偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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No.61 造り主による攻城戦というもの

 

 帝国艦隊は新たな行動を起こした。二個艦隊のうち、規模の大きい艦隊が一部を残し後退し感知範囲外へと消えていく。要塞の側面や後方には監視の目なりを入れているが向こうで距離を置かれると監視が薄くなってしまい捉える事が出来ない。

 

「第四艦隊はあと数日と言った所か……間に合うか?」

 

 その状況を眺めつつウランフが考える。第四艦隊が駐留している後方基地は距離にして一〇日程度の位置に存在する。元々回廊出口付近の旧交戦圏へ迎撃に向かう同盟艦隊が最後の補給・休憩、そして戦後の応急処置を行う為に用意された施設の流用なのである程度の距離にはなってしまっている。それでもバーラト星域からに比べたら半分以下の日数で到着するのだから随分マシである。

 

「……ま、そう動くだろうな」

 

 数的には"やや優位"程度になった帝国艦隊は位置取り合戦をしつつ次第にスライドしていく。要塞正面に対峙していた艦隊が左側の"壁沿い"に移動していく。部隊を分けるのであれば複数の攻点を作りたいのは当然の事。消えた相手がいるとはいえ今目の前に見える艦隊には対応する必要があるのでこちらもスライドをする事で反対側のスペースが相対的に空いてくる。消えた敵艦隊はそちらから何かしてきますよ、という事だ。

 

(何かすると言っても推定一〇〇〇〇隻、予備が三〇〇〇程度あるから砲台の支援があれば捌ける)

 

 考えられるとすれば首飾りを壊したあれなのだがその後の徹底した調査で回廊内で使えそうな直線ルートは押さえているし敵が回廊に進入してきた際にその手の"デカブツ"は感知していない。無い、と考えていいだろう。その後に持ち込んでいる可能性があるがその場合はわざわざ部隊を分けて後退する必要もなく、ルートを空けて突っ込ませればいいだけだからだ。それでも来る可能性は0ではないが万が一が発生した時は、それはもう政治の領分だ(※1)。

 

(特別な事象が発生しない限り、第四艦隊が到着したら詰みである事は相手も判っているはず…………長くてあと数日の辛抱だ)

 

 

「ロストしていた敵艦隊を感知」

 

「艦艇以外と思われる反応はあるか? 艦艇を上回る大きさで反応があれば何でもいい、報告せよ」

 

「特に反応はありません」

 

 スクリーンにそれが映し出される。直上視点で言えば要塞を中心として一〇時方面に元々残っていた敵艦隊とイゼルローン艦隊、そして新手は二時方面。ほぼ想定通りの位置である。予備部隊は裏(四時方面)においておいたからそっちからは見えるだろう。だが問題としては……

 

「特に何か準備した形跡も無し、と……なら二日も何してたんだ?」

 

 指示を出してからウランフが首をかしげるが判らないものは判らない。こちらとしては時間が経過する事で損をする事はないので今からどうするかを着目していればいいだろう。そう考えていたのだが……

 

「敵艦隊、D線上に到達。……そのまま進入してきます!!」

 

「要塞司令部に通達! 砲台に迎撃出させろ!!」

 

 着目どころか即断の状況となる。咄嗟の判断、指示であったが「後からしてみれば失敗だったのかもしれん」とウランフは判断し、報告書にしたためる事になる。浮遊砲台に迎撃させる。それは言い換えるのであれば要塞主砲で迎撃できない(※2)という事だからである。

 

 

「突入部隊、境界線を越えました」

 

 メルカッツが軽く頷き、その部隊を見つめる。しばらくして、

 

「浮遊砲台の浮上を感知」

 

「予定に変更なし、既定通りの行動を行うように"伝えよ"」

 

「了解」

 

 突入部隊の有人艦に通知が行われる。

 

「あとはどれだけの成果が出るか……だ」

 

 ガイエスブルク要塞で試用された無人艦部隊によるヒット&アウェイ、その改良版といえるのが今回用意してきた"ネタ"である。一回こっきりの詭計と違い、(詭計が通用しないのであれば)これから何度も行われるであろう対要塞正攻法に該当するので一度見せても直ちに影響はない。むしろ本気でやらねばならなくなった時に備え、今回のような威力偵察時に現場にて現状運用における問題点の洗い出しを行っておく事は極めて重要であると考えている。用意したのは二〇〇~三〇〇の小部隊が数十で合計約六〇〇〇隻。後方(ビッテンフェルト部隊)に事前準備してもらっていた兵員輸送艦を呼び寄せ、無人化する艦の将兵を移動させ、無人制御を稼働させ編成して、で二日の日数を必要としてしまった。

 

 そもそもだが"艦隊規模で自動操作にした場合、戦闘はどこまでできるのか? "という課題に対して帝国・同盟共に何度かは真剣に検討された事がある。もしそれがある程度有人艦隊と殴り合えるとすれば、少なくとも2対3乃至1対2程度の不利で済む損害比率で行えるのであれば状況次第では部隊を編成する意味も出てくるし国力(=資源)に優る帝国ならばそれでゴリ押す事も不可能ではない。しかし、結果として両勢力ともそれを大規模に採用する事は無かった。同盟からしてみれば人的資源は節約できても資金と資源が損害に追いつかない。帝国からしてみれば人を使った方が安い。なによりもそれを大々的に使っていると判明した場合、今まで以上の通信妨害を仕掛ける事により有人艦部隊と無人艦部隊の戦力比は著しくものとなる。通常の戦闘でさえ、複数の艦隊同士が入り乱れると付近の艦隊への伝達すら連絡艇を必要としてしまうがそれ以上の"濃度"となってしまうと艦隊内の連携すら難しくなるだろう。普段そこまでやらないのは勝ち負けのないただの泥沼になる事が判りきっているからなのだが片方が有人、もう片方が無人となると考え方は変わる。たとえ通信状況が最悪となっても周囲の状況を目視で確認してアドリブ連携を効かせる事の出来る艦長なり部隊司令官という有機コンピュータを備えた部隊は通信が行えないと連携できない無人AI部隊より遥かに効率よく動く事が出来る。結局どれだけ科学が進んでも人間の脳に勝てない分野は山ほどあるのである。

 しかしながら状況などを限定すれば無人艦でもそれなりに有効に活用することは可能である。その一つが今、要塞側が行っている浮遊砲台による迎撃行動であり、それを(プログラムルーチンレベルで)理解しているからこそそれに合わせた行動ロジックを事前調整した無人艦部隊による戦闘も可能となる。汎用的ではない、完全に対イゼルローン要塞浮遊砲台陣に特化したといっていい無人部隊である。イゼルローン要塞という巨大すぎるが故に制御の多くを自動化する必要があり、その制御の為のリソース(ハードウェア・ソフトウェア等々)を全て理解しているからできる対応と言えるだろう。

 

 

「AとDの攻点を修正、Eは……そのままで全滅しても構わん、一基でも多くの砲台を引き付けろ」

 

 小部隊の一つを率いる指揮官が無人部隊に細かい修正を命じる。今回の無人艦部隊の編成における最大の変更点、これがこの無人艦部隊の制御の為に追加された"有人艦"の存在である。突入部隊全体で一割弱含める事にしたこの有人部隊は無人艦戦闘が効率よく行えるように調整を行うと共に直接戦闘に介入して良い方向に状況を捻じ曲げる事を任務としている。どれだけ事前調整して判断できるようにしても現場の状況次第で"それでもこうした方がいい"となったり"AIがNOとした行動をやらせた方がいい"となる形はいくつでも生まれてくる。その制御役である。合計で約八〇〇隻の有人艦がこの突入に参加しているがこれらは全てメルカッツの直属部隊又は、艦隊内でも配属期間が長い者達から選抜されている。選ばれた側からしてみれば非常に危険な貧乏くじであるが当人達は受け入れた。誰かがやらねばならない事だとは理解できるしそうであるなら部外者に割当てる事など出来ない司令官である事を皆が知っているからである。

 

「目標距離まであと三〇秒」

 

「よし、"あれ"の位置最終調整、加速開始」

 

 その妙な命令が発せられると同時に無人艦部隊の制御をしていた有人艦部隊のそのまた真ん中に位置していた一隻の無人艦が加速を開始する。その大型の艦艇はいわゆる"標準型艦隊旗艦級戦艦"である。その一隻が前進すると一部の無人艦部隊が護衛の如く周囲を取り囲む。

 

「もったいない使い方だが……まぁあの見てくれではなぁ」

 

 見送られるその戦艦は確かに"見てくれ"が違っていた。形そのものは標準型艦隊旗艦級戦艦のはずだが装飾がかなり拵えられており素直に言うならばケバケバしい見てくれとなっている。いわゆるところの"門閥貴族私兵艦隊旗艦"そのものである。

 

 あの内乱の終結後、盟約に従っていた私兵艦隊残余艦艇などは基本正規軍に預かりとなった。その後、それらは各地の警備隊用として再利用されていくのだが門閥貴族私兵艦隊艦艇はその見栄の為に独自の装飾を施しているものが少なからずあり、それらは転用すらできず扱いに困る事になった。軽艦艇類はいくらでも造れるので破棄してしまってもいいが戦艦クラスとなると勿体ない、といっても元の状態に戻すのもコストがかかるし馬鹿馬鹿しい。という事でとりあえず放置されていたそれを今回の試験運用の"砲弾"として使ってみようという事になった。実験データを得るために艦種は固定せず複数用意し、その効果を確認する。その中で最大級の"砲弾"として選ばれたのがこの"標準型艦隊旗艦級戦艦"である。

 門閥貴族私兵艦隊旗艦に共通するカスタマイズとしては元の状態よりも"生存性"を高めている事である。対ビーム障壁の出力なり、純粋な装甲厚といい防御力が高く、それを可能にするために機関出力も高くなっている。それを突入終了まで持てばいいという限界出力で稼働させ止まる必要のない加速を与え、文字通り弾丸として放出される。浮遊砲台の制御システムではこういう突拍子もない艦への対応集中が遅れてしまう、危険度判定の結果が出れば多めの火砲が集中される事にはなるがそのような動きを開始した砲台は無人艦部隊に優先的に排除させる。その砲弾に同行していた護衛の無人艦が自己防衛を無視した全力攻撃で突入先の流体金属を少しでも凹ませていき一部の艦はそのまま突入自爆し進行路を作る。そして本命の砲弾が突入する。

 

「突入!!」

 

 オペレーターの報告を聞き、スクリーンに映し出される最大望遠のそれが要塞に小さく開いた穴を映し出している。要塞の直径からしてみれば一%に満たない穴だが確かに開いている。現地へは情報収集用の無人機を飛ばしているが映像などはまだ到着しない。しかしこの部隊としての任務は達成済みである。

 

「よし、逃げるぞ! 任務達成だ」

 

 ほぼほぼ一直線に突入して弾丸を一発ぶち込んでUターンで逃亡。時間にしたら非常に短いが精神的寿命は長く消費したといえるこの突入で部隊艦艇を約三割、八三隻を損失。有人艦はその内の七隻であり、八三二名の命が失われた。戦果は浮遊砲台九基、そして穴一つ。

 

 

「二箇所目からの情報……来ました! コード判明、反映させます」

 

 3Dホログラムに映し出されたイゼルローン要塞に二つ目の光点が灯ると同時にその表面に幾何学的模様が浮かび上がり、それを確認した幕僚達が喜びの声を上げる。ある意味、今回の試験運用で得たかった情報が今、映し出されている。

 

「これは、使えるな。良い土産になる」

 

 それを見つめるメルカッツがこの作戦中に始めての笑みを浮かべる。

 

「たった二つの情報でここまでわかるものなのですね」

 

 傍らに控えていたシュナイダー中佐が理解はしていたはずだが驚きを隠せない仕草を見せる。

 

「私もだ。話を聞いた際には確かに理論的にはその通りだが……という気持ちだったのだがな」

 

 メルカッツの声にもあまり聞く事のない高ぶりを感じさせる。それもそのはずでこの二箇所の情報、無人艦と言う"砲弾"で開けた穴の先を流体金属が埋めてしまうよりも先に飛び込んだ無人機が転送してきた情報、イゼルローン要塞があまりにも大きいが為に判りやすく設定している"フロアブロック番号"、この番号により二箇所のフロアの"場所"が判明した瞬間、流体金属の中、イゼルローン要塞の構造、向き、全てが判明するのである。それは結果として艦艇の出入り口、浮遊砲台の格納庫、要塞主砲ユニットに格納庫と"その展開可能位置"、それによる砲撃可能範囲など全てを把握できるという事である。流石の同盟軍といえど全てのフロアブロック番号を変更したり、砲台や主砲の格納庫の場所を変更する事は出来ない。流体金属にはその直接防御能力と共にこの内側が見えない(わからない)という効果が攻め手としての同盟軍を悩ませていたが内部構造をそれこそ部屋の一つ一つの番号まで設計図として保持している帝国は最低限の情報で要塞を丸裸にする事が出来る。

 

「破孔地点、流体金属によって埋まりました。以後、交戦中の浮遊砲台位置を元にした推測となります」

 

 しかし長持ちはしない。こうなってしまったら場所の特定は再び不可能となる。しかしこれへの対策は現在、司令部の方で検討中らしい。今はとりあえず"情報が入れば特定する事は出来る"という事が判れば結構である。

 

「情報は十分に頂いた。後退の準備を始めるとしよう。まずはあの部隊を引かせなければな」

 

 そう語るメルカッツの視線の先に突入部隊を側面から攻撃する同盟軍待機部隊の姿が映っていた。

 

 

「演習では十分にやってるんだが本番となると怖ぇもんだな。間違えてこっち撃ってくることはねぇよな? 一発だけなら誤射かもしれないなんて言われたらたまったもんじゃねぇぞ」

 

 要塞の裏側に潜んでた駐留艦隊別動隊(三〇〇〇隻)を率いて帝国軍突入部隊相手に浮遊砲台との十字砲火を開始した分艦隊司令官オークリー・バントー少将がおっかない事を言いながらもてきぱきと指示を出す。元々守備の名手として何かあった時の守備固めを期待されていたのだがどうやら攻めを行わないといけないらしい。

 

「小部隊が広くブンブン飛び回ってやがる分、狙いにくいな。…………それにしても動きが単調っていうか機械的というか??」

 

 的を探す為に拡大映像でその小部隊を次から次へと見ていくうちに妙な違和感を覚える。どうも画一的というかそいう言う動きを全ての小部隊が行っているように見える。これだけ踏み込むのだからそれなりに事前訓練をしてきたのだろうがそれにしても魂が入っていないというかなんとうか……と考えているうちに要塞表面に大きな反応が発生する。"砲弾"の突入である。

 

「こっちがやった時はあれだけ苦労した穴あけをこうもあっさりと。流石は元持ち主とでもいうべきか? ま、そんなことはどうでもいい。来たからには潰れてもらわんと困る」

 

 色々な事を一旦棚に上げ、手ごろな一部隊を標的に集中攻撃を開始する。側面から一〇倍の数で襲い掛かられたその部隊はあっという間に半数近くが撃ち落される。が、そこでやはり違和感が発生する。

 

「ん?」

 

 半数近くを撃破されたその部隊は作戦を中断したのかUターンして離脱を開始する。のだがそれを行うのは一部だけで残りは突入を続行している。部隊としてあまりにもちぐはぐである。きっちり訓練してきたのなら進むも引くも統一されるべきなのだが? 

 

「まぁいい、次」

 

 応戦してこない事をいいことに距離を詰めつつ攻撃を続行するがこちらの行動を感知したのか突入部隊は向かって奥側にスライドしながら要塞への攻撃を継続している。踏み込み過ぎると砲台に巻き込まれかねないので砲台群そのもののスライドを要塞司令部に要請しその手前で速度を落とし始めるのだが……

 

「右側面やや後方、敵部隊急接近。ほぼ同数!!」

 

「踏み込んできやがったか!!」

 

 この戦いで初めて、分艦隊以上の塊が危険域に突入してくる。

 

「右旋回しつつ一旦後退、出来る限り壁際まで下がれ。平行攻撃をさせるな!!」

 

 

「良い動きをする。だからこそこちらも動きやすい」

 

 その部隊を率いているメルカッツがいつも通りの表情で敵の動きを見つめる。平行戦を狙うかのようなルートで突入しつつ読み通りの動きをする敵に先読みで火力を置いていき後退し始めた相手が勝手にその火線に吸い込まれていく。

 

「この数で平行戦は出来るのですか?」

 

「出来んよ。乱戦に出来る程の数ではない」

 

 幕僚の言葉にメルカッツがあっけらかんと応え、何人かがぎょっとした顔になる。

 

「主砲を撃たれない所で戦えば良いだけだ。砲台にしても射程と機動力に限界はある」

 

 横目でホログラムの要塞を眺める。穴が塞がって確定情報ではなくなっているが主砲危険域などの情報は全て頭に入っている。あとは現状の砲台や敵艦隊の配置を元に臨機応変に立ち回ればいいだけである。最終的にこのような戦い方で"砲弾"による破孔や砲台の配置を入り乱れさせ、要塞主砲の展開不可能エリアを確保して揚陸部隊をねじ込む。これが正攻法による攻略の一つの形であるが問題はその危険域で戦う司令官クラスの質である。動きやすさを考えて分艦隊単位になるだろうがそれが出来る人材を集めるなり育てる必要がある。今回はメルカッツ本人がデータ取りを兼ねて突入しているがこれは"一回は高級将官が踏み込まないと今回の戦いとしての示しがつかない"と考えたが故の予定にないアドリブであるが本人が大丈夫だろうと思っていても周囲はそうでなく、後々色々な所から小言をもらう事になる。

 そしてメルカッツ部隊は後退に苦しむバントー部隊を一通り叩いた後、平行戦をするかと見せかけて急速旋回。部隊をいくつかに分けて砲台vs突入部隊の交戦域に乱入。壁際まで一気に後退してしまった為に距離が開きすぎてしまったバントー部隊を尻目に後退を開始していた突入部隊を支援する殿を務め悠々とエリア外までの撤収を完了させた。帝国軍は約二〇〇〇隻、同盟軍は約一一〇〇隻の艦艇を損失したが帝国軍のそれは九割が無人艦であった。

 

 

「な、ん、で、貴方が突入しているのですか?」

 

 その日の戦闘を打ち切り、お互いに軽く後退した戦場で指揮権をもらっているとはいえ中将が本気で上級大将を問い詰めている。

 

「いや、その、多少はやらねばならぬ事であるし、試験運用とはいえ少なからずの将兵に危険な任務を課す以上、全てをやらせて己は安全な所でなどとは言えぬだろう」

 

「そうなると思ったから説明を聞いた際に"貴方は突入しない事"と言っておいたはずです。私が要塞司令官なら、あの部隊の指揮官がウィリバルト・ヨアヒム・フォン・メルカッツであると判っているのなら、躊躇いなく防衛部隊ごと主砲で消し飛ばしますよ。味方も数十万人死にますがその後の事を考えたらそれでもお釣りがくる。貴方の首一つにはそれだけの価値があるのです。もう少し自身の価値を自覚して頂きたい。この事は戦報に纏め、然るべき立場の方々にしっかりと報告させて頂きます」

 

「う、うむ。流石にもう行わない」

 

 手短に答える。百戦錬磨の名将が理を整えて話してもこなったら火に油を注ぐだけである。流石にこれ以上は口答えできない。

 

「起きてしまった事はしかたないとします。……この損害を見る限り、明日の実行は行えないとみて宜しいですか?」

 

 突入部隊の三分の一にあたる二〇〇〇隻を損失。砲台とやり合いながら無理矢理叩き込むには少なくとも戦艦以上の強度を持つ"砲弾"が必要。それも無人艦の事前自爆突入などで流体金属層に一時的な凹みを加えないと外壁に穴を空けれる速度で着弾させる事は不可能。etcetc

 

「情報収集は行えた。次回やるとすれば敵増援が来るまでの時間でどれだけの事を出来るように事前準備を行えるか、だろう」

 

「では」

 

「うむ」

 

「予定通り、後方(回廊帝国側出口)の掃除が一区切りするまでだらだらと時間を稼いだら撤収とします」

 

 

 翌日より、同盟軍から見る限り"お前らやる気ないだろう"と思われる遠距離からの牽制をするだけになった帝国艦隊に対し、第四艦隊が到着し数においても同等となった同盟艦隊は少し押し出そうと試みるものの帝国艦隊は躊躇いなく後退する。要塞影響外での潰し合いなら大歓迎と言った所なのだろう(実際には対要塞戦の調整しかしていない無人艦残余約三五〇〇隻に人を再び乗せる暇がなく、本気で殴りかかられたら非常に危険だからである)。

 

「あの攻撃が威力偵察のクライマックスと言った所か……」

 

 動く気のない帝国軍を眺めつつウランフが呟く。油断はしていないが"もう終わった"という空気は感じている。

 

「無人艦じゃないですかね? あれ」

 

 あの戦闘映像はこちらにも転送されており、過去に大規模な無人艦攻撃を提案した事のあるアッテンボローがそう評し、後で正式に分析をする必要はあるもののウランフも同意している。そして、

 

「帝国艦隊、後退していきます」

 

「追跡の哨戒隊を出せ。(帝国側)出口までの安全が出来たら終了だ」

 

 二月一五日、帝国軍は回廊からの撤収を開始。同盟軍は深追いせず哨戒部隊を編成して追尾、回廊出口までの安全を確認した後に出口付近に取り残されていた哨戒部隊の(ビッテンフェルト部隊の掃除を免れた)残余を回収し要塞へ帰還した。

 二月二六日、イゼルローン要塞に帰還したウランフより状況終了の報が入り、同盟政府は第八次イゼルローン要塞攻防戦の終結を確認。

 

 この戦いで同盟軍は約二三〇〇隻、帝国軍は約二七〇〇隻の艦艇を損失したがこれは艦隊による衝突の発生しなかった第七次を除き、イゼルローン要塞攻防戦としては最も少ない損失数であった。




※1:政治の領分
 以前、アイランズ国防委員長より話を受けて考え出されたプラン。
 万が一、大質量攻撃でイゼルローン要塞を破壊された場合。と言う問題に関しては本気でやろうとしたらそれはもう防ぎきれないものであるものとし、その非人道的行為を大々的に批難し、報復措置として回廊同盟側出口付近の比較的狭いポイントを目標地点としていつでも打ち込める状態を維持する(=敵艦隊が来たら打ち込んで粉砕する)としている。
 これは本当に万が一が発生してしまった際に用意する非現実的プランであり積極的に事前準備するものではない。事が起きてしまってから混乱しないように一応定めておく、くらいのものである。

※2:要塞主砲と浮遊砲台
 要塞主砲も浮遊砲台も通常時は要塞内部に格納されており、必要に応じて流体金属層から露出(出撃)させて迎撃シーケンスに移行する。当然ながら主砲を展開させたい領域に砲台がいると邪魔である。というか砲口エリアは当然ながらその外でも至近距離にいられると発射の衝撃で壊れる。ただ壊れるだけならマシであるが至近距離で誘爆でもされてしまったら主砲ユニットが損傷する可能性すらある。浮遊砲台と違い、リバースエンジニアリング出来る代物(サイズ)ではない主砲構成ユニットの損傷は同盟軍からしてみれば悪夢以外のなにものでもないものである。
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