偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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ひっさしぶりー


No.56 盟約の死後痙攣

 それは首謀者もおらず、事前に計った訳でもなく、ただの偶然、必然、勢い、破れかぶれと色々な心情が重なり蠢いた結果なのだろうなと結論付けた。これだけの規模になったのだからそれなりに繋がる理由があるはずだと考えた軍・政指導者達も考えに考えた結果としてそうするしかなかった。それがこの動乱である。

 

 非航路領域に逃げ込み海賊となった者達がその活動限界に近づき、大胆な行動を取らざるを得なくなった。辺境の先の棄民域まで逃亡した者達が現地勢力を取り込み活動を開始した。敗残兵を匿ってしまっていた地方基地が庇いきれなくなって騙し撃ちをした、逆に乗っ取られた。とある旧盟約派貴族が没収される事になった領土から根こそぎ物品を収奪しようとして袂を分かった現地警備隊と衝突した。没収そのものが嫌で居座っているうちに引っ込みがつかなくなった。政府との減刑交渉に使えると思い周りの騒動に乗ってしまった。元々"いつかはこの恨みを"と思っていたので今がこの時だと決起した。etcetc

 

「一度や二度のぶり返しは覚悟していたがここまで馬鹿馬鹿しい状況になるとは思わんかった」

 

 というのは宇宙艦隊司令長官シュヴァルベルク元帥の後の言である。そのような結果を知る由もないその時は思わず叩き割ってしまった愛用のティーカップを悲しげな眼で見つめながらただ一言

 

「まぁ玉虫色より良いかもしれん。例の命令を発動する。潰せ」

 

 と命じた。それだけで十分だった。そうできるだけの仕込みは行っている。その命が届くと共に各地に分散配備されていた正規軍派遣分隊はその事前通達権限範囲において該当地域警備隊の統一指揮権を得ると共に対叛乱勢力限定ながら事前報告なしの自由軍事行動権が与えられる。派遣分隊と言っても一〇〇〇~一五〇〇隻程度であり、現地警備隊を指揮下に入れても倍になるかどうかである。警備隊がその任務としてある程度の現地権限を与えられるのは当然だが正規軍はそれこそ要塞や星域を対象とした駐留艦隊でなければ現地裁量は与えられない。本来中央が直接統制する部隊なのだから当然であり分艦隊規模であったとしても例外ではなくかつてのカストロプ動乱のように命令を受けて本拠地から出発して任務をこなして帰って来るというのが通常の形だ。しかし一度や二度を覚悟していたぶり返しは小規模の同時多発行動であると考えられていた(大規模な集結が不可能な為)。それを一つ一つオーディンから都度派遣してコントロールするのは無理があるし手間がかかる。なので内乱の結果、一時的に貴族領私兵艦隊(=貴族領警備隊)が減った地方(=必然的に叛乱率の高い旧盟約派領が大半となる)に対してテコ入れと言う名目で小規模の分艦隊を派遣し、警備隊と同様の権限で活動させていた。警備隊として動き、対処療法で鎮静化すればそれはそれで良し。何か大きな動きが起きたら事前通告通りの行動を命じる。それか今回の骨格だ。

 

「よーし、命令が出たぞ。全艦出撃準備!!」

 

 各地に派遣されている分隊司令官は准将なり少将なり次代の艦隊or分艦隊司令官候補としてリストアップされていた面々である。自分達に対する期待と役割は判っている。発動前の警備行動中に担当星域の詳しい航路情報やその航路網の隙間などをチェック、事前計画を立て現地警備隊との融和を図る。そしてGoサインが出るや否や一般船舶の運航を一時的に停止して負担を減らした警備隊を総動員し計画通りの大規模偵察を実施。勝手に騒ぎだした勢力には当然、本隊が向かい叩き潰す。偵察で見つかった輩も叩き潰す。逃げようにも各星域で同様の行動が行われている為、逃亡成功率は低い。この期に及んでだんまりを決め込み隠れ通そうとする勢力もあるだろうがそれはそれで相手にせず狩れる相手だけ狩りとる事を優先し孤立させる。そのまま時が経過してしまえば再建した警備隊に任せる事が出来るし生き残った元盟約派諸侯は再叙勲も終わり、彼らに味方する事はなくなるだろう。むしろ狩る側となる。

 

 

 決起なりなんなりの行動を起こしてしまった勢力は面白いように狩られていった。宇宙艦隊司令部には七九七年年頭当時の正規軍、警備隊、貴族私兵の全ての数量に関する情報がかき集められており(元々は内乱に備えての情報収集)、内乱時のデータと現状のそれなどと照らし合わせる事によって大まかながらの行方不明艦艇総数は算出されている。届けられる報告を元にその数値が修正されていき、政府と軍とで設定した安全圏、つまりは本来の警備隊のみで対応可能な所まで刈り取る事が出来れば一段落となる。この数値達成をもって積極的掃討作戦は終了となり余裕の出来た領域からは派遣部隊の撤収が開始される。そして各々が目指す目的の為に各分隊司令官や警備隊が順調にスコアを上げていく中でこの艦隊もまた、重い腰を上げざるを得ない状況となる。

 

「まったく。参謀長がおらん時に発生してしまうとは」

 

 ガイエスブルク要塞司令部で要塞司令官兼駐留艦隊司令官という実は今、"帝国で最も強力な戦闘力指揮権を持っている中将"であるフレーゲルがうんざりとした顔になる。傍らに控えるはいつもの情報参謀フェルナー大佐、そして"副参謀長"。艦隊の最高実力者である参謀長エルネスト・メックリンガー少将は所用の為、遠地である旧リッテンハイム領のどこかにいる。安定しているブラウンシュヴァイク領より遥かに荒れていて危険なリッテンハイム領の文化財美術品等の確認&保護の為、艦隊参謀長とは別に政府から直接指名された"文化財保護担当官"としての権限を振り回してすっ飛んでいってしまっているのである(流石にこのタイミングで痙攣が起きるとは考えていなかった)。

 

「いないものはいないのです。我々だけで何とかするしかありません」

 

 分艦隊司令官にはそれそれの担当地域を指示し、既に出発を開始している。それらを見送ってから本隊が出発となる。

 

「それにしても我慢に我慢を重ねてきたのだろうな。今まで動かんで済んだ分、まとめてやる羽目になってしまった」

 

「リッテンハイム領は相変わらず静かなのが羨ましいですな」

 

「あっちは内乱終結時点で壊滅していたからな」

 

 "はぁ"と二人で溜息をつく。今日まで軍事的には静かだった旧ブラウンシュヴァイク領。一夜にして集中豪雨地帯になってしまった。

 

 

 旧ブラウンシュヴァイク領と旧リッテンハイム領。この二領の内乱後処理は異なる理由で共に"静か"であった。

 旧リッテンハイム領が静かなのは末期的理由であり、決起における初期動員、シュヴァルベルク艦隊(主に暴風分艦隊)による蹂躙、そしてキフォイザー星域会戦前の根こそぎ追加動員により星間移動可能な有力戦闘艦艇が底をついておりその会戦で四散した私兵達は再決起どころか日頃とこの戦いで積もり積もった恨みを晴らすかのように現地で海賊化する有様。その結果、内乱後処理としてガルミシュ要塞に駐留する事になったアイゼナッハ艦隊(※1)の治安維持や警備活動が無ければ生活必需品を含む星間物流すら維持できない状況となった。生活そのものの首根っこを掴まれた状態なのである。元よりブラウンシュヴァイク家より財力が劣る中で拮抗する勢力を作り上げた代償はその領民に降りかかっていたのだからリッテンハイム家の為にと騒動を起こそうにも領民から総スカンを食らってしまう。そういう土地柄故にもはや動く気力もない。故に静かなのである。

 それに対して旧ブラウンシュヴァイク領は別に意味で静かにならざるを得なかった。ブラウンシュヴァイク公オットーの夫人にして先帝フリードリヒ四世の娘、アマーリエの存在である。ガイエスブルク要塞が陥落し、終結宣言が出されたその時もアマーリエはブラウンシュヴァイク領の本宅に健在であった。リッテンハイム侯ウィルヘルムの夫人であり姉妹でもあるクリスティーネとその娘サビーネはその頃は名目上皇室による保護扱い(実質軟禁)となっておりそれ故に形としてはこのアマーリエも同等の措置とせねばならない。あのアイゼンフート宣言が出る前より現地へは監視団が送られ、逃亡は阻止していたがその後は交渉となった。なんとか保護を受け入れてもらって軟着陸させたい政府側とそれを盾にその後の身の安全等を得たい現地ブラウンシュヴァイク家有力関係者達との間の当事者を無視した綱引きである。当然ながらお互いの立場を悪くする軍事活動は行えない。結局、現地行政システム&人材の再利用&登用の保証を担保にアマーリエの身柄は引き渡される結果となった。といってもこの話には裏があり当初の宣言通りの措置・処分をしてしまったら政府は広大な旧ブラウンシュヴァイク領の行政システム&人材をほぼほぼ外部から用意しなくてはならず、他地方を合わせて当然ながらそんなものは全部用意できないのは判っていた。それはブラウンシュヴァイク家側も理解していたので"皇室関係だから仕方ないね"という逃げ道を作って当初の宣言の例外とする事で政府が用意しなくてはいけない人材総量を減らすという予定調和と言う奴である。かくして旧ブラウンシュヴァイク領は帝国直轄領ブラウンシュヴァイク星域としての再編が開始された。その過程で沈黙を守り続けるしかなった現地留守警備隊(旧私兵)も馬鹿やらなければ希望者はそのまま登用という予定であり、現実として警備活動は継続していた。この動乱が始まるまでは。

 

 

「ブラウンシュヴァイク家の家名存続、アマーリエ様の謹慎解除、打倒帝国、フレーゲルに天誅を。まぁ色々と声を上げておりますな。今までの鬱憤が爆発しただけで支離滅裂。計画性は全く見られません」

 

 なんか最後に不穏な声を聴いたような気がするが流す事にする。

 

「想定通りか。伯父が野望の為の表向きとはいえ王道を目指した政治をしていた関係もあってブラウンシュヴァイク家はそれ相当の求心力を作っていた。リッテンハイム家とは違い留守部隊は我々に蹂躙される事なく残り、内乱後はアマーリエ殿の交渉もあって動けず叛徒領への逃亡もできなかった。忠義を尽くしたいのに尽くせず、死に所を求めていた留守部隊が周囲の動乱の熱に炙られてそれこそ"滅びの美学"に走ってしまっても理解は出来る、同意は全くできんがな。……ぼやいていても仕方がない。予定通りの状況だから予定通りの事をやるとするか」

 

 予定していたポイントに到達したフレーゲル艦隊本隊約二〇〇〇隻。同じ数をガイエスブルク要塞の留守に残し、残りは一〇〇〇~一五〇〇隻程度の部隊にして各地に飛んでいる。旧ブラウンシュヴァイク領というが現実問題としてその直接・間接支配領域はブラウンシュヴァイク星域からガイエスブルク要塞に至る経路丸々といっていい。ブラウンシュヴァイク星域を治める領主、それがブラウンシュヴァイク家なのだから当然だ。そして一等地故に人口密度も高い。なので実の所、他星域と異なりこの星域での大騒動となると一個艦隊でも余裕があるという事でもない。しかも支離滅裂の決起となると統一性がないので追いかけるのが苦痛となる。故に少し危険であるが餌を撒いて統一性を持った行動をしてもらう事にした。

 

「私はガイエスブルク要塞司令官兼駐留艦隊司令官、イザーク・フォン・フレーゲル中将である。ブラウンシュヴァイク星域における叛乱勢力全てに告ぐ……」

 

 ブラウンシュヴァイク星域に踏み込み有力航路の定点監視システムにわざと感知させ発信源を明確にして行われる広域通信による降伏勧告と言う名の挑発行為。フレーゲルは己の存在を示し、星域全体の叛乱勢力に喧嘩を売る。俺はここにいるぞ、と挑発する事により統一性のない敵に明確な目標を与える。その動向はその航路定点監視システムと予め各地に飛ばした分艦隊が行軍中に仕込ませた使い捨て監視ドローンで感知可能とする。

 

「ブラウンシュヴァイク領にとって閣下の存在は良くも悪くもジョーカーですからな。他の地方にはできない芸当ですから使わないのはもったいないです」

 

 いつもとは違い、少しにやけているはずの口元が少しひくついているフェルナーがそれでもふんぞり返って粋がっている。この動乱が始まり、艦隊出撃準備の合間に次から次へと赤マーク(叛乱発生)が追加されていくブラウンシュヴァイク星域地図を眺め作戦を定める最中に"面倒くさいな。ひとまとめに出来ないものか? "とぼやいたフレーゲルに半場冗談でこの案を出したのはフェルナー本人である。ただ、フェルナーにとって計算外だったのはフレーゲルがこの危険な策を"まぁやるならそうなるな"とあっさり受け入れてしまった事と考えてみたら自分がその危険な役をやる主の傍らから離れられない(離れる気もない)事である。

 

「さぁ、動くぞ」

 

 監視ドローンが検知したものだけでもそれなりの数がこちらに向けて動き始めている最中。フレーゲル本隊は若干の移動を開始する。こちらに向かってくる敵が諦めない程度の速度で分散した分艦隊の一つに近づくルートを取る。後は敵味方どちらが早いか、である。

 

「これで味方が戻ってこなかったら笑いものだろうな」

 

 フレーゲルがぼやく。そしてやっぱり餌になった事を少し後悔する。彼がこのような危険な策を受け入れたのは簡単に言うと"見栄え"というものもあるが各地で奮戦しているであろう未来の艦隊司令官候補達への抵抗心というのもある。自分が艦隊司令官としての実力を備えていない事は自覚している。候補達は昇進するにしてもまずはこれから再建されるであろう艦隊の基幹要員になるだろうからすぐに追い出されることも無いが少しでも余剰が出たら(人事を司る軍務尚書があのミュッケンベルガーなのだから)実力順となりあっさりと席を明け渡す事になる可能性がある。あの内乱を生き延び、ひとまず首が(物理的に)繋がり続ける事になったがこれからはこの席で"利用価値"を生み出し続けなければならない。軍から身を引いて貴族界で価値を再び高める事は今までの経歴を考えると寧ろ危険度を高めるだけの行為といえるし隠者を目指して静かに暮らすなど周囲が許さない(勝手に集まる・担ぎ出す)。となれば貴族界から距離を置きつつここ(軍)を追い出されないだけの価値を作り出すしかない。純粋な実力でそれを得るには時間がかかるしそもそも得られるかもわからない。となると"必要ならばこれくらい(餌)の事はやってのける"という別側面の価値を見せねばならない。つまりは彼もそれなりにこれからの事を考えているのだ。(実の所、宇宙艦隊司令長官時代のミュッケンベルガーはそれすら計算に入れて"貧乏くじを遠慮なく投げつける事の出来る都合の良い存在。実力不足は幕僚で補えばいい"としてある意味"戦力"計算できる、という内容で後任者引継ぎをしているのだが……)

 

 

「九時方向、数一七〇。四時間前に感知した敵Gと推測されます」

 

「左翼に伝達、予備を全部使って受け止めよ。左翼本隊は正面を撃破後に加勢。予定していた中央への加勢は行わなくて良い」

 

「ポイント三の二にて感知。数二五〇。距離三時間。敵Pとします」

 

「状況共有怠るな。二時間後に再警告をせよ」

 

 勢いで決起したものの中心人物がおらずどう動いていいかわからなかった各地の決起部隊が一〇〇程度から最大で五〇〇程の塊となってそれぞれの拠点から動き出した結果、餌に群がる魚はまさしく雲霞の如くといった流れを生み出していた。その目的地となる中心地がこのフレーゲル本隊である。敵は真っ先に動き出した集団が第一波、動くつもりはなかった(と思われる)が状況を見て動き出した集団が第二派として押し寄せて来ている。味方の分艦隊は本隊への合流を急いでいるが敵部隊を見つけたら叩かないといけないし中には状況を悟った一部の敵部隊が意図的な遅延行為を開始するに至り、合流予定時刻の超過は確実である。

 

「それにしても想定より多くないか? 物資消耗も……多い。ミサイル艇やら哨戒艇やらここまで来るものじゃないだろ」

 

「計算上、やれるだけの航続力はありますからね。片道なら、という前提ですが……」

 

 主従そろって眉をしかめる。静かだった時に各警備隊(旧ブラウンシュヴァイク家私兵留守部隊)の総数・内訳は調べ尽くしている。丸ごと塊になって襲い掛かって来ても数としては今回動員した艦隊(留守を除いた一〇〇〇〇隻)に劣る。それも全部が全部決起する訳でもないので本隊二〇〇〇隻を短時間で粉砕する勢力にはなり得ないというのが事前の計算であった。しかし実際には想定していた数の倍はやって来ている。その正体が"ミサイル艇やら哨戒艇"である。もはや艦としてのカウント対象外といえるそれらの"艇"は警備隊基地という空母から出撃する大きなワルキューレであり偵察機である。理論上一週間程度の巡行移動が可能だが艦のような居住施設は無く、コックピットのリクライニングシートが全て。レーションと水と補助栄養剤と簡易トイレキット(無重力なので"失敗"したら大惨事である)をぶち込んで友軍艦への自動追尾で、少し頭の働く部隊は緊急徴用した輸送艦に叩きこんでやってきた。ある意味ワープを使えない同一星域内の近場だから出来る芸当である。

 

「防御力皆無なので当てれば落とせる。しかしレーザー機銃よりも射程が長く、当たれば痛いミサイルを持ってるから弾幕なりワルキューレ隊で射程外で磨り潰すしかなくこちらの消耗は多い。教本の説明通りだな」

 

 コンセプトとしては十分な弾幕を形成できない辺境の棄民域勢力や各地の海賊といった小部隊に対する基地防衛最終ライン用である低コスト兵器なので何日もかけてやってきて主攻に使う代物ではない。しかしやってくるとうっとおしいし、相手にしなくてはいけない分、本来優先的に叩きたいまともな戦闘艦艇への投射量は減る。そうなると戦闘艦艇同士の交戦時間が延び、必然的に被弾も増えて損害も増える。しかし、

 

「といっても時間の問題か。最寄りの味方への距離は?」

 

「妨害が無ければ六時間。その間に本隊が遭遇するであろう発見済み敵部隊総数は……」

 

 その時間、数を聞いてまだまだ未熟ながら大体の予想を付ける。

 

「ま、なんとかなるな」

 

 "本当か? "と周囲に疑問の目を向けられるが気にしない。一応その通りにはなった。

 

 結果としてこの囮作戦は宇宙艦隊司令部からも"短時間で大きな戦果を上げる事が出来た"と評価を受ける事が出来た。但し"敵勢力に統一指揮系統があった場合、本隊のみで友軍合流まで耐えるには[(参謀長不在の)司令部の指揮能力が不足]であり壊滅とならないまでも大きな損害を受けていたであろう"という備考が付随していたが……。

 自軍一〇〇〇〇隻、敵軍三六〇〇隻(+ほぼ同数の"艇")。敵の第一波である総数四分の一近くを本隊のみで対応し、第二派までの間に友軍と合流し本隊が倍増した時点で"勝負あり"。他の友軍には合流よりも敵の発見・殲滅を優先させた後はただの掃討戦になった。この"痙攣"において一星域の叛乱勢力艦艇数としては最大であったが同時に自軍配備艦艇数も最大である以上、結果は必然といえるものであるがこれを"あのフレーゲル中将がお目付け役不在なのに短期間で乗り切った"という事が驚きをもって周囲に知れ渡ると同時に才気溢れる候補者達からは"あの程度の指揮能力なら(艦隊司令官の椅子を)狙える"という共通認識を植え付ける事にもなり当の本人は(乗り切った事を)喜んでいいのか(狙われる事を)悲しんでいいのか悩むと同時に幕僚ごとまとめて後日帰って来た参謀長に"やるにしても手際が宜しくありません"とたっぷり駄目出しされるのである。

 

 

 この一連の騒動は後に"盟約の死後痙攣"と呼ばれる事になった。元盟約派諸侯の敗残兵や留守兵達の決起ではあるが頭脳は無く、激しい痙攣が周囲を驚かせる事になったがそれが収まると逆に不気味な程に静かになり敗残兵の敗残兵というべき者達はもはや旧盟約軍ではなくただの宇宙海賊同じカテゴリで扱われる事になる。膿を出し切るという意味ではだらだらと引きずるよりも勝手に痙攣して勝手に吹き出してくれた分、むしろ早くすっきりしたのではないか? という声すらあがる始末である。

 

「おっ! そういえば遂に一週間、中七日達成か!?」

 

(帰れるはずもない)定時のアラームが鳴る宇宙艦隊司令部の席でシュヴァルベルクが思い出したかのように声を発し。疲労の色を隠せない周囲の者達も少し生気が甦ったかのような表情になる。

 

「私が仕分けている書類も確実に減ってきてします」

 

 そう言いつつ司令長官宛の決裁物を重要度・期限・要件毎に仕分けキルヒアイスが次々と司令長官用決裁物置き場にセットしつつ一部の資料は直接手渡す。シュヴァルベルクが呟いた通り遂に七日間、旧盟約絡みの新しい叛乱は発生せず。処理する書類は検知済み事案の処理が中心となっていた。まだ手数が足りない為に、叛乱を感知したが手を付けていない(戦略的無視をしている)勢力も少しあるが安定確実となった星域から余剰戦力(主に宇宙艦隊から派遣してた部隊)転用が開始されており、これらが現地で行動を開始すれば軒並み改善されるだろう。そして、

 

「ここが早期収束したのは大きいな。人はもういないだろうが核となりうる地域だったからな」

 

 手渡された資料の一つをひらひらさせ、おもむろに承認サインを書き込む。帝国らしく未だに"人の手でやれる事は人の手で"であり山ほどのサインが政・軍問わずお偉い方の仕事である。その資料、フレーゲル中将から送られた"掃討作戦終了及び強化巡視体制への移行"に関する申請。つまり宇宙艦隊司令部から出たGoサインである"積極的鎮圧掃討"を終了させ受身である巡視体制に移行する事の許可を求めたものである。もう一つの重要地域である旧リッテンハイム領は叛乱出来る勢力そのものが少なかった事もあり既に静かなものとなっている。

 

「あの二星域さえ治まれば残りは枝葉のようなもの。これならば今年中には"海賊対策強化期間"程度の部隊派遣量には押さえられそうだな」

 

 司令長官席の近くにあるボードに描かれているグラフを見ながらシュヴァルベルクが心底ほっとしたような表情を浮かべる。ボードには各種敵対勢力の具体的数値が時系列で記載されており、内乱終了時実数から推測される行方不明の旧盟約軍敗残兵や叛乱敵対した元私兵留守部隊が"痙攣"後一月あまりで文字通り磨り潰されていく様がありありと判るものとなっている。アナログな手法であるがこういう目に見える形で自分達の戦果を判らせる事でいつ終わるか判らない作業にも終わりがあるんだと理解できるし。そうする事でなんとか司令部の指揮を維持している。

 

「となると、例の報告は来月頭(一二月頭)くらいにはやらねばならんだろう。何一つ心配することなく年は明ける事が出来るでしょう、と。すまんが軍務省や統帥本部に連絡を取ってどう進める予定かを聞いておいてくれ」

 

「わかりました」

 

 例の報告。それはこの"痙攣"の終結。少なくとも積極的鎮圧掃討活動は終了し後処理や受動的措置だけになった事を軍三長官が皇帝陛下に報告する一種の儀式である。政府各省内や貴族界や経済界、様々な所において政府や軍上層部と一枚岩になっているはずもなく"いつまでこの内乱は続くのか? " "いつになったら国内が治まるのか? "といった不平不満の声は上がり続けている。それらを静かにさせる為に"もう終わったとしてもいい状態である"と陛下に上奏し、理解していただく。陛下が"治まった"と認識したものを"治まっていない"と騒ぎ立てるのはあまり宜しくない事となってしまうので不満があっても黙るしかなくなる。そういう回りくどい手を使わず当人たちを説明してもいいのだがこの手の者達には騒ぎ続ける事そのものが半分目的になっているのも少なからずいる。そう言うのを黙らせるには手を出すのが憚れる所からお墨付きを貰って見せつけるのが一番なのだ。

 

「あとはあ奴らがどう動いてくるか、だな」

 

 誰にも聞かれない小声でシュヴァルベルクが呟く。あの内乱に始まる一連の状況は終了が見えてきたがそれ故に目を背ける事を許されていた存在を直視しなくてはいけなくなる。これ(内乱)で煩かった前記勢力達もそれが静まればこちらをネタにする事は判りきっている。

 

(イゼルローン……)

 

 叛徒軍に奪われた銀河最大の要塞。それにこれから対峙せねばならないと思うとそれだけで気力が萎む。一昔前は"イゼルローン回廊は叛徒どもの屍で舗装されたり"と中傷していたものだがそれでも諦めずに攻め続けた敵司令官達の精神力を今となっては笑う事など出来ない。

 

(敵も回復するが体力はこちらの方が上。きっちり再建が完了するまでは"おさわり"程度にさせてもらいたいものだ)

 

 報告を行い、今年中に落ち着かせる。そして来年から(嫌々ではあるが)それを直視する。まずはそこからだ、とシュヴァルベルクは考える。個人の考えではない。それが軍上層部の総意であった。はずであった……




※1:アイゼナッハ艦隊
 投稿の間が開いているので補足しておくといわゆる原作のあのエルンスト・フォン・アイゼナッハではなくその従兄であるエルンスト・フォン・アイゼナッハというオリジナルキャラの艦隊。尚、従弟程ではないが無口。本来後方支援などが本職なので艦隊司令からは身を引いて艦隊司令の席は従弟に譲りたいなぁと日々思っている(&人事活動中)のだがその更なる無口がなぁ・・・・と当の本人以外が全員頭を抱えている(それ以外の能力は何一つ不足なしと評価されているので更に困っている)
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