偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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 上げて!!!!落とす!!!!!!(想像以上の反応を見て謎のガッツポーズ)
 ローカルのメモはきちんとレムシャイドだったのにリリースしたNo.52ではずっとレムシャイトだった。なんでやねん(指摘ありがたう)
 何か段々と文字数が増えて来てるなと思って確認してみたら凄い増えてた。多分二週間毎なのでそれなりの分量書かなきゃって勝手にプレッシャーにしていたんだと思う。宜しくないので少し気を楽にさせる。"書きたい"で続くならいいけど"書かないと"ってなったらアカンと思うんよ、こういうのは。なので気を楽にする分、量は落ちると思う。


No.53 民意の形

 

 時は七九七年に戻る

 

(素直にあの時に退役するべきだったか????)

 

 情報部長ドーソン大将は毎日のようにそう考えながらも余人が見たらびっくりする程意欲的に職務を遂行していた。というか遂行し続けていないと情報部が機能を停止する。細かい所に目が届きすぎてしまう、好意的に解釈すると"小さなことも見逃さない"その性格と元々情報畑としてやってきた経験がズタボロの情報部を見逃す事を許さないのだ。

 先の救国軍事同盟によるクーデター、その首謀者であった前情報部長ブロンズ中将は当然ながらその同志の多くを情報部から得ていた。前情報部長と前次長は揃って檻の中。同志の多くが同じく檻の中なり執行猶予付での不名誉除隊、一番軽くて遠地左遷。スカスカになった情報部の再建、その第一陣が新部長ドーソン大将であった。クーデター騒ぎで軍中枢部はもう懲り懲りとなって退役すら考えたが四〇代の身の上としては少し早い、なのでこの情報部長再任(※1)を受け入れ、そのスカスカな情報部に驚愕しつつもとにかくまずは人だ、と各地から穴埋めとなる人材をかき集め始めた。といっても優秀な人材があぶれているはずがない。情報部長として優秀だった(からクーデターを起こせた)ブロンズは優れたスタッフを集める能力においても優秀であった。そしてそれが綺麗さっぱりなくなった。いきなり頭を抱えたドーソンにとって救いの手となったのはあの帝国領侵攻軍にて情報主任参謀を務めたビロライネン少将とそのスタッフであった優秀な情報系士官達がその後の懲罰人事で各地に左遷されておりクーデター後の左遷にて飛ばされた者達と交代して情報部に帰って来た事であった。ビロライネン少将はすぐさま情報部次長に就任、ドーソンの片腕として情報部の舵取りを行う事になる。

 人がいません、なので仕事が出来ません。などとは社会人として口に出す事が出来ない。国防組織ならなおさらである。何とか人をかき集めつつ情報部は運営を再開する。最重要事項は軍人材の精査、つまりは潜伏に成功したクーデター勢力残党の摘発である。そして本来の主業務であるはずの帝国情報の入手及びその分析に関しても手を抜く事は出来ない、のだがこっちはかなり手を抜く事にする。つまりは集まった情報を最低限の整理を行ったうえで統合作戦本部を経由してヤン・ウェンリー率いる対策室に委託(別名:丸投げ)したのである(国防委員会など根回し済み)。数値(帝国内乱の損害など)の集約は統合作戦本部の事務系がやればいいし各事象からの状況推測などは情報部がチームで行うよりも一旦ヤン・ウェンリーに投げてしまって彼の脳内でざっくりと纏めてもらった方が良い。部下としてのあれ(ヤン)はそれ(考える事)をやらせておけばいいんだと本部長代理~監禁時(※2)に理解した。

 かくしてなんとかかんとか動き始めた新生情報部であるが難題は次々と降りかかる。

 

「ひとまずこれに関しては情報部内でもアクセス権を絞り、対象者に箝口令を出している」

 

 ドーソンが提出した資料に目を通すのはクブルスリー、ビュコック、そしてヤン。

 

 "目立つルートで報告すると色々と悪影響を広げそうなのでひとまず情報を統括している情報部長宛に送るのでそこから必要に応じて根回しをしてください"

 

 というメッセージと一緒にイゼルローンから受け取ったそれをドーソンはひとまず最低限の部内関係者だけに伝えてここに持ってきた。今それを見せられた三名はそれぞれに目に"見たくない物を見る沈痛な面持ち"を見せている。その内容はイゼルローン要塞から届いたいわゆる「係留中の亡命希望者の方々の一部におけるとても残念且つ重要な行動について」の緊急報告書であった。最後にはこう記されている

 

 "イゼルローン要塞司令部としては回廊を出た後については責任を取る事が出来ない"

 

 丁寧にも要塞防衛司令官ではなく最前線で指揮をしているはずのウランフの電子署名付きである。そしてそれに対する三名の対応は……

 

「亡命の受け入れ可否の権限は政府が持つ物であり我々としてはその決断を元に適切に護送乃至返送を行うのが仕事である。よってこの報告は国防委員長に提出し、最高評議会の判断を仰ぐ事とする」

 

「わしらとしたら勝手に判断するわけにはいかんからの」

 

「ですね」

 

 クブルスリー、ビュコック、ヤンによる阿吽の呼吸といえる"政治にぶん投げ"宣言でこの第一関門はいったん棚上げ(放り投げ?)となった。かくして情報部の苦悩はひとまず遠ざかったと言えるのだが…………

 

 

 

 年が明けて某月某日、とある総合レジャービル上層階。

 

 そこにあるレストランは比較的リーズナブルなお値段で見晴らしの良い外景を見つつ各種料理を楽しめる穴場として有名だった。消音壁で隣と区切られており、余程の大声でない限り隣に会話を聞かれないというのも好評を得ている。

 そこに若いと言って良い男女が優雅に、と言いたい所であるが結構がっつりとした食事を取っている。両者共に最近仕事が忙しく外食する暇などない。久しぶりの外食だし、という事でそれなりに食い気が出てしまっている。

 

「思った以上に人が集まっているみたいだね」

 

 外景に見下ろせるスタジアムに集まった群衆を眺め、男の方が呟く。その男、ヤン・ウェンリーは軍服ではない普段着。軍服から着替えて適当にサングラスでもかければその辺にいる普通の青年(本人談"まだ若い")といっていい風貌になる。しかしこの普通の青年(三十路)が現役軍人で最も華やかな武勲(イゼルローン要塞攻略)を持ち、軍首脳部から最も頼りにされている頭脳の持ち主なのだから人を外見で判断してはいけない。

 

「えぇ。けど、私はそこに呼ばれていない」

 

 その言葉に応える女性はジェシカ・エドワーズ。テルヌーゼン選挙区選出の同盟議会議員(一期)であり若手ながら議会内における反戦平和議員連盟では一目置かれる存在となっている。そして国防or財務委員会に所属していない議員達で構成される"軍再編計画監視チーム"の一員としてその再編内容が適切であるかの調査、必要に応じての対話を行っている。その対話(質疑応答)にて軍担当者者が即答できない場合、最もその計画を知る者が回答者として引っ張り出されるのだが大抵の場合、それはヤン・ウェンリーが行っている(※3)。

 

「かなりの急進派らしいね」

 

 眼下に集まる群衆は新たな反戦団体「ハイネセン平和市民運動」の人々であり今行われているのはその決起集会となっている。二人ともたまたま少し時間を空けれる時だったというのもあるが遠目でこれを直接見たい、というのがこのお食事となった理由である。

 

「"失敗は成功のもと"という言葉はあるけど"成功は失敗の"という言葉はあるのかしら?」

 

 ジェシカが冷たい目でそれを見つめる。彼女もまた反戦団体に所属している。その団体「反戦市民連合」は反戦団体としては全国区となっている最有力団体の一つでありジェシカのように同盟議会に議員を送り込めるだけの動員力を持っている。最有力故に憂国騎士団のターゲットになっているがあくまでも合法的反戦活動を是としているので正当防衛以上の反撃は行っていない。そしてその枠に入らなかった"急進派"という事は…………

 

「あの成功は多くの偶然や幸運のお陰で血が流れずに済んだんだ。それを自分達の力だと過信すると必ずどこかで躓きが出る。その時にその躓きを現実のものとして受け止められるかどうか、それがあの団体の成功と失敗を分ける事になるよ。今はまだルールにのっとった動きしかしてないけどね」

 

 あの成功、"スタジアムの歓喜"と呼ばれるようになった出来事は一歩間違えば"スタジアムの悲劇"と呼ばれかねない状況だった。予想以上に軍内部の支持を得られなかった救国軍事同盟、それ故に及び腰になった兵力展開、その指揮官がスパイだった事、それでも衝突寸前になった所にやってきた薔薇の騎士、どこか一つでも違う状況となっていれば全く違う結果になっていただろう。しかし結果として市民の声はクーデター勢力を退けた。それは良い意味でも悪い意味でも市民が自分達の力を再確認する結果となった。

 後に「ハイネセン平和市民運動」になるグループはこの"スタジアムの歓喜"の当事者達の中でその毒に犯されてしまったといえる人々によって結成された。"平和を祈る声は必ず届く"を合言葉にスタートしたそのグループはあの歓喜の結果を実績として支持を集め始めた。そしてブームと言う甘い蜜につられた既存の小団体を飲み込み、その小団体の(小団体になるべくしてなってしまう)極端な思想を混ぜ込みその熱気に呑まれた者達が中核となり膨張し反戦団体「ハイネセン平和市民運動」はこの日を迎えた。

 

「あの人たちは私達の説得にも耳を貸さなかった。私達の出来なかった事を自分達はやったんだぞと得意げに語ってたわ。議員をわざわざ送り込まなくても大きい声を上げれば、市民の声が一つになれば、議会はその意を組み込んで政治を行うはずだ。いや、行わなくてはいけないんだ、と。市民の声は確かに大事だけどそれだけで議会が動けと言うのは議会制民主主義における正しい民意の伝え方ではないわ。民意を伝える最大の手段はあくまでも一人一人が選挙という最高の権利を行使して伝える事よ」

 

 そのグループは最初の結成時にジェシカに代表就任を申し込んだ。あの歓喜の中心にいた人物なのだから私たちの気持ちは判るはずだ、と。しかしジェシカは"明確な活動指針や思想などを定めたうえで再度申し込んでください"と回答し即答を避けた。そしてその後、色々な小団体なりの思想が混ざりあったそれを見て明確に拒否。拒否どころかその活動内容の軌道修正を提案した。その結果、今ではジェシカは彼らから"反戦活動もどき"呼ばわりされる有様だ。味方にならなければ敵。1か0でしか判断できない極端思想の小団体によくある反応である。

 

「彼らの要求は僕も見た。僕だって好きで軍備増強計画を立てている訳じゃない。だけど卵の中で雛を育てたいのなら卵の殻には最低限の強度が必要なんだ。それは要塞一つで保障できるものじゃない」

 

 彼らの要求には"軍備増強の即時停止及び必要適量までの削減"という内容がある。いわゆる過激な反戦団体などが掲げている通称"イゼルローン要塞鉄壁論"が元である。イゼルローン要塞を鉄壁の盾とするならばその維持に必要な兵力があればいいじゃないか、という極論である。その極論からしてみれば現状の既存兵力ですら過剰である(※4)としている。

 

「正直な所、あの増強計画が本当に必要なの? と思う考えは今もあるわ。だけどウェンリーが、あの要塞を唯一攻略したあなたが"二度とそれが起きないと誰も保証する事は出来ない"って言うから私は軍ではなくてあなたを信用して今の所理由のない反対はしない。少なくともあなたとの口論で得た程度の知識ですらあんな極端な軍縮は怖いって判断できるわ」

 

 その言葉にヤンは思わず苦笑いを浮かべる。これだからジェシカとはお仕事として顔を合わせると容赦がない。軍事知識をそこまで持っているという訳ではないがそれを逆手にとって"私程度の知識の者に納得させる予算の理由、道筋が判り易く示されていないと国民の理解は得られません"と専門家がついついやってしまうミスである"知識があれば判るから省略してしまう部分"をしっかりと攻めてくる。この対応に失敗してしまうとヤンが引っ張り出されて一から説明する羽目になるのである。特に"増強計画"の本当の目的(※5)はごく少数にしか共有されていない機密事項の為、表面上は"万が一、イゼルローンを失陥した際の防衛計画に最低限必要な兵力を確保する"という名目を掲げてその為のダミーの防衛計画(※6)すら用意している。

 

「お願いだから法律の範囲内での活動に収めて欲しいわね。それならば主張が何であっても"自由"のうちにはいるのだから」

 

 実の所ジェシカも議員になる前はそれぎりぎりの活動を行っていたのだが議員になってそれの危険性は十分に思い知った。あの団体がそれをはみ出してしまったら政府に属する立場としては対応をしなくてはいけないし引っ込みがつかなくなる。ジェシカの瞳には祈る様な気持ちと幾分かの"哀れみ"が含まれていた。

 

 

 

「政府公安からの協力依頼です。政府と軍の協定により情報部は指定された組織への対策チームを編成する義務があります」

 

 情報部次長ビロライネン少将の報告を受けてドーソンが"はぁ"とため息をつく。軍の組織である情報部は内は同盟軍全体、外は帝国軍&政府とフェザーンが行動対象となっている。そして国内においては政府公安などが主役である。それは当然ながら国内の一般市民を軍が監視対象とする事への危険性からくるものなのだがたまに例外が発生する時もある。軍の全星域に広がる組織力とその戦闘力をアテにされる場合がそれに当てはまり、政府公安から依頼があった場合は協力体制を築く事が求められる。

 

「あの新しい市民団体か。確かに主張する内容は過激ではあるが言論だけで…………なるほど」

 

 差し出された資料を見ていたドーソンが目を細める。その市民団体「ハイネセン平和市民運動」は関係者から見たら最初から"嫌な予感がする"団体ではあった。そこがしでかしたというかしでかし始めたといか……

 

「憂国騎士団と思われる集団のちょっかいに非抵抗主義ではなく応戦で対応。その為の内部組織の結成を宣言。必要に応じてそれら(憂国騎士団などの)組織に対する平和の為の活動も辞せず、か。……平和ってなんなのだろうな?」

 

 ドーソンが頭をひねる。

 

「かの団体が吸収した小団体にはその手の団体も含まれていました。小さすぎて相手にされていませんでしたが大規模団体に入り込むことで賛同者を増やしたのでしょう。これからその手の元小団体が核となった集団が多々発生する事かと」

 

 うんざりとした顔でビロライネンが答える。関係者が"嫌な予感がする"と言っていたのがこれである。この手の小団体の主張は普通の市民からしてみれば失笑の対象でしかない。しかし主張先が"少し似たような思想を持つ大団体"の場合、その主張への賛同者もぼちぼち出てしまう。小団体からしてみればそれを狙っての合流でもあるのだから熱も入る事だろう。そうして一定の勢力を得てしまうとその大団体全体を引っ張りまわす事すら発生する。その結果が公安からの協力要請なわけである。情報部からしてみたら迷惑この上ない。

 

「しかし憂国騎士団も最近少し静かになったと思っていたが面倒なものだ。       共倒れしてくれればいいのに」

 

 最後に本音がちらっと出てしまったドーソンであるがビロライネンはそこの部分は聞かなかった事にする。

 

「それにしても」

 

 ドーソンが立ち上がり、デスクの横に立ててあるホワイトボードに一行付け足す。あまりにも重要事項が多くなり過ぎた為にこうでもしないと頭の中で整理できない。こういう所はアナログはデジタルに勝る。

 

 ・部人員再編

 ・対帝国&フェザーン諜報活動

 ・軍人員クーデター派残党掃除

 ・亡命勢力における反社会的集団(いわゆる宜しからずな面々)への対応

 ・公安協力(New)

 

 情報部そのものが再編中なので人員が充足しておらず通常業務の対帝国&フェザーンへの諜報活動ですら負担が大きく関係部署(対策室など)に作業を振る事で負荷を下げている状態。その中で至急やらないといけないクーデター勢力残党の発見及び対処。政府(公安)への協力義務は形としては最高評議会経由国防委員長からの指令となるので手抜き不可。そして亡命勢力で話題となっている宜しくない勢力への対応。一個一個がとても重い作業であり"やっぱり辞めたい"とドーソンは常々思ってしまうのだが一度引き受けた物を短期で逃げるのは格好悪いと踏ん張る。如何せん困った事に今、同盟軍高級将官の中でこのような情報系隠密行動に関する組織指揮能力において(消去法で)一番優れているのがこのドーソン現部長その人なのである(※7)。このような修羅場を引き受けてくれる人は他に現れることも無くドーソンはかなりの間この情報部長に留まる事になるのだが嫌がうえにも小太りだった体つきは引き締まり、目つきにも鋭くなっていく。こんな細かい事までやっていられるかと(良い意味での)投げやりまで身に着けてついには"ここまで修羅場くり抜けれたんだから本部長もできるんじゃない? "とまで言われるようになったが駄々をこねるようにそれは拒否した、というのはまた後世のお話である。

 

 

 

「大変申し訳ありません」

 

「確かに大変な事をしてくれたものだ」

 

 ワイングラスを弄び、豪華なチェアーで足を組む。その主君にかしづき謝罪する家臣。ここは帝国ではなく同盟国内。とある主君のとある一室。

 

「で、どれだけの数が行動を共にしそうなのかね?」

 

 その主君、ヨブ・トリューニヒトが問い質す。

 

「少なくとも五〇〇程度ですが全貌は確認中でして……必ず近日中に!!」

 

 "確認中"の言葉にトリューニヒトの眉が一瞬ひくつくのを敏感に感知して慌てて言葉を付け足す。

 

「今は見極めの時だ、動くなとは言わないが動き方を考えろ。対象を必ず明確にして切り捨てるのだ。奴らは君と同じ組織に所属していない。所属組織を偽装している者達なのだ。あらゆる方法を使い排除するように。当然の事だが矛先がこっちに来ない様にしたうえで、だ」

 

 この男はその組織のリーダーであるがトリューニヒトは彼の名前を知らない。知ろうとしないし名乗りを許さない。万が一何かが起きてしまってもトリューニヒトの口から名前は出てこない。何故なら知らない名前は出てこないからだ。そうすれば関係性を疑われた際にそれを否定する材料になる。代表の名前も知らない組織と関係を持っているはずがない、という形でだ。

 

「今回の一件、私は一切のフォローをしない。君の責任と差配で事を治めるんだ」

 

 ひどい扱いであるが何一つ抵抗せず恭しく頷く。

 

「一応念の為に機密書類は処分する事。本部支部全て、それとオークスタービルのも、だ」

 

 つまり、彼らとトリューニヒトの関係性を疑わせる書類は全部消せという訳だ。オークスタービルは代々のリーダーが使う隠れ家があるビルでありトリューニヒトとリーダーしか知らない最後の拠点である。

 

「それと」

 

 そういうとトリューニヒトはメディアに見せるのとは全く違う仕草を口元に見せる。

 

「メトロポリタン第三ビルの部屋のもきちんと処分するように。特に三段目の棚のお金関係のは宜しくない。きちんと消し去る様に」

 

 その言葉にリーダーは大きく目を見張る。しかし慌てて首を振り"かしこまりました"と首を垂れる。そして最後に一言付け足す。

 

「しばらくの間ここに直接連絡しに来る必要はない、行動に専念したまえ。それでも私は"全てを把握できる"からね」

 

 それを言い終わるとトリューニヒトはチェアーを回転させ彼に背を向ける。"話は終わり"という事だ。

 

 

 背後から人の気配が消えるとトリューニヒトは"ふぅ"とため息をつく。

 

(無いと困るがあっても困る、と言った所か)

 

 憂国騎士団。国防族時代のトリューニヒトにとって彼らは大事な手駒であった。当時の彼にとって望ましくない風向きを修正する道具としてあれは非常に役に立った。しかし今のトリューニヒトは現在を"見極めの時期"としている。任期一期四年、八〇〇年末までレベロ政権には経済再建を頑張ってもらうつもりだ。その間に財務委員会を支配下に収め、国防・財務の両委員会内に自派安定多数を作り出す。一期が終わる頃には今世間を騒がせている雑多な思想集団などは整理淘汰され、風を読みやすくなるだろう。そのうえで議長の席をすぐに頂くか、もう一期預けるか、あと半期で退陣するように仕掛けるかを見極める。彼らに本格的活動を再開させるとしたらその時になるだろう。レベロがこの一期で作ろうとしている"風向き"は承知している。その風向きのまま頂くか、風向きを戻して頂くか。それもまた見極めが必要な所だろう。もしレベロが作った風向きをそのまま頂く場合、彼らの存在はむしろ邪魔になる。その時はその新しい風向きの為の良い贄になってもらえばいい。だからこそ彼らの隠し物はきちんとチェックして消して置いておかなくてはいけない。

 

(さて、どのように収束していくのか? いや、させるのか)

 

 注文の多い客にへこへこしてキッチンでせわしく調理するのはレベロでもルイでもいい、他人にやらせればいい。自分は最後に出来上がった料理を店長の名札を付けて客に出せばいい。そうするだけで全ては自分の差配になる。自分が美味しい、希望通りの料理を用意した事になる。それまでは店内を、客の雑談をよく聞いて空気の流れを把握していればいい。それがヨブ・トリューニヒトの"政治"なのだ。

 

 

「本部に戻るという事でよろしいです………………か?」

 

 車にリーダーを迎え入れた運転手はバックミラー越しに見るリーダーの顔色が見たことも無い青ざめ方をしているのを見て思わず目を逸らす。

 

「……ひとまず本部だ」

 

 それだけを言ってリーダーは押し黙る。

 

(知るとしたらこいつだけだ)

 

 メトロポリタン第三ビルの部屋は最後の最後の隠れ家として用意した場所だ、誰にも教えていない。強いて知っている者を上げるとしたらこの運転手だけが可能性がある。近くまで送らせた事があるからだ。しかしトリューニヒトはこの場所を知っていた。知っているどころか何処に何を隠しているかも細かく把握している。部屋の鍵を持っているのは己だけだし監視システムも稼働させているというのに。

 

(誰が……誰が奴の目なのだ……)

 

 レベロ政権の発足後、トリューニヒトから過激な活動の自粛を命じられた。それまで当たり前のように行っていた行動に対するもみ消しもあまり期待しない方がいいという忠告も丁寧に言い渡された。トリューニヒトは明らかに路線を変更させたのだ。まぁ、そのお陰であのクーデターの際に軽挙妄動を起こさずにいられたというのはプラスにはなったしその間に幹部との間でしっかりと状況を共有しこの自粛路線も止む無しとまとまりは出来たのだが組織内にはそれを是としない"過激派"は多数存在している。いつまで抑えつけられるかは判らないがひたすら宥め続けていたのだが「ハイネセン平和市民運動」という明確な敵対組織が出た事でその抑えを飛び出した輩が暴走してしまった。そして今日のこれである。機密書類の処分も造反者の処分も滞りなく実施せねばならないだろう。書類に至ってはやったかやらないか"目"を通じて逐次把握している事だろうから手を抜いてしまえば処分の対象は自分自身になる。あの人がその気になれば人一人など全く違う罪状で裁く事も存在してなかった人間として記録毎消す事も思いのままなのだろう。これが飼う側と飼われる側の格差と言うものだ。万余の同志を束ねる者ですらあの人にとってはどうにでもなる駒の一つに過ぎない。その現実を思い知らされた。それがヨブ・トリューニヒトなのだ。

 

 

 

「そうだよな、これもこっちだよな……」

 

 その連絡と要望書が届けられて、情報部長ドーソン大将はテーブルに突っ伏すような姿を見せる。横では次長のビロライネン少将も"どうするんだよ、頭数どうするんだよ"とぶつぶつ呟きながらその場を左右にうろうろしている。

 

 "亡命者に含まれていると思われる組織的スパイ群への対策"

 

 一般亡命者であれば政府公安が主に対応する案件であるが今回は人数が人数であり、かなりの割合を正規・私兵を問わず軍に属する者達が占めている推定五〇万人の集団。用意さえできていれば"乗組員全員スパイで構成されている軍艦"など簡単に紛れ込ませる事が出来る。軍艦一隻二〇〇人だとして二〇〇人のスパイ集団と書くと規模が大きすぎて逆に簡単に見つけられそうだが五〇万分の二〇〇と言われると話は違う。比率にして〇.〇四%。これを見つける為には五〇万人の亡命までの経緯などを精査して矛盾点を見つけなければいけない。五〇万人の亡命経緯や経歴などについては亡命申請時の必要書類として提出させている。その後それらの内容はデータベース化されて、AIによる自動解析を行い不審点の洗い出しまでは自動で行われる。しかしそこから先は人力、それも"経験と勘"というスキルが求められる調査系である。少人数であればそれこそ自動解析すら使わずに全部見て考えて判断するチームを組む事が出来る。しかし今回は自動解析が吐き出したリストの時点で眩暈がする分量であり、当然ながらそれを処理できる経験を積んだベテラン調査員の頭数などいるはずがない。

 

「亡命税の軍事費割当に予備費あるかな? 情報部OBの予備役から一時的動員や再雇用が可能かどうか各所に確認を取ってくれ」

 

 ドーソンのその一言で情報部の一時的な規模増強嘆願がスタートした。しかしあると思った亡命税、これが極めて少ない事がすぐに判明する。犯人はヤン・ウェンリー。この人が"長期計画としては特に必要ありません"と言ってしまったので割当がばっさりと削られていた。しかし政府側も流石に割当なしとする気はなかったのか軍予算削減の一環で極力削られてていた予備費をある程度補強させていた。あとはこれを国防委員長に説明して使用認可を出してもらうしかない。

 

「やっぱり大変なんだねぇ」

 

 緊張感のない声で応えるのは国防委員長ウォルター・アイランズ。通称国防副委員長、国防委員長代理とも呼ばれている。トリューニヒト派である事は周知の事実であり、その遠隔操作を受ける駒に過ぎないともっぱらの評判である。

 

「具体的な再動員規模と計画ですが……」

 

 説明役のビロライネンが内心"判ってもらえるのかな? "と思いつつ具体的数値などを話し始める。アイランズは"ふ~~ん"・"なるほどね~"と不安しかない相槌を示すのみ。そして、

 

「ひとまずは初動の"信用できる実力者"の分は予備費使いましょう。そこの人数だけなら適当な理由つけて純増となったとしてもその分他の人員削ればいいんじゃないかな」

 

(人員の配分をそう簡単に言われても困るのですが……削るのは他部署だし)

 

 とは口に出さずひとまずは初動分の予備費を気が変わられる前に握ってしまう事にする。確かにこの初動の対象は軍総員数千万人から見れば誤差の範囲だ。実力者だから単価は高くなるがその分の削減はヤン中将に振ってしまえばいい(※8)。そして情報部は有力な経験者達を予備役から手当たり次第に動員開始する。そしてその作業に追われる中、情報部のオフィスにアイランズがひょっこりと現れる。

 

「君たち(情報部)が増やしたいって言ってた人員のお金、議長決裁の予備費(※9)から出るようにしてもらったよ。今積み重なってる問題は亡命がらみのが多いからお金もそこ(亡命関係=亡命税)から出さないとね。具体的な金額は後日伝えるけど欲しい人数かき集めても大丈夫な金額のはずだよ」

 

 あいかわらずのほほんと言ってくるアイランズをドーソンとビロライネンがぽか~んと見つめるが慌てて姿勢を正し、礼を言う。世の中の組織の大抵の問題を解決する特効薬である"金と人"を(能力的に)全くアテにしていなかった人が解決してくれたのだから驚きも大きい。

 

「それじゃあ頑張ってね」

 

 のほほんと退出するアイランズを最敬礼で見送る二人。これを機に強化動員された情報部は多種多様な任務の束に押し出されようとしていた所を土俵際でふんばり、後になんとか逆転のうっちゃりを仕掛ける事に成功する。だがそのうっちゃりの最中に"とにかく一箇所でいいから根底から潰しておきたい"という理由で発生した大捕物がさらにめんどくさい事態を招く事になるとは現時点では誰も予想できないのである。

 

「なんとかなりそうだな」

 

「なりそうですね」

 

 ひとまず胸をなでおろす二人。しかしその安静は数日後に"憂国騎士団に偽装する数千人規模の過激派による過剰行為への対応"をまたまた公安からの協力依頼と言う形で巻き込まれる事で終わりを迎える。自由惑星同盟軍情報部長アーネスト・ドーソン大将四六歳。妻との間に子が二人。彼は今、紛れもなく同盟軍高級将官で一番忙しい男なのである。

 




 ドーソンで一話終わった・・・・・
 やはりできるだけ原作キャラ使いたいので色々とまさぐる事にしているピロライネン少将とか帝国ならアーベントロートとか。
 その流れともいえる>ドーソン 部長クラスで名前出てるの少ないからね。同盟は。


※1:情報部長再任
 ドーソンの職歴としては士官学校教官(新入生担当生活指導主任・軍隊組織論担当)、第一艦隊後方主任参謀、憲兵隊司令官、情報部長など。

 ・秘密保持の必要なこの種の任務には無能ではない
 ・事務能力はともかく、人望がない
 ・神々の黄昏作戦時にビュコックの支えがあったとはいえ本部長職務を遂行し本部の機能を維持した

 これらの評価から思うに平時の統合作戦本部長ならやり通せる事務能力を持ち、情報系ならそれ以上の実力を持っていたと言っていい。つまりは無能じゃあない。そもそも"平時の"とは付くが統合作戦本部長としての事務能力を持っている時点で全士官でも上澄みの実力者のはずである。少なくとも事務能力においてヤンはこの人を悪く言う資格はない。また人望が無いという点においても"ヤンファミリー及びそれに波長が合っている人達"から嫌われてはいるが相性そのものが悪そうなのでその辺を差し引いて考える必要があるのでは?と。

※2:監禁時
 ドーソン、ビュコック、ヤンとその副官たちが丸ごと一箇所に監禁されており、ひたすら暇だったいた為、お互いの理解度はとても高まった。

※3:ヤンの対応
 ジェシカvsヤンになる時も多々あるが"親友だからこそ出来る公私の切り分け"をしている結果、かなりガチな口論となる時がある。軍関係者から見たら"口うるさい新米議員"であるジェシカだがその賢さを十分に知っているヤンにしてみれば"本気で対応しないと説き伏せられる"と判っているので全力で対応している。ただ、本気になりすぎてがっつり論破してしまう時があり、その時は後で"やりすぎてごめん、本当にごめん"とごめんなさいメールを送ってなんとか機嫌を直してもらっている。あまりにもガチなので彼らの関係を知っている人も"本当にこの二人友達なの?"と思う時があるという噂である。

※4:既存兵力ですら過剰
 既存兵力:正規艦隊5(イゼルローン、首都星防衛、第一、第三、第五(予定))、半個艦隊3(第二、第四、第六(予定))
 彼らの主張は首都星防衛、イゼルローン、イゼルローン後方支援(半個艦隊)の二個艦隊半とそれを維持する為の一定量の予備があればいいという考え。総兵力で言えば原作のアムリッツァ後の三個艦隊(イゼルローン、第一、第一一)と同じくらいである。ひどい話であるが馬鹿正直に帝国軍がイゼルローンへの力攻めだけしかしてこないと仮定すると満更防衛不可能ではないという所が話をさらにややこしくしている。
 尚、"イゼルローン要塞鉄壁論"は最低限の知性・知識を持った専門家からは"確かにイゼルローン要塞は力強いが万時において完璧というものはないものでして、そもそも完璧じゃないから帝国はそこを失ったわけでして・・・・"と否定されている。当然ながら"そう(鉄壁を)言い続けてきたのが帝国だぞ"という嫌味である。

※5:本来の目的
 回復させない同盟と回復させる帝国の兵力比が広がる事によって帝国が「ここまで差が出たのならフェザーンごと殺っちゃっても大丈夫だよね?」となってしまう事を防ぐ為の抑止力維持。

※6:ダミーの防衛計画
 そもそもイゼルローンの失陥については"まぁ何とかなると思う"という程度の防衛策をヤン中心に計画済みであり万が一失陥した時の再奪取の為の仕込みも済ませている。しかしそれを言ってしまうと鉄壁論者が"なら大丈夫じゃないか!"と騒ぎ始めて止められなくなるので表に出してはいない。

※7:情報系隠密行動
 あとできるとしたらヤン・ウェンリーくらいなのであるが彼は組織のトップとして組織全体を動かす立場というのはあまり得意ではない。動かす立場の人の傍らにいる参謀型、もしくは自分の手の届く範囲を全部直接動かす陣頭指揮型なのである。

※8:ヤンに振る
 情報部の根回し中に"別に追加いらないっすねー"としてしまいお金きっつきつにしてしまった犯人の一角であると判明。正面兵力調整だけで時間がいっぱいいっぱいでそこまで情報部がてんてこまいになると言う所まで頭が回っていなかったという事もあり"貸し一つ"として何かあったら手伝わせる事を約束させていた。

※9:議長決裁予備費
 各所に割当てた亡命税の残り。
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