偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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 こっちはこっちで帝国軍の状況

 58と59が実質セットの話である。時間かかりそうだから58の時点でいったんUpしたがさくっと終わった。


No.59 やりたくない戦の有効活用

 

 イゼルローン要塞を帝国がまだ保持していた頃、自由惑星同盟軍はその攻略作戦の際に事前活動としてその回廊出口付近における帝国軍哨戒網などの排除を行った後に回廊に突入していた。その哨戒網で活動する帝国軍艦艇は総じて数百といった程度であり広く分散しているのだが活動拠点には機雷や電波妨害器などが備蓄されており、数は少ないとはいえ短時間ながら回廊出口の通行・通信を著しく混乱させる事が可能な程度の分量にはなっていた。将官達からすればそれは一時的なものであり対要塞戦を行うような兵力であれば駐留艦隊からの攻撃をさばきつつ清掃する事は容易いという認識であるが大多数の兵にその判断は出来ず。"塞がれた"という情報一つで簡単に動揺が広がる。狭い回廊におけるその混乱は一方的な敗北に結びつきかねない事態でありそれを避けるが故に同盟軍は事前にその芽を摘んでから突入するのである。

 その"清掃活動"の最中、帝国軍、つまりはイゼルローン駐留艦隊は手をこまねいて見ているだけではなかった。哨戒部隊にはこのような場合、可能な限りの消極的時間稼ぎ、つまりは存在し続ける事が義務付けられている。その間に艦隊は出口付近に進出し、油断していたり小部隊のみを回廊内に進出させていた場合、それを攻撃する。だが、それらの気配がない場合は回廊出口手前で進出を停止して決して進む事はない。そこから先に進むという事は駐留艦隊にとって絶対的優位点である拠点(要塞)と地形(回廊)を捨てる事であり一個艦隊が複数艦隊に袋叩きにされるだけという判りきった最悪の事態が発生するだけだからである。そして隙を見つつ掃除が終わりそうだと判断した時点で要塞へ帰還する。

 

 要塞の所有者が変更になった後も、新たな所有者である自由惑星同盟軍は出口付近に同様の哨戒網を構築していた(※1)。そもそも要塞で受け止めるなら来るまで待てばいいという話もあるが至近距離、つまりは回廊内部に十分に入るまでの領域を感知できず自由に使われるというのは非常に不気味な事であり感知した頃には遅かったとなる事象が発生しないという保障もない。だからある程度の小競り合いや敵軍襲来時に犠牲が出る事を覚悟してでも出口近辺に哨戒網は必要となるのである。

 この度、アッテンボローが承認を受けた訓練計画はこのような事態における想定外の遭遇からの撤退戦がテーマとなっており、実戦としての出撃準備を開始するにあたり"もし必要になってしまったら任せるから計画書は持って行くように"とウランフ大将から冗談か本気か判らない言葉が出たりもしていたのだが・・・・・・

 

 

 

 帝国軍は哨戒網を完全無視、通信妨害装置も稼働させず堂々と回廊内に突入していった。その数、二個艦隊二七〇〇〇隻。

 

 

 

「ここまでは予定通りといった所だろう」

 

 回廊を進む艦隊で遠征軍司令官ウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツ上級大将が呟く。

 

「それにしてもこの先(要塞)の先(同盟領)に向かう為に何度も通った道であるが目的が違うと同じ景色も違く見えるものなのだな」

 

 これから何をしなくてはいけないか、それを一番わかっているはずなのだがこの場にいる艦隊司令部スタッフの中で一番の落ち着きをもっている。

 

(悠然という言葉がお似合いだがそれにしてもなんという精神力)

 

 副官であるベルンハルト・フォン・シュナイダー中佐は"この人の行く所であれば何処へでも"という気持ちでは誰にも負けないが流石にこの行き先には緊張の色を隠す事は出来ない。

 

(我々帝国軍が、叛徒軍が籠る、イゼルローン要塞を、攻撃する)

 

 一つ一つの言葉を丁寧に紡ぎ出すがどれだけ丁寧に行ってもその内容が変化する事はない。

 

 "イゼルローン回廊は叛徒どもの屍で舗装されたり"

 

 その回廊を帝国軍が進む。

 

「さて」

 

 メルカッツが一声言うとマイクを構える。

 

「諸君、現状のままで聞いてもらいたい。私は本作戦の総指揮を執るメルカッツである。我々はこれより、叛徒軍に奪われたイゼルローン要塞への攻撃を行う。あの要塞は先人達が心血を注ぎ作り上げたものであり、我々の後方に住まう二五〇億の帝国同胞を叛徒から守る防波堤である。これを奪回し正当な持ち主の元に戻すのは我々帝国軍人の責務と言わねばならない。諸君らの中にはあの要塞がどのようなものであるか身をもって知っている者も多数いるであろう。そして、それを攻撃するという事がどういう意味を持つ事であるかもだ。申し訳ないが諸君らを全員、帰還させる事は出来ない。しかし、決してそれが無益なものにならない事を銀河帝国軍司令部は誓うものである。我々を信じて頂きたい」

 

 マイクのスイッチを切り、メルカッツがこの回廊に入ってから初めて、いつもとは違う表情を見せる。本音と建前、それが入り混じったこの"通達"は多くの兵を騙すものといっていい。その騙しの極みとも言える事を今から行わなくてはならない。十分に承知しているし、それが状況を悪くするものではないと己では思っているのだが流石に緊張する。

 

「ではファーレンハイト中将」

 

 スクリーン越しでこの場を眺めていたもう一個艦隊の司令官、アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト中将に顔を向ける。

 

「遠征軍総指揮官として伝達する。これより先、回廊内外三個艦隊の総指揮権について、これをファーレンハイト中将に委譲する。尚、その総指揮における責任は全て私、ウィリバルト・ヨハヒム・フォン・メルカッツが負うものとする。以上」

 

「伝達受領。アーダルベルト・フォン・ファーレンハイト、これより総指揮を取らせていただきます」

 

 

(どうしてこうなった)

 

 口に出したいが流石に出せない。それがファーレンハイトが言いたい本音の本音である。

 

 この遠征、当然ながら軍上層としてはやりたくない代物であった。ずっとやりたくないという事ではない。いつかはやらねばならない事であるがまだ時期尚早というものである。そもそも奪回の目途が立つ作戦が練られていない。その厚い皮を少しは捲れるであろう"ネタ"は蓄積していっているがまだ決定打には至っていない。そのような渦中で対面、建前、そういうもので行かねばならなくなった。けしかけた方には伝えていないが今回の遠征はイゼルローン要塞の奪回が戦略目標になっていない。それはそれで皇帝がしゃしゃり出てきてしまったら大変であるが流石に幕僚本部と皇帝の軍事教育に関して注意を払ってこなかった事を反省してかリヒテンラーデが"己の首をかけて止める"と宣言してくれている。なので無理をせずに事を進める流れとなった。そしてここからがある意味、軍首脳部の本領発揮である。やるならやるで損をしたくない、益になる事を詰め込みたい。同盟軍が行っていた回廊出口の掃除をこちらもやってノウハウを得たい。要塞をつつく事に対する敵軍後方の反応(増援は来るのか、来るならいつか?など)を見たい、などなど。そして"これからの人材の最終確認をしたい"。

 

 帝国軍は七九九年初頭において新たに二個艦隊を復旧し合計十五個艦隊になった。新たな二個艦隊の司令官には先の内乱時から分艦隊司令官として功績のあるビューロー少将と地方任務を歴任し、盟約の死後痙攣の際にも十分な働きを示したハウサー少将(※2)がそれぞれ中将に昇進して着任した。合計十五人、元帥一人、上級大将二人、大将四人、中将八人という内訳であるがこれからさらに復旧する三個艦隊においても将来を見据えて若手少将からの抜擢を予定しており、さらに現任の大将のうち二名が配置転換予定である。その為、中将とそれ以上の階級における人員バランスが極端になってしまう為、中将から適任者の昇進を考える必要が出た。そして艦隊司令官の最先任中将はアーダルベルト・フォン・ファーレンハイトである(※3)。すぐに昇進させてしまっても良いだけの功績や経験は既に得ているが良い機会なので複数艦隊指揮の視野を確認するのも悪くないと判断された。そのフォロー役であり鑑定人として選ばれたのがメルカッツである。元々対イゼルローン遠征の初回は慎重を期す為にもメルカッツが指揮を執る事が内定しており、そのメルカッツはファーレンハイトの実力を認めているのでこの提案にあっさり賛成した。一番動揺したのは編成内示後、メルカッツと個別打ち合わせを行った際にそれを知らされたファーレンハイト本人である。

 

「まったく難儀なものだ、この俺が大将とは・・」

 

 誰にも聞こえない程度の小声でファーレンハイトがぼやく。この世界で飯を食っていくと決めたからには確かにいつかは更なる上の階級へ、立場へ、という気持ちは持っていたつもりであるがここまで早まるとは思っていなかった。"四〇で大将、なれるかな?"程度である。予定よりもかなり早い(今年で三四)。しかしもらえる物はもらっておきたいしメルカッツ提督がケツ持ってくれる機会などそうはない。ちょっとキツい相手ではあるが無理しなくていいと言われているのでヘマして要塞砲で蒸発でもしないかぎりなんとかなるだろう。

 

「よし、事を進めるぞ。といってももう暫くはこのまま前進だがな。一応後方のビッテンフェルト少将にも指揮権継承の伝達は入れておいてくれ」

 

(こちら程でもないがあっちも"試験"だ。上手くいってくれればいいがな)

 

 

「伝達了解とだけ返信しておけ」

 

 イゼルローン回廊帝国側出口付近、帝国軍三つ目の艦隊を指揮するフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト少将は憮然とした態度で通達に応じた。この時期、帝国軍アムリッツァ駐留艦隊の任はカルネミッツ艦隊が勤めていたがその司令官であるカルネミッツ大将は近々上級大将への昇進と要塞司令官への栄転が予定されていた。といっても今、要塞は内地にしか存在せず、門閥貴族利権時代の人事(※4)はそのままなので有り体に言えば名誉職への棚上げである。そして艦隊司令官としての後任として予定されているのがフリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト少将である。

 内乱末期の戦い(※5)で腑抜けてしまった(+軍上層部から戦力外認識になった)カルネミッツに代わってその戦いで臨時指揮を取ったビッテンフェルトは内乱後正式に司令官直属部隊の分艦隊司令官に配置転換され旗艦に同乗、実質的司令官として今日まで運用を預かって来た。臨時指揮での冷静な対応(要塞砲の恐怖から来る混乱・必死の極みで感情が一時的に麻痺していた)、内乱後の再編での丁寧な対応(艦隊は預かりものという意識が強く、余計な問題を発生させたくなかった)、攻撃一辺倒だった訓練計画のバランス改善(本人の希望する"超攻撃型"という"応用"は"基本"の土台が無いとできないし、再編で新兵率高いから仕方なく普通の訓練にしていただけ)など諸々の手腕によって軍上層部からは"いかつい外見に見合わず、実に均衡のとれた良将の器である"と評価されていた(本人はそういう外部評価に無頓着なので聞こえていない)。

 そのビッテンフェルト少将が指揮する艦隊(カルネミッツ本人は旗艦共々留守で不在)は今回、回廊出口付近の同盟軍哨戒網掃討を担当する。内定してる中将昇進、艦隊司令官任命前の"試験"である。当初、"ファーレンハイト、ビッテンフェルトの二個艦隊が回廊突入を担当する"という案も出たが流石に取りやめになった。ファーレンハイトの試験内容と違い、ビッテンフェルトの方は既に一個艦隊の統率は行えているのでそこまで試す必要はなくむしろ独立した一個艦隊として全体における自艦隊の役目をきちんと果たせるか、さえ確認できればそれで良いのである。

 

(つまらん。地味だ)

 

 内心そう思っているのだが"この程度の事も出来んのか"と言われたら腹立つので全力で行う。元々手抜きが嫌いなのでなおさらである。敵艦隊が突出してくる事が無いので遠慮なく部隊を小分けして担当領域を指定して掃除をさせる。元々アムリッツァ駐留艦隊司令部には日頃の哨戒任務や小競り合いを元にした回廊出口付近の詳細データが蓄積されている。そのデータのエリア区分けで重要度が高い所から順々にやっていくだけでいい。というかビッテンフェルトにはそれ以上の細かい計画を考えられないだけであり、本人は"これでいいのかな?"と内心ビクビクだったのだが軍上層部の判定は

 

「このような地味な任務は基本に忠実である事が望まれ、司令官は余計な事を行わず部下に任せる所は任せて後ろでどっしり構えるべきである。非常に望ましい采配だ」

 

 と評価された。尚、ビッテンフェルト本人がその掃除作業を行わず後方で待機していたのは当初"自分もやるか"と思っていたが"細かいの面倒だから"とそれを辞めてしまったからである。要するに他人の手抜きに厳しいのに本人が手を抜いた、その結果がこの判定なのである。

 

(あー、つまらん)

 

 フリッツ・ヨーゼフ・ビッテンフェルト。彼が本当にやりたい事をやれるようになるのはまだまだ結構な時間が必要とされていた。

 





 そんなビッテンフェルトの"外堀"の話は何かここに付け足すのとは違うなと思ったので別に機会にする。

※1:回廊帝国側出口付近同盟軍哨戒網
 原作では予算不足で未構築。狭い回廊ぎりぎりの出口付近までの単艦での巡回網が精一杯であり出口外側は監視は諦めていた。という作者脳内設定。

※2:ハウサー
 原作には登場していないが関係物には登場している人物。知ってる人どれだけいるかなぁw

※3:艦隊司令官中将任官順
 一番はファーレンハイトであるが二番はフレーゲルである。
 ファーレンハイト:アスターテ後
 フレーゲル:内乱直前
 ロイエンタール、ケンプ:内乱発生直後
 ミッターマイヤー、シュタインメッツ:内乱終結後

※4:門閥貴族利権時代の人事
 軍主要部に口出しさせない為に門閥貴族の利権として要塞司令官の席を与え、実務は要塞事務監に行わせていた。
 内乱終結後も要塞司令官という席は扱いに困る高級将官を置く"名誉職"として利用する事にしている。

※5:内乱末期の戦い
 No.40参照
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