偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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No.73 上陸

「順調だな」

 

「えぇ、不安な程に」

 

 ルントシュテットの言葉にヴァンデグリフトが応えるのだがその顔色はここまでの順調さとは裏腹に宜しくない。

 

「計画通り、と言えばそれまでですがあまりにも手ごたえが無さ過ぎます。もう少し何か仕掛けてきてもいいと思うのですが…………」

 

 ヴァンデグリフトの不安がそこにある。計画を立ててそれがその通りに進む事は良い事なのだが"これだけの計画が何の狂いもなく進む事などありえない"というのが軍人としての心構えだ。しかも現在がいわゆるデッドライン、この次に進んだらもはや中断も後退も出来ない。

 

「支障がない以上、進めるしかあるまい。調査艇の連絡ももうそろそろ来るだろう。私は予定通り艦を移らせてもらう」

 

「…………判りました。ご武運を」

 

 礼を交わし、ルントシュテットが場を後にする。彼はこれから揚陸艦の一つに乗り要塞に上陸する地上軍の総指揮を執る。要塞突入への手は打っているが(相対的に)安全性を考慮しているのは突入時のみであり、脱出に関しては案はあれど極めて難しい。

 

「それにしても……」

 

 ヴァンデグリフトはこれまでの行程を反芻しながら考える。これまで過程はうまくいっている、行き過ぎている。行き過ぎているが故に…………何か失敗をしているのではないだろうか? 大きな計画、プログラムにバグが一つもないなんてありえないのだから。

 

 

 上陸ポイントとなる破孔を作る為の無人艦中心の対要塞戦、その第一波は自爆突入艦一隻を装甲板付で突っ込ませた。計算上、浮遊砲台の自動戦闘設定では破壊される前に突入が可能な装甲厚を用意し、計算通り突入に成功した。

 二回目は装甲板付が一隻、無しが四隻。どうやら仕組みを読まれたらしくコントロール艦が撃破され装甲版付は方向外れの地点に着弾。無しの艦も三隻撃沈されたが一隻が突入に成功、こちらは一回目のポイント付近であり有効打と判断された。

 

「では、主攻撃を開始する。ここからは成功失敗が明確になるまで攻撃を継続する。覚悟しておけ」

 

 ヴァンデグリフトの宣言で帝国軍の本格的攻勢が開始された。一〇〇〇〇隻の無人艦と二〇〇〇隻の統制艦。合計一二〇〇〇隻が主攻となり遅延部隊などを除いた大小合計八〇〇〇隻(無人艦無し)が各種支援を実施する。主攻部隊は一〇隻の統制艦と五〇隻の無人艦でチームを構成し、一隻用意されている突入艦を叩き込む事を目指す事となる。

 この突入艦は先の内乱での鹵獲艦、正規軍所属で運よく生き残り続けて耐用年数に近づいた艦。そして専用の新造品である。この新造品は正規軍品ではなく旧門閥貴族お抱えの造船所(※1)に建造させたもので突入作戦に必要な機能のみに絞り、余剰スペースにミサイル弾頭なりを敷き詰めている(※2)。突入艦二〇〇隻。二割程度突入に成功したら多少場所がズレたとしても必要な突入口が形成できるだろう。

 その攻撃は三日間継続して行われ、主攻部隊が総数の半数を磨り潰した所で一区切りとなった。二〇〇隻用意した突入艦はその九割が突入を試み、内八割近くが撃沈され、残りの半数近くはが目標から離れた所に着弾した。それでも二一隻の突入艦が集中した破孔は必要十分な初期領域を確保し、作戦は次の段階に移る。

 

「特務艦の突入を開始します」

 

 その報告にヴァンデグリフトが頷く。これがこの突入作戦の〆となる攻撃となる。爆薬代わりのゼッフル粒子を満載した有人大型輸送艦(装甲版付)が突入し、破孔内で自爆する事で内部隔壁を更に破壊、上陸部隊を乗せた揚陸艦の進入スペースを確保する。その大型輸送艦は自爆に関する作業を行う必要があるので特大の恩賞(※3)を餌に志願を募り、自爆直前に特注の高速連絡艇で逃亡(当然ながら浮遊砲台から撃たれながら、である)させるという乱暴極まりない作戦であるが成功させねばならない為、輸送艦は複数用意してある(誘爆が洒落にならない為、突入は一隻ずつ行う)。尽きる前に一回成功すればそれでいい。

 

「時間です」

 

 都合三隻目の突入で目標地点への到達に成功、その自爆は浮遊砲台有効射程ぎりぎりのポイントからでも観測できる反応を示し、タイミングを合わせて対砲台戦闘に突入していた部隊より先行の調査艇が潜りこむ。そして作戦可能の信号を受け取るや否や揚陸艦が突入を開始。全部隊による支援攻撃突入に紛れ込み、上陸ポイントへの進入を決行。上陸部隊一二万を乗せた揚陸艦部隊はイゼルローン要塞外壁内部への進入に成功した。ここまでに失った帝国軍艦艇は有人無人合わせて約一〇五〇〇隻。上陸支援として用意していた艦艇の半数が攻撃開始一週間で消耗された計算である。本来一〇〇〇〇隻の損失は作戦中断にも結び付くものであるが本作戦においては無人艦込みで織り込み済みの数値であり。むしろ順調と見るべき成果と総司令部は判断、作戦は更なる段階に進む事となった。

 

 

 

「なんだぁ!」

 

 その振動は破孔エリアを取り囲むように周辺で準備を行っていた同盟軍守備部隊を驚愕させ、冷静な士官が作業用端末を叩き状況を見極める。

 

「危ない危ない、ぎりぎりじゃないか」

 

 端末の画面に映し出されているのは要塞内部の立体状況図。破孔エリアに隣接する立入禁止領域が全て破壊され、その更に隣の迎撃準備作業中だった領域まで一部破壊の手が及んでいる。残念ながらそこで作業していた人員は緊急隔壁閉鎖によって全滅だろう。

 

「さて、作業は継続するの変更するのか……」

 

 端末を前に唸ってる士官はその画面にの立体状況図に見たくもない点光がぽつぽつと出始めるのを見つけて背筋を凍らせる。その点光の一つから直近の有人エリアは……ここだ。

 

「隊長!! 司令部より一時後退命令です!!」

 

 向こうから命令を受け取ったらしい通信班の伝令が駆け寄って来る。

 

「判ってる!! 総員、直ちに指定のエリアまで後退せよ!! 荷物はそのままでいい!! "帝国兵が来るぞ!!!!"」

 

 

「シェーンコップ少将、指揮は任せる。想定以上の数であった場合、事前に知らせてある予備部隊には直接命令を出しても良い」

 

 言うだけ言ってパエッタが通話機を置く。限界まで受け止めると決めているとはいえやはりここまでやられっぱなしだと機嫌は宜しくない。見事なまでのしかめっ面である。

 

「理想より早くやられていますな」

 

 流石に心配顔になっているヴォーバンが尋ねる。

 

「想定の形に落とし込めれば数日や一週間程度のズレなど大したことではない。それよりも破孔地点の詳細計測を急げ。上陸可能な兵力を算出せよ」

 

 後ろに控える幕僚陣に発破をかけてからパエッタがこめかみの皺をさらに深くしながらつぶやく。

 

「どうも腑に落ちん。いったい"敵の司令官は何処の誰なんだ?"」

 

 ヴォーバンが"え?"という表情を見せる。

 

「それは最初に挨拶してきた方では?」

 

「違う」

 

 パエッタが断言する。

 

「相手の事くらい最新情報を確認しておけ。あの敵将にこれだけの事を統率する力量があるとは思えん」

 

「しかし、優秀な幕僚を揃えれば指揮そのものは出来るのでは?」

 

「これはそんな人事が許されるような戦いか?」

 

 パエッタにそう言われてしまうとヴォーバンも考え込んでしまう。

 

「数も中途半端、人事も中途半端。ま、深く考えてもどうにもならん。悪い方に傾いてないだけ良しとしよう」

 

「ですね」

 

「この調子で済んでくれるなら……ふむ、なんとかなりそうだ」

 

 パエッタの呟きに周囲からは"本当か?"という視線が集まるが、本人は特に気にしなかった。

 

 

「さぁ、お仕事の時間だ」

 

 シェーンコップが召集した幹部達の前に姿を現す。ご機嫌な事に装甲服姿である。が、それを見て現在の薔薇の騎士連隊長(兼独立旅団副旅団長)カスパー・リンツ大佐が怪訝な顔つきになる。

 

「まだ例の"獲物"の確認は取れていません。少将の出番はまだですから勝手に動くとまた総司令に睨まれますよ」

 

「構わん。その"獲物"の為だ。万全を期す為には実戦の感覚を確認して十分な事前準備運動が必要とは思わんかね?」

 

 その返しにリンツは特大の溜息をつき、明後日の方向に目線をずらし一つ二つ考える。そして決断する。

 

「判りましたそう言う事にしましょう。しかし、特務チームがばらけてしまっては万が一の時に面倒になります。適当な場所に増援として行く事にしましょう。ですが"獲物"が確認された場合、主任務を最優先とする形で。……それでいくぞ、いいな?」

 

 そういうとリンツは横にいたライナー・ブルームハルト中佐に視線を向ける。

 

「ここで駄目です、総司令の命令を守りましょう。といって出撃を取りやめますか?」

 

 シェーンコップは何も答えないが口元の動きで全てを察する事が出来、それを見たリンツは肩をすくめる。

 

「仕方ありません。その代わり、皆さんも私の指示で動いてもらいます。適度に"運動"が終わったら控えに回しますからね」

 

「御指示の通りに。旅団長代理代理殿」

 

 シェーンコップが生真面目に敬礼を返し周囲から笑い声が起きる。とにもかくにもイゼルローン要塞総司令官直属旅団はその活動を開始した。

 

 

 この戦いが、恐らく敵上陸を伴うものであると認識した際に一つの重要項目への対処が必要となった。

 

 あの"ヴィルトシュヴァイン・フォン・オフレッサー"が来るかどうか? 

 

 である。イゼルローンに上陸して制圧すると言っても無尽蔵に陸戦兵力を注ぎ込めるわけではない。時間も無限にある訳ではなく要塞周辺の制宙権が維持できる間に、少なくともハイネセンからの増援が到来する前に決着を付けねばならず全てはそこからの逆算になる。となると上陸部隊は可能な限り質を求めないといけない。要塞内の限られた防衛線は一旦突破され浸透され乱戦となったらどれだけ兵力が残っていようが収束不可能になり危機的状況になる、だからそこにオフレッサーが存在するか否かは帝国軍の突破力を左右する重大案件でありそれはそのまま防衛戦略まで影響が広かる代物である。オフレッサー一人を使い潰す事で防衛線の一つを崩壊させればそのまま要塞陥落まで転がりかねないとんだ迷惑一人戦略兵器である。パエッタはその問題に対して一つのカードを準備した。カードにされた側にとってはたまったものではないだろうし恨みを買う事は確実だが元々仲は悪いのだから気にしない。そして憎たらしい事にカードにされた側から見てもその選択は一つの回答として間違えていない。

 

「要するに、対オフレッサー分隊を編成しろ、と」

 

「そうだ。オフレッサーの存在が確認できた時、奴一人を討ち取る事、それだけが仕事だ」

 

 その構想を聞いた時、シェーンコップは不機嫌そうな顔を隠すことなく睨むような目つきでパエッタを見つめる。周囲の物はとぱっちりを恐れて口出しせず一瞬の静寂が訪れる。が、意外な事にシェーンコップはあっさりとこの命令を受け入れる。

 

「俺とリンツは必須。ブルームハルトは旅団の総指揮に必要なので残す。後は薔薇の騎士から腕利きを集める。それでいいですな?」

 

 シェーンコップの冷めた頭がそうでもしないとあのオフレッサーを常識の範囲で討ち取る事は不可能だと認める。それこそ存在が確認できた場合、キロ単位四方のブロックを自爆させるような手段を取ればオフレッサーどころか上陸兵力を壊滅させる事は可能だが常識と人道上、そのような手は打たないだろう。だからその案を受け入れる。まぁどうせ……

 

(この防衛戦を敵要塞を破壊する事で勝利したのなら、俺達はお払い箱だからな)

 

「細かい点は任せる。責任は私が取る。恨んでくれても結構」

 

 そういうとパエッタは「以上だ」と言って会話を打ち切る。そして対オフレッサー用となる部隊が編成される事になった。

 

 

「帝国兵の方々、分厚い外壁くりぬき作業ご苦労。だが、邪魔なので掃除させて頂く」

 

 シェーンコップ、リンツを含む特命抜粋一六名に万全の体制から襲い掛かられるという貧乏くじを引かされたのは彼らの中で第七班に含まれているとある小隊だった。厭味ったらしい挨拶の通り浮遊砲台と帝国艦艇が乳繰り合ってる最中に他方面からするりと液体金属層に対要塞用特殊強襲揚陸艦で潜りこんだ。同盟には存在しないが帝国には昔から要塞が存在していた関係で所持し続けていた艦種だ。同盟軍が使用しているそれ(強襲揚陸艦)は敵艦にへばりついて穴を開けて直接兵を送り込む代物であるがこれはそれの対象が要塞となっており時間はかかるがイゼルローンの外壁も貫通して穴を開ける事が可能である(オーバーヒート寸前まで出力を上げて既定の倍の時間をかけて、であるが)。要塞突入まで何日も潜伏する羽目になったが一旦潜ってしまったら意外と感知はされない。不純物の掃除や破損確認を行う作業ユニットも存在するが戦闘中には出てこない。要塞内部から液体金属層で活動する各種自立ユニットをコントロールするシステムには限界がありそのリソースは主砲及び浮遊砲台の管制制御にほぼ使われてしまうからである。

 そんなこんなで第一四班(=一四隻)まで構成された強襲チームであるが強襲揚陸艦とは名ばかりの特殊工作艦である都合上、総兵員数で言えば一個連隊も満たせない。しかし小隊単位で分散し要塞内部で"存在し続ける"事が牽制になる。彼らの任務はただ一つ、上陸本隊一二万が破孔内での最終準備を終えて突入を開始するまでの間(できればその後もできるだけ)、少しでも敵の余剰兵力を吸い取り、ひたすら邪魔な存在である続ける事である。その任務故に当然ながら精鋭である。相手が薔薇の騎士だろうが、という自負もある。が、相手が悪すぎた。

 

「準備運動としては少々物足りない感もあるが我儘は言えん。あと二、三ヵ所やらせてもらえば良しとしてやろう」

 

 この"準備運動"でシェーンコップは二名の敵兵を討った。少ない気もするがリンツも二名、他の一四名もおのおの一名か二名討った。間違えないでいただきたいが敵一個小隊を相手にして、である。この運の無い小隊はいつの間にか退路も完全に断たれ(本来戦う予定だった兵が回り込んでた)。一人残らず殲滅された。

 

 

 

「準備完了しました。突入開始まであと三分です」

 

 オペレーターの報告にルントシュテットが頷く。

 

「艦名の伝説にあやかりたいものだ」

 

 そう呟くとルントシュテットがマイクを持つ。地上軍揚陸部隊旗艦、揚陸艦ノルマンディー。なんでも地球時代で伝説的に語り継がれていた上陸作戦に関係する名前らしい。それが何かは既に情報が失われているのだが縁起担ぎとして代々その名が使われている。

 

「ルントシュテットより総員に告ぐ。回廊に逃げ道無し、あとはただ進み、倒し、取り戻すのみである。諸君の健闘を祈る」

 

 

 宇宙歴八〇〇年三月五日八時〇〇分、帝国地上軍一二万はイゼルローン要塞内部への強襲上陸侵攻作戦を開始した。




※1:旧門閥貴族お抱えの造船所
 貴族領の義務である自領治安維持の為に私兵艦隊(警備隊)を建造していた貴族お抱えの造船所に対して帝国政府は正規契約を結んだ。内乱で消滅した警備部隊の再建には彼らの建造力が必要だからである。そして旧門閥貴族おかかえだったという負い目につけこんで廃業にならない程度の安定した警備隊用艦艇生産契約を押し込んでいたのだが後にそれで得られる雀の涙の純利益が綺麗になくなる赤字での突入艦建造契約を極秘(予算を握る軍務尚書ミュッケンベルガーが内々に行った)に追加した。帝国政府からしてみたら必要な出費(大量に失われた治安維持用警備隊艦艇の発注)をぎりぎりまで勉強させて契約させたついでに作戦に必要な特殊艦が手に入るのだからお得である。一応、造船所も政府側の芸術的発注金額操作によって赤字は免れているから涙目だが文句は言えない。


※2:特注品突入艦
「これ、艦というよりも艦型の超大型ミサイルですよね?」と造船所技師がぼやきながら設計された。面白い事に門閥貴族達の我儘いっぱいのカスタマイズ大型艦を都度設計してきた彼らは言われた通りの無茶な設計修正を行う技量は正規軍所属の設計陣より優れていた。

※3:特大の恩賞
 自爆に成功した場合、最終結果(要塞陥落の有無)を問わず帝国騎士階級と数世代の生活が困らないだけの報奨金を、戦死しても二階級特進のうえで遺族への特別恩賞を与える。と大盤振る舞いしたら必要十分以上の志願者が集まった。
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