ニーゴ好感度逆転モノ   作:村岡8bit

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ヤンデレタグが本領を発揮する。
作者はソフトなヤンデレが好きです。


その香水のせいだよ〜

 美術館で絵名にビンタされてゲロ吐いた後、無事家に帰着した。ゲロ吐いてる時点で無事じゃないだろっていうツッコミは受け付けない。

 

 「……ただいま」

 

 ここは誰も居ない消灯されたワンルーム、当然俺の声に返事が返ってくることもない。

 

 床へ鞄とブレザーを無造作に投げ捨て、ネクタイを解く。

 

 「疲れた……」

 

 ベッドに腰を掛け、そのまま仰向けに寝っ転がって大きくため息を一つ。

 

 絵名に打たれた右頬を指先で撫でると、ピリッとした痛みが走り思わず顔を歪めた。

 絵名のやつ、本気ビンタしやがってよ……やーい!えななんの陰険自撮り女〜!

 

 「……はぁ」

 

 何も考えたくない。

 

 もう寝る……前に風呂入るか。

 

 「香水くっせぇ」

 

 学校の職員室で拾ってきたのだろうか、シャツと身体からキツめの香水の香りが漂っている。

 

 香水の匂いは苦手だ。あの鼻の奥がツンとする感じ、気持ちが悪い。

 

 あと、女物の香水の匂いが俺に付いてると奏がキレる。

 

 ……あぁでも、そのことは今なら気にする必要ないか。

 

 ほんっと、未だに信じられねぇな。あの、奏があそこまで俺を拒絶するなんてなぁ。

 

 やべ、泣きそう。思い出したくもねぇのに思い出しちまう。

 

 

 

 

 

 底冷えした冬のある日、時刻は午前の2時を回っていたと思う。ナイトコードにメンテナンスが入っていたので、その日はニーゴでの活動は無しということになった。

 今日はやることも特にないので早く寝ようと思っていた。

 しかし……

 

 「寝れねー」

 

 ごあいにく様、深夜まで起きて作業するのが習慣として板についていたせいで、全く眠れない夜を過ごしている。

 

 そんな時だった。この閑散としたワンルームに一つの音、ピンポーン、という呼び鈴の音が響いたのは。

 

 「あぁ?ピンポン?この時間に?」

 

 重ねて言うが、現在時刻は既に午前の2時を回っている。良い子の皆ならばこぞって寝ている時間帯だ。

 こんな夜更けに、誰が呼び鈴を鳴らしたのか検討も付かない。

 

 「いまいきますよー……」

 

 眠れないとは分かっていつつも、一応入っていたベットから身を離し、部屋と廊下の電気を付ける。

 

 なんか怖いので足音を立てないように玄関へ向かい、今のご時世には少し古いかもしれないドアスコープを、恐る恐る覗き込んだ。

 

 「……奏?」

 

 ドアスコープを覗いた俺の目に映し出されたのは一人の少女。

 紺のジャージにホットパンツ、下半身まで伸びたシルバーアッシュの髪がとても特徴的だ。

 

 多分違っているということは無いだろうが、一応確認しておこう。

 

 「奏か?」

 「あっ、愉太郎。よかった、やっぱりまだ起きてたんだ……うん、私だよ」

 

 やはり奏だった。正直ホッとした。

 よし、ならば何も警戒する必要は無いな。

 

 「今開ける」

 「う、うん」

 

 玄関を開くとそこには奏が、どこか落ち着かないソワソワとした様子で佇んでいた。

 

 「よう奏、なんかあったか」

 「こんな遅い時間にごめん、愉太郎。その、ちょっとお願いしたいことがあって……いい、かな?」

 「お願い?そりゃあもちのろんでオッケイよ。言ってみろ」

 「ありがとう。……えっと、今日はニーゴでの活動が無くて、曲作りにもちょっと行き詰まってるし、いい機会だったから少し前に借りたホラー映画のDVDを見たんだ。……何か曲を作る手掛かりが見つかるかもしれない、って思って」

 「あー……うん、まぁ、続けてくれ」

 

 もうこの時点でなんとなく何をお願いされるのか分かってしまったが、一応聞こう。

 

 「それで、そのホラー映画を見たのはいいんだけど……その、恥ずかしい話、映画が思ってたよりすごく怖くて……一人で居るのが怖くなっちゃって……それで……」

 「分かった、もういい。事情は把握したから取り敢えず上がれ」

 「い、いいの?……やった」

 

 小さくガッツポーズを決める奏。寒いから早く入ってほしいんだが。

 

 「じゃあ、お邪魔するね」

 「おう、ていうかお前、その格好じゃ外寒かっただろ」

 

 そう言って冷たい外気に触れていたせいで少し赤くなった奏の手を取り、そのまま優しく握る。

 

 「うわ冷った。風邪引くなよー?」

 「……愉太郎の手は、暖かいね」

 「そりゃあさっきまで暖房効いた部屋に居たからな。ほれ、さっさと部屋入ろうぜ」

 「うん……」

 

 部屋に戻ると、扉を開けっ放しにしていたからか部屋全体の温度が少し下がっている気がした。

 

 「なんか飲み物でもだそうか?もちろん温かいやつな。俺はコーヒー飲むけど、なんか飲みたいのあるか?」

 「あ、じゃあ私もコーヒー」

 「あいよ。その辺座ってまっとけ」

 「うん、ありがとう」

 

 水道水の入ったやかんを火に掛ける。普段は電気ポットを使っているのだががつい最近そいつがぶっ壊れたので、今日はガスコンロとやかんを使って湯を沸かしている。このガスコンロとやかんの組み合わせ、ちょっと平成っぽさを感じれてエモい。エモいってなんだ?

 

 「なぁ奏、エモいってどういう意味だと思う」

 「エモい?うーん……ごめん、私もよく分からない。アップしたMVのコメント欄にエモいって書かれてるのは偶に見るけど、どういうニュアンスで使ってるんだろうね」

 「んー、やっぱ皆意味理解せずにフィーリングで使ってたりすんのかなぁ」

 「そうかもね。なんとなくの感覚で使ってる言葉って、結構多いよね」

 

 ガスコンロに灯ったゆらゆらと揺れる火をじっと見つめながら、奏には背を向けた状態で、そんな他愛もない会話を交わす。

 

 「……ねぇ」

 

 何の前触れもなく、奏の声がワントーン下がった。

 え、なに?今から説教でもされる?なんで?

 

 「……どうした」 

 「ちょっとこっち来て」

 「え、いやでも今火ぃ見てる……」

 「いいから」

 「ちょ、引っ張んな―――どわっ」

 

 奏にいきなり腕を掴まれたと思ったら、そのままベッドへと押し倒されてしまった。

 

 俺の両手首をガッシリ掴んだまま離さず、マウントポジションを取る奏。その細身な身体からは想像出来ない力強さでベッドに押し込められてしまっている。

 

 「か、奏……?」

 「……」

 「くすぐった……んぅ」

 

 奏が体勢はそのままで俺の鎖骨辺りに顔を近づけ、そこから首筋に掛けてスンスンと匂いを嗅いでいく。くすぐったい……

 

 「……やっぱり」

 

 やっぱりなんですか?もしかして臭う?もしそうなら泣いちゃうけど。

 

 「知らない女の臭いがする」

 「え」

 「香水の香り……瑞希と絵名はこんな匂いがキツイのはつけないし、まふゆはそもそも香水自体を使わない。じゃあ、この匂いはどこから拾って来たの?答えて」

 

 ギリ……と奏が俺の返答を急かすように俺の手首を掴む力を強める。

 

 ちょっと痛いかな……ウソめっちゃ痛い。いや力強すぎ……?

 

 痛みで鈍った思考で考える。

 

 香水の香りが身体につくようなこと、なにか心当たり……あ、あるわ。

 

 「あー、多分あれだ。今日来た税理士の人になすりつけられたんだと思う」

 「税理士?」

 「おう」

 

 そう、税理士である。最近、ニーゴでの活動で得れる収益がバカに出来ないレベルの値段になってきて、確定申告とか色々面倒なことを頼もうと思い税理士を呼んだのだが、その呼んだ税理士の女性の付けていた香水がかなりキッツいやつだったのだ。

 

 「別に、女作って家に連れ込んだとかそういうわけじゃないからな」

 「本当に?」

 「俺が今までお前に嘘を付いたことがあるか?」

 「13回」

 「なんで回数まで覚えてんだよ」

 

 しかも結構な数嘘言ってるし。

 

 「だがまぁ、今回に限っては絶対に嘘じゃないと誓えるぞ」

 「今回に限らず誓ってよ」

 「それはぁ……後ろ向きに検討させて―――いだだだ!ごめん!ごめんて!分かった!誓う!誓うから!手首もげちゃう!」

 

 ちょっとふざけたら手首からギチギチという音が聞こえるくらいに奏の力が強まった。マジごめん。

 

 「……肩出して」

 「肩?なんで?」

 「いいから」

 「はい……」

 

 超ヤバい表情で凄まれたので、ここは大人しくしたがっておこう。

 

 襟ぐりを手で引っ張り、右肩を露出させた。結構恥ずい。

 

 「これ恥ずかしいんだが……何するつもりだ……?」

 「いただきます」

 「え?……いっ!?」

 

 かぷり、いやこれはがぶり。奏が俺の右肩へと噛み付いてきた。

 

 「ちょ、奏さん!?」

 「ふがふが」

 

 痛い。跡残りそうなレベルでガジガジされてる。あとふがふがすんな。

 

 「ごちそうさまでした」

 「ごちそうさまでしたじゃねぇよ」

 「あうっ」

 

 俺の右肩から口を離した奏、すかさずチョップを決める。

 

 ありゃりゃ、肩に歯の跡付いちゃったよ。血出てるし。

 

 「なんで急に噛み付いてきた」

 「えっと、マーキング……しなきゃって思って」

 「マーキングて……」

 

 あら、独占欲が強い子なのね……でも、もうちょい優しいやり方あったよね……

 

 「ごめん。痛かったよね」

 「そりゃあもう」

 「だから、私にもしていいよ?」

 「おう。おう?」

 

  何故そうなった。いやそうはならんやろ。なっとるやろがい!

 

 そして顔を赤らめながらインナーを引っ張るの辞めなさい。すごくエッチだから。

 

 「いいのか?」

 「う、うん。……一思いにやっちゃって」

 「いや、やらねぇけど」

 「えっ……」

 

 当たり前じゃん。そんなことしたら俺捕まっちゃうよ?

 

 ……なんでそんな残念そうな顔するんだよ。辞めろよ、ちょっと揺らいじゃうだろ。

 

 「やるわけねーだろ。お前に傷付けるとか絶対無理。罪悪感で死んじゃう」

 「……優しいんだね」

 「それ絵名にも言われたわ」

 「なんで他の女の名前出すの?」

 「ごめぇん……」

 

 何が地雷なのか分からない……!

 

 「あ、ていうかお湯、そろそろ湧いたと思うんだけど」

 

 ふと思い出した。いまお湯沸かしてる途中だったわ。

 

 「そうだね」

 「おう、だから退いてもらってもいいか?」

 「……嫌」

 「なんで?」

 「それは……ふわぁ…」

 「おお、キレイなあくび。なんだ、眠いのか?」

 「……うん」

 「じゃあさ、コーヒーは飲まなくてもいいから火だけでも消したいんだが。流石につけっぱのままはまずいからさ」

 「……分かった」

 

 しぶしぶ、といった感じで奏が俺の上から退いてくれた。

 

 「サンキュ」

 

 ベッドから立ち上がり、コンロの火を消し、部屋の電気も消す。

 

 「うし、じゃあ寝るか」

 

 布団とベットの間に、もう一人分くらいのスペースを作って挟まる。

 

 「ほれ奏。いらっしゃいな」

 「お邪魔します……」

 

 ガサゴソと音を立てながら奏が俺の布団へと侵入してくる。流石にちょっと狭いな。

 

 「わ、凄い。暖かい……」

 「暖房要らずだな」

 「ふふ、確かに……きゃっ。……愉太郎?」

 

 奏があまりにもポカポカしていたもんだから、抱き寄せてしまった。うは、あったけぇ。

 

 「うぉぉぉ、奏ゆたんぽ。あったけぇ〜。あ、暑くない?大丈夫?」

 「う、うん。大丈夫」

 「これなら安眠出来そうだわ。奏マジで暖かいな」

 「そっか……」

 

 俺の腕の中にすっぽり収まっている奏がうつらうつらとし始めた。暖かいのは俺だけじゃなかったみたいだ。

 

 「……おやすみ」

 「愉太郎……うん、おやしゅみ……」

 

 え?天使?……あ、奏だったわ。

 

 

 

 ◆

 

 

 確か、シジュウなんちゃらみたいな名前をしていた鳥がピヨピヨと鳴いている。

 

 「朝か……ねみぃ」

 

 大きく欠伸を掻いて、背筋を伸ばす。

 

 「さっむ」

 

 布団の外はもはやシベリア。寒すぎる。

 

 「うわ、くっさ」

 

 昨日、結局香水の匂いを落とさずに眠ってしまった。

 朝一番にこの匂い嗅ぐのはかなり辛い。

 

 「……シャワー浴びるか」

 

 冷えたフローリングをペタペタと歩き、廊下に出る。

 

 背には、誰も居ない一つの部屋。

 

 さて、今日も今日とて一日の長さは24時間だ。

 

 あぁ、憂鬱。

 

 ……シャワー浴びる前に学校に休みの連絡入れておくか。無断欠席するよりかはいくらかマシだろう。

 

 




オリ主:今日も今日とて憂鬱です!う~わんだっほーい!
奏:オリ主に色々された結果雑なヤンデレになってしまった。

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