官邸で、重大発表があるとの知らせに、各局が集まっていた。
バブル崩壊後の不況に加えて、世界各地で起こる紛争。
まこと密やかに囁かれる、悪魔の存在と、世界の終わり。
そんな先行きの見えない世相に、報道機関の人間といえど不安を隠せていない。
そこに、官房長官が演台に上がった。
瞬くフラッシュ。
「それでは、内閣官房からの緊急会見を始めます。官房長官、宜しくお願いします。」
「皆様、開始させていただきます。今回の会見は、東京湾再開発計画についてです。」
会場がどよめく。
この不況下で東京湾の再開発など、やっている暇があるのか?
記者らは、その正義感によって、憤然と質問の手を挙げていった。
「舞日新聞の林です。再開発と仰いましたが、何を目標に開発するのか説明して下さい。」
「皆様ご存じの通り、わが国で新エネルギーが発見されました。ですが、市場の要求に応えられるだけの生産量が達成されていない。そこで、新たに開発する地に、それらを集積してより効率的に生産を行わせるのが目的となります。」
この返答に、各報道機関が鼻白む。
最近の情勢から、民衆はエネルギー関連の話題に敏感になっており、下手に突っ込むと、政府より自分達に批判の鉾が向きかねないからだ。
「明朝新聞の金木です。エネルギー政策が重要なのはその通りですが、埋め立てに必要とされる建機の燃料の確保の目途は立っているのでしょうか?」
真剣な顔を保ちながら、内心彼は嘲笑っていた。
政府が発信していないが、アフリカは今、混沌の坩堝である、と、欧州の友人記者からのリークがあったのだ。
そんな状況では、燃料重油の定期的な確保など望むべくもなく、まともに建機を運用させるとなると、国民に負担をかける事態になるはずである。
昏い期待に燃える彼の眼に、官房長官の明るい笑顔が、捉えられた。
「皆様の疑問は当然の事と考えます。その疑問に答えるものを、用意しておりますので、玄関前までお進み下さい。」
その言葉に、一斉に玄関に殺到する、報道陣。
すると、官邸の玄関に何時の間にか、一台のトレーラーが停車していた。
官邸面が開いてスロープ状になるのに合わせて、残りが後ろに倒れていく。
中には。
人間を巨大化させたような金属の塊が横たわっていた。
と。
ぎしり。
トレーラーの荷台を軋ませて、それが、まるで人間の様な滑らかな動作で立ち上がる。
そして、5mは超えようかと言う巨体が、荷台からの段差を問題なく降りて見せる。
どよめく、取材陣。
「篠原重工が開発した、MAGバッテリーにより動く、有人多目的労働機械、LABORです。」
まあ、こんなもん出したら、そら注目行くわな。
フラッシュで埋め尽くされる画面を見ながら、あの料亭の夜を思い出す。
「要はな、相手が欲する重要そうな物を別に用意してやるのさ。オカルト的要素を極力排除して、日本以外でも製造可能で尚且つ悪魔に対抗可能なやつをな。」
「そんな都合がいいもの…。」
俺が大臣の言葉に反論すると、にや、と笑って続ける。
「いいかい、お前さんたちのコンセプトは、個人が運用できることを目指してる。だが、企業や国が運用すると考えたら、どうだい?」
あ、そうか。
人体サイズに色々詰め込もうとするから、無理が来る。
逆にサイズを大きくしていいなら、余裕が出来るよな。
俺は大臣に断り、カオスに電話した。
「なんじゃ、そんな事か。出来るぞ。」
あっさりと返ってきて、
「はい?」
と、間抜けな返事をしてしまったのは、俺のせいでは無いと思う。
カオス曰く、オカルトを使用しなければ、材料強度や発動機の関係でサイズの限界はあるが、人間が操縦することで動かす機体は直ぐにでも用意できると言う。
ヨーロッパの魔王、半端ねえな。
電話を切って大臣に告げると、ぱん、と手を打ち合わせた。
「いいねえ。そいつを使って、東京湾に人工島を造成させる。人工島って奴は、入り口が限られていて、防諜に向いている。そこに、MAGバッテリーなんかのオカルト関連工場を集約して、」
そこで一旦言葉を切ると、俺の眼を見つめる。
「異界の入り口もそこに移す。」
…なるほどね。
大臣も分かってるだろうけど、異界の入り口をそこに移したからと言って、政府が俺たちを管理出来るかと言ったら、それは無理だ。
でも、政府の指示に従うという姿勢があると言うだけで、安心する勢力は、一定数居るってことだな。
「…そのお話、お受けします。ですが、無理に言う事を聞かせようとした時には。」
一応、釘を刺すと、大臣はほっとした顔をして、続けた。
「分かってる。私もドラゴンの尾を踏むつもりは無いさね。あくまでも防諜が目的だよ。本命はそこで、秘密裏に製作してもらう。」
そしてもう一杯盃を干すと、両膝に手を勢いよく叩き付けて、宣言した。
「さあて、世界相手にイカサマ勝負と行こうじゃないか!」
そんなことを思い出しながら画面を見ていると、丁度官房長官の横にモニターが設置され、白と黒のツートンカラーに塗り分けられたLABORの予想完成図が映し出された。
「LABORを用いた犯罪が想定されていますので、新たに警察用LABOR、PATLABORの部隊を新設して備えとします。また、自衛隊にも自衛隊仕様が配備される予定です。」
そう、LABORは、銃器を扱える。
未覚醒者が撃った場合、戦艦レベルの大砲であっても悪魔は屁とも思わないが、一たび覚醒者が撃つとなると話が違い、銃の威力に従って悪魔へのダメージも上がる。
これは重要㊙事項なのだが、LABORの視覚センサーは、少しのオカルト素材に部品を変えることで、
つまり、戦車サイズの弾を悪魔に撃ち込めるのだ。
おまけに装甲を、異界由来素材との合金製に換装すれば、サバイバリティも向上する。
これらの㊙情報は、米軍に秘密裏に提供され、
最近、
突然この衝撃的な発表を行った篠原重工は、
凄い偶然ってあるもんだね(目逸らし)。
あ、今篠原重工の株、ストップ高のテロップが流れた。
まずもってこの機体を無視できる国家は居ない。
今齎されつつある危機に、現実的に対応できる可能性が提示されたのだから。
更に憎い所は、
金あるところは、まず買うよね。
無い所?
そこに円借款と言うものがあるじゃろ?
にしても、大臣のオッサン、自分が儲けたのは当然として、政界、官僚、財界、延いては米国まで、騙しながら恩を売りつけやがった。
ソファに背中を投げ出して、天井を見上げる。
「俺もまだまだだよな~。」
その視界に、ひょい、とクラマ様が入り込んでくる。
「ふむ、最近の婿殿は、頑張っておると思うぞ?」
珍しくお褒めの言葉を言ったと思うと、その顔が妖艶な笑みを浮かべる。
「頑張っておる婿殿には、褒美が必要よな。」
少しずつ近づいてくる、顔。
クラマ様の艶やかな唇が、俺の口に…。
「浮気は許さないっちゃよ~~!!」
「「あばばばばばばばばば!!!」」
「なにをしさらすか、ラム!」
「ダーリンはウチの物だっちゃ!」
「あらまあ、あたるさんは私が管理いたしますわ。」
「ばばばば馬鹿野郎、旦那は、あたいのもんだ!」
なんか、思ってた
ギャアギャアと喚きあう声を背に、俯せに床を舐めていた俺は、ようよう顔を上げると、目の前に、
「
チーン
がくり。
そろそろ終わりが見えてきました。
後藤さんを出したのは、この展開の布石でした。