。中には何らかの形で家を残す為に偽装分裂した家もあるがそれを考えられる程度の頭が有る家であればこれからは従順に従ってくれるだろうという事で追加のお咎めは無し(黙認)、としている。

※4:ブラウンシュヴァイク領治安部隊
 貧乏くじを引かされたシュターデン艦隊(一一四〇〇隻)のみ、式典前の先行帰還の対象外となり全艦駐留。
 他に帰還できなかったのはレンテンベルクを中心とした要塞陣で捕虜の監視管理等をしているケンプ・ロイエンタール艦隊とガルミッシュ要塞でリッテンハイム領治安担当のシュタインメッツ部隊

※5:各艦隊旗艦
 シュターデン艦隊と壊滅したフォーゲル艦隊以外の八個艦隊は本体の一部(一〇〇〇隻程度)を残して先行帰還。フォーゲル艦隊残存も帰還組。これでガイエスブルク要塞駐留能力ぎりぎりの約二〇〇〇〇隻。
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