今回、実はめっちゃ難産。
―――数ヶ月前、ナイトコードにて
時刻は深夜の4時を回っている。もはや朝。
K、雪、Amiaの三人は今日の作業を完了させ既に落ちていて、ボイスチャットにいるのは俺とえななんだけ。
そして俺も作業自体は終わっていたので、作業をしているのはえななん一人だけだった。
特に会話らしい会話もなく、俺はえななんに画面共有してもらい、彼女の作業風景を頬杖付きながら眺めていた。正直クソ眠い。
『私、本当にここに居てもいいのかな』
静寂を破るはえななんの不穏な呟き。いきなりヘビーなのが飛んできたおかげで一気に眠気が覚めた。
「どうした急に」
『え、嘘ミュート出来てない?』
「おう、バッチリ聞こえてたぞ」
『……最悪』
「まぁ、俺しかいないんだからその分良かったと思えよ」
『確かに。K達に聞かれてないだけまだマシね』
もしも彼女らに今の発言が聞かれていたら、それはもう即セカイに招集(強制)されてニーゴサミット開催コース確定だろう。
「で、もう一度聞くが急にどうしたんだ?」
『何でもないわよ』
「流石に嘘だろ」
『別に、いつも思ってることがつい口からこぼれただけよ』
……大方、エゴサにアンチでも引っ掛かったのだろう。えななんは繊細な子だからな。ちょっとしたアンチヘイトでもかなり傷付くというか、気にしちゃうタイプなんだよな。
「……えななんにはここに居てもらわないと困る。お前が居ないニーゴなんてそれはもうニーゴじゃないし、寂しいから嫌だぞ」
なんか結構恥ずかしいことを言った気がする。ほっぺたがちょっと熱い。
『……アンタなら、やっぱりそう言ってくれるわよね。ほんとに、優しい人……』
「え、おう」
貴重なデレえななん……急に出されると心臓に悪い。ドキドキしちゃうぞ。
……でもやっぱり、思うの。私はニーゴの作るMVに相応しいイラストを描けてないんじゃないかって。私と皆じゃ釣り合ってないんだって』
「めんどくせー女だな」
『なっ、面っ……私本気で悩んでるんですけど!……その、面倒くさいこと言ってる自覚はあるんだけど……』
自覚あんのかよ……でも女の子はちょっと重いくらいが可愛いって言うし……え?言わない?俺の好みに合ってるからいいんだよ。
「まぁなんだ、一番重要なのはお前がどうしたいかだろ」
『私がどうしたいか……?』
「お前はニーゴのイラストをこのまま描いていたいのか、もう描きたくもないのか、どっちなんだ?」
『それは勿論、この先も描いていたいわよ』
「じゃあいいじゃん。えななんが描きたい言うのなら、ここに居ちゃいけない理由なんてないだろ」
『でも……』
「お前以外にゃニーゴのイラスト担当は務まんねぇんだ。代わりも居ない。お前じゃなきゃダメなんだよ、えななん』
『……』
「俺はお前の絵が好きだ。……お前が絵を描くって言う限り、俺はずっとお前の隣に居てやる。それでお前の描く絵が完成したら、これでもかってくらいに褒め倒してやる。お前の顔が茹でだこみたいに真っ赤になるくらいにな。……だからさ、描けよ」
面倒くさいこと言う女には、それよりも重い感情をぶつけてやるのがマスト。あ、勿論本心をぶつけるんだぞ。嘘言ってもどーせすぐバレる。
『……ほんっと、よくもまぁペラペラと歯の浮くようなセリフを言えるわね』
「本当のこと言ってるだけだからな」
『……本当にずっと隣に居てくれる?』
「無論」
『……そ』
この後、絵名が「言質はとった」とか言いだして部屋に監禁しようとしてきた時は、流石に身の危険を感じたことをここに記す。
◆
空一面の曇が蠢く昼下り。
学校を早退してきた。少し、いや大分早いが帰路につく。
朝も思ったが今日はよく冷えるな。吐く息が白い。
「さむ……」
わざとらしく腕を擦ってみる。しかし、それに反応する者は誰も居ない。まぁ一人でいるから当たり前なのだが、なんか虚しいな。
家に帰るべくシブヤの街をのそのそと歩くこと約十分くらい。唐突に腹が鳴った。そういえばまだ、昼飯を食っていなかったな。
「腹減った……」
大した量も食えないくせに、いっちょ前に悲鳴を上げる俺の胃袋。人体にこんな機能要らないだろ。
しかし、んなこと言っても腹は空く。空くもんは空くのだ。こればっかしはしょうがない。
「コンビニいくか」
◆
「あっしたー」
コンビニ定員のもはや日本語にすらなっていていない気の抜けた挨拶を背に、右手に袋を引っ提げながらコンビニを出る。
「ふっ、昼飯ゲットだぜ。……はぁ」
何がゲットだぜだよ。ポケモ○マスターみたいに言うな。
……昔はこういうしょーもない一人ボケくらい鼻で笑えていたのにな。今日は普通にマジレスしちゃったよ。……え、自分のボケにマジレスって悲し過ぎない?
袋に手を突っ込んで昼飯の栄養バーを取り出す。こちらの栄養バーなんと、税込み価格108円。わお、とってもリーズナブル。
包装袋を開き、バーを半分くらいに折ってポイと口の中に放り込む。
「……? 味がしねぇ」
しゃりしゃりした食感と口の中の水分が持ってかれる感覚しかない栄養バーとか誰得だよ。全く味しないけどこれ何味だ?
……え?チョコフレーバー?マジで?全然チョコの味しねー。
「美味しくない……」
そう文句を垂れつつも、食いもんを粗末にするのは良くないのでしっかり全部食い切った。
ほんとに美味しくない。だが不味くもない。変な感じだ。
まぁ腹ごしらえは出来たし、よしとしようか。
ゴミを捨てて、再び家に帰るべく歩き出す。
今日は、家に帰って、寝たい……寝る。
◆
家に帰って寝ると言ったな。あれ嘘だ。
「うわ、結構広い」
ぐるりと辺りを見回し、そう呟いた。
俺は今、とある美術館へと足を運んでいた。
事の経緯を説明しよう。
家に向かっている道中、結構デカい美術館の看板が目に留まった。
看板には有名な画家の美術展を期間限定で開催しているという内容が書かれていたのだが、その有名な画家というのが、ウチのイラストを担当している絵名がよく尊敬しているだの参考にしているだの言っていた……つまり彼女お気に入りの画家だったのだ。
あ、絵名が好きなアーティストじゃん。
そんなことを考えながらぬぼーってしてたら、気づかぬうちに美術館の方へと足が勝手に動いていた。無意識で体が動くってやばくない……?やばいよね。
「この絵見たことあるな」
展示コーナーに入ってすぐ、真正面にデカデカと絵画が飾られている。絵に詳しくない俺でも見たことあるくらいなんだ、恐らくこの画家の代表作的なやつだろう。
「これは……見たことない。これ……も見たことない」
この画家、世界的に有名らしいけど全然知らない作品ばっかだな。……ここまで何も知らないと、特に専門分野ではないことだとしてもいかに自分が無知なのかを思い知らされるな。
取り敢えず、この展示スペース一周してみるか。
そう思い、絵画から視線を外し向かい側の壁の方を向いて歩き出そうとしたその時、俺の視界に、展示された作品を熱心に見つめる一人の少女が入り込んだ。
見覚えのある少女だった。
「絵名……?」
思わず声に出して名前を呼んでしまった。
……待て、なんでここに居るんだ。だって今は平日の午前……あぁそうか、絵名は定時制の高校に通っているんだったな。納得納得……いや納得してる場合じゃないな。
これめちゃ気まずいな……どうしよ。
自分の名前を呼ばれた絵名、彼女はその声の出処を探るように周囲を見渡し、最終的に俺と目があった。
……なんだよその目、人間を見る目じゃねぇだろ。俺、そんな目で見られるようなことしたか?
俺と目があったままの絵名がカツカツと俺の方へと歩みを進め来る。
心做しか一歩ずつ歩くスピードが早くなってきている気がする。
絵名と俺の距離が手を結べるくらいに近付いた辺りで俺は勇気を振り絞り、震える口を無理矢理開いた。
「よ、よぉ……絵名、久し振―――」
パシン!
乾いた音が突き抜けるように響いた。
「いっ……」
急に襲って来た痛みに思わず頬を抑えた。
一瞬、思考が停止した。
あるのは、確かな頬の痛みのみ。
数秒後、遅れてやって来た理解。
なるほど、俺は今、絵名に平手打ちをされたのか。
絵名の表情には分かりやすく怒りの感情が浮かんでいる。
「馴れ馴れしく名前呼ぶな……このクズ……!」
絵名は放心する俺をキッと睨み付け、そう吐き捨ててスタスタと去っていってしまった。
「……マジで?」
呆けヅラの俺の呟きは、絵名が退出し俺一人となった展示スペースへと、虚しく消え入った。
急展開過ぎてちょっとついていけないかな……
「……ここのトイレって確か2階だよな」
マヂ無理……ゲロ吐きそ……てか吐く……。
最近、私のうんちみたいな文章力で曇らせの描写をしっかり表現できるのかが不安になってきました。
オリ主:着実に心が破壊されていく男。この度、味覚障害(無自覚)を患いました。
絵名:暴力系ヒロイン。下手したらこの子が一番曇る。
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