異界の拡張は順調だ。
最初は体育館位の大きさであったのが、今では直径500m位の範囲に広がっている。
異界の中央には100m程の高さの鉱山が配置されていて、木々は生えていない。
そこに、しのぶとサクラさんが加わったことにより、中腹に湧き水による小さい泉が出来、そこから清流が流れだして、周囲に薬草が生えてきている。
清流脇の山裾には質素な小屋が立っており、ボス部屋兼、鍛冶小屋である。
既に面堂は、
なに?、刀は作らないのかって?
先ず、まだ魔鉄の採掘量は少なく、刀を打てるまで、無い。
そして、刀ってやつは素人が扱えるものじゃないんだぜ?
下手すりゃ自分の足を斬ってしまうし、刃をしっかり立てないと、斬ることも出来ずに曲がる事すらある。
刀に精通した新選組でも、池田屋討ち入りの後では鞘に入らなかったって言うしな。
その点槍は、農民主体だった足軽が使用していた事からも分かるように、比較的容易く扱える。
なにしろ、へっぴり腰でもミドルレンジから攻撃できるし、振り回しても自分を傷つける可能性が低い。
まあ、極めるのは逆に難しいらしいけど。
それは兎も角として、異界が拡張するにつれ、
ジャックランタン。
メガテン世界では有名な、アギ使いの悪魔である。
やはり鍛冶神がボスだからか、異界の性格として火炎属性が強く出たのだろう。
そこらでフワフワと浮いている。
一見、魔法使いのコスプレをしたパンプキンヘッドが、空中で踊りあっているかのようなファンシーな風景だが、管理異界じゃなきゃ、絶望的だな。
四方八方からアギが飛んでくるかもしれないんだぜ?
今、ここで鍛えられているMAC所員の目標は、ジャックランタンを仲魔にすることだ。
Lvは5~6で、スキルもアギ位しかないのだが、遠隔攻撃があるのは大きい。
特に、女性所員の桃井さんの熱意は高い。
…まあ、見た目かわいいもんね。
「ねえ、ダーリン?新しい仲魔を喚び出すのじゃないのけ?」
現実逃避をしながらジャックランタンを眺めていた俺を、頭上から逆様にラムが覗き込んできた。
「分かっとる!…はあ。」
しぶしぶとアプリに指を沿わせる。
知ってるか?
ジャックランタンの日本語訳って、鬼火なんだぜ?
つまり…。
"SUMMON DEVIL"
「なんや、ワイを喚び出したんは、お前か?」
ラムと似た髪色の、虎柄パンツをはいた頭に小さな一本角が在る幼児が、顕現した。
「そうだ、だから契や」
「うわあ、お姉さん綺麗ぇやなぁ、お名前教えてんか?」
言い掛けた俺の言葉の途中で、ふよふよとラムの方に移動する、ジャリ。
むんず、と頭を掴んで引き留める。
「何さらすんじゃ、われ!」
「じゃかあしい、人の話の途中だぞ!」
「知るか、ボケ、世の中の綺麗な姉ちゃんは、み~んなワイのもんや!」
ぎゃあぎゃあ、と、罵りあう俺らを見て、ラムがぽつりと零した。
「…なぁんか、よく似てるっちゃね、二人とも?」
そのラムの言葉にガーン!!と言う擬音が見える位の驚愕を顔に張り付けながら、ジャリはヘロヘロと落ちて行った。
「そんな、ワイが、こんな阿保面した間抜けと似てるやなんて、とても耐えられへん…!」
「ホント失礼だな、お前!!?」
すったもんだはあったが、ラムからの説得もありジャリは渋々肯いたのであった。
「しゃあない、契約したるわ。コンゴトモヨロシぅな、サマナー。」
「ああ、コンゴトモヨロシク、テン。」
さて、テンのステは。
種族:妖精(ジャックランタン)Lv10
火炎吸収 氷結弱点 魅了弱点
アギ アギラオ
浮遊
まあ、ジャリテン、原作でも火炎放射器としてしか活躍してないし、こんなものか。
しかし、大分属性もそろってきた。
あとは、衝撃と破魔と呪殺か。
破魔は、多分、信じられない気持ちはあるが、錯乱坊が覚えるだろうな、あれでも地蔵菩薩だし。
衝撃と呪殺は、心当たりはあるけど遠いからなぁ。
日帰りではいけないし…少しずつ距離を伸ばしてトラポートを繰り返すしかないか。
豊穣を司る悪魔も仲間にしなきゃならないしな。
テンには再びスマホから出てきてもらって、異界に待機してもらうことにする。
この悪魔召喚アプリ、機能としてはシンプルで、召喚機能と、5体までの悪魔をMAGの消費無く収容できることと、待機中の悪魔のステータスを表示する位しかない。
悪魔が死亡した時は自動で戻って再召喚できるようになる、と言った機能もないし、エネミーサーチ機能や警戒機能もない。
シンプルに悪魔をプログラミングコードに変換して、メモリーに記憶させているだけだ(それでも十分すぎるほど偉業だが)。
一応他の記憶媒体にバックアップすることはできるが、どうやって認証しているか不明だが、マスターで無いサマナーが召喚しようとしても不可能で、またマスターであっても同時に同じ悪魔を顕現させる事は出来ない。
バックアップが出来る管、と言ったほうが良いか。
正直これを使うことに抵抗が無いわけではない。
これによりサマナーが増えて悪魔を召喚すればするほど、GPが上昇して終末に至りやすくなるだろうし、全くの素人が、興味半分で使って悪魔の餌食になっていることも、起こっているはずだ。
幸い覚醒していない一般人が使っても起動せず、只のジョークアプリとして表では扱われている。
しかし、使わなければ備えることすらも出来ないのだから、もう開き直って使っているのが現状だ。
基本俺は仲魔を閉じ込めていることは好まないし、異界の成長にも良いので異界に居てもらうことが多い。
移動時には、3体ほど組み合わせて中に入ってもらい、自宅では、自分のMAG容量を増やすために常に誰か一人顕現させている。
…お袋が、娘を欲しがっているのは、関係ないぞ、うん。
そんな仲魔の中でも、特殊な立場になった者がいる。
おユキさん、現在MACに出向しているのだ。
戦闘目的ではない。
経営コンサルタントである。
今異界の入り口は、MAC所長室の可動式書架裏に、厳重にMAG漏れ対策をした上で繋いである。
この気軽に異界に潜れる環境で特訓を受け、MACは少しずつ地力が付いてきていた。
玄さんはLv8、黒田さんはLv5、他の所員もLv2~3となっていて、少しずつ上昇する悪魔へも何とか対応できている。
しかし、他の零細退魔組織はその上昇に耐えきれず、組織崩壊に追い込まれるところも出てきていたのだ。
親父は、それらから残った人員などを引き受けていたのだが、その計画性の無さを
そこから他の経理やなんやらにも手を付けて、気が付けば今やMACはおユキさんが居ないと回らない、とまで言われる状況になってしまった。
MAGもMAC負担となっている。
おい、親父、良いのか?
事務作業から解放された嬉しさは分かるが、「的の最大の召喚の功績は、おユキさんだ。」、って言ってるけど、退魔組織が
…おユキさん楽しそうだから、ま、いっか!
そんな日常であったが、少しずつ終末の気配が漂ってくることに、俺は内心焦燥感を覚えるのであった。
題名、悪魔アプリにも掛かってます。
生存には欠かせないけど、使えば使うほど危険度が上がっていくと言う。