偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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おっさんの執筆力の限界!!


No.6 空母ハーミーズの戦い

 

 

「だ~~~~めだな、こりゃ」

 

 第四艦隊所属、空母ハーミーズ艦長アームストロング・ホイットワース大佐はディスプレイを埋め尽くしつつある光源を見て呟く。数が違う、そもそも予定と違う。ここに今やってくるという事は他が来る前に俺たちを潰そうって事だ。手抜きなんてするはずがない全力で数の暴力でぶん殴ってくる。ちくしょう、なにが勝てる戦だ。湧き出る感情を抑え、彼は艦長としてやるべき事を開始する。

 

「艦長より全乗組員へ、全力戦闘準備。準備しながら聞け、今回の戦いは今までの中で最低最悪の部類に入るクソ戦闘になるだろう。艦とてめーの命を守る為の戦に徹せよ。以上だ」

 

 なんともまぁ口の悪い訓示であるが内容そのものはその通りだな、とラインハルトは思った。

 

「確か、艦では初陣だったはずだよな? 見ての通り最低の戦場スタートだ。将軍様でもない限り一人一人がやれる事はたかが知れてる。しかしやらねーよりかはやった方が遥かにマシだ。使いっ走りばっかになるだろうがやるべき事をやって生き延びろ。いいな」

 

 艦長に愚痴られているか激励されているかわからない。空母ハーミーズ艦長付士官ラインハルト・フォン・ミューゼル中尉。これが艦隊勤務の初陣である。

 そのラインハルトが緊張しつつディスプレイを見つめているとホイットワースが何かに苛立つようにガン!ガン!と艦長席で靴底を叩きつける。

 

「くそっ! 遅ぇよ!! 射程入るぞ! 命令はどうした!!」

 

 限界に近い最大戦速で突っ込んでくる敵艦隊は第四艦隊の最大射程をあっというまに乗り越えて更に突き進む。

 

「全艦総力戦準備! 準備出来次第各自戦闘を開始せよ!!!」

 

 第四艦隊司令官パストーレ中将の指示なのか叫びなのかわからない音声通信が艦内に響き渡るとそれを合図にするかのように敵先頭集団の攻撃が開始された。

 

 

 濁流というべき帝国艦隊先頭集団の猛攻は文字通り第四艦隊先頭集団を粉砕し、めり込むように突き進む。

 

「おいおい、それは駄目だそれは駄目だ」

 

 ホイットワースが青ざめた顔で(もはやディスプレイを見る必要のない)左前面に迫る戦闘光を見つめる。空母ハーミーズの位置は右翼集団の中衛、その左側だ。中央が粉砕され敵艦隊の濁流が流れ込んできたらその濁流はハーミーズのすぐ横、いや、現在位置そのものを削っていく。その濁流が尽きるまで流れ続けるのだ。

 

「覚悟きめるしかねぇなぁ。艦載機を出すぞぉ!!」

 

 その命令が呼び水になったかのようにハーミーズに濁流が向かってきた。

 

 

 艦隊の戦闘開始から二時間、ハーミーズが戦闘を開始して一時間程度。

 

 

 ホイットワースの指揮は名人、いや達人級と言っても過分ではなかった。

 空母とは直接の戦闘能力を持たない。かといって頑丈というわけでもない。そんな空母は比較的後方で身を潜め、必要になりそうになったらそそくさと前に出て頑丈な艦の陰に隠れる。そして唯一の剣にして盾となる艦載機を繰り出し敵を攻撃する。その、(前に)出る、(艦載機を)出す、(後ろに)引く、のダンスをホイットワースは完璧にこなし続ける。後ろで全部やろうとすると前線との距離が問題になる。前で陣取りすぎると後ろの艦の邪魔になる。この前後移動を間違えると最前列以外の戦闘艦の効率が落ち状況次第では一方的に殴られる事になる(※1) 前方で踏ん張るいくつかの戦艦をそうやって守り続ける。この壁が無くなると壁前提で戦う後陣はいとも簡単に崩れてしまうのだ。

 

 そのような状況下でのラインハルトの仕事は、艦長の宣言通りの"使いっ走り"だった。艦長の元には色々な情報が集まる。しかしそれは各部にある担当士官からの端的な報告やシステムから来る機械的なものになる。担当士官は詳細に報告をしたくとも時間の関係(他にだって報告したい人はいるのだ)でできない。そういう時に文字通り"走る"のがラインハルトの役目であり艦長が"聞いてもよくわからん、けど悪い予感がする"場所に走らせる。どういう状態かを実際に見て・感じて・考えて・捨て置いていいのか対処が必要なのか、必要ならばどれだけなのか? それを判断して艦長に連絡を取るのが"使いっ走り"なのだ。艦の内部然り、艦隊の指揮然り。通信・情報の集約機能は確かに便利だが実際に見て感じる事に勝る情報源は無い。危険を承知で指揮官が前面に出て自分で直接見て指揮する理由がそこにある。

 

 

「ご苦労、次は今の所無い。待機だ」

 

「はい」

 

 何度目かの"使いっ走り"を終えたラインハルトが艦橋の隅で待機し、息を整える。今さっき走ったのは艦左舷後部にある物資倉庫。担当の物資輸送班がよくわからない言い方で「オーバーワークになってるから輸送ペースを落としてくれ」と言ってきたので現地に走って状況を確認してきたのである。空母は多数の艦載機を使用する都合上、消耗品や補修部品の消費が激しい、人も沢山いるのであれが足りないこれが足りないと要求も激しい。物資はその効率上、使う所に全部用意しておく事は出来ず輸送班はその不足を発生させないように各部からの要求を集約し、物資を滞りなく倉庫から送り届ける事を任務としている。これが滞ると艦全体の効率が落ちる。かといって本当にオーバーワークだったらいつかは止まる。止まると困る。仕方ないのでラインハルトを走らせて状況を確認したのだ。そういう"使いっ走り"を何度もこなす。戦闘は秒を争うもの。艦のどこでも全力疾走。若手がやらされる訳だ、体力がないとやっていられない。

 

 息を整えたラインハルトがディスプレイの戦闘状況を確認し、眉を顰める。ハーミーズのいる領域をかすめるように突き進む濁流はまだ半分にも達していない。濁流は両翼正面も侵食しつつありこの領域は中央からの流れ物のみならず正面からの濁流にも飲み込まれるだろう。それまでに外側に逃れればなんとかなりそうだが混乱する味方はやみくもに濁流にあらがうのみで効率良く逃げようとはしない。統率すべき旗艦の反応は既に失われている。

 

 "スドン" "ズドン"と軽い騒音と振動が途切れる事なく続く。周囲で何かが爆発しているのか小さくこの艦が被弾しているのか。色々なアラームは鳴り続け、状況がはっきりとしない。 ホイットワースが手元のディスプレイを見て舌打ちを打つ。

 

「ミューゼル中尉!!」

 

「はっ!」

 

 次の"使いっ走り"か? 

 

「右舷後部第二大倉庫、輸送班長戦死!! 現地に赴き、指揮を取れ!! 復唱不要!! 行け!!!!」

 

「行きます!」

 

 倉庫で指揮する班長が何で戦死? と思うが考える暇も意味もない。行けと言われたから行く、やるべき事をやる。

 

「艦長付士官、ミューゼル中尉だ! 第二大倉庫輸送班長としてこれより指揮を執る! 最先任は誰だ!!」

 

 倉庫までの全力ダッシュをこなし、たどり着くや否やとりあえず叫ぶ。現状が判らないとどうにもならない。

 

「はいっ!」

 

 入口付近の端末に張り付く下士官が片手でディスプレイをつつき、もう片方の手を上げつつ答える。その下士官がさらに横にいる兵をバンバンと叩くと説明しろ! という感じにこちらを指さす。その兵がこちらに駆け寄り、状況を語る。

 班長は本来、(下士官がつついている)端末で各所からの物資要請を確認し、重要度を判断し兵たちに輸送を指示する。しかし、とある要求元の内容があまりにも多く異常な為、下士官に端末処理を一時的に預け現地まで突っ走ったらしい。そして通路をダッシュ中に流れてきたミサイルがドン! 最小単位の1ブロックのみを器用にぶち壊したそのミサイルは丁度そこを走っていた班長を跡形もなく消し飛ばした。説明している兵が輸送から戻る時に丁度手前ですれ違った班長を見ていたらしい。

 事情を理解し、下士官を見ると端末との格闘を続けている。

 

「あの人、端末操作苦手なんです。かといってそれ以上にこなせるのは戦死した班長しかいなくて……」

 

 先ほどの兵が呟く。なんてこった、この手の職人技術は寧ろ熟練のベテラン下士官を置いて士官班長を鍛えるものだろう? 

 覚悟を決めるとラインハルトは端末に近づく

 

「どけ! 私が変わる!!」

 

 少尉の時の勉強でそれがどういうものであるかは触っている。しかし実戦は当然ながら初めてだ。軽く深呼吸をするとラインハルトは猛然と端末をつつき始めた。

 

 

 端末との格闘を開始して1時間程度だろうか、最後に見た艦橋ディスプレイの情報のままなら濁流はあと1時間程度。これを凌げは生き残れる可能性もあるが恐らく正面からの濁流も浴びているはずだ。戦場全体は判らないがこのハーミーズも濁流に削られている事は十分に判る。ディスプレイに表示される輸送先一覧に機能停止のマークが目立ち始める。被弾などによって物理的にその輸送先が潰れているのだ。艦載機格納エリアに至っては嫌な被弾をしたのか、既に四割近くにマークが付いている。その分増えるのは応急班からの資材追加要請。そして遺体袋などの人の処理道具だ。しかし、要求ペースそのものは減少し。ラインハルトの規格外能力もあって下士官が溜めこんだストックもほぼ消えてきた。目の前の仕事が落ち着いた事に安堵し、用意されたドリンクを飲み干す。この量なら大丈夫だろうと下士官に操作を委ねようとした時、今までで一番の衝撃がハーミーズを襲った。

 

 

(これは駄目かもしれないな)

 

 艦の前方か中央か、明らかに聞きたくもない"被弾"の衝撃が襲うと同時に艦の前方に繋がる扉と言う扉が強制閉鎖され、照明は非常用ランプに切り替わる。扉の制御ランプは"赤"の点滅、それは(生命の危険があるので)解放禁止のマーク。

 

 ラインハルトはそのランプを呆然と見つめる。頭の中がスーっと静かになる。大きな衝撃。前方との遮断。その意味をゆっくりと噛み締める。端末のディスプレイに映る一覧には全て機能停止のマークが並ぶ。それはそうだ。恐らく、いや、確実にあの閉じられた扉の先には もはや何も存在しない。

 

 後ろを振り向くと輸送班兵員が呆然と立ちすくんでいる。気持ちは同じなのだろう。そしてその視線がゆっくりと自分に集まる。その意味を理解する。今、ここで、私が最上位なのだ。まだ死んではいない。ならばまだやることはある。ラインハルトは意を決すると静かに、そして力強く命じる、

 

「総員集まれ!」

 

 

 集まった人数は36名、自分を含めて37名。これが今の"運命共同体"だ。幸いにも大倉庫はその性質上、設備は充実しており非常用発電機・空調施設(酸素供給装置付き)などが内蔵されている。穴さえ開かなければしばらくは生命維持が可能だ。外は戦闘継続中であり流れ弾などで穴が開く可能性はあるがこれは運に任せるしかないし次に当たったら死ぬ。食料等に関してはここは倉庫なのだから簡単に見つかるだろう。そもそも数日経過しても救いが来なければ自軍は撤収している。宇宙に漂う艦の残骸1つ、二度と何かに遭遇することは無い。一刻も早く外部との連絡手段を確立しなくてはいけない。

 総員を集め、推測される状況を説明し、まずは倉庫内を再巡回。何か役に立ちそうなものを探し始めるが巡回を開始し始めるとすぐに後部搬入扉の存在を思い出す。人の出入り用の小さな扉とほぼ大量搬入用シャッターのセットの代物だ。確認をすると制御ランプは"緑"、使用可能である。ラインハルトは目まぐるしく脳をフル回転させ以後のビジョンを構成する。

 

 

「ここからはスピード勝負だ。まずは別動班を作る。任務は倉庫より必要物資の備蓄を確認する事。求めるのは1・生命維持(電気・酸素・飲食物) 2・宙外作業用具(宇宙服など) 3・連絡手段関係(通信機器・光学システムなど) 但し、外宙作業の実務経験者と非常用発電機&空調施設を扱えるものは何人かずつ除いてくれ。編成は、頼めるか?」

 

 端末をつついていた例の下士官に視線を向ける。疑問符を付けた語りかけだが実質的な命令だ。その下士官は当然のように頷く。思った以上に自信のある顔だ。端末弄りが苦手なだけで他は大丈夫らしい。「よし!」の一言かけると下士官は班員たちに振り向き編成を開始する。(次は……)と考えるラインハルトに何人かの兵員が近づく、

 

「外宙からの物品搬入時は大抵自分達がやってます…………」

 

 ぼそぼそと報告する。あまり顔色はいいといえない。しかし、確かにそういう要員は存在して然りだ。

 

「作業に使う専用の宇宙服や用具はあるか?」

 

「後部搬入扉の近くに」

 

「状態を確認していつでも使えるようにしておけ。お前たちの分とプラス1、私の分だ」

 

 "了解です"と彼らは少し元気になったような声で答えるときびきびと移動し始める。こういう状況下である、何かやる事を持った方が精神が落ち着く、いや現実逃避できるのだろう。指示を出し再び一人になると次の人員が近づいてくる、あれの次となると……

 

「専門は一人もいませんがそういう趣味を持っていたりする者を上から四人、という形で選ばれました」

 

 こっちは流石に当たりではない。が、贅沢をいってもいられない。

 

「二人づつ非常用発電機と空調施設へ、あの手のものには定期確認用の表示パネルがあるだろうし簡易マニュアルもどっかにくっついているはずだ。探して状況を確認せよ…………間違っても止めるなよ」

 

 選ばれた兵たちは"止めるなよ"の言葉に怯えを見せたがなんとかかんとかおずおずと作業に向かう。こっちは後ですぐ、様子を確認しよう。

 

「さて……」

 

 一人になって考える、

 

 1・外部を確認できるルートを確保する

 2・外部に己の存在を発信する手段を手に入れる

 3・それが継続可能な時間を確保する

 4・但しそれは基本的な戦闘終了後の周囲探索時間内に実施・完結しなくてはいけない

 

 戦闘後の探索は無限に行われるものではない。戦場の範囲・規模にもよるし生存率などの過去データもある。これらを元に"最低これくらい"という時間が作られておりこれらの時間は敵の襲来などがないかぎり行わなくてはいけないと定められている。士官学校(ラインハルトの場合、幹部候補生育成所)で習う内容だ。しかし、ここには自分しか士官がいない。という事はここにいる皆は「どれくらいで見捨てられるのか」が判っていない。話すと士気に関わる、この手の事はなるべく急いでやった方がいい、という事にしておくしかないだろう。

 

 そうしているうちに作業報告が次々と集まってくる、

 

 宙外作業チーム:用具確認等作業員3名+1名分、確認完了。指示有り次第、宙外作業可能

 機器確認チーム:予備電源・約24時間分、酸素・約72時間分が規定として用意されているはず

 物資確認チーム:飲食物・問題なし、宇宙服・汎用作業服と艦載機パイロットスーツが人数分以上

 

「恐らく切り札の1つがこれになると思います」

 

 そういって運び込まれたのは艦載機パイロット用の救命信号弾とその発射銃。弾は百発入りケース2つ、銃は5丁。

 

「よく見つけた。有効距離内ならこれで見逃される事は無い」

 

 救命信号弾は強力な照明弾であると共に発光時に短時間であるが強力な専用電波を発信する機能も有している。短時間なのは小型の弾内の機器で強力な電波を発信させる為にほとんど暴走に近い出力で行うからである(=短時間で壊れる)

 

「で、その言い様だとまだ切り札がありそうだが?」

 

 期待を込めてラインハルトが尋ねる。言われた兵はにやりと口を歪ませると倉庫の奥を見つめる

 

「その切り札、になるかもしれないものが来ました」

 

 何か大きな物を二人の兵が左右から支えて持ってくる。無重力だから出来る芸当である(皆は靴底の低磁気吸引システムで床に立っている)

 

「照明、なのか?」

 

 少尉時代に一通りの物は見渡したつもりだが見た事のない機器である。なので余程出番のないものなのだろう。

 

「通常のレーダー通信や誘導レーザーが使えない時のみに使う、電気式のサーチライトです。恰好つけても結局は"とても大きな懐中電灯"ですのでレーダーやレーザーが発展した今、出番はまずありません。どれくらい使わないかと言うと訓練でも使わなくて数年に1回、動作確認をするだけです」

 

 それは知らない訳だ。しかし、使える。というか使いたい。

 

「使えるか?」

 

「コネクタ自体は汎用で、操作はオンオフのスイッチと出力及び集光率を調整するバーのみです。誰でも使えます。電源さえあれば、ですが」

 

「非常用発電機に繋がるか、繋がるとしたらどれだけ電気を消費するのか、他に電力補充の方法はあるか、そういった所を確認しておいてくれ。繋げられるなら繋げておくように。でも、オンにはするな」

 

「了解しました。で、中尉は?」

 

 尋ねる兵にラインハルトは弾と銃を持って答えた。

 

「ちょっと外を見てくる。ついでに動作確認だ」

 

 

「出番だ」

 

 そういうとラインハルトは発射銃の入ったホルダーを人数分投げる。

 

「第一に、次の部屋(※2)への状態及び出入りの安全性を確認する。次に奥の扉を開き外宙との出入りを確認する。外宙で艦の状況及び周囲の確認を行う。ついでに照明弾の試射だ。尚、外宙作業は安全性の為、部屋で作業用ロープを接続したうえで行うので扉は開きっぱなしになる。戻る時はこちらから開けるのでそれまでは倉庫から開けないように」

 

 一気に指示を言うと一人の兵を指定し二名で作業に入る。

 

「中尉、この手の作業のご経験は?」

 

「私は元、薔薇の騎士だ」

 

「あ、はい」

 

 実の所、装甲服と外宙作業着は全然違うし、基本地に足を付けた行動しかしないのでハッタリなのだが薔薇の騎士という名前はそれなりに有無を言わせない圧力があるものだ。

 最初の扉、OK。部屋の状況、OK。部屋からの開け閉め、OK。ロープ接続、OK。

 

「開けるぞ、私から行く」

 

 そういうとラインハルトは扉を開く、艦橋から倉庫に移動した時間から実際には二時間も経過していない。艦橋のディスプレイで見た状況の記憶の通りなら今頃は敵艦艇の突破が完了しているくらいの時間のはずだ。しかし、

 

「何も見えんな?」

 

 開いた扉から外を見たラインハルトだが正面にはそれらしいものは何も見えない。身を乗り出して下(床のある方)を覗き込むと戦闘光がが見える。見えるがやや遠い。遠いし何かが……

 

「回っているのか」

 

 視点を下に固定するとわずかな戦闘光右から左に流れ行く。10秒程でまた右から左へ。結構な速度で回っているらしい。作業服の操作パネルを少し弄り、念の為に足底の磁気を強めるとラインハルトは外の壁に立ち、もう一人の兵に来るように促す。

 

「私は周辺の確認をする。お前はこの倉庫そのものの状況を確認してくれ」

 

 そう命じると再度周辺を注視し、考える。

 

(周囲に他の残骸は見当たらない。被弾などの衝撃で弾かれた慣性で動いている? にしては遠いぞ。となると戦闘領域の移動とこれの飛んでる方向が逆、と考えるべきだ。敵艦隊を0時方向、第四艦隊を6時方向だとすると戦闘で押された第四艦隊は6時方向に流れていく。そして自分達は0時方向に飛んでいる。あの時から追加の被弾などがなかったのは比較的早い段階で敵艦隊の最後尾を追い越してしまったからだろう。位置的には最初にいた所と大差がないかもしれん)

 

 そこまで考えているとペアの兵が横に立つ。

 

「駄目です、ここ以外は壊滅。というかここのブロックだけが運良く壊れずに済んだ、と考えるべきでしょう」

 

「そうか、ブロック工法様様といった所か」

 

 同盟軍の艦艇は生産性・整備性向上の為、ブロック工法を多用している。ブロックの中にはもはやユニットと言えるレベルの独立性を持ったものもあり。この倉庫もそういったパターンの一つで他艦種にも採用されているしこれだけを連結させて簡易輸送艦として運用されていたりもする。彼らがこの倉庫で穴が開かなければなんとか生きられるのはこの為である。

 

「助かるのでしょうか?」

 

 兵が尋ねる。意外と恐怖感は見えない、勇気があるというよりもマヒしつつあるといったっ感じだろう。

 

「これが彷徨っている場所が探索範囲に入るかどうか次第だ、祈るしかあるまい。銃の試射をしたら戻るぞ」

 

 銃の試射を行い、倉庫まで戻る。注意点を述べて次のペアを外に出す。こちらは両名の状況認識と銃の試射である。

 

 

(さて、あとは見張りをどうするかと見つけたらどうするかだ)

 

 外を見て直には無理、と悟ったので焦ってもどうにもならない。ペアだった兵に外に出た二人の補佐とその後の待機を命じてラインハルトは非常用発電機に向かう、先ほどのサーチライトが気になるのだ。その場所に近づくとサーチライト担当になった兵が腕組みをしながらサーチライトを睨みつけている。ラインハルトが近づくのを確認すると歩み寄ってくる

 

「どうだ?」

 

「良い話が2つ、やや悪い話が1つ、とても悪い話が1つあります」

 

「良い方から順々に聞こう」

 

「汎用コネクタで繋げられます」

 

 うん、良い話だ。

 

「非常用発電機の蓄電ユニットが艦載機のそれと共通です。在庫も見つけたのでユニット交換で数日は電気は持ちます」

 

 良い、非常に良い。

 

「コネクタの長さが足りず、扉の手前まで届きません。シャッター手前までは届くのでシャッターを開ければ照射できます」

 

 空気流出を何とかすれば出来ない事もない、と。

 

「必要電力が発電出力ぎりぎりなので照射すると恐らくは他の機器、全部落ちますし蓄電ユニットが短時間で空になります。落ちない所まで消費電力(=光度)を落とすと多分役に立ちませんしそれでも大した時間延長にはなりません」

 

 ちょっと待て。

 

「文字通りの最終兵器というわけか」

 

 頭を抱えたくなる気持ちをぐっと抑る。

 

「本来は所定の位置にある主回線からの電力コネクタを使うものですので……」

 

「…………とりあえずは何時でも動かせるようにはしておいてくれ」

 

 その場を立ち去り、倉庫内を(何かいいものはないか?)と彷徨うと物資確認班が使えそうなものを一箇所に集約している。

 

「何が集まったか教えてくれ」

 

 ラインハルトが尋ねると下士官が数枚の紙を手渡す

 

「結果的に言うと、報告済みに追加できるのは発動機に流用できる蓄電ユニットと汎用作業服&艦載機パイロットスーツ用ボンベの空気補充機くらいです。あとは艦載機用を筆頭に機器類は単独稼働不可能の物ばかりです。見つけたものは一通りお渡しした紙に書いています」

 

 下士官の説明を受けるとラインハルトは紙に書かれたリストを見る。閃くものは、無い。

 

「了解した。空気補充機の動作確認をして全ての汎用作業服&艦載機パイロットスーツに充填済みボンベを用意しておいてくれ。ボンベはいくつあってもいい。準備出来次第、全員それに着替える」

 

 指示を出し、後部の扉まで戻る。戻るまでの間に今後の行動を全てまとめ上げる。扉まで戻ると待機している要員は二人。

 

「もう一人はどうした?」

 

「勝手ながら、一人外で待機しています。ボンベの関係もあるので2~3時間で交代のローテになります」

 

「プレッシャーとの戦いになるが、大丈夫か?」

 

「外の方がむしろ開き直れるんです。こっちにいると現実に戻されそうで。大なり小なり三人とも同じです」

 

 あまり良い理由ではないがこれは元々やらねばならない事だ、向こうから申し出てくれる事は非常にありがたい。

 

「では、正式に命令する。外宙作業班三名は三交代、一回二時間で見張りを継続せよ。光源の接近を見たら即報告。交代後は別途内容の有無に関係なく報告を入れる事」

 

「外宙作業班三名、これより三交代にて外宙見張りを実施し、光源接近及び交代都度報告をいたします!」

 

「ほかにも外宙作業経験者を追加できるかは確認しておく。それまでは三人だが頼むぞ」

 

 

 色々とやってきたが結局は救難待ちの基本に集約された。見張る、見つけたら全力で合図を送る、だ。問題は全力で合図(照明)を送ったら(シャッター開けるので)倉庫内の空気は空になり、電気はほぼほぼ使い切るという事だけだ。しかし、やらずに尽きるよりかはやるだけやって尽きた方がマシだ。"生き切った"結果がこれだというのならせめて手に届く範囲の事はやり切らないと"生き切った"事にはならない。

 ラインハルトは各員に事前準備の最終決定を伝える。

 

 ・汎用作業服&艦載機パイロットスーツは常時着用。ボンベも即使用可能にしておくこと。

 ・常時見張りを実施(経験者を追加して複数人数で実施)

 ・光源を発見したらラインハルト・下士官・サーチライト担当で作戦実施を判断

 ・全員汎用作業服&艦載機パイロットスーツのボンベを作動。後部シャッターオープン、照射実行

 ・救命信号弾は半分を袋詰めして設置、爆破する事で巨大照明弾として使用。残りは状況に応じて銃で連打

 

 照射実行は即断即決にしないと機を逃す可能性がある。この実行は実質"残り寿命=ボンベ残量"になる事を意味する。その旨を説明し、覚悟と了承を各自から得る。後はただ、待つだけだ。

 

 

 

「見張り、交代しました。光源発見無しです」

 

「ご苦労。休め」

 

 

 時間を確認する。予想していた戦闘終了時間から考えると、もうそろそろ"限界"の時間だ。この限界の時間は損傷した艦艇、負傷した人員の状態から計算されたものであるがもう一つ、精神の限界というものもある。一ヵ月二ヵ月生きていられる環境があっても戦闘終了から半日一日救援が来ない場合、それはほぼ絶望となる。艦隊戦というのは民間船ルートを塞ぐ場所で行わないというのが暗黙の了解といわれている。残該等でルートの危険度を上げない為などと言われているが敵地でも適用されるあたり、フェザーン経由で非公式のルール作りでもされているのであろう。この戦いもそういう場所で行われている。一度救援活動が打ち切られ、撤収が行われたら次に同地が戦場にならない限りそこには何も訪れない。

 

 時間はさらに経過する。とっくに限界時間は越えている。士官は私だけなので経験者でもいない限りそれを知っているのは私だけのはずだ。私が動揺を見せない限り、他の者たちはそういうものかとしばらくは耐える事が出来るだろう。皆はやれる事が無くなったのか思い思いの場所に佇んでいる。限界を越えてはいないが会話する元気は既に失われているようだ。

 

「結局は誰でも出来る事をやっただけか。情けない」

 

 思わず愚痴の一つでも出る。

 

「それは違うと思います」

 

 顔を上げると一人の兵が立っていた。休むきにもならず、歩き回っていたのであろう。軽い仕草で隣に座るように促す。その兵は隣に座るとぼそぼそと語り始める。

 

「僕は兵です。勤めはじめたばかりの言われた事しか出来ない、いや、やらせてはもらえない末端兵です。でも、軍隊の兵隊なんてみんなそんなものだと思います。たとえ技術力を持っていたとしてもそんな兵隊さん達に、兵隊さんの何十分の一何百分の一しかいない兵隊じゃない人が何かを命令して、それで初めて何かが出来るんだと思います」

 

 ただ静かに聞く

 

「一度何かをやれば次にやる事を思いつくかもしれません。でもやっぱり最初に何か言ってくれないと駄目です。だからあなたが命令してくれたからこそ、ここまでの事はやれたんだと思います」

 

「私は、士官としての義務を果たせたかな?」

 

「はい」

 

「……ありがとう。あと、上官に"あなた"はだめだぞ」

 

 そうか、それは良かった。

 

 

 

 

 

「光源発見!!!!!」

 

 

 

 

 

 ……なるほど。やるべき事をやったわけだ。私も、彼らも。

 

「さぁ、言っておいた事をやる準備をしなさい」

 

 隣に座る兵に語りかけると私も動き始める。

 

「総員、ボンベ使用準備!! サーチライト使用準備!! 照明弾全部持ってこい!!」

「どういう光源だ!」

 

 命令を叫びつつ後部搬入扉まで走る。

 

「定期的に誘導レーザーかビーム砲かを光らせてます。連続ではないので戦闘ではありません。見つけてもらう為の光です」

 

「確認する! その間に下士官とライト担当を呼べ! 最終確認をする!」

 

 言うだけ言って私も外宙に出る。私を確認して見張りが正面を指さす。

 

「最初に見た方角を考えると光源は"下"じゃないのか?」

 

「微妙ですが縦回転もしていたようです。今なら正面、そこ(シャッター)からも正面です」

 

 正面を見つめる。ただ見つめる。…………!!!!!!! 

 

「光った!!」

 

「それです!!!」

 

「よし!」

 

 まだかなり遠いが光っている。

 

「下士官とライト担当の準備が出来ました」

 

 中から連絡が来る。一旦全員部屋に入って外扉を閉め、二人を部屋に入れる。

 

「扉で多人数は危険だ、外のシャッターを開けるぞ」

 

 倉庫側の扉を閉め、ロープを確認しシャッターを開ける。部屋から外部が丸見えとなる。皆で見つめる。ただ見つめる。

 

「見えた!」「確認しました!」

 

 下士官とライト担当がそれぞれ反応する。

 

「心なしか少し近づいている気がします」

 

 最初から見続けている見張りが高揚した声で付け足す

 

「いくか?」

 

 手短に、最重要確認を投げかける。

 

「いくべきだと思います」

 

 と、下士官。

 

「どうせ次は無いでしょうから」

 

 と、ライト担当。

 

 決定である。

 

「サーチライトを使う! 準備するぞ!」

 

 見張りを残し、下士官&ライト担当と共に倉庫に戻った私の宣言で班員が最後の作業を開始する。

 

 サーチライトのコードを限界まで伸ばし、後部シャッター前に本体を固定する。総員がボンベ装着、空気が正常に得られることを確認する。そして、

 

「シャッター開け!」

 

「シャッター開きます!!」

 

 シャッターが開かれ、倉庫の空気が流れ出る。一度空になればシャッターを閉めても空調施設が空気を再充満させる前にボンベが尽きるだろう。

 

 開かれた外宙を見つめる。光るのを待つ。

 

「光った!」

 

「照射始め!!」

 

 私の合図とともに全員がサーチライトに背を向け、倉庫内を向く、そして目を閉じる。背中に光を感じる。十秒程で照射を止める。

 

「外の反応を見張れ! あと、電源の消耗状態を知らせろ!!」

 

 命令を出しながら外を見る。一発で反応とはいかない。

 

「電源、同じ時間で二回目は行けます。三回目は途中で切れます」

 

「二回目終わったらユニット交換しろ! 交換後は少し短くして三分割で使い切る! 以後、交換終了連絡のみをせよ!!」

 

 光る、照射する、止める、見張る、光る、照射する。

 相手が遠ざかっている気配はない。かといって大きく近づいている気配もない。見つけてもらったわけではない、探索ルートがたまたま近いだけ。気づくか? 気づいてくれるか? 

 

「ユニット、あと二セット」

 

 電源班からのタイムリミットが告げられる。照射間隔を開けるか? 

 

 

「光った!    いや、光り続けてます!!!!!」

 

 

 その叫びを聞き、意味を理解した班員たちが歓声を上げる。

 

(やり切ったぞこの〇×△□野郎!!!!)

 

 思わず薔薇の騎士時代の口撃が出そうになる。来て欲しい相手(敵)を引き寄せるおまじないだ。

 

「照射と照射の間隔を開ける。相手は見てくれている。長持ちさせる事を優先するぞ」

 

 次の照射をする。停止して様子を見ると光り続けるそれから更に光が吹き出す、艦首ビーム砲の斉射だろう。「見ているぞ」という明確な意思表示だ。次の照射をする。ビームが放たれる。明らかに近づいている。照射の残りが二回になった時。

 

「何かが急速接近!!」

 

 光っているそれとは別の小さな光がいくつか見える。その小さな光はこちらを探しているのか蛍のように漂う。

 

「これが合図だ。…………持っていけ!」

 

 照明弾の詰まった網袋をぶん投げ、手ごろな位置でブラスターで打ち抜く。連鎖して爆発する照明弾は蛍を呼び寄せる甘水となる。

 

「おーい、聞こえるかー! ってうるさいうるさい! 代表者だけが喋ってくれ!!」

 

 その光、同盟軍艦載機スパルタニアンからの声。オープンチャンネルでの通信の為、全員の叫びが入ってしまったのだろう。少し間を置いて私はゆっくりと話しかける。

 

「空母ハーミーズ所属、ラインハルト・フォン・ミューゼル中尉以下総員37名。救援に感謝します」

 

 私の初陣が終わった。それは本来行われる救援作業時間を大きく超えた時刻であり、私達は総司令官代理ヤン・ウェンリー准将が厳命した「通常の倍の時間、探索せよ」の号令によって行われた追加作業、その終了三十分前に発見された最後の生存者達であった。

 

 

 

 

 

「さて、次の勤務地は可能な限り要望を聞いて良し、と許可はもらっている。どういう所がいい?」

 

 私はこの一連の功績で大尉となった。出兵前に中尉になって帰ってきたら大尉。どうも実感が湧かない。しかし、あのヤン・ウェンリー准将は有名なエル・ファシルの一件で大尉になって数時間で少佐になったらしい。それに比べたら一回は仕事をしている分、マシなのかもしれない。

 

「どこにでも。と言いたい所ですが可能でしたら今回恩を受けた場所で働かせて頂きたいです」

 

 その回答に目の前の人、アレックス・キャゼルヌ少将は"にやぁ~~~~"っと悪魔的笑顔を浮かべる。彼はメモ帳を取り出すと何やら書き込んで手渡す。艦隊司令部ビルのとある一室、そして

 

「第一三艦隊司令部付? 第一三艦隊とは何なのでしょうか?」(※3)

 

 二個艦隊が再起不能な損害を受けたのに一三個目の艦隊? 

 

「正式な辞令などは後日出す。とりあえずいけばわかる。うん、わかる。ひじょ~~~に満足、且つやりがいのある職場になると思うぞ」

 

 キャゼルヌ少将が何かをもう我慢できないという顔でささやく。なんだかもうわからない状況だが断れる雰囲気でもない。

 

「第一三艦隊司令部付、謹んで拝命します」

 

 

 次の勤務地が決まった。その足で艦隊司令部ビルに向かい、指定された部屋の前に立つ。

 

 第一三艦隊司令官室(仮)

 

((仮)ってなんだ。しかもここだけ手書き?)

 

 満足どころか不安しかないのだが、ここまで来てそれを考えてもどうにもならない。せめて最初の挨拶くらいはしっかりとしよう。そう考えて私は扉を叩いた。

 

 

 

 




<<おまけ的小話は活動報告の 備忘録みたいなもの に書いてます>>


分割タイミングを計れなかった・・・・・・
会話の一部は宇宙服等に短距離通信会話機能があると思ってくれい。でないと外宙作業なんて出来ないからな。
サーチライト作戦中の電源確認などは原始的な懐中電灯でやってると思ってください。

最初の話は駆け足ですし、アスターテ会戦本戦は原作見つつ書けました。ということで"自分の実力通り"の作品はこのレベルになります。なので(そんな人はいないと思いますが)過度な期待はしないでくださいw

これで一応、序章は終了。次はイゼルローン攻略です。といっても攻略そのものは原作と全く同じ流れなので第六艦隊です(その言い方やめろ)

充填ターン突入です。次からオリキャラ沢山と原作ラインハルトに抜擢されてない状態の原作キャラが出続ける事になります。同盟側にもオリキャラは必要なので合計で何十人レベルでオリキャラ作成・原作キャラ調整が必要になります。とても時間がかかると思いますので期待をせずにお待ちいただければと思います。


※1:空母の戦闘の作者解釈
 これに失敗した最悪の事態がアムリッツァでヤンにボコられたビッテンフェルト

※2:次の部屋
 倉庫と最外扉の間にある部屋、宇宙空間で直接物の出し入れを行うために使う。
 最外の扉を開き外から侵入し、開けた扉を閉める。次の扉(倉庫から見て最初の扉)を開けて倉庫に入る。倉庫からの搬出はその逆。両方開けると外宙と倉庫が直結し、倉庫の人が死ぬ。

※3:第一三艦隊
 ラインハルト着任時、第一三艦隊はまだ正式発表前、という作者設定となっています。なのでラインハルトにとってまだ第二・四・六艦隊は会戦後の状態ですし。"司令部付き"と言われただけで第一三艦隊にどういう人たちがいるか判っていません。
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