エビルシャーク討伐からさらに10分ほど探索を続ける2人。
それまでの間会話らしい会話はほとんどなかったが、重苦しい空気が漂っているかといえばそうではない。
単にクラムが話し下手であることがエミリアにも伝わったことで、無理に会話をしようという雰囲気がなくなっただけ。
だから全くの無言というわけではなく、時折肩肘張らない雑談が交わされていた。
それに伴い彼女の中で変化があったらしい。
「──ねえクラム、ビーコンってこの辺りに付ければいい?」
「位置はそこで大丈夫。でももうちょっと高い方がいいかな、俺が付けるからエミリアは端末見てて」
相変わらず原生生物の対処はクラムが担当してエミリアは物陰から覗いているだけ。しかし通路の探索やビーコンの設置など、戦闘以外の部分は積極的に手伝ってくれるようになっていた。
「ふふん、ビーコンの取り付けも結構慣れてきたかも」
「1人でやると意外と手間だから助かるよ……ん?」
「な、なに!?」
突然立ち止まったクラムに驚いて反射的にその後ろに隠れるエミリア。しかし腰に下げた【剣影】を抜刀することなく歩いて行く様子から戦闘ではないことを察したらしく、恐る恐るだが背中越しに彼の視線の先にあるものを確認していた。
槍のように鋭くなった頭部及び最低限の動力炉だけで構築されたシンプルな構造のそれは、レリクスを守る自律機動兵器【スタティリア】の一種である【タヴァラス】。床に転がっているのはその残骸だった。
「エビルシャークがやったの?」
「いや、狩る側だったのはこのスタティリアの方だね。エビルシャークはコレが起動したせいで縄張りを追い出されたんだ。
だから興奮状態であんな場所にいたんだと思う」
しかしながら現にこうして残骸が転がっており、他の部位に目立った損傷がないにも関わらずコアとなるAフォトン・リアクターのみが正確に撃ち抜かれていた。
このスタティリアは音の反射で敵を捕捉して突進を繰り返すだけの単純なプログラムで動いている。それほど厄介な相手ではないが、そのコアを一撃で狙撃できるとなればかなりの手練れだ。
「──スクラップ集めのお仕事ですかぁ?」
「っ!?」
予想外の方向から声をかけられ、とっさにクラムは声の方角とエミリアの間に割って入り抜刀。
先ほどまで誰もいなかったはずのそこに立っていたのは一人の女性キャストだった。
身長は165センチ程度。無骨で機械らしさが全面に出ている男性キャストと比べると、人工毛髪や人工皮膚などを用いた流麗なシルエットに、ヒトの装束ように軟質金属や布で装飾が施されたパーツを装備していることが多いのが女性キャストの特徴だ。
彼女もその例に漏れず、肩より少し長いワインレッドの人工毛髪は二つ結びにし、黒いドレス風のパーツを身にまとっている。ただし服の方は既製品を改造しているのか、見覚えのあるデザインながらもそれよりもさらに露出が少なかった。
それだけならば暗くとも華やかな見た目なのだが、彼女はおでこから目元までを黒いバイザーのようなもので覆っている。
よって、まともにその色白な人工皮膚が見えているのは鼻と口ぐらい。個々のパーツだけならそうでもないが、全体の印象はまるで喪服だ。そんな体格や服装も相まって華奢な印象を受けるが、侮ることなかれ。
その細い身体が軽々しく抱えているのは【エクスプロージョン】。大型兵装のレーザーカノンに分類される武器の中でもトップクラスの銃身の長さを誇り、全長は彼女の背丈の倍近くはあった。
現代の技術なら各自が設定した【戦闘タイプ】に応じ、シールドラインが装備品に重量補正などをかけてくれるとはいえ重いものは重い。それを難なく扱っているとなると純粋な腕力でもビーストであるクラムといい勝負かもしれない。
さらにそんな巨大な武器を持っているにも関わらず、声をかけられるまでクラムでさえ気付くことができなかったほど気配の消し方が上手い。武器的にも床に転がるスタティリアを仕留めたのは彼女で間違いない。総合的に見ても実力はクラムと互角だろう。
「そんなに敵意を向けなくても大丈夫ですよぉ。貴方の仕事を取るような真似はしませんし。
私の仕事を奪うつもりなら、話は別ですけどねぇ?」
ところどころ間伸びした口調で話すキャストだが、クスクスと笑う口元とは裏腹にその手に持つ銃口はこちらへ向けられている。
最初から敵対しているならまだしも、こんな非常事態に敵を増やすことはしたくないためクラムはすぐさま【剣影】を納刀。
念のためエミリアの盾になる立ち位置は維持しつつ、両手を挙げて戦闘の意思がないことを伝える。
「こっちも戦闘は避けたい。話の内容的に、貴女も今回のレリクス調査で雇われた傭兵ってことでいいのかな?」
「その認識で間違いありませんよぉ」
「20分ぐらい前の地響きと警報については?」
「そういえばそんなこともありましたねぇ」
「なら話が早い。あの地響きはレリクスの再起動が原因みたいで、今は拠点にあった出入り口が封鎖された状況なんだ。
閉じ込められたことは伝わってるから救助は来ると思うけど、いつになるかわからないから出口を探すのを手伝って欲しい」
まだ正式に調査が始まっていないのこんな奥深くにいるのは、他の傭兵よりも早く依頼を達成して報酬をもらうためだろう。安全面の観点から依頼開始前の行動はルール違反なのだが、実際それをやっている傭兵が一定数いるのも事実。
対策として傭兵同士で相互監視するのが暗黙の了解とはいえ、今それを指摘するのは適切ではない。依然として睨み合いが続く中、状況と要望だけを簡潔に伝えて相手の反応を待つ。
「……それが嘘でないという証拠はありますかぁ?」
「そこ疑うところ!?」
……この辺りは傭兵業の経験値差か。クラムと違ってエミリアは彼女の返答が信じられなかったらしい。
「依頼の中には討伐数などによって報酬が変動するものもありますからぁ。
そして、そういう依頼は何組かに同じ内容でお願いすることがあるんですよぉ。理由は人海戦術っていうのと、競争相手を作ることで闘争心を煽るためですねぇ。
ただこの闘争心が曲者で、仮に私と彼が同じ依頼の競争相手だった場合、私を嘘の情報で追い出して成果を横取りする、なんて光景はよくあるんですよぉ。
理解してもらえましたか、かわいい傭兵さん?」
無視してもいいだろうに、意外にも女性キャストはその理由について懇切丁寧に説明してくれた。ただまあ、相手を煽るような言い方だったのは気になったが……
「俺と一緒に拠点へ戻って……だとしても俺がこの場にいない誰かと共謀して追い出そうとしてる可能性までは潰せないか。
じゃあ仮に俺が嘘を言ってるとして、どれだけの見返りがあれば聞き入れてくれるかな?」
「ふふ、どうやら交渉が苦手なようですねぇ」
「……コミュニケーション自体が苦手なんでね」
実際、結論を急いでかなり愚策な提案をしてしまったと後悔をしているが、緊急事態故に人手が欲しい状況だ。多少のリスクは負うしかないと腹をくくる。
目の前では女性キャストが沈黙して見返りの内容を熟考しているようだが、レーザーカノンの銃口は依然としてこちらへ向けられたままだ。
その引き金が引かれないことを祈りながら物音を立てず息を殺していると、耳が痛くなるほどの静寂の中でカチカチと一定の間隔でリズムを刻む音があることに気がついた。
一度気になるとたとえ小さな音でも無視することができず、動けなくともつい視線を動かして音の発信源を探ってしまうのは生物の本能なのだろうか。
そうして視線を巡らせた結果、どうやら女性キャストの腰に下げられたものから奏でられているようだった。手のひらに収まりそうな大きさのそれはてっきり服の装飾品の一部と思っていたが、状況から察するに懐中時計なのだろう。
だがなぜそんなものをキャストが身につけているのか、その答えが見つかる前に彼女の持つ銃口がゆっくりと下げられた。
「では、貴方たち2人とパートナーカードの交換というのはどうでしょう?」
「……個人情報の提示ってことね」
「妥当なところだと思いますよぉ?
フリーの傭兵は何かと費用がかさみますし。仮に本当に閉じ込められたのだとすると、正当な報酬が受けられるかわかりませんからぁ。
私個人としては数週間飲まず食わずでも問題ないので、救助を待ってもいいですからねぇ。
あるかもわからない出口を探すために備品を消費するなら、今後につながるものでなければ割に合いませんからぁ。
それに、いざという時にお互いに連絡先を知ることも必要でしょう?」
そっちの情報が偽造されてなければね、と思ったがその軽口はこの交渉をさらに不利にするだけ。喉元まであがってきていた言葉を飲み込み次の言葉を探す。
「……この子は成り行きで俺と行動してるだけなんだ。だからこの子のパートナーカードは勘弁してあげてほしいんだけど」
「それが本当と証明できない以上、承諾できませんねぇ」
予想はしていたが妥協は許されないらしい。しかし、クラムの後ろに隠れたままのエミリアに視線を向けた女性キャストは一瞬だけ口元を歪ませた。バイザーで表情は読み取りにくいが、もしかすると眉をひそめたのかもしれない。
ただ表情がわからない故に睨まれたと勘違いしたのか、エミリアは再びクラムの背中の後ろに隠れてしまう。
「大丈夫?」
「う、うん、気にしないで。
それよりクラム、私のパートナーカードも交換していいよ。どうせ知られて困るようなことはないし」
「……では交渉成立ですねぇ、
「……そうだね」
女性キャストはレーザーカノンをうなじにあるナノトランサーへ収納。代わりに取り出した端末を操作してパートナーカード交換を済ませていく。
表情が曇るクラムに対し、エミリアはこの交換に危機感を抱いていない。
……得体の知れない相手に個人情報も記載されたパートナーカードを渡すリスクにまで理解が及んでいないのは、この場合はある意味幸福なのかもしれない。
「クラム君とエミリアちゃん、ですかぁ。よろしくお願いしますねぇ」
「……こちらこそ、ラミュロス」
自分の交渉下手のせいでエミリアの情報まで渡してしまったことを悔やむクラムは、せめて相手の素性を探れないかと彼女のパートナーカードへ目を通していく。
しかし残念ながら彼女もクラムと同じくフリーの傭兵。所属団体も無ければ本物かどうかもわからない連絡先ぐらいしか読み取れるものはなかった。
それ以外でわかったことと言えば彼女が『ラミュロス・パトローネ』という名前であることと、あとはパートナーカードの発行元がパルムではなくニューデイズである点ぐらいだろうか。
「十分な見返りがあるなら個別対応もしておりますので、今後ともご贔屓に」
言いながら端末を収納し身軽になった彼女の足が向かう先は、レリクスの奥ではなくクラムたちが来た方角。
拠点からここに来るまでは壁が崩落していた場所を除けばほぼ一本道であるため、逆走してたどり着くのは当然拠点だけ。
それがわかっているからこそ、心強い背中の影に隠れた少女はその背中を呼び止めた。
「ちょ、出口を探すの手伝ってくれるんじゃないの!?」
「もちろん協力しますともぉ。ただし情報が本当か確かめる必要がありますので、一度拠点に戻らせてもらいますがぁ」
「とか言いながら、安全な場所で助けが来るまで待つつもりでしょう!」
「それは言いがかりですねぇ。協力するという条件で報酬も前借りしましたし、ここで契約を破るのは後の関係も考えると合理的ではありませんからぁ。
それに出口を探すとなれば崩落した壁の先も確認する必要がありますし。そうなれば3人固まって探すより、ある程度バラけた方が効率的と思いますよぉ?」
「う、うー……っ! 正論過ぎて言い返せないぃ……っ!!」
最初の印象が悪すぎたのか、エミリアの中では目の前の彼女は嘘をついていると思って疑わないらしい。しかし自分が突っかかったところで歯が立たないことはわかっているため、クラムの後ろで威嚇をするのが精一杯の抵抗のようだ。
しばらく少女の虚しい威嚇を笑いながら見ていたラミュロスだったが、不意にその視線はクラムの方へと向けられた……気がした。
確認できるのは口元だけだが、それでも真剣な表情をしているのは十分に伝わってくる。
「見たところ、そこのかわいい傭兵さんは戦闘慣れしていませんねぇ?
パートナーカードに記載された所属もそれぞれ違いましたし、本当に成り行きでここまで来てしまったのでしょう。
ですがここより奥へ彼女を連れて行くのはおすすめしません。彼女だけでも拠点へ引き返すことを提案します。
もしよければ、護衛を引き受けますよぉ?」
その提案はエミリアの安全を考えるなら願ったり叶ったりな提案だ。現状、遭遇するエネミーも原生生物よりスタティリアの割合が増えてきている。
警備の配置的に、おそらくこの奥には何か重要な設備があったのだろう。となれば、この奥にはクラムでも対処が難しいスタティリアが起動している可能性も十分にあり得るのだ。
しかし彼の背後にいる少女は絶対に離れまいと腰に腕を回してがっしりとホールドしていた。拠点のときもそうだったが、こうなってしまうと彼女はテコでも動かないだろう。
「ごめん、悪気はないんだ」
「まあ第一印象が悪すぎましたからねぇ……
これ以上は止める義理もありませんが、くれぐれも無茶はしないでくださいねぇ」
肩をすくめ力なく笑い、女性キャストは今度こそ拠点へと戻っていった。
その背中を見送り、再び2人になるが少女の怒りはまだ収まっていないらしい。
「もう、あいつ絶対協力する気ないって!
あーあ、こんなことならパートナーカードなんて交換するんじゃなかった……」
「今回は俺の交渉ミスだけど、これからは素性を知らない相手にパートナーカードを交換しないよう注意しないとね」
「あんたは心配じゃないの? 出口を探さないどころか、救助が来ても連絡してくるかも怪しいのに?」
「それに関しては大丈夫だと思うよ」
あまり印象のいい出会い方ではなかったというのに、意外にも彼女に対するクラムの評価は高かった。それを信じられないと言わんばかりに眉をひそめて顔を覗き込んでくる少女。
直感であるためどう説明したら伝わるかと首をひねってしばし悩んだものの、しっくりくる答えが出ることはない。
「強いて言うなら俺と似てる雰囲気があったから、かな」
「似てる? あいつとクラムが?」
「まあ直感だけどね。……意外と当たるから大丈夫だよ」
少女の表情からしてやはり理解は得られなかったらしい。それでもそれ以上の不満がなかったのは多少なりとも彼女から信用はされているからかもしれない。
そこよりさらに奥はフロアが極端に少なくなり、狭い通路が延々と続いていた。
幸い遮蔽物の少ない一本道のため危険は少なかったが、代わり映えしない風景は意識していなければ集中力が削がれていきそうだった。
そんな通路を抜けると風景は一変。今までと比べて一段と広いフロアへとたどり着いた。壁や床に施された装飾は他の場所と系統が変わり、特別な空間であったことは容易に想像がつく。
「まだ出口は見えないか。他と雰囲気が違う部屋だし、出口そのものじゃなくても転送装置の1つや2つあってもいいと思うんだけど」
「うう……この場所で探索するの? 壁に並んであるの、大型の自律機動兵器だよ?
もしこれが動かしたらとか考えると……」
自分の肩を抱いて身震いする少女の目線の先にあるのは、4メートル近い巨体とその身の丈ほどの斧を持った【スヴァルティア】と呼ばれるスタティリアだった。
ここ以外のレリクスでも多数目撃されており、過去何度かレリクス探索に参加したことがあるクラムにとっては見慣れた存在だ。しかしそれは壁の装飾品としてだ。この兵器が起動している場面には今まで立ち会ったことはない。
──だからこそ、目の前の1体が歩き始めた時には思わず全身の毛を逆立てた。
「……ちょっ、じょ、冗談でしょ!?」
「声抑えて」
エミリアの手を引き、クラムは素早く近くの柱の影へと移動。その際に彼女の表情と、柱越しに見えるスヴァルティアの動向の2つを同時に確認できる位置取りを確保する。
そしてまずは少女を落ち着かせるため、向かい合った状態で右手の人差し指を自分の口の前に置く。いきなりのことに少女は目を白黒させてはいるものの、クラムの意図を組んで自分の口を手で押さえつつ頷いていた。
念の為に柱の影からそっと顔を出して確認してみるが、どうやらスヴァルティアはこちらに気づいていない様子。
起動したのはクラムたち侵入者に反応したのではなく、レリクス起動による自動防衛の一環だったらしい。
くわえて不幸中の幸いというべきか、まだシステムが完全に立ち上がりきっていないのか索敵が甘い。完全に起動されれば隠れることは不可能だろうが、少しでも時間が稼げるのはありがたかった。
「……エミリア、ここから拠点まで一人で戻れるかな?」
「一応道は覚えてるけど、って一人? 待って! もしかしてあいつと戦う気!?」
「あれに追われたままだと、進むのも引くのも難しいからね。
けど、さすがにあれ相手にエミリアを庇いながら戦える自信はない。それよりは、ある程度安全が確保できた道を戻ってもらった方がいい。急げば途中でラミュロスと合流できるだろうし」
あの人がちゃんと拠点に向かってるならね、と付け加えながら青年は困ったように笑った。
今にも泣き出しそうな少女をこれ以上心配させまいと振る舞うが、残念ながら彼もその手のコミュニケーションが得意なわけではない。
だが悠長に説得している時間もない。せめて安全にここを離れられるよう、囮として柱の影から飛び出そうとする。
しかしそれを引き止めるように、小さな手がクラムの腕を引っ張った。
「あ、あたしも……戦う」
その言葉は一人が心細いからか、はたまた別の理由か。
戦うのは嫌だ、とさんざん言っていた少女が自らの意思で口にしたその言葉。このまま無視することもできたかもしれないが、絞り出した彼女の言葉に対しそんなことをする考えは不思議と浮かばなかった。
背後からはスタティリアの索敵音がこちらに迫ってきているのがわかるが、青年は少女と同じ目線の高さで向かい合った。
「かなり危険な戦いになるよ?」
「わ、わかってる。戦うのは嫌。でも、ここでクラムを置いて逃げるのはもっと嫌!
あたしが足を引っ張らなきゃ勝てるんだよね?」
「エミリアが力を貸してくれるなら必ず」
投げかけられた質問に即答したおかげか、幾分か少女の表情が和らいだのがわかる。
だがそこへ彼女を試すかのようにスタティリアの咆哮がフロア中に響き渡った。どうやらこの場所を特定されたらしい。
本能的な恐怖を呼び起こす雄叫びにエミリアの表情が強ばるが、深呼吸を何度か行いながら太ももに巻き付けてあるナノトランサーからロッドを取り出し、彼女は己を鼓舞するように笑う。
「なら、あたしも覚悟を決める。クラムのこと、信じるからね!」
「じゃあ、俺も頑張らないとだね──」
言うが早く、クラムはエミリアの身体を軽々と抱えあげると柱の壁から飛び出した。直後にスタティリアの巨大な2人のいた場所へと振り下ろされる。
柱を飴細工のように砕き、地面に亀裂を作るその威力はシールドライン程度では防ぐのは難しいだろう。
そんな一撃を紙一重で避けた直後だというのにクラムは冷静に体勢を整え、少女一人を抱えているとは思えない身軽な動きでスヴァルティアから離れてからエミリアを下ろした。
「ロッドを持ってるってことは、エミリアは【テクニック】が使えるんだよね? 闇属性は使える?」
【テクニック】とは大気中に漂うフォトンに干渉し、フォトン・リアクターを媒介として超常現象を発生させる技術のことだ。
フォトン・リアクターによって変換されるエネルギーはその性質ごとに【炎】【氷】【雷】【土】【光】【闇】の6種類に加え、現在特に目立った性質が確認されていない【無】の計7つの属性に分類されるのだが、基本的に引き出せる属性は一つだけ。
クラムの【剣影】で例えると、今彼が使っているのは無属性であり、もし属性を変えたいのであれば別の武器に持ち替えなければいけない。
しかしテクニックを扱うためのフォトン・リアクターは特殊で、【無】を除く6属性を使い分けることが可能なのだ。威力は使用者の精神力が顕著に現れるため得意不得意はあれど、多種多様な超常現象を引き起こす事ができる。
「え、あ……め、【メギド】ぐらしか使えないけど」
「使えるだけで十分。俺があいつの動きを止めるから、合図をしたらありったけのテクニックをぶつけてほしい。それまでは武器も収納してここで待機だ」
「武器も?」
「そう武器も。詳しいこと説明してる暇はないけど攻撃の要はエミリアだから、いつでも動けるようにしててほしい。
ただし、危ないと判断したら迷わず後ろの通路へ駆け込むこと、いい?」
「う、うん!」
「良い返事だ」
覚悟を決めたとはいえ戦闘経験の乏しい素人であることに変わりない。
だが戦う覚悟を決めた少女は、ただ守られるだけの護衛対象から微力ながらも『戦力』になった。彼女の覚悟を無駄にしないよう、白銀のビーストは首のチョーカーに触れながら、自分よりも巨大な兵器へ向かって疾走する。
当然スヴァルティアが黙って立っているわけもなく、その手に持った巨大な斧が横薙ぎに払われた。
「まあ、そうくるよね」
目の前のスタティリアと戦うのは初めてだが、似た骨格でこれより一回り小さいものとなら戦った経験があるクラムにとってそれは予想通りの行動。
胴体を刈り取らんとする軌道で刃が迫るが、彼はさらに体勢を低くして地面を滑ることでやり過ごした。
そしてがら空きになった懐へ潜り込むと腰にさげた【剣影】を抜刀。瞬く間に6度の斬撃を叩き込んでみせた。あまりの速さに打撃音が1つにまとまって聞こえるほどの連撃は、スヴァルティアの左足に数センチの深い傷を刻む。
「岩ぐらいなら切れる威力で振ったんだけど……
やっぱり大型兵器に組み込まれたシールドラインは厄介だね」
足元の虫を踏み潰すかのごとく暴れるスヴァルティアの動きを軽やかに避けながら、クラムは眉をひそめて舌打ちする。
目を凝らせばこの大型自律兵器を覆う薄い膜が見えるが、それは現代の人間も身に着けているシールドラインと同系統のもの。
しかし小型化のためにフォトン・リアクターで運用される現代のものに対して、多少の大きさは問題ない自律機動兵器には安定して高出力を維持できるAフォトン・リアクターが用いられている。その強度は並のシールドラインの比ではなかった。
さすがは、SEEDの対抗策として旧文明人が生み出した兵器だといわれるだけある。
それでもクラムは怯むことなく攻撃を加え続け、スヴァルティアへ確かな傷を増やしていく。
「気をつけて、相手の動きがさっきと違う!」
「っ!」
エミリアの声に反応して大きく後ろへ後退した直後、スヴァルティアに内蔵されたAフォトン・リアクターが一際明るく輝き出し、テクニックにも似た雷撃を自身を中心に広範囲へ放った。
地面を転がるようにしてギリギリ範囲外へ逃れることができたが、あのまま張り付いて反応が遅れていれば避けきれず、いかにクラムといえどただでは済まなかっただろう。
「ありがとうエミリア、助かった!」
「う、うんっ!!」
間合いの関係でクラムは4メートル近い巨体に張り付かざるをえないのだが、そうすると相手の動きを全ては把握できない。エミリアの位置はクラムの死角を補うのに最適な場所だったのだが、そこまで頼むのは酷だと判断して彼は指示はしていなかった。
なのに実際は自分の役割を理解して的確な指示を繰り出してくれた。戦闘そのものは未経験だとしても、彼女のポテンシャルは思っている以上に高いのかもしれない。
「これは、俺もカッコ悪いところは見せられないね」
雷撃が収まると同時に再びスヴァルティアに張り付いて連撃を与えていくクラム。
絶えず立ち位置を変え、時にコマのように回転しながら繰り出す斬撃はシールドラインの上からでも相手の装甲を着実に削っていくが、それでも破壊するには至らない。
それでもクラムは攻撃を緩めることはなく、むしろ先ほどよりも激しく斬撃を叩き込む。
「エミリア、そろそろ攻撃準備を──」
何かを見極めフロアの端で待機しているエミリアに指示を飛ばすが、ここでスヴァルティアが斧を大きく振り上げた。
張り付いていたクラムでもわかるほど大きな動作に彼の直感が警笛を鳴らすものの、それを言葉にする前に相手の方が早く動いた。
「なん……っ!?」
局所的に重力でも操ったのか、その巨体が跳躍したのだ。それだけならクラムも適切な対応を取れただろうが、その標的が自身ではなく、後方にいたエミリアだったことで思わず動きを止めてしまった。
スタティリアは高度なプログラムで動いているとはいえあくまでプログラムだ。瞬時に学習して進化するがそのパターンを把握して意図的に偏った学習をさせればある程度の制御は可能なはずだった。
だから相手がエミリアを脅威と判断しないよう、フロアの端で攻撃もさせず武器すら持たせずに待機させていたのだ。
「俺が把握できてない『何か』が、俺よりもエミリアを脅威として判断させた……?
いやそれよりも……っ!」
考察は後にして駆け出すが流石に間に合わない。エミリアもいきなりのことで動けていない様子。
彼女の装備しているシールドラインがどれほどの性能であろうと、振り下ろされる斧をまともに受ければタダでは済まないだろう。
「エミ──はぁ!?」
なりふり構わずクラムが『切り札』を切ろうとしたその時、覚束ない足取りながらエミリアも遅れて動き出す。──ただし、迫り来るスヴァルティアに向かう形で。
その無謀な行動に思わず素っ頓狂な声を上げるクラムの目の前で、少女は足をもつれさせながらもダイブ。スヴァルティアの下をくぐる形で回避に成功した。
顔面から着地する不恰好な回避に肝を冷やしてクラムが駆け寄るが、シールドラインのおかげか目立った傷はない。
「あいたたた……上手く行ったみたい?」
「……ほんと、無茶するよ。けどナイスファイト」
その奥では標的を見失った斧が床に振り下ろされている。瞬く間に床に亀裂を走らせるその攻撃がどれほどの威力だったのか想像するのも恐ろしい。
さらに床に亀裂を走らせるだけでなく通路の崩落まで引き起こしており、もしエミリアが通路側に逃げていたら崩落に巻き込まれて生き埋めになっていたかもしれなかった。
一見無茶な彼女の行動だったが結果的にはそれが正しかったといえよう。
「あと一息だ。エミリアは武器を構えて待機。いけるね?」
「も、もちろん!」
その力強い返しに満足そうに頷き、クラムは得物を握り地面を蹴る。
対するスヴァルティアも地面から斧を引き抜き、振り返る遠心力を利用してその巨大な斧を振り回す。その軌道は先程よりも低く、先程と同じようなスライディングでは避けられないように対策されていた。
しかしクラムもそれを瞬時に判断し跳躍。斧の上を飛び越えそのままスヴァルティアの胴体へ肉薄すると、回避などを考慮しない渾身の一撃を叩き込んだ。
今までのどの攻撃よりも強力な一振りは、その一撃だけでシールドラインに守られた胸部に深々と傷を付ける。それでも継続的に攻撃を与えていた脚部ほどの損傷にはならず、その奥にあるコアにも当然届かない。
にも関わらず、その銀狼は何かを確信して小さく笑みを浮かべた。そして、それを証明するように目の前の自律機動兵器の動きに異変が起こる。
まるで油を指し忘れたロボットのようにぎこちない動きを繰り返し、最終的には機能を停止したわけでもないのにその場で動かなくなってしまったのだ。よく見れば、その体表ではいたるところで断続的にスパークを起こしている。
「これって、【麻痺】?」
エミリアが呟いたそれは、雷属性のエネルギーが稀に引き起こす状態異常の一種。
フォトン・エネルギーは刃などの形状に固定されていても常に流動的な性質を持つ。そこへ雷属性のエネルギーが過剰に干渉した場合にその流動性を鈍らせる事があるのだ。
そして鈍ったフォトン・エネルギーがシールドラインのように全身を覆うものだった場合、全身を守る鎧は一変して拘束具となり、さらには周囲のフォトンとの干渉すら遮断しテクニック等も封じるため、目の前のスヴァルティアのように何も出来ずに動きを止めてしまうというわけだ。
その際、同様の能力で動きの鈍ったフォトンはスパークのような現象を断続的に起こすため、巷では『麻痺した』ともっぱら表現されている。
ただし彼の持つ【剣影】は無属性。その武器が『妖刀』と恐れられているのは、属性に関係なく武器そのものが麻痺を引き起こすことができる能力を秘めてるが故だった。
「エミリア今だ!」
「っ!? う、うん!」
クラムの叫び声で我に返り、エミリアは一心不乱にロッドを振り回す。構えや振り方など意識する余裕もないが、打てるだけのテクニックを動かなくなった相手へ向けて放つ。
純白のロッドから放たれた黒いエネルギーの塊は、お世辞にも強力な威力を有しているとはいえない。
しかしそれらが吸い込まれるようにスヴァルティアの胸部へと集中すると、直撃する際に急激に威力が増大。
傷の入っていたスヴァルティアの胸部を砕くだけでなく、その奥のコアにまで大きなヒビを入れて4メートル近い巨体を大きく仰け反らせることに成功した。
「やっ──」
慣れていない戦闘での、おそらく初めての手応えに少女は喜び跳ねる。しかし、倒れゆく巨体は最後のあがきとも言わんばかりにヒビの入ったコア……正確にはそれを構成するAフォトン・リアクターを限界点まで稼働。先程雷撃を発生させた時よりもさらにまばゆく輝かせる。
間もなくして放たれた雷撃は威力・範囲共に最初のものとは比べ物にならず、瞬く間にクラムたち2人を飲み込んでしまった。
予想外の一撃に当然逃げることは叶わず、シールドラインがあるとしても防ぎきれるわけがない威力の雷撃。
エミリアは反射的に目を閉じ、いずれ訪れる想像を絶する激痛に備え歯を食いしばる。
しかしながら、いくら待てども痛みらしい痛みがない。まさか痛みを感じる暇もなく死んでしまったのかと最悪の状況が脳裏を過ったとき、大きな手が彼女の頭を撫でるのを感じた。
「──よく頑張ったね」
続いて聞こえてきたのは、自身を労ってくれる優しい声。
恐る恐る目を開けると、まず目に入ってきたのは青白いモヤの掛かった風景。ところどころでスパークを起こしていたそれは、彼女が状況を把握する前に霧散。元のレリクスの風景に戻ってしまう。
フロアの床や壁には焼け焦げた跡が広範囲にわたって残っており、スヴァルティアが放った雷撃の威力がどれほどのものだったのかを物語っていた。しかしその焼け跡も2人の周囲1メートルほどには見当たらず、まるでその場所には雷撃が発生しなかったかのようだった。
なぜそうなったのか、目を閉じていた彼女は当然知る由もなかった。
「お疲れ、エミリア」
「あ……うん……」
キョロキョロと辺りと見回している少女に声をかけるが、その反応は鈍い。どうやらまだ状況が掴めていないらしい。
しかし四肢がボラバラになり地面に転がっているスヴァルティアを発見したことで状況を理解し、次第にその表情が明るくなっていく。
「これ、あたしたちでやったんだよね……?」
「そうだよ」
「夢じゃないよね? あたしたち、生きてるよね……っ!?」
「もちろん」
「……やった、やったよ! あんなでっかいのを倒しちゃった!
すごい、本当にすごい! あんたを信じてよかった! やった、やったあ!」
喜びを全身で表現するように飛び跳ねるエミリア。それでも湧き上がる感情を表現しきなかったようで、感極まった彼女は勢いよくクラムへ抱きついた。
少女が抱きついたところでびくともしない体格差のはずだが、どうやら彼は立っているのがやっとだったらしい。踏ん張りがきかずにそのまま押し倒されてしまった。
その瞬間でも少女に怪我がないように支える彼の気配りは流石の一言に尽きる。
「わ、わわっ、大丈夫!?」
「あはは、大丈夫だよ。ちょっと疲れただけだから」
「あ……そうだよね。あたしの方に来ないように、あんなヤバいヤツにずっと張り付いて攻撃してくれてたもんね……」
……実はそれだけが理由ではないのだがそこには触れず、表情を曇らせる少女へ優しく微笑んだ。
「エミリアが手伝ってくれたから勝てたんだ。これぐらいお安い御用だよ」
ゆっくりと上体を起こし、エミリアを先に立たせてクラムは一呼吸入れる。
エミリアはもちろんクラムにも目に見えて怪我はないが、一向に整わない呼吸からしてかなり疲労が溜まっているのは客観的に見ても明らかだった。
「【レスタ】使ったほうがいいよね? あたしのじゃ気休め程度かもしれないけど……」
「あー、それなんだけ……ど──」
「──え?」
戦闘を終えた開放感や疲労感などが組み合わさり、注意力が散漫になっていたのが原因か。小さな地響きと共に新たなスヴァルティアがすぐそこまで迫っているのに2人とも気づくことができなかった。
「────っ!」
それでも反射的に跳ねるように身体を起こしたクラムは、エミリアの手を引いて後方へと投げ飛ばした。
受け身など取れるわけもなく少女の身体は地面を派手に転がるが、シールドラインがあれば大怪我にはならないだろう。
しかし青年の方はそうもいかない。目の前には左腕を大きく振り上げ、今にもその鋭い爪で敵を切り裂かんと構えたスヴァルティア。
とっさに【剣影】で防ごうとするも受け方が悪かったらしく、振り下ろされた鋭い爪によって妖刀はいとも簡単にへし折られた。
妖刀の犠牲で多少の軌道変更はできたものの、それでも彼の身体は深々と切り裂かれ、その雪のような白い肌から鮮血が舞う。即死は避けられたが、出血の量からして致命傷であることは間違いなかった。
「──だったらどうしたぁっ!!」
それでも身体を動かせたのはビーストの類まれな生命力のお陰だろうか。よろけながらも両足で踏ん張り、雄叫びをあげながら乱暴に掴んだのは先程倒したスヴァルティアが持っていた巨大な斧。力任せに振るわれたそれは目の前の新たなスヴァルティアの胴体を正確に捉え、斧ごとその巨体を壁際まで吹き飛ばした。
しかしすでに負った傷が軽減するわけもない。出血が酷すぎるのか、荒い呼吸を何度繰り返しても息苦しさは治る様子がない。
次第に足腰に身体に力が入らなくなりその場に崩れ落ちるが、駆け寄ってきたエミリアによって支えられた。とはいえクラムとエミリアでは体格差がありすぎて膝立ちを維持させるのが精一杯の様子。それでも彼を倒れさせまいと、小さな身体で青年の身体を支えようと踏ん張っている。
霞む視界で確認するも少女に目立った傷はない。かなり乱暴に投げたのだが、やはり彼女のシールドラインは強固なものだったらしい。
「ああ、よかった……」
「やだ、やだよ……!
どうしてあたしなんか……かばって……」
「あはは、どうしてと聞かれても……気づいたら身体が動いてたとしか言えないかな」
涙をボロボロと流し声を震わせる少女を心配させまいと平然を装うが、溢れ出る血の量は誤魔化せない。
「ま、待ってて! いま、治すから!」
「エミリア」
クラムの身体を支えつつ、震える手で何度も落としそうになりながらも少女はロッドを握り【レスタ】を唱えようと構えるが、真っ赤に染まった手がそれを制止させる。
「俺は体質のせいで【レスタ】とかが効きにくいんだ。こんなところで力を浪費しなくていい」
しかし少女も首を何度も横に振って拒否してその傷を癒そうとテクニックを乱発。先程の黒いエネルギーとは真逆の優しく暖かい光がクラムの身体を包み込む。
……彼の『体質』上、本来であればその光は弱まり彼の身体を癒やすことは叶わないのだが、どうやら彼女のロッドは治癒系の効果を高める能力を持っているらしく、僅かにだが出血が治まり初めていた。とはいえ内蔵の損傷が激しいうえ血を流しすぎた。もはや焼け石に水だろう。
むしろこのままエミリアが無茶をすれば精神を摩耗させ、彼女にまで危険が及びかねない。
そんなエミリアの無謀を止めるには言葉だけでは不可能だと判断し、クラムは朦朧とする意識で立ち上がると右腰のバックルにある小さなナノトランサーから端末を取り出し操作し始めた。
「……まったく、情報を偽装してたら化けて出てやる」
操作を終えると、もはや端末は不要と言わんばかりに足元へ捨てて両腕をだらりと下げる。
すでに手足の感覚がなくなってきているためその手に武器を握ることすら叶わず、そんな彼をあざ笑うかのように左手から血を滴らせる大型自律機動兵器はゆっくりと立ち上がった。
「やっぱ倒しきれてないよね。
文字通り死ぬ気で使うのは初めてだけど、せめてあいつだけは絶対に道連れにしないと……」
朦朧とする意識の中、むしろ命の危機を感じて脳が快楽物質を出しているのか気分だけは異様に高揚していた。
牙をむくように獰猛に笑いながら、クラムは倒すべき敵だけは見据えて『切り札』の準備をする。使用すれば確実に命は無いが、今この状況なら数分遅いか早いかの違いでしかない。
むしろその数分で少女の命が救えるのであれば願ったり叶ったりだろう。
「どうして、どうしていつもそうなの!? みんなあたしを置いてっちゃうの!?」
そこへ背後から少女の悲痛の叫びが響き渡った。
「あたしを置いていかないでよ! ひとりにしないでよ!」
その叫びは死に急ごうとする青年への懇願か、それとも彼を通して見ている『何か』への哀願か。しかしどちらへも少女の願いは届かない。
それでも少女は叫ぶ。その身を犠牲にして守ってくれた青年を救いたい一心で。……それしかできない無力な自分を悔やみながら。
「誰か、誰でもいいから……助けてよぉっ!!」
テクニックの乱発により意識が朦朧としながらも願い続けたその瞬間、少女の叫びに応えるように
現代の技術で実現できるのかわからないほど高密度のフォトンはフォトン・リアクターを介していないにも関わらずテクニックとは比べ物にならない高火力のエネルギーを生み出し、瞬く間にスヴァルティアを跡形もなく消し飛ばしてしまった。
「なに、が……?」
突然の出来事に唖然とするクラムだったが、何が起こったのか確認する体力はもはや残されていなかった。
受け身を取ることすらできず、糸が切れるように彼の身体は無機質な床へと倒れ込む。
『あなたを……死なせはしません!!』
すべての感覚が曖昧になっていくなか、その慈愛に満ちた声だけははっきりと聞こえたのを最後に青年の意識は白く塗りつぶされていった──
1章は連投する予定が誤字脱字修正していたら1日ズレてしまいました
今後の展開的にこっちのほうが動かしやすいかなと思ったので、オリキャラ2人で運用していきます