何か勘違いを成されていませんか? チャルロス聖様
わたくし、チャルロス聖様には大変感謝しておりますのよ? ええ、あの日あなた様に見初められ、わたくしを13人目の愛妾として迎えてくださって、あれからわたくし、ずっと幸せな日々を送っておりましたのに……どうしてあなた様を恨むような事がございましょうか? 理解できません。
ああよろしければ、わたくしめの生い立ちを詳しくお話しいたしますので、ぜひ心を広く持っていただきたいのですが?
あら、不躾ながらそのような態度はあなた様にはふさわしくありませんことよ?
世界の神たる天竜人様ともあろう御方が、たかが奴隷な愛妾の分際に「言うこと聞くから許すんだえぇ~!?」なんて。
下市民が耳にしたら、御身の威厳に傷がつきますわ。
……まぁもちろん、あなた様を侮るような者が居れば、わたくし直々に捻り殺してしまいますので問題はありませんけれど。 ……ミョスガルド聖ばかりはどうにもならないのが口惜しいですが……あんにゃろうよくもチャルロス聖様を……いつか絶対にブチ殺して……おっと話がそれましたわね
コホンッ! では、わたくしの生い立ちを……。
わたくしが生まれたのは偉大なる航路にある、ありふれた小国家の貴族家庭でございました。
それなりに裕福な家庭で、父も母も’’あの時’’は優しかった。あの頃のわたくしは、あのままあの家を継いで、結婚して、それなりな普通の幸せを手にすることができるのだと信じて疑っていませんでした。今思えば能天気にもほどがあります。「普通の幸せ」などというものが、この世界でいかに得難いものなのか、その事を知ることもなく。
だから何も知らず、両親や使用人たちや友達と共に、明るく楽しく穏やかな日々を暮らしておりました。
さてチャルロス聖様。そんなわたくしのかつての日常を、見る影も無く壊してしまったきっかけは、一体何だと思われますか?
ご存じないかもしれませんが、本当に、下市民の生きる下界というのは様々な困難と災厄と、そして悪意に満ち溢れております。
戦争、病気、飢餓、海賊、不景気、干ばつ、天変地異、正義、異常気象、圧制、革命……挙げていけばキリがない程に。
わたくしの場合は、迫害でした。……ほら、御覧のとおり、わたくしってばやたら図体が大きいでしょう?
この間騎士団さん達に測っていただいたら、6メートルと40センチもありました。
信じてくださらないかもしれませんが、父も母も、そして4歳の頃のわたくしもごくごく普通の人間だったのです。
それが、5歳で身長を測った時……急に3メートルを超えていたんですの。それから年ごとにズンズン大きくなって、しかも、力も強く、体も頑丈になっていきました。
うっかり天井や壁に体をぶつければ壊してしまうのは当たり前。ドアノブを握れば潰してしまい、本棚や机を掴めばへし折ってしまう。服だって、気がついた時には破れている始末。自分でも怖くて、もう誰も他人を触れない様になりました。
両親は唖然としましたし、医者や研究者たちも頭を抱えていました。まぁそれはそうですよね。だってそれまで、どこにでもいるただの子供だったわけですから。突然変異みたいなものでしょう。わたくし自身だって信じられなかった。
でも、体が変わってしまったこと以上に、今まで優しかった町の皆様が掌を返したように冷たくなったことが悲しくて寂しくて、辛かったのです。
やれ「シャーロット家」は呪われてるだの、惡神の再来だの、果てには、「悪魔の化身シャーロット家の者どもに鉄槌を!」なんて言って石を投げてくる者もいました。
当然、父にも母にも……迫害の眼が向けられました。悪魔の親は悪魔だって。辛い思いをたくさんさせてしまって、親不孝な娘です。
でも……だからって!? だからって!! どうしてわたくしが、実の父と母に、殺されなくちゃいけないんですの!? わたくしが何をしたっていうの!? なんで!? どうして!? ああ……こんなことになるのなら……わたくしなんか生まれなければよかったのに……。
……ヨロイオコゼと言う猛毒の魚を知っていますか? 肉こそ美味で無毒な一方、皮には巨人族すら一口で死に至るほどの猛毒がふくまれる為、食す前に必ず取り除かなければならない食材です。
そうです、盛られたんですの。父と母が、わたくしを殺すために。
わたくしの食事の中に、そのオコゼの毒を仕込んだのです。15歳の時でした。
……まぁ結局わたくしは、死にそこなってしまったのですけど。
具体的に言うと、半日くらいお腹を壊して寝込んでしまいました。命に別状はなかったのですが……でも無事ではすみませんでした。
後遺症で、両目の視力と、味覚がなくなってしまったのです。何をどう食べても、全くおいしいと感じることができなくなりました。
父と母は、私を殺せなかったことを残念がりましたが、この二つの後遺症を知って大層お喜びになられました。
辛かったです、悲しかったです、怖かったです。そして何より、憎みました。殺したかった。でも、どうしようもなかった。目も見えず、誰もわたくしを愛さなかったから。
そのままわたくしは地下牢に繋がれて、食べ物も水も与えられずに放置されました。このまま餓死させるつもりだったようですね。
生きる意味すらなかったから、抵抗なんてしませんでした。ですがそこでもわたくしは死にぞこなったのです。飲まず食わずで、1か月以上生きていたんですのよ? ひもじくて苦しくて、喉が渇いて痛くって、死にたいほどにつらかったです。
それでも死ぬことができなくて……生きることもできなくなって…………もう何もかもがどうでもよくなりかけたその時でした。
チャルロス聖様が、わたくしの地下牢を開けてくださったのは。
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『シャーロット・D・ジェルべ? 名前なんてどうでもいいえ。お前をわちしの妻にするえ』
『我が妻を!? どうかお辞め下さい天竜人様! 地下牢にベリーが! ……娘がいます。どうかそちらを!』
『わちしに逆らったな? 生意気な奴にはこうしてやるえ~!!』
『そんな! あなた! やめてぇー!! お願いです! 許してくださあいいいい!!!』
『うるさい奴だえ。やっぱお前も殺してやるえ』
『あああああっ!! あ……ぐ、ぎぃゃあああ!!!』
『娘がいると言ってたな? しょうがないからソッチを見に行くえ~』
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まるで、夢のようでした。
天竜人様が、わざわざ下々のわたくしの為に、会いに来てくださった。わたくしを開放してくださった。
それだけでも奇跡なのに、その上求婚までしてくださった。
夢想にまみれた、頭の悪いロマンス小説そのものみたいな状況だったから。
ああ。やっと神様がわたくしを愛してくれたのだと。ようやく報われる時が来たのだと思いました。
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『ありがとうございます、天竜人様。こんな私を妻にしてくださるなんて』
『いいから黙るえ。これからお前はわちしのモノになるんだからな』
『はい。一生尽くします』
『なら、まず手始めに……そこの肉塊が汚いから片付けるんだえ」
『にくかい、ですか?』
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その時わたくしは初めて、父と母が撃ち殺されていることに気が付きました。
目が見えませんが、気付いたのです。後で騎士団の方々に伺ったところ、’’見聞色の覇気’’という力のおかげだそうです。……思えばこの力があったから、チャルロス様は私の眼が見えないことを気付かなかったのですね。失礼、余談でしたわ。
あら、ですから気になさらないでくださいまし。父と母を殺してくださり、わたくしはむしろ感謝しておりますのよ?
掃除だって、そうです♡
一か月以上飲まず食わずでありましたから。チャルロス様のお許しを頂き、血だまりに沈む肉塊に一目散に飛びついてしまって。味も分からないのに夢中でむしゃぶり、飲み干してしまいましたの。生き返るような気分でした。♡
まさか、味覚が無くなってから美味しいと思える食事にありつけるとは、思いもしませんでした。
空腹は最高のスパイスとは、本当によく言ったものです。そもそも体が大きくなってから満腹まで食べた経験が無かったので、なおさらそう感じたのでしょう。
もちろん、今でもチャルロス様から頂くお肉は美味しくいただいておりますわよ? 騎士団の方々からも、『処理が楽で済む』と喜ばれています。食べてるのに感謝されるなんて……ちょっと変な感じですけどね。
ふふっ。だから、不満なんてありませんわ
マリージョアでの生活も、信じられない程幸せでした。まばゆい大きな御城で、食べるものはいっぱいあって♡、わたくしが着れる服もあって、何よりチャルロス聖様がいる。好きなものが沢山ある場所。何不自由のない暮らしでしたわ。
ただそうですね。ちょっとだけ……ちょっとだけ不満があるとしたら……チャルロス聖様が他の奴隷や女の子に目移りしてると、ちょっとムッとしてしまいますの……。ほら、七武海の無敵奴隷バーソロミュー・クマ様に目を輝かせてるあなた様を見ると、わたくしの方が強いのになーとか。
人魚のしらほし姫は大きいけど、わたくしだって背丈も胸もお尻も成長してますし、まだまだ成長期のはず。なんて、少し嫉妬してしまうんです。わたくしはもちろんチャルロス聖様の所有物ですが、チャルロス聖様もわたくしのことだけを見てくださればなーなんて……いえ、お忘れください。こんな醜い心の内を晒すなど、奴隷として恥ずべき行為でございますもの。
でもよければ、一晩だけでも……なんて。うふふ。
え? 今、なんておっしゃいましたの? 聞き間違い……ですわよね? 『奴隷から解放するから出ていくんだえ!』
そんな! どうしてですか!? わたくしは、一生懸命尽くして参りましたのに! 嫌なところがあれば仰ってください、
全部直します。どんな努力も惜しみません。わたくしには時間だけはたくさんありましたから。これまで六式だって、覇気だって。裁縫だって、掃除に洗濯だって、なんにでも取り組んでまいりましたのに!!
……あぁ、わたくしに飽きられたということでしょうか。きっとそうですわ。そうにちがいありませんわ。ちょっと飽き性ですものね、チャルロス聖様ってば。
なら、もっと美しく、強くなって見せますから。ええやってみせますわ!
え? 違うって? 何が……『怖い』? うそ、うそ、ウソですわよね? 「怖い」なんて、そんな……父と母みたいなことを……
チャルロス聖様も、わたくしを捨てられるんですの? だめですわ、そんな、あなた様に見捨てられたらもう生きてはいけないの……
イヤ……イヤ、ヤメテ……イヤーッ!!
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***
『ヒ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ァ゛ア゛ア゛ア゛ア゛ア゛
ち゛ゃ゛る゛ろ゛す゛せ゛い゛さ゛ま゛あ゛あ゛あ゛、゛す゛て゛な゛い゛で゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛
ど゛う゛か゛あ゛あ゛あ゛あ゛お゛そ゛ば゛に゛い゛ぃ゛ぃ゛ぃ゛
う゛わ゛わ゛わ゛わ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛あ゛ぁ゛ぁ゛あ゛あ゛ん゛』
バリ!! バリバリッ! バリリリリ!!
少女の叫びと共に、選ばれし王の資質『覇王色の覇気』が解き放たれ、聖地マリージョアに黒い稲妻と激震が走る。
そして次の瞬間、空を覆う暗雲から雷が轟音を立てて落ち、大地を揺らした。
マリージョア中の奴隷と天竜人が気絶し、地面に倒れる。サイファーポールや常駐する海兵たちでさえ、シャーロット・D・ベリーの慟哭を止めることは敵わず、耳を塞ぎ震えることしかできないでいた。
天を衝く激震はその後、5分間止むことなく続き、マリージョアのあらゆる場所を揺らし続けたのだった。
***
***
ああ、ああ、ああ、マリージョアが滅茶苦茶に……五老星やイム様まで……全部、わたくしのせいなのですわね。ごめんなさい、本当に申し訳ございません。許してもらえるなんて思ってはいません。
チャルロス聖様を傷つけてしまった。裏切ってしまったのは、わたくしの方ではありませんか。もうわたくしなんか、死んでしまった方がいいのです。父と母が、正しかったのですわ。
チャルロス聖様。こんなわたくしを救ってくださり、本当にありがとうございました。これまでの時間はまるで夢のようで、あなた様は私にとって、本当に神に等しい存在だった……どうか、御幸せに
そしてお父様、お母さま、今一緒のところに向かいます。
それにしても……わたくしのお肉って、食べたらおいしいのかしら♡
やだはしたない、涎が♡
はむ♡
――end――
☆シャーロット・D・ベリー
人間(17歳)
身長:660㎝
出身地:偉大なる航路
出身国:(シャーロット・リンリンと同郷)
血液型:X型
誕生日:11月6日
覇気:覇王色、武装色、見聞色
好物:お肉♡
嫌いな食べ物:魚
趣味:日がなチャルロス聖を眺めていること。見聞色でマリージョア中を観察すること