偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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すいませんがすっ飛ばします。
特に違う事を書く意味もネタもないので。


第一章
No.7 理想と現実


 

 

 "祝・イゼルローン要塞攻略"

 

 垂れ幕がはためく道をパレードは進む。その中央を進むオープンカー、後部座席に座るのは二人。一人は統合作戦本部長シドニー・シトレ元帥、そしてその横に座るのが悲願のイゼルローン要塞攻略を成し遂げた第一三艦隊司令官ヤン・ウェンリー少将。黒のサングラスをかけ、静かに佇む英雄の姿を一目見ようと道行く道に人が溢れ、ビルというビルの窓からカメラが狙いを定める。

 

「…………………………」

「我慢する事だ(苦笑)」

「高々と辞表を掲げたいですね」

「頼むからやめてくれ」

 

 ヤンの性格をよく知るシトレはこの行事の後にやらないといけない事も知っていた。それに対するヤンの気持ちも考えれば本当に辞表を掲げる事もやらかしかねない。しかし同時に正規の手続きを壊す事をしないという事も知っている。なのでなんだかんだとシトレが宥めるしかないし、ヤンもそれに乗るしかない。結局はこのやり取りも気を紛らわせる茶番、そういう意味ではシトレもヤンも同じくらいにこういうものは好きではないのだ。

 

 

 

「魔術師ヤン!!」「奇跡のヤン!!」

 

 自由惑星同盟の首都ハイネセンに帰還したヤン・ウェンリーを歓喜の暴風が迎えた。

 式典・広報・パーティー・インタビューetcetc 怒涛の大行進が周回ゲームのようにぐるぐるまわる(これでもシトレ元帥が「仕事に差し支えがある」と控えめにしてもらっている) そして暴風も静かになり後始末も終わり、帰還から二ヵ月程経過した八月の上旬、その"稀代の英雄"ヤン・ウェンリー率いる第十三艦隊の面々は

 

 

 

 暇だった

 

 

 

「魔術師ヤン!!」「奇跡のヤン!!」

 

 TVに映し出されるその映像を見てフレデリカは己の失策を悟る。ヤンの不機嫌の種であるこの手の映像を避ける為、彼女は番組表を常に控えていたのだか最近の暇加減に気が緩んだのかついつい無意識にリモコンのスイッチを入れてしまったのである。彼女の背後から"不機嫌オーラ"が流れてくる。そのようなものを感じる事など出来ないのだがそうである事ははっきりと判る。とりあえず違う局に……と適当な番号を押すが……

 

「(ナレーター)かくしてエル・ファシルの英雄はアスターテの英雄となり、遂にイゼルローンの英雄となったのです」

 

 更なる追い打ち、完全に止めである。背後からのオーラが更に増した事を感じ。フレデリカは

 

 "ブチッ!"

 

 とりあえずTVの電源を落とした。

 

「本当に、嫌いなのですね」

 

「大嫌い!!!!」

 

 フレデリカの呟きに「ピーマンは好き?」と聞かれた幼児の回答が如きの元気な返答をよこしたのが英雄ヤン・ウェンリーその人である。

 

「そもそもさ、もう二ヵ月は経過しているのに何でまだ流れているの。こんなのを何回も見ても意味ないでしょ。しかも事のついでとばかりに過去のも"再放送"してる。アスターテはまぁ近いから仕方ない、エル・ファシルも百万歩譲って許そう。でもね、何で今更士官学校の時の映像まで流すのさ。"秘蔵映像発見です!"って秘蔵どころか黒歴史発掘だよ、これは」

 

 普段はなにかとゆったり話すヤンとは思えない早口でまくし立てる。その苦情を聞いて近くのデスクで作業をしていたラインハルトが何度も頷き、同意を示す。

 

「判ってくれんだ。うんうん。嬉しいねぇ」

 

 もう只の気のいいお兄さん状態である

 

「私も、アスターテの時は色々と大変だったので……」

 

「あ、そうだったんだ」

 

「「え?」」

 

「ん?」

 

 同時に発せられるフレデリカとラインハルトの驚きにキョトンとした反応を示すヤン

 

「本当にメディアをご覧になってなかったのですね。大尉の救出劇は本来の救助活動時間を越えて、更にその終了直前の出来事でしたから閣下と同じで(敗戦を紛らわせる為に)メディアでも何度か報道されていたのですよ」

 

 フレデリカが唖然としながらも説明する。

 

「私の命令の結果助かったって聞いて嬉しかったけどそういう苦労もしてたのか。知らなかったなぁ」

 

「私は閣下が気を使って話題に上げられなかったものかと。あの手のメディアの行動は私もやはり苦手ですし……」

 

「大尉は、うん、私なんかと違ってメディアの見栄えも凄くいいからね。メディアにとっても見逃せないだろうねぇ。苦労したでしょ」

 

 その顔立ちは当然ながら薔薇の騎士で鍛え上げられたその体、二十歳にて既に大尉と誰がどう見ても超優良物件である。個人、組織、色々な所が見逃さないだろう。

 

「一応それらの事は軍と亡命者支援事業所の方々が対応してくれたので早めに収まりました。けど、私自身は文字通り九死に一生を得た身ですのである程度そういう対応にも覚悟を決められますが如何せん姉上の職場まで来てしまうのは…………」

 

 ラインハルトがため息交じりに呟く。ヤンにはこれといった親族が身近にいなかったのでそういう事はなかったのだが姉がすぐ近くにいるとなるとメディアにはいい餌にしかならない。しかもラインハルトの姉想い(口には出さないが誰から見てもシスコンレベル)は彼を知る人たちの中では周知の事実である。

 

「あのお姉さんかぁ。確かにメディアからしてみたら取材もしたくなるだろうけど、一般の方の職場は駄目だねぇ」

 

 ラインハルトの姉、アンネローゼ・フォン・ミューゼルはラインハルトの五歳上で現在二五歳。某ホテル併設の菓子店にて働く菓子職人としてその筋では名が通るようになってきている腕前だとか。ラインハルトの新しい配置先に命の恩人が二人(救助指揮者フィッシャー&救助命令者ヤン)いると知って居ても立っても居られず大きなケーキ箱を両手に持って(ラインハルトに知らせずに)司令部に電撃訪問してきたのである。

 

「姉上の方も店の人とかが対応してくださって事なきを得ましたがもし顔が知れ渡ってしまったら、姉上に変な虫が寄り付くかもしれません。それだけは断固阻止せねばなりません!」

 

 何よりも姉を優先するその姿勢、「そこだぞ」という突っ込みを抑える程度にはヤンとフレデリカにも人情はある。

 

 

「それにしても……、本当に現状の勤務状況で良いのでしょうか? 艦隊の扱いもそのままですし、何より閣下がそのままというのは?」

 

 フレデリカが不思議そうに言う。イゼルローン要塞攻略を成し遂げながらヤンが少将のままなのが納得いかないらしい。

 

「私もそう思います。シェーンコップさん、いえ准将は大佐から昇進しました。他の薔薇の騎士幹部も同時に昇進です。人事が動いていないという事は無いと思うのですが……」

 

 こちらはラインハルト。やはりヤンの未昇進を不思議がってる様だ

 

「私の事は色々あるから置いとくとして勤務状況についてはもうそろそろ動きがあるはずだ。君たちもうん、まぁ、噂は聞こえているだろう?」

 

 ヤンの返答にフレデリカとラインハルトの表情が変わる。気が緩みがちな最近であるがそれでも口には出さないようにしていた噂

 

 

 

 帝国領への大規模侵攻

 

 

 

「本当に、出来るものなのでしょうか?」

 

「ここだけの話だ。どう思う、大尉? ちなみに私は駄目だと思っている」

 

 ヤンのぶっちゃけトークに思わず目を丸くするラインハルト、しかし短いながらも司令部勤めでヤンが"こういう人"だとは理解しつつあったので己の考えを慎重に紡ぎだす。

 

「少なくとも、今攻勢に出る事はまだ利を得られないと思います」

「まず一つ目に情報、長い間侵略をしてきた帝国と違い我々は帝国領の詳細を知りません。少なくとも綿密な事前偵察が必要となります」

「二つ目に同盟の国力、長期の防衛戦は国を大きく疲弊させています。その状態で防衛よりも負荷のかかる攻勢を続ける事は出来ません」

「三つ目に帝国との国力差、帝国の国力は同盟よりも大きいです。攻勢を図るとしても痛み分けでは敗北です。国力比以上の勝利を得る手立てを見つけなくてはいけません」

「これらの事を考えるとしばらくの間、守勢に徹して国力を回復させ、その間に帝国領の偵察を実施。さらに工作等を行い分断を誘い、有利な状況を作り戦果を拡大。それを何度か繰り返し、国力比を少なくとも同等の所までもっていかねばなりません」

 

 今度はヤンとフレデリカが目を丸くする。

 

「お見事。来たらやらないといけない防衛戦とは違い侵攻戦は時を選ぶことが出来る、そして少なくともその時は今ではない。せっかくイゼルローンという壁が出来て負けないだろうという状況になったのだからそれを有効活用して落ち着かせればいい。建国して370年くらい、戦争を開始して150年ちょっと。国力が有利なはずの帝国が150年かけても同盟領に恒久的な占領地を作る事は出来なかったんだ。これからの事はそれこそ再び150年がかりくらいでやっていけばいい事さ、焦らずにね。そうなれば私も悠々と年金生活に入れるさ」

 

 最後になんか物騒な事をつけ足してヤンが評する

 

「途方もなく気の長いお話ですね」

 

 フレデリカが呟く、まさか次の世代に任せるとかではなくその一生すら飛び越えた先に対応を飛ばすとは思わなかった

 

「人類の歴史で考えれば100年や200年はあっという間さ。けれど…………そこまでは待てないみたいだね」

 

 視線の先にいるラインハルトははっとした顔でヤンを見つめ直す

 

「…………はい。少なくとも私の人生の間には何かしらの結果は得たいと思います。その、やはり、帝国に対しては一般の方とは違う感情を持っておりますので」

 

 ラインハルトが気まずそうに答える

 

「それに関しては私から何も言う事はないよ。それこそ帝国とは違う、同盟の、民主主義国家としての"思想の自由"というやつさ」

 

「ありがとうございます。それでも今は忍耐の時です。何かを仕掛けたいという気持ちが無いというのは嘘になります。けれど一個人の考えで億単位の人を巻き込むわけにはいきません。そもそも一個人に出来ることなどたかが知れています。国全体の意識が向かないとそういう一大事業は成り立たないでしょう」

 

 ラインハルトがにこやかに答える。元帝国人として帝国に特別な感情があるのは仕方ないだろう。それでも彼は亡命して10年、人生の半々を帝国と同盟で過ごした事になる。良い意味で彼のDNAには過去から現在にかけてその10年しか民主主義が刻まれていない。そのまま良い方向に育って欲しいものだ。そうヤンが思っていると個人携帯に反応があったのでそれを確認する。良く知る先輩からのメールには短い一文のみが記されている。ヤンは携帯を置くといつになく深刻な顔で二人に告げた。

 

「どうやら現実は理想通りにはいかないみたいだよ」

 

 目の前に個人の感情で多数の人に迷惑をかけてはいけないと言った元帝国人がいる。しかし、多数の人への迷惑を考えず個人の感情を優先する。そういう同盟人が動き、そういう同盟人達が決定する。その結果がもたらしたものは……

 

 

 

 "From:アレックス・キャゼルヌ To:ヤン・ウェンリー 本文:統合作戦本部に出兵編成指示が発せられた。決定事項だ。"

 

 

 

 




何をアラビア数字にして何を漢数字にするか、はっきりしませんね。これからも変に混ざると思います。

ラインハルトの生活は帝国同盟半々になりました。けれど記憶の無い幼年期を考えると既に同盟の方が濃く生きているといえるでしょう。原作で彼の思想なりなんなりが決まった(歪んだ)のはアンネローゼが宮廷に入った事が契機です。それが発生せずに同盟で育った彼の政治的精神構造は原作のそれとかなり異なるものになっていると思ってください。まぁ、根本にあるもの(シスコン・朴念仁)は変わりありませんがw

ちなみにラインハルトがデスクでしていた作業は仕事ではなくフィッシャーの作った第十三艦隊機動運用データの熟読です。標準運用データに対して綿密に修正の施された最高級謹製データを彼は貪るように吸収してます。
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