偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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No.42 さらば、黄金樹

 

 

 我らリップシュタット帝国正道軍は自由惑星同盟への亡命を宣言する。

 

 

 

「な ん だ そ れ は ぁ ぁ ぁ ! ! !」

 

 怒声と共に叩きつけられたカップが砕け散る。

 

「あれだけの規模だ、一人や二人それなりの地位にいた者が落ち延びる事など元より承知。戦場から逃げ出した者達から叛徒領への亡命が出る事もやむなしだ。だが、よりによって生き残ったのがあ奴でやる事が扇動して集団亡命などどこに"正道"があるというのだ!!!!」

 

 再び声を荒げようとして周囲の視線に気づき止める。アーベントロート(こういう時は鎮火するまで放置なのだがそうはいかない、でも自分は嫌だ)からレンネンカンプへ、レンネンカンプ(相性が悪い自分が行くと火に油になる)からキルヒアイス&オーベルシュタインへ視線が移り、意識しているかしてないか判らないが視線をそらしているオーベルシュタイン(相性が(略))を一瞥したキルヒアイスがため息をついて一歩前に出る。

 

「閣下、憤慨なさるお気持ちは皆同じです。しかし今は落ち着いてあの企みを如何にして阻止して国を落ち着かせるのか? それを考えましょう」

 

 思わず反応して睨みつけ、やはり何か口に出てしまいそうになるが何とか踏みとどまる。ここでそれをしてしまうと総司令部は空中分解し、自分が間違った時に諫めてくれる人がいなくなる。

 

「…………情報を纏めよ」

 

 それだけ言って席に座り、周囲がやっと動き始める。流石に動き始めれば早い。ものの一〇分程度で当面必要そうな情報は集まる。

 

「まず、声明の発生元は複数。事前録音したものを複数個所で同時に発信している、と見てよいでしょう。これを元に首謀者アイゼンフートの位置を特定するのは不可能です。位置そのものについては最後にかの者が確認されたのは先月二九日の総攻撃の時なので既に一六日が経過しています。イゼルローンにせよフェザーンにせよそれなりの所まで進んでいる事でしょう。むしろ進んだからこそ声明を出した、といえます」

 

 アーベントロートが状況の説明を開始し、ディスプレイに次々と情報が表示される。

 

「これに対して我々の布陣ですが……客観的に判定すると現在の譜面は極めてよろしくありません。これから行う事はその流れをどれだけ和らげるか、という視点にならざるを得ないでしょう」

 

 説明しつつ追加される友軍の布陣情報を見て幕僚達からうめき声に近い言葉が漏れる。

 現在、正規艦隊は治安維持などの為に各要塞に一時駐留している部隊を除き首都星オーディンに帰還中であり到着目前となっている。要するにガイエスブルクから見てアイゼンフートとは双方逆方向に移動していた事になりこのまま逃亡を継続されたらこちらからの捕捉はもはや絶望的な距離になっているといえる。そして遠い先であるイゼルローン回廊及びフェザーン回廊の手前には万が一に備え開戦後に逃亡阻止の網は形成されている(既にキフォイザーの残兵などと思われる逃亡艦は捕捉されている)。しかしその網を作る為にそれなりの代償を払っている。そもそも正規艦隊以外の国内基地駐留艦艇は辺境警備部隊を除けば非常に少ない。貴族領はその私兵達が治安維持する事が決まりとなっているしそれに囲まれた帝国直轄地は囲まれているが故に外敵の心配がなく警備は最小限となっている。その関係で辺境以外への配備が極端に少ないのだ。その辺境部隊は本業の為に動かせないし、一部地域の余剰兵力はシュタインメッツがかき集めてしまった。そして残った残骸を何とかかき集めて網にしているのである。

 

「キフォイザーやガイエスブルクの戦いで逃亡し行方不明となっている数が推定一万以上。扇動に触発された敵自領留守部隊は当然ながら未来を悲観した貴族達も多数逃亡するでしょう。これらが両回廊に群がった場合、用意している網だけでは完全なる阻止は不可能とみるべきです。扇動さえなければ数に限りがありますし、予定では"その手がある"と思われる前に再出撃させた艦隊で封鎖予定でしたが時が足りません。さらに付け加えますと"予告亡命"を宣言された叛徒政府が亡命の直接支援を決定した場合、イゼルローン方面の網は完全に崩壊します。叛徒領内の乱は八月に鎮圧済みという情報も入ってますので駐留艦隊がイゼルローンに帰還している事も考えねばなりません。これが我々の現状です」

 

 周囲から溜息があふれ出す。

 

「相手にもそれなりの情報網はある。あ奴は単独での亡命は危険性が高いと判断し、最低最悪のタイミングで盤上を揺るがせたのだ。長期遠征の反動で一時的に艦隊を戻さざるを得ない事も計算に入れてな。己が何かをするわけではない。周囲全てをぐちゃぐちゃに巻き込む事で己の存在を埋もらせようとしたのだ」

 

「しかしお手上げ、とするわけにはいきません」

 

「当然だ」

 

 そういうとミュッケンベルガーは立ち上がる。

 

「一番近い部隊を動かす。ガイエスブルクのシュターデン艦隊をイゼルローン回廊側へ、ガルミッシュのシュタインメッツ部隊をフェザーン回廊側へ。両部隊が担当していた治安維持は首都星に帰還した部隊を最小限の補給で向かわせる。また、政府に許可を取りこちら側の貴族領部隊も動員させる。それと帰還艦隊から編成を予定していた封鎖艦隊を急がせろ」

 

 再び幕僚達が動き始める。

 

(ここからの部隊は時すでに遅し、だろうがな。距離の壁の無常さは叛徒共の侵略時に思い知ってるわ)

 

 そう考えるミュッケンベルガーだがさらに一つ、身も蓋もない事が口に出てしまう。

 

「いっその事、不純物は全て叛徒共に引き取ってもらえばいい。多ければ多い程、力になるかもしれんが災いの種にもなる」

 

 そのやっかいな小言は幸運な事に誰にも聞かれることは無かった。

 

 

「さて、あとはどれだけ隠れていた友軍(行方不明艦艇)が姿を現してくれるか、だな」

 

 そのかき回した張本人が己の演説を聞きつつ実にのほほんとつぶやく。

 

「今後は、予定通りに?」

 

「そうだね。後ろから追いつかれない程度に、それでいて網に近づきすぎないあたりに。うまいことぶらぶらして情報と数を集めるとしよう」

 

 そういうと彼、フェルテン・フォン・アイゼンフートは振り返り司令長官席に座る御方に恭しく頭を下げる。

 

「結局の所、これは"このままだと上手くいきそうにない"と考えた故の窮余の策。かき乱してどうなるかはなるようになってみないと判らぬもの。まだしばらくの間はご不便をおかけする事をお許しください」

 

「既に全てを伯爵様にお任せしています。気になさらず、なるべく多くの同胞が助かる道をお探しください」

 

 形だけとはいえ新たなる盟主エリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクが応える。

 

「有難く」

 

 アイゼンフートが再び前を見る。

 

「確認できたし長居は無用。予定通りの移動を開始してくれ。一度死にぞこなった命だ、こうなったら中途半端には死ねん。とことん生き抜いて嫌がらせを続けようではないか」

 

 盟約の灯、今だ尽きず。

 

 

 

 

 

 時は遡り八月二九日

 

 急激に減りつつある火線をアイゼンフートは呆然と眺める。

 

「もしかしてだけど、生き延びちゃった?」

 

「そのようですな。もう少し部隊を分けるなり何なりすると思って覚悟しておりましたが……」

 

 艦長も同じように呆然としている。

 逃げる味方の誘導指揮は一段落したが最後尾といっていい旗艦は最終的には磨り潰されるだろうとしか思えない距離であった。しかし、追撃していたフォーゲル艦隊は総旗艦ベルリンを捕捉するや否や他の全てをほっぽり出して突貫。今まで必死に追いかけていたアイゼンフート艦隊残余など最初からいなかったかの如く艦隊の一割程度の数でしかない標的目掛けて突き進んだ。分艦隊の一つでも追撃を継続させていたら位置といい距離といい、どうにでもなる状況だったというのに。

 

「とりあえずこのまま流れに沿って距離を開けるとして……これからどうするか? 左右に半々だとしても見える範囲の数ならば集合しても一個艦隊に満たず、か」

 

 そう考えているうちに後方で閃光が走る

 

「要塞砲、発射されました」

 

 光の槍が今まで自分を追ってきた敵艦隊の中央を貫く。友軍を貫く関係で威力が弱まった形での直撃だがそれでも艦隊には"穴"があく。

 

「まずは真ん中。的となった友軍は残念だがそれ以上の敵も消えた。もう塞がる物はない、逃げ切るまで撃ち続ければ半個艦隊分くらいは消えて無くなってくれる、と思いたいが……」

 

「要塞砲背面の敵艦隊が攻撃を開始した模様」

 

「となればこうなる、と。撃ち終わるまでに上陸できれば詰み、か」

 

 次から次へと状況が進む。だがもう介入するだけの力が無い。

 

「? ……本艦に乗艦希望の連絡艇が来ています。シュトライト准将がお乗りの様ですが? いかがいたしますか?」

 

「シュトライト准将が? わざわざなんで? 許可を出す。ここまでお越しいただくように」

 

 この状態で罠、とう事もない。わざわざ来るのであれば重要な事でもあるのだろう。

 急いでいるかどうなのかあっという間に乗り込んでシュトライトが艦橋までやってくる。到着したシュトライトは軽く会釈するとアイゼンフートに「少々お待ちを」と仕草で断り艦長に二言三言告げる。それが終わるとやっとアイゼンフートの元に歩み寄る。

 

「わざわざ直接のお越しとは。通信では話せぬ何かがあるのですか?」

 

「はい。通信ではなく、直接お伝えするようにとの公からの命ですので」

 

 そういうとシュトライトは懐から一つのカセットを取り出す。用意された機械にセットし、再生するとブラウンシュヴァイクの姿が映し出される。

 

「さて、これが届けられて聞いてもらえるとなると貴公が総攻撃後も生き延びていると言う事になる。とても喜ばしいものである。艦隊による組織的抵抗が出来なくなった程度で死に急いでしまってはこちらとしても困るのでな。さて、長話も出来んから端的に言おう。貴公には何があっても生き延びてもらいたい。それこそここが落城しても、だ」

 

「いやいやそれは流石に……。これだけの事を起こして、十数万の艦艇を使い潰し、最後の要塞ももう落ちる。その状況で生き恥を晒すつもりはないですよ」

 

 相手が再生された映像なのだがついつい愚痴をこぼしてしまう。そしてその映像が(続きがあるはずなのに)何も語らずにいる事を不思議に感じる。

 

「ここまでやったのに生き恥を、とかまぁ愚痴を言ってるのであろう」

 

 見事に当てられてしまい、顔が少し赤くなる。

 

「そう言われてもこちらとしては生き延びて欲しい、と言う事もあるので一つ贈り物を届けさせてもらった。貴公の人なりを考えれば嫌でも断れない贈り物、これを聞いているのならもはや逃げる事が出来ない贈り物を、だ。ここまで色々とやってしまったのだ。少しくらい延長しても良いのではないかな? 故に頼む。生き延びてくれ」

 

 そういうと映像のブラウンシュヴァイクが真っすぐにこちらを見据え、まるで上官にするかのように綺麗な敬礼を行う。

 

「フェルテン・フォン・アイゼンフート伯爵。貴公の武運長久を祈る」

 

 映像はそこで終了した。

 

「贈り物、ですか」

 

「はい、贈り物です。薄々でしょうがお気づきになられているとは思いますが?」

 

 シュトライトの問いにアイゼンフートが文字通り苦虫を噛み潰したような顔になる。

 

「えぇ、そういえばあれはどうするつもりだ? とずっと気になっていたことがあります。それならば見捨てる事は出来ません。嫌でも生き延びないといけなくなります」

 

「そういう事になります。ではもうお呼びしても?」

 

「どうぞ」

 

 諦めきったアイゼンフートが応えると護衛を伴ったその人が艦橋にやってくる。アイゼンフートの手前まで歩を進めると淑女らしい仕草で優雅に首を垂れる。

 

「エリザベート・フォン・ブラウンシュヴァイクと申します。父の命にて参りました。父は全てを伯爵様に委ねよとの事でした。よろしくお願いいたします」

 

 

「まず大前提ですがガイエスブルク要塞は陥落します。リップシュタット帝国正道軍は組織的活動能力を失うでしょう」

 

「その……父は?」

 

「残念ですがお諦め下さい。もしその気があるのならご一緒に動かれるなり同時に脱出するなりしているでしょう。シュトライト殿、駐留艦艇にそれが可能な艦は残っていましたか?」

 

「いえ、私の知る限りでは我々の脱出に用意した艦が最後です」

 

「わかりました。覚悟はしていたのですが、つい。お話を元に」

 

 そういう間にも乗艦(とエリザベート&シュトライト達が乗って来た艦)は戦闘圏外を抜け、まっしぐらに逃亡する。ブラウンシュヴァイクが発した揚陸ポイント強襲命令で動き始めた残艦達の最後尾に位置を取り、案の定の待ち伏せ攻撃が開始されると同時に四散し始めた艦艇に紛れてあっというまに圏外に飛び出した。ちなみにその前からアイゼンフートの旗艦シュプリンガーは旗艦識別信号の発信を停止している。シュトライトが最初に艦長に頼んでおいたのである。その時からアイゼンフートはMIA(作戦行動中行方不明)扱いであり盟約軍旗艦級艦艇の最後の一隻が消滅した。

 

「まず、大きく分けます。姿を見せるか隠れるか、国内か国外か。です」

 

 帝国全土の航路図が映し出される。

 

「といってもやれる事は限られています。実際の所、姿を見せようが隠れようが国内にいる限り後がないので国外の何処に行くか? とするしかありません。候補としてはフェザーン、同盟、そして名も知らぬ辺境。さて、エリザベート様。ご希望はありますかな?」

 

「希望、ですか?」

 

 ここで振られるとは思っていなかったのであろう、エリザベートがきょとんとした顔でこちらを見つめる。アイゼンフートが頷くと年齢相当の仕草で首を傾け考え始める。

 

「伯爵様はこれからも戦い続けられるのでしょうか?」

 

「はい。帝国の現政府打倒を志す者がいる限り」

 

「ならば」

 

 エリザベートが姿勢を正し、正面からこちらを見据える。

 

「叛徒、いえ、同盟に行きましょう。フェザーンでは軍事力を持てませんし辺境では打倒できる力を手に入れる事はできないでしょう」

 

「御意。しかし同盟に行くとならば、色々と捨てねばならぬものがありますが宜しいですか?」

 

「はい。家での教育で大筋には理解しているつもりです。敵だからこそ知らないといけない、と父は言っていました」

 

 その言葉にアイゼンフートが深くうなずく。

 

「ならば同盟へと歩を進めましょう。かの所には帝国からの亡命者で構成された陸戦部隊もあるとか。艦艇要員は数が数ですのでないようですがそれを目指すのも一興」

 

「決定、ですか?」

 

「決定です。我々はこれから叛徒改め自由惑星同盟という"国家"への亡命を前提に行動を行います。といっても距離がありますからな。当面はこそこそと距離を稼ぎつつの情報収集となるでしょう」

 

「詳細はお任せしてもよろしいでしょうか?」

 

「任されましょう。その為に私が選ばれたのですからな」

 

 いつの間にかガイエスブルクは"あのへん"としか認識できない距離まで進んでいた。ここまでくれば大規模な組織的哨戒網でも用意するか徹底的に運が無い限り見つかる事は無い。二隻の亡命艦艇の旅が始まった。

 

 

「まだ二日弱しか経過しておりませんが非常に宜しくない状況です」

 

 とある作業に没頭していたアイゼンフートとそれを補佐していたシュトライトがげっそりした顔でエリザベート(in司令官席)に報告する。少し前にガイエスブルク要塞陥落の報が入ってきたがそれについては「覚悟を決めていた既定路線」なので大きな動揺はなかった(といってもエリザベートには無理せずに休養を進めたが(むしろ何かしていた方が気がまぎれると言う事で)拒否)。

 

「宜しくない、とは?」

 

「まずはこちらをご覧ください」

 

 エリザベートの問いにアイゼンフートが応えるとスクリーンに先日も見た帝国全土の航路図が映し出される。違うのは各所に何かを示す点が付いている事だ。

 

「イゼルローン及びフェザーン回廊の手前に用意された逃亡防止の網が想定上に大きく、このままだと捕捉されてしまう可能性があります」

 

 その情報はエリザベート&シュトライトが乗ってきた艦に蓄積されていた情報を整理した結果判明した。その艦は現在のような最悪な事態に備えて用意されていたもので規定以上の物資を詰めるだけ詰んでいるのと同時にガイエスブルク要塞司令部が各地から入手していた正規軍配備情報を手当たり次第保持していた。それを先程までがっつりと解析整理した結果、そこ(回廊)まではかなりスカスカだけど最後に厄介な網が用意されている事が判ったのだ。むしろスカスカにしてもいいから最後の網に集中させた感がある。

 

「概略は省略しますが元々辺境を除いた内地は正規軍の配備は少ないものでして、貴族領には治安維持を兼ねた私設艦隊が存在し貿易などの民間艦も貴族領を通行路に選ぶ事で安全を確保している関係(※1)もあり正規軍の航路警備艦艇はその範囲に対して少なく網を張るには元から足りません。しかしどうやらその少ない艦艇をかき集めて最初で最後の網として回廊付近に配備しているのです」

 

 塵も積もればなんとやら。五〇や一〇〇といった警備どころか後手対応専門の部隊であったもそれが一〇や二〇と集まればめんどくさい量になる。

 

「このままでは亡命は不可能、と?」

 

「かなり難しい、と言わねばならない事は確かです」

 

 その言葉にエリザベートの顔に沈む。そしてそのまま何かを考えて、口を開く。

 

「もし、もしもです。私の身柄を使えば皆さまが助かる。のであれば遠慮なく使ってください。ですので一人でも多くの方々が助かる道をお考え下さい」

 

「いえ、それはやりません」

 

 エリザベートの申し出をアイゼンフートが軽く一蹴する。

 

「それにかなり難しい、とは言いましたが万策尽きたとはまだ申しておりません」

 

 ちょっと意地悪をたかのような仕草で語り。エリザベートがすこしムスーっとした表情になる。そして緊張がほぐれたのか二人して軽く笑い合うとアイゼンフートが言葉を続ける。

 

「予定では誰とも接触せずに事を進めようと思いましたが変更して道連れに出来そうなのを少しは集めようかと思います」

 

 そういうと視線をシュトライトに向ける。

 

「エリザベート様はヴェスターラントの一件はご存じでしょうか?」

 

 シュトライトの言葉にエリザベートが頷く。

 

「あの件において造反者を討ち取ったのは一時停戦した正規軍でしたが我々が送り込んだ兵もその直後に到着しました。そしてヴェスターラントの警備を引き継いだ状態で今日を迎えています。その兵は公の親衛隊から送り出された艦艇数一〇〇隻程の戦力です。もし彼らがまだ現地に留まっているようであれば味方として引き込む事が出来るやもしれません」

 

「と言う事なのでシュトライト殿にあちらの艦(同行しているもう一隻)で接触してもらおうと思います。万が一がありますのでこの艦で接触する訳にはいきません」

 

「父の親衛隊でしたら私が顔を出した方が良いのでは?」

 

「メッセージとしての映像を一つ頂きます。ご本人の場合、万が一がありますので」

 

 そういうとメモ(台本)を渡して手早く映像を撮る。そして準備が整うや否やシュトライトを乗せた艦が出発した。

 

 

 それから旗艦シュプリンガーは三日程前進した所で歩を止め、シュトライトを待つ。そしてさらに二日後の九月五日。シュトライト"達"の艦艇は合流する。

 

「吉報が一つ、凶報が二つ」

 

 シュプリンガーに戻ったシュトライトが報告する。

 

「凶報の方が多いのが不気味なのだが……吉報から聞かせてくれ」

 

「では」

 

 コホン、と軽く息を吐いて。シュトライトが説明を開始する。

 

「吉報としては彼ら(合流した部隊)が独自に接触していた流浪部隊が多数おり、かなりの戦力増が可能です」

 

「それはまさしく吉報。で、凶報は?」

 

「本艦との接触について既に先走ってしまった艦があり、情報の伝播次第では十分な距離を稼ぐ前に存在が明るみになります」

 

「なるべくバレない程度の大声でなんとしても静かにさせてくれ」

 

「既に依頼中です。そして第二の凶報ですが、合流した部隊は物資が不足しています。少なくともイゼルローンまでの量はありません」

 

「なんでよ」

 

 アイゼンフートがあきれ顔で呟く。

 

「その部隊ですが、出撃そのものが緊急だったので補給物資を満載できていませんでした。そしてヴェスターラント到着後ですがやはり造反者とはいえ仲間と思っていた盟約軍から攻撃を受けかけたというのがショックだったのでしょう。部隊との間に信頼関係を築けず、物資の提供を受ける事が出来ていませんでした。その状態で我々が接触してしまいまして……」

 

「そのまま来ちゃった、と」

 

「はい」

 

「数は?」

 

「六七隻」

 

 無言で天を仰ぐ。

 

「先ほど話しました"接触している流浪部隊"には輸送艦も含まれていますので上手く合流できればなんとかなるのですが…………」

 

 アイゼンフートが考え込む。

 

「……大前提としてそれなりの数を集めなければ突破は出来ない。その為の集合号令をかけるとこの艦の存在が捕捉されてしまう。かけるとしてももっと距離を開けてから、少なくとも後ろから追いつかれないだけ間を稼がないといけない」

 

「連携は止めてもらう方向で指示は出しております。移動しつつ考えましょう」

 

「だな。といっても何日も放置するわけにはいかない。一日二日で何とか方向性を決めるとしよう」

 

 オーディン~イゼルローンで見れば半分ちょっと程度の位置ではあるがガイエスブルクから見たらまだ射程距離。総勢六九隻となったアイゼンフート亡命艦隊は人通り(船通り?)の少ない航路を選び、距離を稼ぐために一目散に突き進んだ。

 

 

「姿を見せようと思います」

 

「見せる、とは?」

 

 アイゼンフートの宣言を聞きエリザベートが首を傾げる。

 

「回廊手前の網を突破する戦力を集めたいのですが予想以上に流浪部隊同士の連携が成されているようで中途半端に号令をかけても芋づる式に集まってくる関係で動けるだけの収拾を付ける時間で掃討軍までやってきそうな勢いです。ですので可能な限り隠れて距離を稼ぎ、頃合いを見て姿を現して号令をかけようと思います」

 

「それでもやはり号令をかけてしまったら身動きが取れなくなるのでは?」

 

「はい、ですので号令をかけた後に我々はとどまらずに進みます。むしろ流浪部隊などには"その行先に現地集合"させます」

 

「現地集合?」

 

「現地集合です。姿を現して亡命を宣言して流浪部隊だろうが留守部隊だろうがこれからに困っている者達の尻を叩いて誘導します。亡命という手もある、してもいい、と気づかせます」

 

「静かに、の予定でしたがとても大騒ぎになりますね」

 

「大騒ぎにします。我々も同士達も正規軍も帝国政府も同盟軍も同盟政府も皆々巻き込んで頭を抱えてもらいます。少なくともここから先の帝国領にその大騒ぎを統制するだけの器量持ちはいない、んじゃないかと思います」

 

「私は軍についてはわからないのですが結果としては"沢山の人を巻き込んでそれに紛れて亡命する"と言う事で宜しいでしょうか?」

 

「その通りです!」

 

 アイゼンフートが胸を張る。色々と正攻法を考えたのだが思い浮かばなかった。思い浮かばなかったからこそ思い浮かんだのは"正攻法が存在しない・使えない状況にしてしまえ"というものだった。全ての舞台をひっくり返してかき混ぜる。その火中での臨機応変であれば自分は上手くやれるんじゃないかという自信もある。その内容を相談されたシュトライトはしばし呆然としたもののこれといった対案を提示する事もできず、むしろ今までの経験を活かしどうすれば政治的に困った事態になるのか? で策を練り上げる始末だった。

 

「具体的内容ですが…………」

 

 説明が開始される。全てを委ねる、としているエリザベートとしては何を言っても任せるつもりではあるがアイゼンフートとしてはあくまでも主はエリザベートとしているので筋は通す。そして淡々とその日の為の準備が開始された。

 

 

 

「いやぁ、楽しい状況になってまいりましたな」

 

 九月二一日、あの布告から一週間。アイゼンフート達の本隊はイゼルローン回廊まであと一週間弱程度の地点まで前進していた。この辺りが網の為にかき集められてスカスカになっている宙域の限界点である。彼らはここで逆の網を張って元々亡命を目指していた流浪部隊などを見つけては糾合していく。集まりすぎると小回りが利かないので三〇〇隻程度を本隊とし、各地に五〇・一〇〇といった小集団をちりばめている。しかしまだ網に対しては心細い。

 

「追撃も予想より遅れているようです」

 

 航路図を眺めてシュトライトが呟く。こちらに向かってくる追撃隊はどうやらガイエスブルクにいたらしい一個艦隊が確認されている。しかし、ガイエスブルク周辺がブラウンシュヴァイク公領やその関係者達の勢力圏だった事もありそこから(布告に感化されて)逃亡を開始した者達などにより混乱の渦が巻き起こっている。艦隊はそれらを相手にせず一直線にこちらに向かってきていると思われるが道中接触してしまった者達への対応や通常の規制を無視して飛び交う艦艇に影響されたワープ航法の遅れなどが発生しているのだろう、明らかに一週間で移動できるはずの距離を移動できていない(尚、接触した逃亡艦などが接触の際にその都度情報を発信するものだから定期的に位置情報が勝手に入手出来てしまっている)。

 

「後は同盟軍がどう動くか、だ。駐留艦隊が出張ってくれれば良いのだがそこまでアテにする訳にはいくまい」

 

 布告の後、同盟政府は直接的な介入を示してはいない。唯一の反応は「所定の手続きにて行う亡命は常に受け入れている」という声明を出したのみである。既に内乱は終結しているとはいえイゼルローンの駐留艦隊が帰還しているかについては不明なのでいる事を前提として行動はとれない。

 

「いつまで待ちますか?」

 

「後ろとの距離を考えると数日が限界、と言いたい所だがもう出た方がいいだろう」

 

 ガイエスブルクからイゼルローンまで、一直線に進めると二〇日弱で到着できる。アイゼンフート達はその中間ちょい程度の位置におり後方から迫ってくる敵艦隊は更に後方一週間あるかないかの位置にいる。それは現状問題ない、問題が発生したのは別の方面である。

 

「よもや貴族領の私兵まで動員するとは。敵味方の私兵部隊が入り乱れると収拾がつかなくなるから出さないと思っていたのだが……」

 

 基本的にオーディンから見て遠地になればなるほど貴族領は減り、帝国直轄領が増える。歴史のある有力貴族はわざわざこのような遠方地まで開拓する気はなくいるとしたら一攫千金(領土)を狙った零細貴族くらいなものである。その手の貴族は中央からつまはじきにされたのが多いので大貴族との繋がりは薄く、周囲に多い直轄領との縁は深い。なので盟約側に付いたのは少ない。その私兵艦隊が動き始めたっぽいという情報がちらほら入っている。布告から一週間の時間を要したのは準備やら敵味方識別や正規軍との連携に時間を食ったのであろう。

 

「ここから先はほぼ直轄領ですが少し後方には少なからずの政府側貴族領があります。実質的に後方から迫ってくる艦隊の先行偵察役といった所でしょう」

 

「それが来る前に進まなくてはいけないか。再確認だ、把握している同志は全部で?」

 

「本隊以外では一〇〇〇程度。密度的に接触してなくとも機を伺っているのも多数いるかと」

 

「小規模基地とはいえスカスカにしたからには数千隻の網になっているはず。しかし引くのは論外、待機は自滅、となれば進むしかないか」

 

「では先行偵察隊を編成しましょう。すぐに見つかってしまった場合はそれはそれで急ぐ必要があるという事で損はしないでしょう」

 

「そうだな。編成を任せていいかな?」

 

「承知しました」

 

 シュトライトが下がり、アイゼンフートが"ふぅ"っと一息つく。計算できる、任せれば自分で動いてくれる幕僚がいるというのはここまで有難い事なのか、と。シュトライト本人はそこまでの事は出来ません、と言っているがやはり正規の士官学校工程を経て将官になった人材は基礎が違う。しかも自分(アイゼンフート)が死んでいた場合の逃亡作戦の為に子飼いの正規士官が多数用意されていた。いわゆる貴族枠艦隊の時は主要スタッフは正規軍指定となっていた為に十分な子飼いを育成する事が出来なかったがお陰で今は司令官に徹する事が出来る。指揮する艦艇数は二桁減ったがある意味幕僚はその時以上に充実しているのだ。

 

「これより亡命作戦の最終工程を開始します。ここからは隠れる事よりも進む事を優先します。合図を元に皆で群がり、抜けれるか否かです」

 

「戦闘になるかもしれない、と言う事でしょうか?」

 

 エリザベートの顔に陰りが見える。苦労をする覚悟はできている。しかし戦闘となると自分を含め誰かが死ぬという事である。ここまで奇跡的に戦闘が発生していなかったのだが流石にここからはそうはいかない。

 

「恐らくは。戦闘にならずに亡命が出来るのであればそれは余程の幸運、若しくは多くの同士が打ち砕かれた隙、そのどちらかでしょう」

 

「…………その為に一箇所に集まらなかったのですか?」

 

「はい。見つかりやすくなるというのも無論ありますがここまで周囲を巻き込んでの大騒ぎにしたのは我々以外の的を増やす為です」

 

 言わなくてはいけない事ははっきりと言う。表立っては皆で亡命しようなとど言っているが本音としては我々が亡命する為の捨て駒になってくれ、である。本隊の三〇〇隻は元正規軍(=貴族枠艦隊)系の艦艇から質の高いのを選んでいる。一〇〇や二〇〇の部隊であれば何度かは正面から粉砕して突き進めるだけの戦闘力を有している。後は突破作業中に周囲の敵部隊が群がってこないように囮の同士が捕まっている所を見繕って突破口を見つけるだけだ。

 

「全てをお任せすると言った以上はお任せするしかありません。しかし、助けられる者がいたら見捨てずに助けてください」

 

「出来る範囲で、となりますが努力はいたします」

 

 

 九月二二日に前進を開始した本隊は前日に先発した先行偵察隊の結果を元に歩を進める。周囲にも情報が拡散し、待機していた同士小集団も動き始める。のだが……

 

「流石に網、縮めすぎちゃあいないか? あの位置で待機していたのが馬鹿馬鹿しいじゃないか」

 

 アイゼンフートがぼやく。丸三日進んでも偵察部隊にさえ見つからない。ここまで来ると回廊手前にいるとしか思えない。

 

「同盟軍がいない、という前提であれば確かに回廊入口付近が一番いいというのは判るのですが…………」

 

 シュトライトも首を傾げる。確かに網としてはそれが一番いいのだが同盟がその気になれば背後からの強襲で一瞬にして崩壊する。いないという情報を掴んでいるのかどうなのか? 二人して首を傾げるが実の所原因はこの二人だった。簡単な事である、中途半端に同志としてかき集めたり待機させたりした関係で網に引っかかる獲物がおかしい形で減少したのを確認した現地司令官が「これは固まってくるぞ。こっちも狭めて固まろう」と言う事で網を狭めてしまったのである。言われてみればその通りなのだが如何せんこの二人、最前線経験が極めて少ないのでこの手の細かい駆け引きが判っていない。そして網の側は確かに小勢のかき集めだが正規軍の小さな城主(=基地部隊司令)の集団である。合計した頭はこの二人より回る。イゼルローン艦隊が鬼門だが強行偵察隊を送り込み、非常事態にはすぐに連絡するようにはしている。結局は回廊に近づくにつれて分散していた小集団は自然会合し、今まで接触していなかった者達もこれ幸いにと擦り寄ってくる。そして遂に九月二六日、最初の遭遇戦が開始された。後に"イゼルローン回廊帝国側宙域の亡命戦"と呼ばれる規模は小さくも意味の大きい戦いである。

 回廊まであと数日といった至近距離にて戦闘が開始される。ここまでくると有人惑星はなくある意味自由に動き回れる宙域となっているが結果として正規軍はこの宙域に三七〇〇隻程度の艦艇をかき集めている。警備隊等が主なので実戦闘能力は正規艦隊部隊に劣るが数は正義である。

 

「右側面より推定二〇〇隻、急速接近」

 

「ヴェストファーレン隊が対応を、ケーニヒ隊以外は現状のまま正面、ケーニヒ隊は周囲を警戒」

 

 五七三隻になっていた本隊は進行方向に二五〇隻程度の部隊を発見。回避は不可能を判断し早期殲滅の為に突進するも相手は急速後退。そして案の定、近くにいたのであろうもう一部隊がやってきた。これでほぼ同規模、あと一部隊来たらおしまい。これがあるから小集団を的にしたかったのだが近づき過ぎて糾合してしまった結果、手頃な囮が近くにいない。

 

「本隊は紡錘陣形で敵を中央突破し後方に展開。同時に両隊は離脱し後方(本隊の後方=回廊方面)に全力逃亡。本隊はこれを支援した後に逃げる」

 

 成功失敗関係なく、とにかく時間をかけれないので即断即決即実行。本隊に編入した艦は質の高いものをかき集めているので大型艦の比率が高く、相手は警備隊が主なのでその逆。ならば正面からぶちかますのが最善となる。あっという間に正面の敵を撃破し、逃亡は成功する。しかし、

 

「進行方向に部隊二つ、規模不明。後方から追いかけてくる残敵も振りきれていません」

 

「紡錘陣形維持、全速で突貫。もう一回くらいなら無補給でぶち抜けるだろう。止まっていられるか。あと一回か二回抜ければたどり着けるんだ」

 

 突入を開始してから該当宙域からは救援要請やらなんやらが飛び交っている。後の記録照合のよるとこの時宙域には突破を試みる亡命艦艇が約二七五〇隻、阻止すべく動く正規軍が約三七〇〇隻。後ろには追撃中の正規軍一個艦隊、政府側貴族私兵が約四〇〇〇隻、そして同エリアを回廊目掛けて逃亡中の盟約系各種艦艇が推定七〇〇〇~八〇〇〇隻。これらが艦隊を除けば最小数隻、最大でも数百隻で統率なく蠢いておりまさしく当初の希望通りの「ぐちゃぐちゃ」な状態である。この後方の恐怖の団子がまごまごしているうちに、正規艦隊が回廊入口を封鎖する前に逃亡を完了させねばならない。しかし、こうしなければ最悪二隻(+連携のない亡命希望者)対三七〇〇隻になっていたのだ、その時よりかは随分マシである。

 

「逃亡終了までに物資が持たない艦のみ必要物を補給せよ。完了次第前進する」

 

 半日程続いた追いかけっこは捕まってしまった最後尾のヴェストファーレン隊を見捨てる事で一定の距離を保つことに成功した。といっても追いかけてくることは確実なので最低限の補給とし少しでも時間を短縮する。それでも旗艦と最低限の最精鋭は満載にしていおく。最悪それら以外を捨てる事での目標達成もあり得るからだ。その間に周囲の騒音を拾い、状況を確認する。騒動は確実に回廊に近づいている。言い換えれば皆が皆集まってきてしまっているという事だ。集まりきる少し前にすり抜けるのが一番なのだが……

 

「後方の感知器より反応有り」

 

「補給中止! 前進開始」

 

 部隊に組み込んだ補給艦が搭載していた少量の使い捨て感知器。虎の子のそれがタイムリミットを知らせると補給が即中断される。それが原因で最後まで走れない艦が出るかもしれないがそれはもう運である。

 

「前方からも複数の反応!!」

 

 前から三つ、後ろから二つ。一つ一つの数は二〇〇~三〇〇といったものだがこちらはもう四〇〇を切っている。前方の敵は判っているのか間をすり抜けしにくい間隔でこちらの進行方向を妨げる動きを見せる。

 

「避けれそうにないな。前方中央の敵を中央突破する。敵の全量は判らんが周囲の騒音を考えれば次がある可能性は低い」

 

 最大戦速で突っ込む本隊と待ち受ける敵部隊は射程距離に入ると同時に全力での殴り合いを開始する。前回突破した相手が弱かったのか今回のは強いのか? 倍近い敵による猛火は先頭を進む艦を容赦なく火球に変える。

 

「やばいな、こりゃ。あの時といい今といい、覚悟を決めた突貫は上手くいかんらしい」

 

 思わずアイゼンフートが口に出してしまう。しかし、ここまで来てしまってからには勢いを止める事は即ち敗北である。ミュッケンベルガーとの決戦でそれは思い知らされた。だが、突破口は予想外の所から出現した。

 

「一部の艦が勝手に離脱しています!!」

 

 オペレーターの叫びを聞いてスクリーンを見ると本隊最後尾の艦が一〇隻程度、突貫から離脱して正面的の側面から回廊に逃げ込もうとする動きを見せる。

 

「もう止められん、好きにさせるしかない……ん?」

 

 一〇隻程度の離脱のはずだが敵が妙に反応をし始める。三つある敵部隊のうち"それ"に近い部隊が強引に方向転換を行い"それ"に狙いを定める。こちらへの火線は弱まり。何よりも部隊と部隊の間に隙間が出来る。

 

「そこの隙間に突っ込め!!」

 

 こちらも強引に矛先を曲げ、わずかな隙間を潜り抜ける。その間にも火線は本隊を打ちのめすが落としきる前に突き抜けて走り去る。

 

「あの過剰反応はなんだったんだ?」

 

 アイゼンフートが首を傾げる。これは後に判明した事であるが突破を試みる亡命部隊で最大規模であったこの部隊に迷惑人アイゼンフートがいる! と決め打ちした正規軍は最初の突破戦が終わる事には次の待ち伏せを行うべく第二の、そして最後の防衛線を構築した。そこでの戦いで抜け足した一〇隻あまりの艦艇を「全ての味方を盾にして何が何でも逃亡を行おうとしている敵本陣である」と誤認。一部隊を丸々ぶつけようとしてしまったらしい。その結果、目の前に居残ってる本陣の逃げる隙を作ってしまったという訳だ。

 

「まぁそんなことはどうでもいい。あとは走るだけだ」

 

 二〇〇弱にまで擦り減った部隊は最短ルートをひたすら前進する。そして回廊まであと一日という所で最後の遭遇が発生する。

 

「正面、推定五〇〇から六〇〇!!」

 

「ここに来てこれは、いや、もしかすると?」

 

 最初にそれを疑ったのはシュトライトであった。

 

「多分それだ。まぁここから何かできるような状態でもない。正面から"挨拶"するとしよう」

 

 二つの部隊が正面から近づく。そして"それ"は予想通りの反応を示した。

 

 

「こちらは自由惑星同盟軍イゼルローン駐留艦隊。亡命希望であれば既定の信号を発信しつつ…………」

 

 

 七九七年九月二八日 近年類を見ない組織的大規模亡命の第一陣がイゼルローン回廊に到着した。

 

 

 

 イゼルローン回廊に帰還した駐留艦隊はそのままノンストップで帝国側回廊出口に進出。六〇〇隻の支隊単位で威力偵察を開始。結果として回廊出口付近まで団子になってやって来た亡命希望第一陣や正規軍阻止部隊と半狂乱に近いもみ合いの末、なんとかかんとか正規軍阻止部隊を追い払う事に成功。するのだが次の団子(正規軍一個艦隊+私兵部隊、各地からの亡命希望第二陣)の到来に頭を抱えた挙句、念の為派遣されてきていた第二艦隊と合流、帝国艦隊に半分脅しに近い決戦姿勢を見せつける。艦隊司令官シュターデン大将は形勢不利(※2)を認め「ここまではこないだろう」という所まで(見つけた亡命希望第二陣をぶちのめしつつ)後退。深追いを避けた同盟軍も順次後退し両軍の大規模衝突は回避された。そして亡命の波が静かになる頃に同盟軍は政府指示により大規模展開を終了、艦隊は帰還する。その頃には帝国側も正式な対同盟前線艦隊(アムリッツァ駐留艦隊)が到着。細切れにやってくる亡命者狩り任務も引き継がれる。自由惑星同盟の公式発表では内乱を契機としての亡命が一二月三一日までに軍艦・民間船問わず合計三四一九隻、人員数約四七万人(非戦闘員多数含む)。亡命成功率は三割にも満たないものであったという(※3)。そしてこの顛末をもって銀河帝国と自由惑星同盟の内乱の一年が終結したのである。

 

 





 大筋で原作の流れを意識していたのは事実だが"原作要素>二次創作要素"が逆転するのはここ(七九七年九月以降)からだろうなぁ、と。つまりは作者の技量に誤魔化しがきかなくなるって事だw

 これは判る人にしか判らない書き方なのですがアイゼンフートは既に作者の手を飛び出して勝手に動くキャラになってます。キャラが濃くなると"シナリオはこう進めたいからこいつはこう動かす"と作者が考えても"でもこいつ性格だとこう動く(=結果としてシナリオがブレる)"ってなってしまう、と。昔TRPGのGMやってた時と同じだなぁ。当初の予定はミューゼル姉弟の亡命に伴う影響が主題でしたがまぁ一人くらい濃いオリキャラいてもいいんじゃね?と。それにしても最初は「メルカッツいねぇから少しはやれる人を用意しないと駄目だな」程度だったんですが・・・・数が多いと違和感ありなので少なくし過ぎた結果として過重労働になってキャラが立ってしまった。

 盟約軍の主要キャラは個別には述べませんがまぁこれで"おしまい"です。惜しくはありますが生き延びれるシチュエーションではないので。

 どうする? レオポルド・シューマッハ???? 完全に(シューマッハとフェルナーを間違えてしまった)作者のとばっちり。どこかで出してやる。何とかして出してやるw

 帝国は銀河に国家は己のみ、として自由惑星同盟という国を認めないのを国是としているのに対して自由惑星同盟は「帝国の圧政から脱し、銀河連邦初期の理想的民主主義を取り戻す」というのを国是としているのだがこれはある意味「帝国という国家の存在を認めないとできない」事なんじゃないかな、と。帝国と言う専制国家へのアンチテーゼでもあるので。

 ゲームでのマップなどを見るとオーディン-ガイエスブルク-イゼルローンの位置関係はガイエスブルクが結構オーディン寄りに見えるのですが原作内ではガイエスブルク→オーディンで二〇日。イゼルローンがその倍ちょっとくらいの日数のはず、となると中間点よりそこそこオーディン寄りってのが適切な位置のはず。これはまぁオーディン周辺というか首星に近ければ近い程、人口・交通密集地と言う関係で一日当たりの移動可能距離が短い、と考えるべきなのかな?と。といっても宇宙は広いので物理的な密集地と言う事ではなくてワープの出入口航路として確立された通路と移動量の関係と言った所です。



※1:民間貿易艦
 貴族側からしてみたら民間貿易艦が領内を多く通れば貿易のおこぼれで収入が増えるので「うちの領内はきっちり警備してるから安心して来てね!」となり民間貿易艦からしてみれば安全な航路を使えて貿易相手も増やせるのでWinWinの関係になれる。しかもその呼び込み競争があるから通行税とかは吹っ掛けられないし頂くとしても正当な金額に収まる。

※2:形勢不利
 同盟軍:イゼルローン駐留艦隊+第二艦隊で一個艦隊半、二〇〇〇〇隻オーバー
 帝国軍:シュターデン艦隊+ズタボロになった正規軍回廊付近阻止部隊+戦力として当てにしてはいけない貴族私兵、全部合わせても同盟軍未満

※3:亡命成功率
 同盟軍(イゼルローン駐留艦隊+第二艦隊)による回廊出口周辺(~アムリッツァ星域の有人惑星領域付近までの人のいない宙域)の一時的制宙権確保により帝国軍の回廊手前亡命阻止網が破綻。同盟軍制宙権外の主要路にて巡回網を再編するまでに滑り込んだ亡命希望第三陣の多くが突破に成功した。亡命成功者の半数以上がこの時の第三陣である。だがその後の亡命希望陣はオーディンからの正式なアムリッツァ駐留艦隊の合流により絶望的成功率になった。

・亡命希望(成功率は各陣における相対比較)
 第一陣:キフォイザーの残兵などが中心 アイゼンフートの宣言前に突破を試みた層は成功率低 アイゼンフート達と合流したり同時行動を行った層は成功率中
 第二陣:アイゼンフートの宣言に即反応した者達が中心 同盟・帝国・亡命勢力に狂気の入り乱れが発生してたタイミング 成功率中の下
 第三陣:アイゼンフートの宣言を元に短時間ながらきちんと準備して出発した者達が中心 帝国軍阻止網が一時的に破綻していたタイミングという幸運もあり 人・物共に多くの亡命が成功した 成功率高
 第四陣以降:準備を丁寧にやりすぎた、腰が重かった等、即断できなかった層 アムリッツァ駐留艦隊が追加され再編された阻止網によってほぼ根こそぎ刈り取られた 成功率極低

 尚、フェザーン方面については"同盟への亡命宣言"だった為に元から少なく、回廊入口最狭部に網を張れば良いので成功率は絶望的であった。ただ、フェザーン~帝国の正規貿易路も一時封鎖に近い形になってしまったのでこれについてはフェザーンから"過剰行動である"と抗議を受け、帝国は(それどころじゃないめんどくさい状況だったので)素直にごめんなさいした。
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