「ふぅ・・・・」
思わずため息が漏れる
「敵は四万、味方は二万。兵力差二倍か」
「三個艦隊での包囲戦。常識的に考えれば負けです」
「・・・・・・・・」
「しかしこの方針なら負ける事はないでしょう。閣下の命に皆が従えば、ですが」
副官が見つめるディスプレイには敵味方の配置が映る、向かって左側・正面・右側にそれぞれ一個艦隊が布陣し数としては正面がやや多く左右が同程度、叛徒側の公式情報通りなら正面が一万五〇〇〇隻、左右が一万二六〇〇隻の編成だろう。前進中の自軍と三方から迫る敵軍はまるで一つの箇所に集合するかのように四つの線を描く。兵力数しかり、あらかじめそうなる距離で布陣できる準備時間しかり、どうやら今回の出兵情報が洩れているという噂は本当なのだろう。
「提督の方々が参られました」
幕僚からの報告を受け、仕草のみで促す。扉が開き五人の提督が入ってきた。
「司令官閣下、意見具申を許可していただき、ありがとうございます」
一同を代表してシュターデン中将が述べた
「わが軍は不利な状況にあります。司令官閣下におかれましてはこのまま進むか、勇気をもって引くか。進むのであればどのような方針で進まれるのか、ご判断とご説明をお願いしたい」
五人の提督の視線が集まる
「わが軍は進む」
二万隻の帝国艦隊を指揮する司令官、帝国軍大将ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツは淡々と答える
「わが軍は・・・」
メルカッツが副官シュナイダー大尉がコンソールを操作し、軍の予定進路を表示する。その線はまさしく最短距離で右側の敵軍に向かっていた。
「右側の敵艦隊へ最短距離にて向かい全軍全力をもって強襲する」
「分断せし敵の各個撃破は兵法の常。しかしながら幾多の指揮官が望み、そして敗れていった理想にすぎませんぞ!!!」
シュターデン中将が思わず反論する。他の提督の中にも同意を示すかのように頷く者もいた。
「これは、メルカッツ提督の趣に合わぬ戦い方に見えます。本当にこの進み方で各個撃破が出来るとお考えなのでしょうか?」
5人の中で末席となるファーレンハイト少将がやや首を傾けつつ尋ねる。5人の中で最も話の出来る相手である、意図を説明するにはちょうど良い
「各個撃破は・・・・行わない。わが軍は敵右翼艦隊を全力で攻撃し、撃破可能であれば撃破して戦場を離脱する。残りの二個艦隊の到来予定までに撃破が不可能と判断された場合、到来前に離脱し帰還とする。少なくとも全力で攻撃をすれば敵右翼艦隊との戦いは有利に事が進む。その状態から離脱すれば、戦わずに逃げたという不名誉を受ける事はあるまい。事がうまく運ばなかった場合、その責は指揮官たる私が一手に引き受け殿となる。難しい事と思われるが力をお貸しいただきたい」
提督たちが真剣な間差しを向ける。実の所、侵略側が敵軍を確認し、数が多いから戦わずして引いたとなると体面が悪いというのも事実。危険である事は確かだがメルカッツ大将の指揮ならば最悪の事態になることはないというのも確かだろう。提督たちは「引き際だけは間違えないように」と念を押し、解散となった。
「ん?」
解散した提督たちは各自自艦に戻ろうとしているが一人の提督が残る雰囲気を見せている。他の提督たちが退場した後、メルカッツは副官たちを下がらせ二人になった所で話しかける
「なにかおありかな、フレーゲル少将?」
話しかけられたフレーゲル少将はなにやらもじもじと気まずそうにするが意を決し、頭を下。
「すまない」
フレーゲル少将(男爵)はブラウンシュヴァイク公の甥であり、若手門閥貴族の最有力の一人。めったな事では頭を下げるようなことはしないが、今こうして頭を下げている。
「これも私の仕事の一つ、お気遣いは不要です」
"やはりそうなのか"とメルカッツは思う。だとしたら彼もまた力の犠牲者なのだろう。
「メルカッツ提督であれば、この度の出兵のいきさつは察していると思う。伯父上は私の軍歴に箔を付ける、ただそれだけの為にこの出兵をねじ込んだ。以前、司令長官幕僚としてねじ込み階級を上げる予定だったのだが失敗した。それのやり直しだ」
苦々しい顔でつぶやく。尊大な彼でもいろいろと思うところはあるようだ。
「叛徒どもがやたら手際良いのも恐らくリッテンハイム家が情報を漏らしたのだろう」
はぁ~~~~~~~と大きなため息がフレーゲル男爵から漏れる。
「色々と苦労をされているようですな」
苦労、そう苦労である。ブラウンシュヴァイク家とリッテンハイム家による表裏交えた権力争いは日増しに激しくなってきている。権力を求めるのが門閥貴族の性かもしれないがブラウンシュヴァイク公とリッテンハイム侯はいうなれば引っ込みのつかないチキンレースになり始めているといえるだろう。頂きまで駆け上るか、走りすぎて崖から落ちるか。その中でブラウンシュヴァイク公の甥であり若手門閥貴族の有力者となるとブラウンシュヴァイク公にとっては大事且つ便利な駒となる。たとえ本人に無理をしてまでこれ以上のものを求める気がないとしてもだ。フレーゲル男爵は既に門閥貴族として十分なステータス、財力とその割には低く済んでいる責任、と非常にいい所にいるのである。
「この戦いは私がなんとかしましょう。しかし、確実に勝つための布陣を敷かねばなりません。ブラウンシュヴァイク公の望まれる勲功をご用意できるかは確約できませぬ」
「それでいい。命あっての、というやつだ。確実に勝ち、そして帰れる算段をしてくれ。伯父上が何か言ってきたら私が間に入ってなんとかしよう」
言いたいことは言い終わったのか、フレーゲル男爵はフレーゲル少将に戻り、艦橋を後にした。
フレーゲル少将が退出し、入れ替わりのように幕僚達が戻ってきた。メルカッツは幕僚達に指示し各提督への正式な移動命令など発令する。一通りの指示を終え、移動を開始すると事前指示の最後として休憩を命じられ貧乏くじを引いた艦橋待機組を除き各自思い思いにつかのま休息に入った。会敵エリアに入れば撤収が完了するまで士官クラスには自由時間というものは無くなる。万が一の場合、人生最後の休息となるだろう。
「さて、卿の提言を元にしてみたが、気になる事はあるかね?」
メルカッツが待機組の一人に語り掛ける
「今のところは特に・・、しかし私の意見具申が無くとも閣下でしたら同じ作戦となっていたでしょう」
語り掛けた赤毛の士官、ジークフリード・キルヒアイス少佐が答える
「そうとも限らんよ。私は常識に即した用兵しか出来ない男だ。卿の提言が無いのなら迷った挙句に包囲されるか何も出来ずに逃げ帰るかの二者択一だろうよ」
そう答えるとメルカッツはその提言が行われた時を思い出す。
敵軍の布陣が判明し幕僚達が声を失っている中、この青年は特に焦る様子も見せていなかった。ジークフリート・キルヒアイス少佐は20歳、幼年学校卒で軍歴は長いがこの年で少佐というのは聞いたことがない。ましてや彼は貴族ではないのだ。この度の不本意な出兵に際してミュッケンベルガー元帥が次席副官だった彼を大尉から昇進させたうえで貸し出してくれたのだがあの人の好き嫌いの激しい元帥が「いずれは手元に戻す」と言って貸し出すあたり、稀有な人材なのだろう。
そのキルヒアイス少佐は幕僚達の騒ぎが収まるまで口を挟まずに立っていたが、他の幕僚から「お前も意見の一つでも出したらどうだ?」とやつあたりを受けると淡々とその見解を話し始めた。
「まず、叛徒軍がただ確実に勝ちたいというのであればこの様な布陣をする必要はありません。全軍一丸となって正面から当たれば良いだけです。総大将は「油断をするな」と声をかければそれで仕事が終わります。しかし、叛徒軍は軍を分散させました。これを包囲殲滅の危機とみるか、各個撃破の好機と捉えるかはこちらの行動次第です」
当然ながら幕僚達からは各個撃破の現実危険性を指摘されるがメルカッツが説明したように単独強襲策を提示する。
「これは各個撃破ではありません。強いて言えば"一個撃破"です。相手が一個艦隊ならこちらの兵力は五割増し、他艦隊の襲来時間を逆算し、それまでに打ち尽くす覚悟で全力攻撃をすれば圧倒できます。敵艦隊が守りを固めればさらに好都合、味方の損害は抑えられますし(守備陣形は機動力が落ちるので)他艦隊襲来前の撤収もやりやすくなります。確かに危険性はありますがメルカッツ提督の指揮と皆様の補佐があれば成し遂げられると思います」
完璧な説明だった、逃げないことにより出兵に関係した上層部などの面子を潰さない基本方針を明確にし最後に"皆さんの補佐"と言う事により目標を達成すればあなた達の功績ですよ、と不愉快なく他幕僚達の面子を守る。この"言う事は言うが一歩引いた姿勢で相手の面子は守る"という姿勢がミュッケンベルガー元帥のお気に入りの理由なのだろう。この昇進速度にも納得がいく。
「これが貸し出しでなければ、手元に置き続けたいものだがな」
「?」
思わず小声で呟いてしまうがどうやら聞こえなかったようだ。
「だが、流石にその後の追加の作戦については提督たちにも説明はできなかった」
「流石にあれは"上手く行き過ぎた場合"のものです。仕方ありません」
実はキルヒアイスはその後の別構想もメルカッツに提言している。しかしそれは都合がよすぎるだろう、と横に置かれた作戦である。
「そうだな。それを考える事が出来るだけの結果になる事を祈ろう」
「はい」
そういうと二人はシュナイダー大尉も交え、他愛のない会話を楽しむ。
数時間後には双方合わせて数百万という人間が生き残る為に殺し合う。そうとは思えない光景であった。
希望:29日になる前にアスターテ会戦を終わらせたい
現実:\(^o^)/終わってない 同盟軍出てない
ラインハルト出世RTAについては書けたがキルヒアイス出世RTAは書くタイミングが無かった。どこかで書かないとなぁ。