偽書・銀河英雄伝説   作:隠居おっさん

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何度も書いてる気がしますがアラビア数字と漢数字、どうしてもぬぐいきれない違和感の正体は多分縦書きと横書きなんだと思う。
開き直りと言うかテストというか当面の間、漢数字に統一してみます。尚、原作においても11が十一だったり一一だったり11だったりするので皆様が納得いく形にする事は不可能だとお考えください。


No.8 一三〇億人と一一人と六人

 

 

 一三〇億人の人口を抱える自由惑星同盟は多数の自治州によって構成される連合体であり合衆国や連邦といった分類に属する国家となっている。中央政府はそれらの自治州共通となる基本法の制定、州間の調整、軍等の一括管理が必要な組織運営などを責務としている。議会は各州から選出された議員によって運営され、議員は合計九つある委員会のいずれかに属し、その委員会内で指定された代表が委員長となる。この九名の委員長と公選にて選出される議長、そして議長に指名権のある書記を含む一一名が自由惑星同盟最高評議会と呼ばれる一三〇億人の方向を決する意思決定機関である。

 

(これは本来、最高評議会のみで決定させるものではない)

 

 財政委員長として最高評議会に参加せねばならないジョアン・レベロは重い足取りで会議室に向かう。

 

(かつての最高評議会は意思決定の最終確認・調整を行う機関であった。しかし今は意思決定そのものを行う機関になっている)

 

 まだ国全体に民主主義の理想が残っていた時代。政治の中心は各委員会であり議会そのものであった。諸問題に対し各委員会がそれぞれの立場で内容を検討しそれをさらに議会全体ですり合わせる。最高評議会はその結果の最終確認・調整のみを行い、議会による正式な決議進行を主導する。それが自由惑星同盟の政治であった。

 しかし、時代と共に政治に濁りが紛れ込む。これは各州と中央政府の温度の違いによって加速されていった。前線に近いか遠いか、生産なのか消費なのか、資源なのか農業なの工業なのか、州毎の特色の違いは全国規模の政党を育む土嚢とならずそれぞれの特色を取り込んだ非全国規模のローカル政党を生み出す。そしてそのような環境で選出された議員の集まる中央政府は統一した意思を持つ安定した大型政党の成長を更に妨げ、多数の小中政党などの合流・分裂などを生み出す事になる。その結果として発生するのが妥協・なれ合い・玉虫色、誰もがよく知る文言に彩られたいわゆる"なあなあ"の世界なのである。

 "なあなあ"の世界は積極性を失う。徐々に活動力を失う議会に対し良き政治の上澄みとして未だ志を失っていなかった最高評議会は評議会決議として議員に、委員会に国としての道を示すことにした。願わくばこのこの行為が彼らの背中を押し、自らが再び自らの足で歩み始める契機となるように。しかしこの行動は議会に一定の歩みをもたらす事が出来た半面、"依存"という猛毒を生み出す。そして議会からの「評議会決議が無いので動くことが出来ない」という言葉を聞いた時、最高評議会はこの国の民主主義が死んだ事を悟った。こうして一三〇億人の意志の決定は一一人の最高評議会の手に委ねられるようになった。尚、今日この日の時点においても最高評議会の評議会決議は法的拘束力を持っていない。

 

 

 その日、宇宙歴七九六年八月六日の会議のひとつに軍部から提出されたという帝国領出兵案についての可否を決定する、という事が上げられていた。そもそもイゼルローン要塞攻略から二ヵ月以上経過しているにも関わらず政府はその後の方針を定めていない。それに対し、統合作戦本部は沈黙を守り続けた。攻めるのか守るのか、政府の指示なく重要事項を勝手に決める事は出来ず精々内々に方針決定を嘆願するのが関の山であった。民主主義国家の軍隊として政と軍にはそれだけ大きく乗り越えてはいけないラインがあるのだ。

 しかし、そのような制限下にも関わらず軍の一部将官から最高評議会議長に直接帝国領出兵案が提示された。自由惑星同盟において軍の最高司令官は最高評議会議長である。なので建前上は政治のトップである最高評議会議長ではなく軍のトップとしての最高司令官への意見書としての提出であり政と軍を跨がない、軍内部としての話である、という事だ。この意見書を最高評議会議長ロイヤル・サンフォードが紹介し、会議の議題の1つとした。あくまでも軍部にある話の紹介であってロイヤル・サンフォード個人の発議ではない。責任の所在をあいまいにする玉虫色の極みと言える提案であった。

 

 この発議に対し、最高評議会の半分以上が会議の流れを見極め勝ち馬に乗ろうと積極的な発言をせずに様子をうかがう。会議は反対派の財政委員長ジョアン・レベロと人的資源委員長ホワン・ルイ、賛成派の情報交通委員長コーネリア・ウィンザー夫人の対決を柱として進んだ。日頃の問題の延長線上である事からレベロとルイは具体的数値を元に国力の限界を語り、専守防衛に徹する事による国力回復を希望する。それに対してウィンザーは帝国打倒という国是を盾に反対派を批難する。その実情は数値の伴わない精神論であるが日頃から真剣に政治に取り込みすぎるが故に評議会内で浮いているレベロとルイに積極的に加勢する他の評議員は現れず、それどころかウィンザーの精神論に同調しだす有様であった。

 

「えぇと、ここに一つの資料がある。見て頂きたい」

 

 ここにきてやっと第三者が会話に参加した。それが玉虫色の権化であるサンフォード議長である事に皆は驚くがとにもかくにもその資料を端末で確認する。

 

「これは最新の評議会支持率なのだが……」

 

 サンフォードが力ない声で説明を始める。要するに「現在の支持率は過半数を大きく割っており、このままだと次の選挙で皆その責任を"落選"という形で受けとる事になる。しかし、今から一定期間内に十分な軍事的勝利を得る事が出来れば支持率は過半数を超える」と言うのだ。

 

「軍隊は!軍人の命は!その場しのぎの選挙の為の道具などではありません!!!」

 

 ルイが叫ぶ。隣に座る盟友レベロも何か言おうとしたが見ていた資料に何かを見つけたらしく目線を送りルイに「時間を稼いでくれ」と伝える。

 

「どれほどの犠牲を伴おうとなさねばならないことはあります!」

 

 ウィンザーが叫び返し、ルイと舌戦と言う名の口喧嘩が始まる。ルイはレベロの希望に応える為にあえて理論的な口論はせずウィンザーを適度に煽る事で時間を稼ぐ。

 

「皆様!これはやらねばならぬ聖戦!進まねばならぬ道なのですよ!!」

 

 ウィンザーが周囲を見渡し、一三〇億分の一一人である選ばれた人とは思えない"演説"を繰り返す。その時、ウィンザーの視線にその演説を冷ややかな目で見つめる一人の評議員を見つけ思わず叫ぶ

 

「トリューニヒト国防委員長!!この重要な会議で軍に一番近い立場のあなたが一言も意見を述べていないのはどういう事ですか!!何かおっしゃいなさい!!」

 皆の視線が国防委員長ヨブ・トリューニヒトに集まった。

 

(あの狂夫人め、厄介な事を)

 

 ヨブ・トリューニヒトはその若さと国民の心をつかむ演説才能をもって次代の指導者としての支持を集めている。そして不支持層からは中身のない言葉で人々を騙す扇動者として嫌われている。しかし、ただ口先が達者なだけで評議員の席に座る事は出来ない。彼を彼たらしめるものは裏表全てに網を張る人的コネクションがもたらす"情報"であった。彼はそのコネクションを使い、この議題の情報も前々から入手しておりその是非について既に軍内部の協力者から手ごたえを得ている。その結果は「勝引負の三択だとすると引か負。少なくとも勝ち筋は存在しない」というものであった。しかし同時にサンフォード議長が支持率に関する情報を集めている事、それを盾に流れが出兵に傾く事も予想できていた。彼にしたら賛成側に立つつもりはなく静かに流れを追って反対票を投じればそれでいい。後は出兵の失敗で自分の立場は勝手に上がる。予定よりも早い議長の椅子も狙える。それなのにあの女の当て擦りがやってきた、流石にこの状況で玉虫色の回答をしたらその後の評価に影響が出てしまう。軍の積極派という立場からは外れてしまうがベストよりベターだとトリューニヒトが反対の立場を語ろうとした時

 

「会話の途中で申し訳ないが、一つどうしても見て頂きたい情報がある!」

 

 レベロが声を上げた。今度はレベロに視線が集まる。視線が集まった事を確認し立ち上がったレベロが説明を始める。

 

「先ほどのサンフォード議長の資料には"軍事的勝利を得た場合"の予想が記されていました。しかしその詳細を見る限り支持率上昇はイゼルローン占領前の非戦闘圏や経済的に豊かな州が中心となっており、それら以外の州においては軍事的勝利を得ても支持率は低下すると予想されています。つまり、彼らは積極的な軍事行動そのものを支持していないのです。続いて先ほど私が用意した追加の資料をご覧ください。議長の資料と同じ所に用意しております」

 

 そこまで言うとレベロは発言を一区切りし周囲を見渡す。それぞれの思惑を顔に浮かべながら資料を見始めた事を確認しレベロが続ける。

 

「こちらに記載されているのは最新の世論調査の結果となります。議長の資料にて"積極的な軍事行動そのものを支持していない"とした州の調査結果をご覧ください。これらの州での議会に求める政策の項、そのトップはいずれも「経済対策」です。これが軍事行動そのものを支持していない証拠となります。また、支持率上昇となっていた州においても「経済対策」は一定の数値を得ています。国民の中で「経済対策」を望んでいる層はこれだけいるのです。今回の帝国領出兵案を否決し明確な経済対策を打ち立てる事により十分な支持率は得られるのではないでしょうか? しかも、帝国領出兵案は多数の兵員の命と予算を賭けて実施し勝利せねばいけません。しかし、経済対策は賭けではありません。確実に得られる成果なのです。是非とも本案件は否決し、経済への舵を取るべきです」

 

 レベロがゆっくりと席に座る。言うべき事は言った、後は他の評議員の良心に祈るのみ。周囲の未だ一言も発していないトリューニヒト以外の評議員の目が何か救いを求めるように泳ぎ続ける。

 

「あなたはやれ人命だ経済だとおっしゃいますが結局は政治の主導権を財政委員で握りたいだけなのでしょう。そうすれば委員長であるあなたが権力を得られるのですから。そのような利己的な誘導で会議を乱す訳にはいきません、議長直ちにこの議案を投票にかけましょう」

 

「なっ!」

 

 ウィンザーの口撃は侮蔑とも取れる内容だがレベロには評議員たちからの冷ややかな視線が集まる。レベロが反応しようとするが

 

「これ以上の論議は平行線を辿るだけでしょう。投票を行おうと思います」

 

 サンフォード議長のこの宣言で論議は打ち切られた。各評議員の手元にある投票ボタンが点灯し、投票が始まった事を示される。

 

  賛成六、反対三、棄権二

 

 帝国領出兵案は採択された。この決定に法的拘束力はない。しかしこの議決は決定として歩き始める。一三〇億人の中の一一人、その中のさらに六人のみの意志が一三〇億人の国家を動かす。これが今の自由惑星同盟の政治なのである。しかし、

 

「トリューニヒト国防委員長……」

 

 この決定を一番喜んだであろうウィンザーがそれとは逆の形相でトリューニヒトを睨む。そのトリューニヒトの席に付く投票結果を示すランプは赤、つまりは反対。

 

「私は愛国者ではあるが常に主戦論に立つという事ではない。国を愛する、それは国に必要なものは何かを求め続けるという事だ」

 

 トリューニヒトが悠然と答える

 

「ふんっ! 負け惜しみを」

 

 それだけ言ってウィンザーは席を立ち退出する。会議は終了し、その結果は各方面に知らされる。法的拘束力のないその議決は命令・指示といった形では伝えられずただそういう採択が行われたという情報だけが伝わる事になる。それだけで全ての委員会が動き始める。それは委員長にも止められない。

 

 

 レベロは放心した状態で席に座っていた。盟友であるルイも今はそっとしておくべきだと思ったのか軽い挨拶をして席を立っている。

 

「皮肉なものですな」

 

 そのレベロに声をかけたのは、

 

「トリューニヒト国防委員長……」

 

「財政のあなたと国防の私、この二人が反対したのにこの出兵は実行される。しかし実行されると一番働かなくてはいけないのは我々二人だ。反対している行動を率先して進めなくてはいけない」

 

「まったくです……」

 

 日頃、犬猿の仲と言われトリューニヒトにその通りの感情を抱いているレベロもこの言葉には(トリューニヒトの本心はともかく)同意せざるを得ない。

 

「しかし、それでも責務は果たさねばなりません。それがこの自由惑星同盟の政治なのですから」

 

 そういうとレベロは席を立ち退出する。その憔悴した背中を見てトリューニヒトは一つ予定を修正をする事にした。

 

 

 

 同じ日、統合参謀本部はヤン・ウェンリー少将が提出していた辞表を正式に却下し、先延ばしにしていた中将への昇進を伝えた。

 

 

 

 




ホワン・ルイを男(原作)にするか女(道原かつみ版コミック)にするか迷っていたのでどちらとも解釈できる台詞にして先延ばしにしましたw
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