カーテンの隙間から、太陽の光が木漏れ日のように差している。
「……朝か」
ぐぐぐっと、背筋を伸ばしてからベッドを降りる。
俺にしては割りといい感じなスッキリした寝覚めだ。
「……今何時だ? あっ……」
ふと、今の時刻が気に掛かり、壁にかかっている丸い時計で現在時刻を確認した。
大きく息を吸って、吐く。
ベランダに出て空を見上げてみる。
「うん、いい天気」
今日はまふゆと二人で出掛ける予定が入っている。
ポカポカとした穏やかな気候と、主張控えめに優しく微笑む太陽。絶好のお出かけ日和だ。
いやぁ、天気予報だと曇りか雨の予報だったから心配したけど、晴れてよかった。うんうん。
「そして現在時刻は……」
只今の時刻午前9時55分。
予定しているまふゆとの待ち合わせ時間は、午前10時。
うん、遅刻確定だね。
「黄昏れてる場合じゃねぇ!」
ダァン!とベランダの窓を叩きつける様に閉め、爆速で私服に着換える。
「飯は……いらね!」
朝食を取ってる暇なんてあるはずがない。
歯を磨いて適当に洗顔を済ませて、鏡でビジュアルのコンデションを確認する。
俺だって一応見た目に気を使うお年頃だ。
「寝癖無し!前髪良し!財布持った!準備完了!」
洗面所を後にして玄関に直行し、靴を履いて、そのまま玄関扉を開いた。
えーと、今多分ちょうど10時くらいだろ?ここから待ち合わせ場所の駅まで走れば15分くら―――
え?
「……おはよう」
「……なんでここに居るんだ」
扉を開くとそこには何故か、駅で待ち合わせを予定していたはずの少女、朝比奈まふゆが待ち構えていた。
「……愉太郎が寝坊してたから、駅で待つより迎えに行ったほうが早いと思った」
「なるほどなぁ……俺が遅刻しそうなのを見かねて…………いやおかしいだろ。なんで俺が寝坊したこと知ってんだよ」
「……前、愉太郎の家に行ったとき、部屋にカメラ仕掛けてたから」
「はい?」
まふゆの口から告げられた衝撃の事実。流石に動揺が隠せない。
「そんなの知らないんだが……? え、確認も取らずになんつーことやってんの?」
「? ……奏達には確認したよ?」
「俺にだよ!家主の俺に聞かずに誰に聞くんだ!?」
「……よくわからない」
「それで逃げれると思うなよ!?」
「……そもそも、愉太郎が寝坊したのが悪い」
「いきなりぐぅの音も出せねぇこと言うじゃん」
正論という名の拳にぶん殴られた。仰るとおりです、まふゆさん。
「オーケー分かった、ならこうしよう。 まふゆが……というかまふゆたちが勝手に俺の部屋にカメラを仕掛けたことについては何も言わない。 その代わり、まふゆは俺が今日寝坊したことを許す。これでどうだ?」
「……別に、寝坊したことには怒ってない」
素っ気なくそう言ったまふゆの表情は、本当になんとも思っていないようで、思わず口をつぐんでしまった。
「ぐ……と、とにかく!隠しカメラの件は不問にするから!今後はこういうこと無いようにしろよ!」
「……」
「ちょおいちょいちょいちょい!」
恥ずかしくて早口で言い切った俺には目もくれず、まふゆは勝手に俺の家の中へと足を踏み入れていたもんだから、咄嗟に普段の俺からは想像出来ないような妙ちきりんな声を出してしまった。
「……今日は外で遊ぶ予定だろ?それなのになんで家ん中入ってんだよ」
「……気が変わった。今日は、愉太郎の家に居たい」
靴を脱いで既に式台へまで上がったところでまふゆが振り返ってそう言った。俺は思わず目を見開き、声を失った。
それから数秒後、急ににフリーズした俺を不思議そうに見つめながら小首を傾げるまふゆを見て我に返った……というと少し大袈裟だが、ハッっとして口を開いた。
「気が変わったってお前……へぇ……まふゆも前と比べりゃ、大分自分の意志を持つようになったな」
「……そうなの?」
「そうだよ。昔のお前は何を聞いてもヨクワカンナーイ、とか言ってさ、そいつが今になっちゃぁ、キガカワッタノ〜、キョウハオウチデごふぁ!?」
我ながら気色の悪いファルセットボイスでまふゆの物真似をしてみたら鳩尾にいい感じのが一発。まふゆの右肘だ。
両膝をついて攻撃された腹部を腕で抑える。
「なんで……」とまふゆに聞くと「……よくわからない。けど、やらなきゃいけないと思った」と返された。
「それが怒りの感情だ……忘れるんじゃないぞ……」
「……これが、怒り……」
拳を開いて閉じる。それを繰り返すまふゆ。その様はまるで、バトル漫画の敵キャラが真なる力に目覚め、覚醒したシーンのようだ。
「……まふゆって案外ノリいいよな」
「……よくわからない」
◆
結局お出かけは中止になり、その代わりに俺の家でまふゆと一日を過ごすことになった。
ぐぅ、と腹がなった。そうか、もう腹時計がウォームアップを始める時間か。
なにか、なにか昼飯を作りたい。まふゆも居るから二人分、作りたい。作りたいんだ。だから……
「そろそろ身動きが取りたいです……」
「ダメ」
「即答ですかい……」
一時間程前、いつの間にか背後へと忍び寄っていたまふゆに気付かなかった俺は、死角から
そんでそのまま一時間が経ち、現在に至る。
「やっぱ離し…痛い痛い痛い痛い!ちょ!弓道部やばい!力強い! 分かった!そのままでいい!そのまんまでいいから!」
情けなくも、加減してくれぇ……と声を絞り出すと、俺の体を締め付けるまふゆの腕の力が緩んだ。
荒ぶる呼吸を整える。死ぬかと思った……
肋がマジで死にかけたが死んでないのでよしとしよう。
「なぁまふゆ」
「……なに?」
「腹、減っていないか?」
「べつに」
「そうか……」
まふゆに「お腹すいた」の一言を引き出させ、料理をする口実にしようとするがあえなく撃沈。絶対要塞まふゆの壁は分厚かったか……
「……お腹が空いてるなら、ご飯を作ればいいのに」
「いやそうだけど、お前が離してくれねぇから料理しようにも出来ねぇんだよ」
「? ……このままでも料理は出来るでしょ?」
「え?」
え?
◆
フライパンに載せられた食材たちがジュウジュウと焼かれる音を聞きながら、額から頬を伝ってきた汗を拭う。
台所に立ち、お玉を使ってフライパンの上の食材たちを踊らせながら考える。
身体に熱が籠もっている気がするのは何故?火を使っているからだろうか?
……いいや違う。
俺がやたらと汗を掻く理由はきっと、まふゆが俺の背中から腕を回し、先程肘をかました鳩尾のすぐ下、中腹部の辺りでその腕を結んでいるからだと思う。
まぁつまり、立った状態でまふゆに後ろから抱き着かれてて俺の心臓が馬鹿みたいに高鳴っているってことだ。
「なぁまふゆ」
「……なに?」
「これ、暑くないか?」
「……べつに」
「そうか……」
まふゆに抱き着かれること自体に抵抗はないしもはや慣れているまである。だがしかし、それは座っている状態のときに限る。立ったまま抱き着かれるというシチュエーションは初なのだ。
人という生き物は基本的に、初めてのことに直面すると心配だとか不安だとかのネガティブな感情に苛まれるように出来ている。心とはそういう仕組みなのだ。だからこうして俺の心臓がバックバクなことも何らおかしいことではない。
え?お前のそれはネガティブな感情じゃないだろって?
だ ま れ
とにかく俺は慣れないことにはとことん耐性がない。この状況はやばい。まじでやばい。何がとは言わんが当たってる。耐えろマジで耐えろ理性頼む。
「……心臓の音、うるさいね」
「わ、悪いかよ」
「……べつに……あと、なんか焦げ臭い」
「え? ア゛ッ!?めっちゃ焦げてる!?」
待って!俺の炒飯が死んじゃう!ヤバイくらい焦げてる!ダークマターみたいになってる!というかダークマター!
◆
「ん、案外行けるわ」
暗黒物質と化した炒飯を頰張り、そう呟いた。
見た目はアカンけど普通に食える。うまうま。
机に肘を付きながら炒飯を貪る俺。
行儀が悪いったらありゃしないが、問題ない。何故ならここは俺のテリトリー、何をしようが俺の勝手だ。
「……愉太郎、ほっぺにご飯粒ついてる」
「まじ?とってー」
「……もう」
「サンキュー」
まふゆは呆れながらも俺の口元についた米粒を指先で取ってくた。呆れながらとはいったが、まふゆの表情にそのような感情が浮かんでいるわけではない。まふゆの感情は大体フィーリングで読み取れるってだけだ。
「まふゆも食うか?結構美味いぞ」
「……食べる」
「はいよ……ほれ、あーん」
炒飯をよそったレンゲをまふゆの口に突っ込む。
まふゆはモソモソと炒飯を咀嚼し、飲み込んでから口を開いた。
「……おいしい……と思う」
「ハハ、そりゃあよかった。……にしても、まふゆは本当に感情豊かになったな。昔、お前に俺の料理食わせた時はよくわからないの一言で済ませられたからな。なんつーか、感慨深いわ」
「……そうかな」
「そうだよ」
これさっきも言った気がするな。まぁいいか。
「……愉太郎がそう言うなら、きっとそうなんだと思う」
「その、俺がそうなら私もそう理論は昔っから変わんねーな」
「……だって、愉太郎なら間違えないでしょ?」
「……そんなことねーと思うけどなぁ。俺だって人間、17年もやってんだ。振り返ってみりゃ間違いだらけだよ」
「……そう、なんだ」
「おう。……まぁでも、お前達と出会ったことは間違いじゃなかったっつーのは、確かに言えるな」
「……なにそれ」
「俺もよく分からん」
「……ふふっ、へんなの」
無表情を崩したまふゆのその微笑みは多分、心の底からのものだと思う。
◆
「ふがっ……ん、おお」
屋上に出てボケーっとしていたらいつの間にか、寝てしまっていたらしい。腕時計を確認すると、時刻は1時を回っている。
「首痛……」
痛む首をさすりながら身体を起こす。寝違えた。痛い。
……全く以て、
あぁもう、最悪の寝覚めだ。今日二回目だよ。
「早退するか」
家帰ってもっかい寝たい。
オリ主:過去の出来事が夢に出てくるタイプの人種。ニゴ面に嫌われるまでは割りと明るい人物だった。結構はっちゃけたこともするタイプだった。だった(迫真)
まふゆ:なんやかんやありオリ主に絆されアホの子みたいになってしまった無感情改め無表情ガール。無口だけどめっちゃ抱き着いてくる。その様は動物園の木にしがみつくコアラそのもの。ハグ以外の愛情表現は無いんけ?勿論曇る。
キャラ崩壊注意(今更)
感想評価がモチベです。投稿頻度上げろやカスっていう方、よろしければお願いします。