ありふれた(?)女神転生   作:はるまき

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今回、主人公は影薄いです。


第11話:真夜中に消えた女

目の前には、水を張った田に等間隔にそよぐ、青々とした苗。

稲作、始まったぜ。

 

流石豊穣伸、二級河川位になった清流脇の、薬草園となった川岸から少し離れて、種々の穀物畑が広がり始め、薬草との境なのか、桑の木が列を成して生えてきている。

気になるのは、時々イナゴが湧くことだ。

アバドンフラグじゃないだろうな?

まあ、幸いなことにヘケトとハンサがパクパク食べてくれるので、群生体になってないから安心なのだが。

いや、待て?

なんでエジプト神とインド神湧いとるん!?

 

…あ、蛙は猿田彦大神か!

かの柱は、鼻の長さが七咫で、天狗の元祖とされる事もあるのを拡大解釈して割り込ませたな!?

ハンサはあれか、仏教関連の伝承に、白鷺が縁起が良い、と言うのと地蔵菩薩を絡めたな?

汚い、流石メガテン世界の神!

…まあ、現状役に立つし、放置するか。

 

今、異界では結構バラエティに富んだ悪魔が湧くようになっている。

 

ラム関係では、鬼女、オニ、ライジュウ。

おユキさん関連では、雪女、ジャックフロスト。

弁天様は…川縁で、釣竿を垂らしている人影を見たとか。

しのぶは、安定の河童。

クラマ様は、コッパテングが出現した。

レイは、外道関係がちらほらと。

ランちゃんは、今のところ穀物関係だが、淫魔関連とか、フード悪魔が出てくるかもな。

あ、叢と林が出来たら、ピクシーも勝手に湧いてきた。

自由過ぎるだろ、ピクシー。

 

これらの悪魔に加えてLv10越えのボスが12体。

今の退魔組織では、無理ゲーになってるな、ヨシ!

 

じゃなくて!

今の現世基準で、ラスダンみたいになっちゃってるよね!

バレたら、粛清待ったなしじゃん!!

ライドウ、来ないよね!?

 

異界の事は、厳重に秘する事をMAC所員に徹底したのだが、いずれ漏れるだろうなぁ…。

それまでに、実力をつけねば。

 

てな訳で、ヤタガラスからの依頼に俺も参加することになった。

巷を騒がしている怪事件、「人体蠟化」について協力を求めてきたのだ。

全くの健康だった人が、夜間、路上で蝋人形と化して発見されることが相次いでいる。

スマホがある事から、SNSで目撃者の情報が拡散してしまい、ヤタガラスの隠ぺい工作が間に合わず、社会不安を引き起こし、GPの上昇が顕著になってきている。

早急に事態を収拾させるために、人海戦術で事に当たる方針となり、ウチにも声が掛かったのだ。

これは、絶対に引き受けざるを得ない案件だ。

何故なら、原作に於いて赤井さん、青山さん、桃井さんは、この回で、怪獣の蠟化光線にやられて死亡する。

異界の特訓でLvは上がっているが、予想される怪異の強さから考えると、蠟化を防げるとは思えない。

絶対に俺が、防いで見せる。

 

そう内心で決意していると、待ち合わせ場所に5人の編み笠を被った僧形が現れた。

 

「お待たせしたようですな、ヤタガラス旗下、光覇明宗の蒼月紫暮と申します。」

す、と軽く頭を下げながら、総髪の鋭い目つきをした、少し中年に差し掛かろうかと言う渋いおっさんが挨拶をしてきた。

 

ん?

光覇明宗、蒼月紫暮…??

 

うしおととらじゃねえか!

 

 

 

「蒼月さん、久しぶりですね。」

「ああ、諸星さん、此度はお手数をかけます。」

にこやかに握手をしてくる、諸星氏。

凄腕の悪魔憑き(デビルシフター)、何度か除霊の手助けをしてもらったことがある。

だが、つい最近除霊中に膝に呪いを受け、引退状態になったと聞いたが。

 

思わず膝に向いた私の視線に、諸星氏は苦笑して頷いた。

「大分呪いは軽くなったのですが、まだ変身は出来ません。今MACの主力は、私と同じ悪魔憑き(デビルシフター)の大鳳玄が担っています、玄、蒼月さんに挨拶を。」

「はい!大鳳玄と言います、今日はよろしくお願いします!」

諸星氏が手招きをすると、はきはきとした好青年が私の前に進み出る。

うむ、良く鍛えられているようだな。

 

ああ、潮もこれ位元気であれば良いのだが。

母が居なくなってから、すっかり暗くなった息子。

役目とはいえ、つらい思いをさせている。

 

「それと、おい、的、こっちに来い。失礼、息子の的です。悪魔召喚者(デビルサマナー)として覚醒したので、修練として参加させます。」

ふと思考がそれた間に、諸星氏が何故かこちらを凝視していた少年を連れてくる。

「あ、俺、いや僕は諸星的と言います、今日はしっかり勉強させていただきます。」

わたわたしながら、それでもしっかりと挨拶をしてくる、的君。

ああ、こちらもよく鍛えられているようだ。

一見頼りなさげな優男だが、体幹に一本芯が通っている。

 

「ああ、こちらこそ宜しく。して、君の契約した悪魔とは、どのようなものかな?」

まあ、覚醒したばかりだ。

妖精(ピクシー)の1体でも契約できていれば、御の字であろう。

 

「ああ、丁度偵察に適した仲魔がいますよ。」

そう言って懐からスマホを取り出して、操作する的君。

 

瞬間。

息も付けぬほどの重圧が、襲った。

帯同してきた僧は、耐えきれず膝をついている。

 

「ワシの出番か、サマナー?」

「ああ、クラマ様、コッパテングでの偵察をお願いしたいかな。」

私ですら冷や汗を隠せない大妖を前に、的君は平然と指示を下している。

クラマ…、まさかクラマテングか!?

愕然とする私の前で、大妖は、つ、と宙に何やら印を結ぶ。

ゆらり、と空間が揺らぎ、嘴があり小柄な羽をもった人影が顕現した。

眷属召喚…!

「良いか、何か不自然なMAGの揺らぎを見つけたら報告するのだぞ?」

「御意。」

ばさ、と翼を羽搏かせ、小妖は宵闇の空に消えた。

これほどの大妖を軽々と従えるとは、彼は安倍晴明の生まれ変わりとでも言うのか?

私の内心の惑乱を他所に、大妖は口を開いた。

「何やら妙な気配がうろついておる様だぞ、サマナー。」

 

 

 

跡良 成子(あとら せいこ)は晴れ晴れとした気分で歩いていた。

彼女は、小さいころから老いを恐れていた、嫌悪していた。

大好きだった祖父母も、年を追うごとに小さく、皺くちゃになり記憶も斑になっていく。

あれは、人の抜け殻だ。

醜悪なものになる前に、残したい、残さねば。

その、身を焦がすような焦燥は、年々膨れ上がり。

「その希望、叶えてあげようか?」

耳元で、囁かれた。

 

素晴らしい。

まず、両親を変えてあげた。

今もキッチンで私を微笑んで待っていてくれている。

素晴らしい!

次に、彼を変えてあげた。

いつも、私を両手を広げて受け入れてくれる。

なんて素晴らしい!!

この幸せを、他の人にも分けてあげなければ。

今日も私は、皆を幸せに変えてあげている。

 

「そこな女人、一寸宜しいか?」

 

ほら、また幸せになれる人が来た。

私はニッコリと微笑みながら振り返る。

 

 

小妖からの報告を受けて、私たちは現場に駆け付ける。

く、MACは如何な鍛錬をしたのだ、私以外は遅れがちになっている。

む、向こうに白いワンピース姿の女人が見える…、が、なんだあの醜怪な気配は!?

 

近くまで気配を殺しながら駆け寄り、声をかける。

ゆっくりとすすり泣く様な不快な声を上げながら、振り向く、女。

どんよりと濁った瞳と、三日月のように吊り上がった歪な微笑みを浮かべながら、胸元の黒百合のコサージュが不気味な閃光を…!

しまっ!?

先手を取られたのだと反応する私より前に、的君が叫んだ。

錯乱坊~~!!(チェリー)

「わかっとる、なむ~(マハラカーン)。」

あれは、まさか地蔵尊!?

その高位悪魔から放たれた結界は、私たち全員を包み込み、閃光を跳ね返した!

「ぐ、があぁああああああああ!」

女人が、苦悶に悶えながら見る見る長い白髪の全身に鎧を纏ったような怪異に変化する。

何という判断力だ、それに複数の高位悪魔をしたがえているとは!

舌を巻きつつ千法輪を構える私の隣で、大鳳君が叫ぶ。

「レオ~~~!!」

赤き閃光と共に、依然見た諸星氏と雰囲気が似た悪魔に変身する、大鳳氏。

同時に異界化を成すとは、練れている!

それを横目に、法力を注ぎこんだ千法輪を怪異に投擲する。

合わせるように、怪異に滑るように近接し、拳を叩きこむ大鳳氏。

うむ、流石だ!

理想的な連携となったそれはしかし、怪異の鎧のような外皮に傷一つ付けられず弾かれた。

「バカな!」

思わず呻く。

固すぎる。

法力僧の攻撃も、MAC所員のボーガンの攻撃にも、びくともしていない。

と、

「おりゃああああ!」

的君が、大槌を怪異の胸に叩きこむ。

「があああおおん!」

!、怯んだ!?

「蒼月さん、玄さん、あの胸の花が弱点だ!」

「!、陣を敷くぞ、大鳳君あとは任せる!」

ざ、と法力僧と共に、怪異を五芒の陣で囲み、金鈷杵をがす、と地面に差し。

「縛!」

結界で怪異を縛り付ける!

「今だ、大鳳君!」

『ヘァ!』

頷いた大鳳氏が、両手に霊力を集め放った!!

「ぎぃゃあああああ!!!」

地面に崩れ落ちる、怪異。

人間の姿に戻っていくが…四肢の先端から崩れ落ちていく。

悪魔に、全て飲み込まれたか。

「どうして邪魔するの…、私は、皆に幸せをあげてるのに…?」

心底理解できないと言う表情で見上げてくる、女。

「そうだよなぁ、年は取りたくはないよな。でもなぁ、お嬢ちゃん、息子が生まれた時、少しづつ大きくなる時。その変化が嬉しいんだよなぁ。人が年を取らず、変化しなくなった時。それは、感情すら忘れた化け物なんだろうなぁ。」

「わからない…わから。」

さら、と女は崩れて消えた。

蒼い月が、見ていた。

 

 

 




うしおととら、大好きでした。
紫暮も、渋い感じが出したかのですが、力不足です…。

玉連様、誤字報告ありがとうございます。

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